お久しぶりです。
6月から一時更新を休止していましたが、今月から少しずつ再開することにしました。
まずは火曜日・土曜日の週2日体制の予定ですが、そら君の仕事が落ち着いたら少しずつ更新頻度を元に戻していければと思っています。
これからもよろしくお願いします。
再開初回の今回のテーマは胎児発育不全について。
胎児発育不全って何?原因は?
という方に向けて、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
目次
1. 胎児発育不全(FGR)とは
妊娠中は定期的にエコーで赤ちゃんの推定体重を出しますよね。
妊婦健診中に産婦人科医から「赤ちゃんは〇〇gくらいですね」とか、「週数相当で発育しています」等と言われていることでしょう。
この推定体重が該当週数の一般的な胎児体重と比較して明らかに小さいものを胎児発育不全(Fetal growth restriction;FGR)と言います。
胎児発育不全の診断基準として明確に定められたものはないのですが、
を1つの目安としています。
そのほか羊水量だったり、赤ちゃんの発育の経時的な変化などから、総合的に診断していきます。
エコー写真をもらったら、左下のあたりに推定体重(EFW)が書いてあると思うので、興味があれば見てみてください。±1.5SDの範疇に入っていれば正常範囲、それ以上あるいは以下であれば発育異常の可能性があるということです。
妊婦健診での胎児計測については、下記の記事に詳しくまとめたので、こちらも併せてどうぞ。
2. FGRには2種類ある
胎児発育不全については、発育が障害された時期や要因によって2つの種類に分かれます。
1. Symmetrical type
妊娠初期に胎児に何らかの異常が生じた場合に発症する胎児発育不全は、「Symmetrical type」になることが多いです。
Symmetrical typeとは、赤ちゃんの頭・体幹・足“全体”が小さくなるタイプということ。
妊娠初期は発生過程で細胞数そのものが急速に増加する時期なので、妊娠の早い時期から異常があると、頭も身体も同程度に抑制された発育障害となります。
臓器を構成する細胞の大きさは正常だけど、細胞数が少なくなるsymmetrical type。
胎児発育不全の20〜30%程度を占め、type1とも呼ばれます。
後述するAsymmetrical typeと比較して、予後不良例が多いことも特徴です。
2. Asymmetrical type
妊娠後期から発症する胎児発育不全は、「Asymmetrical type」になることが多いです。
Assymmetrical typeは、頭の大きさは平均的である一方、対幹部が小さいタイプです。
胎盤から栄養や酸素が貰いづらくなる状況では、赤ちゃんは最も大切な”脳”を守ろうと、脳に優先的に血流を回していきます。
頭部の発育を維持するため、他の部位に血流がまわりにくくなり、対幹部(特に腹部)が小さく皮下脂肪の少ない痩せ細った発育障害となるのです。
胎盤循環不全による栄養障害が主体になるため、赤ちゃんの臓器の細胞数は正常なのにも関わらず、細胞そのものが小さくなります。
胎児発育不全の70%以上を占め、type2とも言われます。
しかし、Asymmetrical typeであっても、病態が進行し重症化すると、脳にも血流を上手くまわせなくなり、頭も身体も同程度に高度に抑制された発育障害になっていきます。
3. FGRの原因は様々
胎児発育不全の原因は様々で、本当に多岐にわたります。
複数の要因が併存している場合もあります。
- 内科的な合併症が併存している
例:自己免疫疾患、抗リン脂質抗体症候群、甲状腺疾患、腎疾患、高血圧、心疾患など - 妊娠高血圧症候群
- 喫煙やアルコールなどの生活習慣
- 薬物:バルプロ酸、ワルファリンなど
- 低身長、出生時低体重
- 妊娠前の痩せ、妊娠中の体重増加不良
まずはお母さん側の因子。
