毎年11月17日は世界早産児デーです。
それにちなんで、今日は早産・切迫早産についてお話しします。
目次
1. 早産・切迫早産って何?
- 早産=妊娠22週以降から37週未満に分娩になること
- 切迫早産=子宮収縮や子宮頚管の熟化などにより、早産になる可能性がある状態
早産期に生まれてしまったことを「早産」、早産になりかかっている状態を「切迫早産」と言います。厚生労働省の報告によると、2014年における日本の早産率は5.7%でした。20人に1人の割合と考えると、結構頻度が高いと思いませんか?
切迫早産の症状としては、子宮収縮(お腹の張り)、骨盤圧迫症状(頻尿など)、生理痛のような下腹部痛、腰痛、水様性や血性の”おりもの”などが挙げられます。厄介なことに、自覚症状がないこともあります。
ちなみに、妊娠22週未満の赤ちゃんの場合、残念ながら産まれても生きることは出来ません。そのため早産とは明確に区分され、「流産」という診断になります。流産については下の記事を参考にしてみてください。
2. 切迫早産の診断
切迫早産の診断のメインは2つ。
①経腟エコーと、②胎児心拍数陣痛図(モニター)です。
1. 経腟エコー
切迫早産の診断は主に、子宮の出入り口である子宮頚管の長さを測定して行います。何らかの原因で頚管長が短くなると早産の可能性が高まるため、治療介入が必要になります。
妊娠28週未満の正常の頚管長はおよそ35〜40mm。一方、切迫早産では頚管長の短縮を認め、頚管長が短いほど早産率が増加することが分かっています。
私は1つの目安として、「妊娠25週・頚管長25mm未満」「妊娠30週・頚管長20mm未満」の場合は、切迫早産として入院をお勧めしています。これらは明確な基準があるわけではなく、それぞれの施設基準にもよるので一概には言えませんが、頚管長が25mmより短かったら「私って切迫気味なのかも」と意識してもらえると良いかと思います。
また頚管長は保たれていても、子宮の出口が開大してくる「頚管無力症」という疾患があり、こちらも切迫早産のリスクになります。
2. 胎児心拍数陣痛図(モニター)
子宮頚管に変化がみられなくても、規則的な子宮収縮を認める場合は、切迫早産の診断になります。痛みも伴う場合はさらに注意です。
モニターを装着して、20分に4回もしくは60分に8回の子宮収縮があれば、入院下での治療が望ましいでしょう。
3. 早産ハイリスクってどんな人?
早産のハイリスク群は次の通りです。
(公益社団法人 日本産科婦人科学会:産婦人科研修の必修知識2016-2018 p.144より)
- 既往歴
・子宮頚部円錐切除術
・後期流産
・死産
・早産
・頚管無力症
・習慣流産 - 妊娠時の異常
・細菌性腟症
・多胎妊娠
・子宮筋腫合併
・子宮奇形
・感染症(尿路感染症、肺炎、歯周病など)
・羊水過多
・抗リン脂質抗体症候群合併 - 喫煙者
早産の原因として最も頻度が高いのは「子宮頚管及び子宮内の感染」です。子宮の出入口や子宮の中に感染があると、その炎症作用によって子宮頚管が柔らかくなってしまうのです(頚管熟化といいます)。
そのため、切迫早産を疑う人には必ず腟の培養検査を行い、細菌感染がないか、あったとしたらどんな菌が原因になっているかを評価しています。
既往歴も非常に重要です。
「早産」「後期流産(妊娠12週以降の流産)」「死産」を経験された方は、次も早い時期での分娩になってしまう可能性が高いです。特に32週以前の早産の既往は、リスクのない人と比較して早産率は約12倍になります。
また、子宮頚部異形成(子宮頚がんの前癌病変)などで円錐切除術を施行された患者は、手術で子宮頚管を切除している分、もともとの子宮頚管長が短くなるため、ハイリスクと言えます。
お腹が張りやすい状況も切迫早産のリスクです。例えば羊水過多や多胎などは、子宮内容が多い分、子宮の内圧が上がり、子宮収縮が増えることが分かっています。
4. 切迫早産の治療
治療は大きく3つの方法を単独または同時に行います。
- 安静
- 子宮収縮抑制薬
- 抗菌薬:子宮内感染を疑う時
その他:腟洗浄、胎児肺成熟のためのステロイド投与、子宮頚管縫縮術、プロゲステロン投与 など
1. 安静
切迫早産の治療の基本は「安静」です。何よりも大切です。
だからこそ、頚管長25mm未満の早産ハイリスクの患者さんには、入院をお勧めするのです。家だとどうしても家事やら何やらで動いてしまうんですよね。
入院中は、基本的にベッドに横になっていてもらいます。立ち歩きは必要最小限にし、シャワーも短時間のみ。座っている姿勢も、子宮頚管への重力負荷がかかるため、あまり望ましくありません。
2. 子宮収縮抑制薬
お腹が張って子宮頚管が短くなっているのであれば、そのお腹の張りを抑えてあげれば良い。そんな理論で用いているのが、子宮収縮抑制薬です。
