毎年2月4日は風疹の日です。
風疹は3日ばしかとも言われるウイルス感染ですが、日本では未だに排除しきれておらず、2012〜2013年、2018〜2019年には風疹の流行が大問題になりました。
妊娠中に風疹にかかってしまうと、先天性風疹症候群をもつ赤ちゃんが生まれる可能性があり、特に注意が必要です。
今日は、そんな風疹についてお話ししていこうと思います。
目次
1. 風疹感染と日本の現状
風疹(Rubella)は、風疹ウイルス(RNAウイルス)の飛沫感染によって生じる感染症です。
風疹ウイルスにかかった場合、2〜3週間の潜伏期を経て発熱・発疹・耳の後ろのリンパ節腫脹などの症状が現れますが、3日程度で軽快し、予後は良好です。3日ばしかとも言われます。
しかし、妊娠中に罹患すると、赤ちゃんに経胎盤感染をきたし、先天性風疹症候群(CRS;congenital rubella syndrome)という胎児異常を生じる場合があります。
欧米や中南米などは既に風疹の排除に成功しているものの、日本では未だに感染制御に至っていない状況で、大流行をきたした2013〜2014年には、先天性風疹症候群(CRS)の患者の増加が問題になりました。
また、2018〜2019年の感染増加の影響を受け、2019年からも先天性風疹症候群(CRS)の発症が見受けられています。
年 | 風疹発症(人) | CRS発症(人) |
---|---|---|
2013 | 14344 | 32 |
2014 | 319 | 9 |
2015 | 163 | 0 |
2016 | 126 | 0 |
2017 | 91 | 0 |
2018 | 2941 | 0 |
2019 | 2306 | 4 |
2020 | 100 | 1 |
- Toxoplasmosis:トキソプラズマ
- Other agents:梅毒、水痘、コクサッキー、B型肝炎などその他の病原体
- Rubella:風疹
- Cytomegalovirus:サイトメガロウイルス
- Herpes simplex:単純ヘルペス
このように、胎児にも重篤な影響を残す感染症である風疹は、TORCH症候群の1つとして挙げられています。以前、トキソプラズマ・サイトメガロウイルスについても記事にしたので、合わせてご覧ください。
2. 先天性風疹症候群(CRS)
先天性風疹症候群(CRS)の3大症状は下記の通りです。
成人が発症した時のような「発疹」を認めることは稀と報告されています。
- 眼症状(白内障など)
- 心奇形(動脈管開存症など)
- 感音性難聴
先天性風疹症候群(CRS)は、母体の風疹発症時期によって呈する症状や発症リスクが異なっています。
妊娠12週未満は赤ちゃんの臓器を作る”器官形成器”と呼ばれますが、この時期に感染すると、症状は最も重篤です。
一方で妊娠18週以降では、母体が風疹ウイルスに感染しても、先天性風疹症候群(CRS)を発症することはほとんどありません。
妊娠12〜18週の間での感染の場合は、臓器は完成している状態なので、難聴のみをきたすことが多いとされています。
- 妊娠12週未満で感染
→胎児感染率80〜90%、高頻度でCRS発症 - 妊娠12〜18週で感染
→難聴のみを残すことが多い - 妊娠18週以降で感染
→胎児感染率40%、CRS発症はほぼ0%
先天性風疹症候群(CRS)の児が生まれた際には、他の新生児と隔離しながら(生後6ヶ月程度はウイルスを排出し続けると考えられているため)、先天性心疾患、聴覚・視覚異常について、専門医によるフォローアップを行うことが重要です。
3. 妊娠初期の風疹感染の診断
妊娠の初期検査では、必ず風疹抗体価の測定を行います。
また、風疹患者と接触したり、妊婦さん自身が風疹様症状(発熱・発疹・リンパ節腫脹)を発症した場合も検査を行います。
1. 妊娠初期のスクリーニング検査
妊娠初期:風疹HI抗体価を測定
- 16倍以下→感染予防を喚起
- 32〜128倍→問題なし
- 256倍以上→風疹に感染していないか精査
妊娠初期の段階で、風疹感染に関わる問診とHI抗体価の測定を行います。
抗体価が低い場合は風疹ウイルスに対する抗体が無い、あるいは少ないことを示しているので、妊娠中に新規に風疹に罹患する可能性があります。
一方、抗体価が高い場合は、最近風疹に感染した可能性を考えなければなりません。
2. 風疹感染を診断する追加検査
風疹抗体価が256倍以上と高値であったり、風疹に感染するエピソードがあったような場合には、診断するための追加検査が行われます。
具体的には、初回検査の1〜2週間後に行う「風疹HI抗体価;ペア血清」と「風疹IgM抗体」です。
風疹の現感染を示唆し、CRS発症の可能性があるのは
・HI抗体価が4倍以上上昇
・IgM抗体が陽性
HI抗体価が初回値と比較して4倍以上上昇していたり、IgM抗体が陽性であった場合は、風疹の現感染を示唆します。
しかし、妊婦さんへの感染=胎児感染ではありません。
胎児感染の有無を調べるには、胎児由来の細胞(羊水や臍帯血など)から、PCR法によって風疹ウイルス遺伝子を検出する必要があります。
4. 風疹抗体価が高いと言われたら?
