月経不順や不妊で産婦人科を受診される患者さんの中には、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)が原因になっている可能性のある人が案外多いです。
PCOS…?多嚢胞?なんだそれ?
今日は、この”PCOS”について詳しく説明していこうと思います。
目次
1. PCOSを知ろう
1. PCOSって何?
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群;polycystic ovary syndrome)は、妊娠可能年齢の女性に比較的高頻度(5〜8%)に認められる疾患です。
基本的に卵巣の中では約1ヶ月の間で1つの卵胞が育ち、排卵が起きます。しかしPCOSの場合、排卵が上手く出来ない状態になり、排卵されない卵胞が卵巣の中に留まります。
そのため卵巣の中に沢山の卵胞が見える状態、すなわち「多嚢胞性卵巣」になる、というわけです。
上のイラストの左側が正常、右側がPCOSの卵巣です。
排卵できなかった水色の嚢胞が多数認められるのが分かるかと思います。
2. PCOSの診断基準
日本では次のような診断基準が策定されています。
[多嚢胞性卵巣症候群の新診断基準, 2007]
以下の①〜③の全てを満たす場合をPCOSとする。
- 月経異常
- 多嚢胞卵巣
- 血中男性ホルモン高値
または
LH高値かつFSH正常
①月経異常
まずは月経異常。
無月経・希発月経(月経周期が39日以上)・無排卵周期症のいずれかになります。
これらを認める場合は、ぜひ産婦人科に相談して下さい。
生理が無くても困らないし、頻度が少ない方が楽じゃない?
そう思う気持ちはよく分かります。よく分かるのですが、そう簡単にはいきません。
PCOSを放っておくと、糖尿病や心血管障害、子宮体癌のリスクになったり、不妊につながったりするからです。
手遅れになる前に、ぜひ気軽に相談してもらいたいです。
②多嚢胞卵巣
多嚢胞卵巣は超音波で評価します。
多嚢胞卵巣とは「卵巣の中に多数の小卵胞が見られ、少なくとも片方の卵巣で2〜9mmの小卵胞が10個以上存在するもの」とされています。
同じような大きさの卵胞が卵巣の外側に1列に並ぶように見えるので、ネックレスサインと呼ばれます。
③ホルモン異常
- 男性ホルモン(テストステロンやアンドロステンジオン)が正常範囲上限を超える
- LH≧7mIU/mLかつLH≧FSH
- BMI≧25ではLH≧FSHのみでも可
PCOSの原因はまだ明らかになっていないのですが、男性ホルモンの値が高くなることが分かっています。
この男性ホルモン高値が、卵巣を多嚢胞性に変化させ、排卵障害などに中心的に関与していると考えられているのです。
従ってPCOSを診断する時は、ホルモンの値を採血で確認する必要があります。
また、血糖値の異常やインスリン抵抗性が男性ホルモンと協調してPCOSに関与していることも分かってきているので、採血の際に血糖関連の項目も追加したりします。
3. PCOSの症状・特徴は?
PCOSは、身体に様々な変化をもたらします。
男性ホルモンの影響で、多毛になったりニキビが出来やすくなることもあります。
他にも例えば、次のような健康リスクが指摘されています。
- 不妊症
- 肥満
- 2型糖尿病
- 脂質異常症
- 心血管疾患
- 子宮内膜癌(子宮体癌)
- 卵巣癌
いわゆる生活習慣病や、月経がこないことによる悪性疾患の発症が問題になるんですね。
妊娠した際の”周産期合併症のリスク”についても多くの報告があり、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの増加は有名です。
PCOSの長期的な管理については、減量を含めたライフスタイルの改善が大切なのです。
4. PCOSの管理・治療は?
1. 挙児希望がない場合
・減量を含めたライフスタイルの改善
・薬物療法(黄体ホルモン療法、低用量OCなど)
・インスリン抵抗性がある場合はメトホルミンも選択肢
PCOSと肥満の関係は疫学的に明らかになっているので、今後の生活習慣病の発症予防のためにも、肥満(BMI>25)がある場合は、栄養バランスの取れた食事や適度な運動などで減量に努めることが大切です。
減量によって排卵がうまくいくようになったり、ホルモン値の改善が認められるようにもなります。
あとは、月経で子宮内膜が剥がれないことによってリスクが上がる子宮内膜増殖症や子宮体癌を予防する目的に、薬物療法として黄体ホルモン療法、低用量OC、Kaufmann療法を用いることもあります。
2. 挙児希望がある場合
・第1選択はクロミッド®︎
・クロミッド®︎抵抗性で肥満・インスリン抵抗性がある場合はメトホルミンを併用
・第2選択はゴナドトロピン療法
・それでもダメなら卵巣多孔術を検討
・それでもダメなら体外受精を検討
挙児希望がある場合は、排卵しにくい状態のPCOSにおいて、なんとかして“排卵させる”ことが重要になります。
PCOSの人でも排卵がゼロということは少ないので、自然妊娠は期待出来ます。しかし正常の人と比べると、どうしても確率が下がります。複数回でのタイミング療法でも妊娠に至らない場合は、不妊治療としての介入が必要です。
第1選択として用いられるのがクロミッド®︎錠。
研究結果としても、クロミッドの内服によって妊娠率が上がることが示されています。
しかしクロミッドを使っても反応に乏しい(=卵胞が適切に育たない)場合は、3周期をめどにしてクロミフェン抵抗性と判断し、次のステップに移行します。
肥満症例の場合は、メトホルミンを併用することもあります。
ゴナドトロピン療法も用いられますが、PCOSでは多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いため、頻回に外来でフォローして卵胞発育をチェックしていく必要があります。
それでもダメなら卵巣多孔術(卵巣に多数の孔をあける腹腔鏡手術)や、体外受精を検討します。
5. 結語
月経不順・無月経をみた時、妊娠可能年齢の女性において頻度が高いのがPCOSです。
月経は身体の状態をみるための1つのパラメーターです。
月経がないのは楽で良い、という考えはある意味危険です。
PCOSは不妊や生活習慣病、後の子宮体癌や卵巣癌の発症率の上昇などのリスクになります。
挙児希望がある場合は排卵させることを目的に、挙児希望がない場合は適切に出血を起こしライフスタイルを改善させることを目的に、治療を行っていきます。
PCOSについての知識が入ってくると、自分にも当てはまるかも?という方もいらっしゃるかもしれません。
このブログが、産婦人科を受診するきっかけになることがあれば本望です。
今日はPOCSについてまとめてみました。いかがだったでしょうか。
外来でもかなり頻度高くみられる疾患の1つです。
自分の身体からのサインに耳を傾けつつ、将来のためにも早めに介入しましょう。
最後に、少しでも多くの方にこのブログをご覧いただけるよう、応援クリックよろしくお願いします!
こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。