過多月経や月経困難症の治療として、最も有名なものはピルだと思います。


ピルは内服薬のため全身に作用する薬ですが、今回紹介する「ミレーナ®︎」は子宮に局所的に作用するホルモン製剤。
ピルとはまた違ったメリット・デメリットがあり、ミレーナが合う患者さんにとっては、ミレーナとの出会いが生活の質を高めるきっかけになることもあります。
ミレーナを知ることで、治療の選択の幅を広げることが出来るはず。
ぜひご覧ください。
目次
1. ミレーナって何?

ミレーナ52mg=子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)
・レボノルゲストレル(LNG)が52mg入っている器具
ミレーナとは、レボノルゲストレル(LNG)という黄体ホルモンが含まれている子宮内挿入具のことです。
子宮内に挿入すると、黄体ホルモンを持続的に放出します。これによって子宮内膜が厚く増殖するのを抑えることが出来るため、内膜を薄い状態で保てるのです。
2014年9月から、過多月経や月経困難症の治療に対して保険適応になったため、ミレーナはさらに多くの患者さんに用いられるようになりました。
LNGは第2世代のプロゲスチンです。
LEPの中では”ジェミーナ®︎”に含まれている黄体ホルモンと同じになります。
2. ミレーナの作用・適応は?

ミレーナの効能・効果
- 過多月経(保険適応あり)
- 月経困難症(保険適応あり)
- 避妊(自費診療)
1. 過多月経・月経困難症
前述の通り、ミレーナを入れることで子宮内膜の増殖を抑えられます。
月経は子宮内膜が剥がれることによって起こるものなので、内膜が薄くなれば月経量は減りますし、月経痛も軽くなります。
人によっては、生理がほとんど無くなる人もいます(ミレーナを装着した人の20%程度)。それによって生理に伴う諸々の不調からも解放されるため、生活の質がグッと上がる方も多いです。
2. 避妊
更に、子宮の頚管粘液の性状を変化させて精子が子宮の中に入ってくるのを阻害する作用もあるため、避妊効果も有します。
ミレーナを使用した患者さんが1年間に妊娠する確率は約500人に1人(0.2%)で、他の避妊法と比較しても効果は高いと言えます。

3. 低用量ピルと比較した利点と欠点

- 1度の装着で最大5年間の避妊が可能
- 毎日の服薬が不要で、飲み忘れや時間のズレの心配もない
- 月経血量の減少効果が高い
- 子宮内膜増殖症に有効性が認められている
- 子宮体がんの予防効果が期待できる
- コストパフォーマンスが良い
- ピルを使いづらい40歳以上・喫煙者・肥満・血栓症リスクがある人などにも使用できる
ピルと比べた時のミレーナの何よりの長所は、
毎日決まった時間に内服しなければならない煩わしさから解放される
ということではないでしょうか。
ピルはその効果を十分に発揮するために、しっかりと服薬してもらう必要がありました。しかし、ミレーナは病院で挿入したら終わり。ご本人が何かを気にする必要はないのです。
また費用面でも、トータルでみて低用量ピルを内服するより安く済むことが多いです。
ミレーナは挿入する際に1〜1.5万円ほどかかってしまうのですが、それ以降は1〜6ヶ月に1回のエコーフォローのみでOK。
特に問題がなければ5年間継続使用が出来るので、毎月3000円程度かかるピルと比べて、コストパフォーマンスが良いのです。
また、局所的に作用する製剤なので、血栓リスクなどの影響でピルを使いづらい人にもミレーナが使える症例があります。
- 自然脱落のリスクがある
- 子宮穿孔のリスクがある
- 感染のリスクがある
- 異所性妊娠のリスクが高くなる
- 性感染症がある人には使えない
- 子宮内腔の異常がある人には使えない
- 子宮粘膜下筋腫がある人には使えない
- 子宮口が狭い人(出産経験がない人など)には装着できないことがある
- 卵巣嚢胞の治療としては使用しない
- 卵巣嚢胞が新規に出来ることもある
一方でミレーナの短所は上記の通りです。
1つは自然に抜け落ちてしまうリスクがあること。抜けてしまうと過多月経などの症状が再燃するばかりでなく、再挿入する際にはもう一度コストもかかります。
そのため、「抜け落ちそうな人」にはミレーナは挿入出来ません。
例えば、子宮の内腔に何らかの異常がある人や、子宮粘膜下筋腫があって内腔を圧排しているような人など。これらの場合はミレーナが良いポジションにいかないことが多いからですね。
粘膜下筋腫がある人の場合は、蠕動運動などによって子宮穿孔のリスクにつながることもあります。子宮穿孔に至ると、場合によっては手術が必要になることもあるため、慎重な管理が求められます。
また、子宮の中に器具を入れる処置であるため、子宮口が狭い人には装着できない可能性があります。出産経験のない人には挿入出来ないというわけではないのですが、経産婦さん(帝王切開を除く)の方が挿入はしやすいです。
4. ミレーナ挿入時の流れ

ミレーナを入れたい!という患者さんが、どのような流れで診察・処置を行うかについてまとめていきます。
- 産婦人科を受診し、ミレーナの適応をチェック
- 必要な検査を施行
- 月経開始後7日以内に産婦人科を再診
- 子宮内にミレーナを入れる
- エコーでミレーナの位置が問題ないかを確認
- 適切なタイミングでフォローを継続する
ミレーナは通常、月経開始後7日以内に挿入します。
月経が終わった直後、内膜が薄くなった時期に入れるのが推奨されるからです。
ミレーナは、子宮内膜の向きや深さを確認した後、外来下で挿入します。
処置自体はシンプルなので、5分もかからず終わると思います。
挿入時に生理痛のような痛みを感じる人もいらっしゃいますが、多くは軽度です。
ミレーナが良い位置に挿入出来たら、その後は次のようなタイミングで外来受診を行い、症状やミレーナの位置を評価していきます。
・挿入後1ヶ月
・挿入後3ヶ月
・挿入後6ヶ月
・挿入後1年
※それ以降は半年〜1年毎にフォロー
最初の1年は少し頻回な外来受診が求められます(と言っても低用量ピルと同じくらい)が、それ以降は半年に1回で良いのが嬉しいですよね。
ミレーナ挿入後に不正出血や月経周期の変化などのマイナートラブルが生じることも多いですが、通常は2〜3ヶ月経てば自然と改善していきます。
下記のような場合はミレーナ挿入に伴う問題が起きている可能性があるため、必ず相談して下さい。
発熱・腹痛・急な不正性器出血・性交痛 など
今日は子宮内黄体ホルモン放出システム(ミレーナ)について説明しました。
産婦人科医になるまでミレーナの存在を知りませんでした…。
少しでも多くの方にこんな便利なものもあるんだ、と知ってもらえたら嬉しいです。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。