風疹抗体価が高いと言われた場合は、前述した追加検査を行います。
ペア血清が4倍以上上昇していたり、IgMが陽性であった場合は風疹感染のリスクが高いと考えられるため、注意深く経過を追っていく必要があります。
尚、IgM陽性例の中には、長期間にわたってIgMが低いレベルで陽性を示す「persistent IgM」というものもあり、こちらであればあまり病的意義が無くなるため、風疹にかかるようなエピソードがなかったか、あったとしたらどの時期だったか等、詳しい問診を追加することも非常に重要です。
妊娠中に風疹ウイルスに罹患しても、赤ちゃんへの感染や先天性風疹症候群(CRS)を防ぐ有効な治療法はありません。
出来ることは、妊婦さんの発熱や発疹などへの対症療法だけ。だからこそ、風疹ワクチンでの感染予防が何より大切なのです。
5. 風疹抗体価が低いと言われたら?
逆に、風疹HI抗体価が16倍以下で低いと言われたら。この場合は、「妊娠中に風疹にかからないように」という感染予防喚起がなされます。
具体的には、
- 風疹が流行っている場所に行かない
- 人ごみや子どもの多い場所を避ける
- 同居家族への風疹含有ワクチンの接種を推奨する
などです。
また、「①次の妊娠時に風疹にかかるリスクを減らすため」、及び「②社会全体の抗体陽性率をあげる目的」で、出産後に風疹含有ワクチンを接種することが推奨されます(生ワクチンのため妊娠中の接種は不可、授乳中は可)。
抗体陰性者へのワクチンの効果はほぼ100%です。
しかし、HI抗体価が16倍の妊婦さんにワクチンを接種しても、次の妊娠時までに抗体価がほぼ元のレベルまで下がってしまう症例は度々経験します。
抗体がつきにくい人というのは、ある一定数はいらっしゃいるわけです。
成人してからも2回以上風疹ワクチンを打ったのに、全然抗体がつかない…という人に対して、3回目の風疹ワクチンを接種するかについては、判断が難しいです。
私は2回までは推奨し、3回目以降は患者背景を考慮しつつ本人にお任せとしています。
6. ワクチンが唯一の予防法
風疹はワクチンで予防できる疾患です。
100%の人がワクチンを接種していれば、感染が広がらず、流行することもありません。
自身が妊婦さんと直接的な関係がなかったとしても、例えば公共交通機関の中で、例えば職場で、例えば家庭内で感染するリスクというのは今の日本の現状あり得ます。
1977年8月~1995年3月までは、中学生の”女子のみ”が風疹ワクチンの定期接種の対象でした。従って、昭和37年4月2日〜昭和54年4月1日生まれの男性は、風疹ワクチンを接種出来なかった世代であり、ここからの感染波及の可能性が危惧されています。今、対象世代の人には風疹ワクチンの無料クーポンが配布されているので、ぜひ接種をお願いします。
いかがだったでしょうか。
ワクチンを打っても抗体価がなかなか上がらない人がいます。そしてそれを不安に思う妊婦さんがいます。
できる限り多くの人がワクチンを打ち、風疹を排除しこうとすることが重要だなと、しみじみ感じました。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。