産婦・医療

胎盤の位置が低いと何が問題なの?〜前置胎盤・癒着胎盤〜

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

妊婦健診では、妊娠20〜24週前後で必ず胎盤の位置を評価します。胎盤が低いと判断された場合、特別な管理が必要だからです。今日は胎盤の位置異常について解説します。

1. 胎盤の位置異常って?

下の記事で、産科危機的出血の原因で最も多いのは弛緩出血であると説明しました。弛緩出血とは、子宮収縮がうまくいかないことによって胎盤の剥離面からの出血が止まらなくなる疾患です。

"産科危機的出血"は、そこに至るまでの対応が重要お産に出血はつきもの。それが血圧・脈拍に関わる大出血につながることも少なくありません。迅速な治療介入が求められる「産科危機的出血」ですが、何より大切なのはそこに至る前に初期治療を始めておくこと。複数の治療法を例にして簡潔にまとめました。...

今回扱うのは、産科危機的出血の原因として2番目に多い「前置胎盤」です。前置胎盤とは胎盤が子宮の出入り口を覆っている状態をいい、産科危機的出血の13%程度を占めるとされています。
弛緩出血との違いは、”前置胎盤は事前に診断・準備ができる”ということと、”妊娠期間中に性器出血などをきたしやすく、慎重な妊娠管理が重要である”ということ。だからこそ、妊娠20〜24週頃に評価し、胎盤の位置を確認しているのです。

ただ、その時に胎盤が低いからといって、前置胎盤の診断が確定するわけではありません。妊娠子宮が大きくなることによって、子宮の下の方(下節と言います)が伸展するため胎盤が上行し、胎盤と子宮口との位置が離れることがあるからです。これを胎盤のmigrationといいます。

そのため妊娠20〜24週頃に胎盤が低いと判断された妊婦さんは、妊娠30週前後でもう1度評価し、前置胎盤なのか否かを見定めます。尚、その後もmigrationする可能性はあるので、適宜エコーで胎盤の位置と子宮の出入り口との位置関係を把握しながら、どの程度の出血が予想されるかを推測するのです。遅くとも37週までには診断を決定する必要があります。

2. 前置胎盤の分類

前置胎盤は全妊娠の0.5〜13.9%で認められ、諸外国よりも日本人の方が多いことが分かっています。また、全前置胎盤(total)・部分前置胎盤(partial)・辺縁前置胎盤(marginal)の3つに分類されます。

  1. 前置胎盤(total)
    :胎盤が内子宮口を完全に覆っている。
  2. 部分前置胎盤(partial)
    :胎盤が内子宮口を部分的に覆っている。
  3. 辺縁前置胎盤(marginal)
    :胎盤が内子宮口に接しているが、覆ってはいない。

全前置胎盤は胎盤が完全に子宮の出口を覆っているもの(覆っている距離が2cm以上)、部分前置胎盤はちょっとだけ覆っているもの(2cm未満)、辺縁前置胎盤は辺縁だけかすっているもの(ほぼ0cm)です。
また、内子宮口を覆ってはいないけれど、子宮口から胎盤辺縁までの距離が2cm以内のものを「低置胎盤」と言います。

前置胎盤では主に以下が問題となります。

  1. 帝王切開による分娩が必要
  2. 分娩前後に大量出血を起こす事がある

次の項目で詳しく説明します。

3. 前置胎盤は大量出血のリスクが高い

前述の通り、前置胎盤・低置胎盤は出血リスクが上昇します。出血リスクが高いのは、全前置胎盤>部分前置胎盤>辺縁前置胎盤>低置胎盤の順です。

どのくらい出血量が増えるかというと、ざっと2倍。
帝王切開の平均出血量は1000mLのため、前置胎盤の場合は2000mL以上の出血量になることが多いのです。

また分娩時のみならず、妊娠中期以降に突然起こる出血も特徴的です。いきなりペットボトルの水をひっくり返したような量の出血が出ることもあり、その場合は母児の命に関わる緊急事態となります。妊娠28週以降から性器出血の頻度が徐々に増加するため、妊娠後期は特に慎重なフォローが必要です。

4. 癒着胎盤があるとリスクが更に上昇

前置胎盤の約5〜10%に癒着胎盤を合併します。癒着胎盤とは、その名の通り胎盤の一部が子宮に強くくっついてしまって剥がれなかったり、剥がれても大出血を起こすかなり危険な疾患です。

高齢妊娠・多産婦・喫煙・不妊治療・子宮手術後(流産手術・筋腫核出術・帝王切開など)などがリスク因子になります。例えば帝王切開の既往があり、以前の切開創に胎盤がかかっている場合には癒着胎盤のリスクが上がります。

癒着胎盤を診断する目的で、妊娠34週前後でMRIを撮像したり、お腹のエコーで胎盤を入念に観察したりしますが、これらを行っても癒着胎盤を事前に診断することはなかなか困難です。胎盤を剥がすまで、実際に癒着しているか否かは分からないのです。

癒着胎盤は非常に怖い疾患です。前置胎盤はただでさえ、普通の帝王切開よりも出血が増えます。そんな中で胎盤が剥がれないと、剥がそうとしている間にどんどん出血量が増え、術野が真っ赤になります。私は癒着胎盤の症例を数例経験しましたが、ある症例では出血量が10Lを超えました。

「福島県立大野病院産科医逮捕事件」も、癒着胎盤による母体死亡でした。執刀した産婦人科医の先生が業務上過失致死罪に問われたことに対し、医療界全体が強く抗議したのは、癒着胎盤の診断と治療の難しさを知っているが故です。

5. 治療と管理

病院

1. 妊娠中の管理って?

