質問箱で「妊娠時期別に今までの質問と回答をまとめて欲しい」という意見を頂きました。
これまで500件以上の質問を頂き、多くの人が気になる質問内容もなんとなく分かってきたので、リクエストにお答えして頻度の高い質問をまとめてみようと思います。
今回は”妊娠初期”編です。
目次
1. 妊娠初期のエコーは何をみているの?
経腟エコーでは何をみているの?赤ちゃんのどこを測っているの?
子宮内妊娠かを確認するとともに、週数に応じて胎嚢(GS)・頭殿長(CRL)・児頭大横径(BPD)をみています。
双子や三つ子じゃないかの確認も妊娠初期に行います。
「子宮内妊娠か」、「赤ちゃんは1人か、それとも双子や三つ子か」をまず確認します。
その後、妊娠週数に応じて胎嚢の大きさ(GS)や頭からお尻までの長さ(CRL)、赤ちゃんの頭の横幅(BPD)などを測定し、赤ちゃんが週数通りに大きくなっているかを確かめています。
他にも卵巣嚢胞や子宮筋腫が無いかなども確認しておきます。子宮が大きくなったら評価しにくくなってしまうからです。
2. 緊急で受診するべき症状は?
妊娠初期にどういう症状があったら受診するべきなのか、よく分からない…。
妊娠初期の受診ポイントは「性器出血」と「異常な腹痛」の2つです。
まず、性器出血は妊娠におけるどの週数でも異常です。
妊娠初期は生理的に出血をきたすことがあり、「問題なし」と診断されることも多くありますが、いずれにせよ診察しないと判断できません。
切迫流産・流産、絨毛膜下血腫、胎盤の位置異常など、妊娠初期にも出血をきたす可能性のある疾患は様々あります。
また、産婦人科で子宮内妊娠が確定できていない場合、子宮外妊娠の可能性も考えなければなりません。
いずれにせよ、性器出血は受診の対象です。
また、腹痛は腹痛でも「安静にしてもおさまらない腹痛」や、「今までに経験したことがないような痛みの腹痛」があれば、こちらもすぐに受診して下さい。
3. NT肥厚・出生前診断が気になる
妊娠初期のエコーがさらっとし過ぎていて不安。NT肥厚とかってなんで気軽にみてくれないんでしょう?
出生前診断もするかどうか悩んでいます。
あまりにも目立つ感じでなければあえてNTを測定することはありません。正確な測定断面でないと評価できない繊細な指標だからです。
出生前診断をするかしないかの決断は、遺伝カウンセリングを行ってからが理想的です。
“NT肥厚”の有無はいつもの妊婦健診でルーチンでみるものではありません。
後頚部浮腫があまりにも目立つようでなければそもそも測定しませんし、正確な断面の描出が重要なので、誰でも測定できるものでもありません。
出生前診断には、クアトロ検査・羊水検査・NIPTなど色々な種類がありますが、それぞれのメリット・デメリットを鑑みて各症例で必要性を評価するのが望ましいと思います。
いずれにせよ、悪い結果が出た時にどうするかを夫婦で検査前によく話し合って結論を出しておくことが大切です。
遺伝カウンセリングの重要性を痛感しているからこそ、非認可施設での検査はお勧めしません。
4. 妊娠初期の血圧が高いと何が問題?
妊娠初期の血圧が120/70mmHg程度と高めでした。気をつけることはありますか?
妊娠初期の拡張期血圧が70〜75mmHg以上の場合、今後「妊娠高血圧症候群」に至るリスクは上がると言われています。「白衣高血圧」の可能性もあるので、まずは自宅血圧測定を開始してみるのはいかがでしょうか。
妊娠初期の拡張期血圧が高いと、その後の妊娠高血圧症候群の発症リスクが高くなることが分かっています。
年齢やその他のリスク因子などをもとに慎重にフォローしますが、いずれにせよまずは自宅血圧測定を開始して評価していきます。毎日の血圧推移を確認するためです。
自身で他に出来るのは、「減塩食を心がける」「野菜を積極的に摂る」「適度な運動を行う」ことなどでしょうか。
5. 腹部圧迫感・逆流性食道炎への対応は?
お腹が苦しくて、ご飯を食べた後が辛いです。胃酸が上がってくるような感じもあります。
基本的には対症療法です。こまめに分食とし、食後すぐには横にならないようにしましょう。
腹部圧迫感や胃酸の逆流症状は多くの妊婦さんが経験されます。特段異常ではありません。
子宮が少しずつ大きくなってくることによる症状なので、基本的にはうまく対応していくしかありません。特効薬もありません。
食事を一気にまとめて摂らず、こまめに分けて食べるようにしたり、食後は出来るだけ座ったり立ったりして対応することをお勧めします。
6. 妊娠悪阻の入院適応は?