日本で保険適用があるのは、以下の2種類になります。それぞれ次のような副作用の報告があります。
<①塩酸リトドリン(リトドリン®︎、ウテメリン®︎)>
・母体:動悸、手のふるえ、皮疹、肝機能障害
→稀に肺水腫、無顆粒球症、横紋筋融解症
・胎児:頻脈、不整脈、心筋肥厚、血糖異常など
<②硫酸マグネシウム(マグセント®︎)>
・母体:全身倦怠感、筋肉痛
→稀に肺水腫、横紋筋融解症
・胎児:モニター異常、呼吸様運動の抑制など
基本的にはリトドリンを第1選択とし、リトドリンが副作用で継続出来ない場合や、リトドリンでも子宮収縮が抑えられない場合にマグセントに切り替えます。併用することもあります。
3. 抗菌薬
子宮内感染を疑う所見がない場合は、予防的抗菌薬の使用は推奨されていません。しかし感染の可能性があったり、破水しているような症例では使用します。
更に「腟洗浄」といって、腟内を消毒液や生理食塩水で洗い、腟内にメトロニダゾール(フラジール®︎)などの抗菌腟錠を入れる処置を行うこともあります。腟洗浄は副作用が少ないため、比較的多くの医療施設で行われているのではないでしょうか。
4. 副腎皮質ステロイド
妊娠期間中、赤ちゃんは少しずつ身体の臓器を作っていますが、1番最後に出来上がるのが「肺」です。妊娠34週未満の赤ちゃんでは、肺がまだ成熟していないため、妊娠34週未満の早産になりそうな時は、肺の成熟を促すためのステロイドの注射を行います。
副腎皮質ステロイドは新生児の呼吸障害を減少させる他にも、脳出血・壊死性腸炎・動脈管開存症の発症を減少させる効果があるとも言われています。
基本的に子宮内感染がなく、妊娠24週以降34週未満の早産が1週間以内に予想されるタイミングを見計らって投与します。
5. その他
その他にも、
・前回早産の既往がある人→黄体ホルモン(プロゲステロン)投与
・頚管無力症が疑われる人→頚管縫縮術
などの治療法があります。
各症例に応じた適切な治療選択が重要なので、適宜担当医と相談していきましょう。入院後、早産リスクが低いと判断された場合は、外来で経過観察することもあります。
おまけ:子宮収縮抑制薬っていつまで使うの?
切迫早産の治療をしている時、子宮収縮薬をいつやめるか悩んでいる産婦人科医に会ったことありませんか?
治療して1週間経つけど、まだ妊娠34週なんだよな。子宮収縮薬をやめたらまたお腹張っちゃいそうだな。どうするか。
産婦人科医が悩んでいる背景には、次のような論文結果があります。
- リトドリン点滴の効果は短期間に限定されたものである(2006年)1)
- リトドリン点滴により、48時間以内の分娩は減少したが、7日以内の分娩は減少しなかった(2010年)2)
- 周産期死亡・呼吸障害も減少しなかった(2010年)2)
つまりリトドリンは、48時間に限定した使用による早産予防効果は示されていますが、日本で頻用されている長期間の点滴投与の有用性は示されていないのです。
リトドリンには前述のような副作用もあるため、欧米では長期間のリトドリンの使用は控えるよう提言されています。
しかし日本では長期間のリトドリン点滴が行われている背景があります。リトドリン点滴をやめると、ある一定数の人はお腹が張り、中にはそのまま早産になってしまうからです。
日本の産婦人科は集約化が進んでいないため、早産をみれるNICUのある周産期センターが限られています。NICUがしっかりしていて、早産もみれる病院ならリトドリンは短期投与で終了していることが多いですが、そうは言っていられず、自施設でみれる週数まで長期に続ける選択をとることもあるわけです。
リトドリンなどの子宮収縮薬をやめた時、その人が早産になるかならないかは、診察所見だけでは分からないことがあります。悩んで悩んで、リトドリンを長期に続ける時は、そんな産婦人科の苦悩があるんだなと思ってもらえると面白いかもしれません。
疑問点などがあれば、適宜担当医に質問・相談してみると良いと思いますよ。
リトドリン”内服”については、患者さんの自覚症状を改善することはできますが、早産予防には効果なしとされています。私はほとんど処方しません。
今日は早産・切迫早産について書きました。いかがだったでしょうか?
産婦人科医として、切迫早産の治療は本当に悩みが尽きません。
産婦人科の治療は全て結果論です。赤ちゃんとお母さんが元気に出産を終えられるか、それに尽きます。
早産は赤ちゃんの臓器障害だけでなく、発達障害や、更には大人になった時の生活習慣病などにも影響することが分かっているので、できる限り妊娠週数を引き延ばすよう試みています。
赤ちゃんの数十年後の将来まで見据えながらの治療。ご夫婦に選択を委ねる場面もあるかもしれませんが、一緒に悩みながら治療を選択できれば良いのかなと思います。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。