①警告出血があれば緊急入院

前置胎盤の妊婦さんが出血する時、最初は少量の性器出血であることが多いと言われています。これを「警告出血」と言います。
警告出血は今後の大出血の前兆になり得る所見であり、出血量に関わらず入院管理が必要です。警告出血があった場合、70%で緊急帝王切開術が必要であったという報告があるからです。

②必要なら子宮収縮抑制薬・副腎皮質ステロイド投与

警告出血を認めた際は、妊娠週数及び出血の持続具合によって管理方法が変わりますが、週数が早ければ少しでも在胎期間を延ばすよう、子宮収縮抑制薬が用いられることが多いです。妊娠34週未満であれば副腎皮質ステロイド(リンデロン®︎)も投与します。
それでも出血が治らなかったり、出血量が多く危機的と判断した場合は、母体救命を優先した管理が行われます。

子宮収縮抑制薬とリンデロンについては、切迫早産の記事を参考にしてみてください。

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③無症状でも妊娠34週前後で管理入院+MRI撮像

無症状で経過する妊婦さんもいらっしゃいますが、妊娠後期になるほど出血リスクが上がるため、妊娠34週前後で管理入院にしている病院が多いのではないかと思います。前置胎盤の場合、分娩までずっと入院になり、外出・外泊も基本的にダメです。そこで出血したら…と考えると、非常に怖いからですね。
癒着胎盤の評価をするために、入院中のどこかで単純MRIも撮像します。

④自己血貯血

前置胎盤は出血リスクが高いので、輸血が必要になった時のことを考慮して術前に自分の血液をとっておく「自己血貯血」がよく行われます。ヘモグロビンの値が10g/dl以上であれば貯血ができるので、症例に応じた量の自己血を採取することが多いです(400mL×1〜3回)。

2. 帝王切開術当日の管理って?

特に問題がなければ妊娠38週までに帝王切開を行います。ただし胎盤からの出血により分娩にせざるをえない状況になることも多く、平均分娩週数は34〜35週です。34週以降であれば児の臓器はほぼ成熟しているため、妊娠継続よりも分娩にすることが多いのです。

手術
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①内腸骨バルーン挿入術

施設が限られますが、術前に内腸骨バルーンを挿入することがあります。これは子宮を栄養する両側の子宮動脈のところにカテーテルを挿入し、術中に血流を遮断するためのバルーンを留置するものです。

産婦人科医ではなく、放射線科医に処置してもらう必要があるので、少し手間はかかります。また緊急時はすぐに対応できないことも多いです。
しかし、胎盤剥離前にバルーンを膨らませて血流を抑えられることで、手術中の出血量を有意に減らすことができるメリットがあります。

②子宮腔内バルーン挿入 or Compression suture

帝王切開を施行し、子宮を縫合している際に「やはり出血量が多いな」と判断した場合は、子宮腔内に水風船を挿入して内側から圧迫する処置を取ることがあります。子宮口に近い胎盤剥離面からの出血も圧迫でき、ある程度の出血コントロールを図ることができます。

また、Compression suture法という、子宮を外側から圧迫するように縫合する方法もあります。子宮が温存できる上、再び子宮が弛緩するのを防ぐことが出来るのが利点です。

③子宮動脈塞栓術 or 子宮全摘術

出血のコントロールがつかずにどうしようもない時は、子宮動脈塞栓術や子宮全摘術が必要になる可能性があります。

特に癒着胎盤の場合は、子宮を摘出しないと出血が止まらない場合が稀ではありません。そのため、必ず術前に子宮摘出の可能性があること、必要であれば追加治療が必要になる可能性などを説明し、妊婦さん及び家族に同意を得ています。

6. 赤ちゃんとお母さんの予後

前置胎盤における妊産婦死亡率は全体の妊産婦死亡率の約5倍。新生児死亡率は約4倍。何より出血のコントロールが重要です。

普段の帝王切開であれば赤ちゃんが生まれたところでほっと一息つくところですが、前置胎盤の場合は胎盤を剥がすところからが本番です。スムーズに胎盤が剥がれれば、少し安心。いつもより多い出血にさえ対応できれば、特に問題なく終わることが多いです。

しかし、胎盤が剥がれない癒着胎盤の場合、一気に母体の命の危険につながります。1分1秒の判断の遅れで、リットル単位の血液を損失します。子宮摘出を免れない状態の時に、躊躇せず手技に移れるのかが分かれ目かと感じています。

いずれにせよ、そんなリスクの高い前置胎盤の症例は、必ず高次医療施設での妊娠管理を行う必要があります。早産になる可能性もあるため、NICUがあり、24時間緊急帝王切開に対応できる病院で管理しなければならないのです。

今回は前置胎盤を主に胎盤の位置異常についてまとめてみました。
妊婦健診で胎盤の位置についてコメントを受ける場面があるかもしれません。「胎盤が低いって言われたんだけど、何か問題なの?」という方が、この記事で理解できれば嬉しいです。

全前置胎盤なのか部分前置胎盤なのか辺縁前置胎盤なのかによっても、こちらが受ける印象は全く異なります。自分の病態について、少しでも把握しておくことが大切だと思います。

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ABOUT ME
ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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【そら】
東大医学部→研究医

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◆ 国公立医学部→産婦人科医

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