つわりが辛いです。なんとかならないのでしょうか?入院適応はどういう感じですか?
基本的には患者さんが「家ではもう無理」と思ったら入院適応です。点滴加療がメインで、他には吐き気止めや漢方での治療が行われます。
つわりは全妊婦の50〜80%に認められますが、これが重症化して「体重減少・脱水・電解質異常などを呈した病態」が妊娠悪阻です。
「5%以上の体重減少」「食事が全く摂取出来ない」「水分摂取もままならない」時は入院適応になりますが、それだけではなく、本人が辛過ぎてもう家では対応できないと思った時も入院適応です。
入院時は基本的には安静+点滴加療が行われます。心身ともに安静にするとともに、ビタミン入りの点滴を入れて脱水や電解質の補正を行うのです。
適宜吐き気止めの点滴も使ったりします。
外来レベルでも、吐き気止めの内服や漢方薬での対症療法ができるので、無理せず気軽に相談してください。
7. 葉酸はどのくらい摂取するべき?
妊娠前から葉酸を内服していますが、過剰摂取もよくないと聞きました。どのくらいが良いのでしょう?
妊娠11週末まで0.4mg/dayの葉酸を内服することが推奨されています。
ガイドラインでは、0.4mg/dayの葉酸を妊娠1ヶ月前〜妊娠11週末まで摂取することが推奨されています(米国では0.4〜0.8mg/day)。
神経管は妊娠6週には完成していますので、妊娠12週以降は絶対的な摂取の必要はありません。しかし妊婦さんはもともと葉酸の必要量が増えているので、その分を補う目的で妊娠期間を通じて摂取する人もいらっしゃいますし、産科ガイドラインでもそれで良いと言われています。
しかし過剰摂取が良くないのも事実です。1日1mg以上は摂取しないように注意しましょう(神経管閉鎖障害児の妊娠既往がある女性を除く)。
8. 妊娠中に避けるべき食べ物
妊娠中に何を食べても不安。感染症などが気になってしまいます。
気にし過ぎもよくないですよ。
妊娠中の食について気にすることは良いことですが、気にし過ぎはNG。妊婦さんへの精神的な負荷が強くなってしまうと逆効果です。
基本的には、
- ローストビーフを含む生肉
- ナチュラルチーズ
- スモークサーモン
あたりを避ければ問題なく、あとは食中毒にさえならないように配慮すれば大丈夫と言われています。お刺身なども少量なら平気です。
ちなみに、上記であってもしっかり加熱すれば大丈夫ですよ。
9. 妊娠中に酒類を摂取してしまった
妊娠中にお酒の入ったものを食べて(or飲んで)しまって後悔しています。
アルコールは加熱されていれば問題ありません。妊娠中の飲酒は避けるべきですが、誤って少量飲んでしまっても気にし過ぎなくて大丈夫です。
質問のあったものは、
- 少量のアルコール
- 料理酒/みりん
- マロングラッセなど酒の入ったお菓子類
などでした。
基本的にアルコールは加熱していれば問題ないので、料理酒やみりんなどは全く気にせず使用してもらって大丈夫です。
菓子類に入っているお酒も同様に製造過程で多くはアルコールが飛んでおり、適量であれば気にせず食べて良いです。
妊娠中の飲酒は避けるべきですが、例えば妊娠に気付いていない時期に少量飲酒をしてしまったとしても、必要以上に気にする必要はありません。
10. 妊娠中の電磁波の影響は?
電磁波を浴びすぎると赤ちゃんに影響が出るって本当?
普段の生活をしている分には全く問題ありません。
スマートフォンや電子レンジ、IH調理器、電気毛布など、電磁波を発生するものは身の回りにたくさん溢れています。
一部のネット情報では、妊娠中にこういったものを使用しすぎると赤ちゃんに影響が出ると記載がありますが、デマです。
普段の生活環境の電磁波であれば、長い間何回浴びても影響はありません。
電磁波を浴びると小児白血病や脳腫瘍などになりやすいという記事もみましたが、いずれも長年の研究において否定されています。
ネット上には医療に関するたくさんの嘘情報が載っているので、注意が必要です。
ゆきぞらブログの読者の方々には、ぜひ高いネットリテラシーをもち、正しい情報にアクセスしてもらいたいと切に願っています。
妊娠初期に気になることについての質問を、Q&A形式でまとめてみました。いかがだったでしょうか?
今後も妊娠中・後期、分娩後など、時期別にまとめていければと思っていますので楽しみにしていてください。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。