頻度が高いのは「妊娠高血圧症候群」や妊娠前あるいは妊娠中の「母体の体重」が要因となるものでしょう。
また、喫煙やアルコールなども胎児発育不全の原因になります。
妊娠したらタバコやお酒をやめるよう指導が入るのは、そういった背景もあります。
- 多胎妊娠
- 染色体異常:トリソミーやターナー症候群など
- 形態異常
- 感染(TORCH症候群)
例:サイトメガロウイルス、風疹ウイルス、トキソプラズマ、梅毒など
次は赤ちゃん側の因子。
発育不全のみならず、それ以外の異常所見を認めるような場合は、染色体異常や感染症の可能性を考慮して検索を進めていきます。
また、双子や三つ子などの多胎妊娠の場合も、単胎妊娠と比べて小さめに発育することが多いです。
- 胎盤異常
- 臍帯付着部異常:臍帯辺縁付着、卵膜付着など
最後は胎盤やへその緒など、胎児付属物由来の因子。
赤ちゃんにもお母さんにも何も異常がなくても、胎児発育不全を生じることがあるのです。
頻度が高いのは「へその緒の付着部位の異常」。
胎盤のど真ん中にへその緒がついている時と比べて、へその緒が端っこについている場合は、栄養や酸素を受け取りにくく、赤ちゃんの発育が小さめになりやすいと言われています。
4. 発育状況から子宮内の環境を推定する
胎児発育不全はエコーで診断します。
ただ、エコーには誤差がつきもの。10%程度の誤差は避けられません。
そのため、例え推定体重が-1.5SDを下回ったとしても、1回だけでは診断せず、経時的に慎重に評価した上で最終的な診断を行う必要があります。
また、胎児発育不全の赤ちゃんに対しては定期的にエコーで羊水量や血流を評価しています。羊水量・脳の血流・へその緒の血流の状態を把握して、「赤ちゃんの元気度」を見ているのです。
発育が小さめの赤ちゃんは、平均的な大きさの赤ちゃんと比較して、ストレス耐性が低い傾向にあります。
したがって、赤ちゃんが具合悪いサインを出す頻度も多くなるということ。
様々な検査を総合的に見て、赤ちゃんにとっての子宮内の環境について考えていくことが重要です。
5. 分娩時期の見極め
母子ともに安全にお産を終えられるよう、週数や胎児・母体の状態を総合的に判断して分娩時期を決定します。
症例毎の差が大きいので一概には言えませんが、例えば次のような場合は早めの分娩を考慮していきます。
- 赤ちゃんの発育が乏しい、あるいは発育が止まった
- モニターで異常波形が出ている
- 羊水量が異常に少ない
- 血流異常が出現してきている など
妊婦さんの中には、
お腹の赤ちゃんが小さいんだったら、できるだけ長くお腹の中で育ててあげたい!
このように思う方がいらっしゃるかもしれません。
ただ、その考えは誤りです。
子宮内の環境が悪くて赤ちゃんの発育不全が生じているような場合は、早めに産んであげることが赤ちゃんにとってのためになることもあるからです。
もちろん早すぎる週数では早産に伴う合併症も生じてしまうので、適切な週数がどこかを見極めるのは難しいのですが、良いタイミングで小児科の先生にバトンを回すことも大切。
日本の新生児医療は非常に素晴らしいですよ。
今日は胎児発育不全についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。
赤ちゃんが小さい疾患。
一言でまとめればこれだけですが、その原因や状況は多岐にわたります。
「赤ちゃんの発育を増加させる治療」というものはなく、妊婦さんに出来ることは安静にしたり、喫煙や痩せなどが原因であればそれらをできる限り取り除いたりすることしかありません。
ただ、妊婦さんのお腹の中で小さい命が頑張って育とうとしてくれているのをみると、全力でこの命を守らねばという使命感でいっぱいになります。
一概に胎児発育不全といっても状態は様々なので、診断を受けた妊婦さんは自分の方針について担当医に適宜相談してみると良いでしょう。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。