先日、「厚生労働省は”妊娠中の女性の適切な体重増加量”について、基準を引き上げる方針を固めた」というニュースが流れました。
日本の若い女性は、やせすぎな人が多いんですよね。
しかもそういう人に限って、妊娠中に過度に体重増加を気にされたりします。
そんなやせ思考によって、出生体重が2500g未満の低出生体重児の割合が多くなっていることなどが指摘されたため、今回の基準引き上げに至ったというわけです。
今回はこのニュースをもとに、妊娠中の体重増加について改めてまとめてみようと思います。
目次
1. 妊娠中の体重はなんで重要なの?
母体の体重の増減は、妊婦健診時に毎回確認される項目です。
なぜこうもきっちりと管理するかを簡単に述べると、
「母体の体重増加量が赤ちゃんの出生体重に影響するから」です。
お母さんの体重が増えすぎると巨大児の割合が、増加が少なすぎると低出生体重児の割合が増加します。
また体重増加過剰の場合は、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、肩甲難産、帝王切開の割合も上昇すると報告されています。
産婦人科でも体重の増加について注意されたりして、妊娠中の体重増加を気にして頑張っている妊婦さんを多くみかけます。
ただですね。体重が適切に”増えない”、というのも問題なんです。
赤ちゃんが小さいと、楽に出産できるわ〜
という声も聞こえたりするんですが、そう簡単な問題でもないのが難しいところ。
今回のニュースも、低出生体重児の割合が多くなっていることを問題視してのことでした。
2. 低出生体重児のリスク
以前、早産や低出生体重児・DOHaDについて下記の記事を書きました。
この記事に詳しくまとめているので、お時間がある時にぜひ読んでいただきたいのですが、低出生体重児には下記のようなリスクがあります。
- 神経発達障害をきたすリスクが高まる
- 将来、高血圧や肥満を認めやすい
- 慢性腎臓病や虚血性心疾患のリスクも上昇する
小さく生まれることによって、その子が成長した時の肥満や代謝異常、発達障害、心血管障害のリスクが高まるというのは興味深いですよね。
日本では母体の”痩せ”による低出生体重児の割合の増加が問題になっていて、低出生体重児の割合はなんと9%程度にも及ぶと報告されています。
母体の栄養摂取不良自体が、早産・切迫早産の原因になったりもします。
3. 日本における体重増加量の指針
日本では厚労省及び肥満学会から、妊娠中の体重増加について下記のような推奨値が出ています。
2006年「健やか親子21」推定検討会による妊産婦のための食生活指針(出生体重2500g〜4000gを目標)
- やせ:BMI 18.5未満
→Total +9〜12kg(中期以降 0.3〜0.5kg/week) - 標準:BMI 18.5〜24.9
→Total +7〜12kg(中期以降 0.3〜0.5kg/week) - 肥満:BMI 25.0以上
→個別対応
2006年 日本肥満学会(産科的異常の減少)
- BMI 25.0〜29.9→Total +5kg以下
- BMI 30以上→Total +7kg以下
今まで私たち産婦人科医は、これをもとに「増えすぎ」「増えなさすぎ」などとアドバイスを行っていたというわけです。
4. 新しい基準はどうなるの?
新しい基準は「痩せ」と「標準」妊婦に対して、これまでの基準+3kgの体重増加を設定しています。
- やせ:BMI 18.5未満
→Total +12〜15kg(中期以降 0.3〜0.5kg/week) - 標準:BMI 18.5〜24.9
→Total +10〜13kg(中期以降 0.3〜0.5kg/week) - 肥満1度:BMI 25.0〜29.9
→Total +7〜10kg - 肥満2度:BMI 30以上
→個別対応(上限5kgまでが目安)
母体の痩せを原因とする低出生体重児の割合を減らす目的ですね。
肥満妊婦については今回の増加適応ではありませんので、注意して下さい。
この基準引き上げによって、妊婦さんたちの体重コントロールが緩和され、妊娠生活のストレスが少しでも減らせれば良いなと思います。
そしてそれが今後の低出生体重児の割合の減少に繋がり、さらにその後の生活習慣病の割合の減少につながれば、1番良いですよね。
5. 妊娠中の実際の体重管理
1. やせ型の妊婦の場合
新しい増加基準は+12〜15kgなので、これを目標にコントロールするのが良いでしょう。
日本においては、9kg以下の体重増加の場合、低出生体重児や早産の割合が高くなるという報告1)があるので、9kg以下となることは推奨されません。
とはいえ、一気に体重を増やすのではなく、徐々に増やしていくのがベター。厳格すぎる食事制限は妊婦さんにとっても赤ちゃんにとっても害になってしまいますので、栄養バランスのとれた食事を適切に摂取することが理想となります。
2. 標準体型の妊婦の場合
新しい増加基準は+10〜13kgですね。
日本では、+12kg以上の体重増加症例では低出生体重児の頻度は少ないけれども帝王切開の頻度が多かったとする報告1,2)があります。
+15kg以上の体重増加があると、帝王切開率が上がったり、産後の異常出血の割合が多くなる印象です。
3. 肥満体型の妊婦の場合
BMI 25以上の妊婦さんの場合は、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、巨大児、帝王切開などの割合が高くなりますので、ハイリスク妊婦と認識します。
妊娠中の体重増加が過剰になると、リスクは更に上昇します。
BMIが30を超えるような場合は、基本的に+5kg程度の増加が望ましいとされ、9kgを超える体重増加は推奨されません。
6. 結語
妊娠中の体重増加について、基準が緩和されました。
特にBMI 18.5未満のやせ型妊婦さんの場合は、自分の体重が増えなさすぎることにも注意して欲しいと思います。
適切に体重を増やすことが、赤ちゃんの出生時の状態だけでなく、その後の発育や生活習慣病のリスク減少に繋がる可能性があります。
今日は妊娠中の体重増加についてまとめてみました。
つい最近新しい基準が発表されたので、妊婦健診中に行われる今後の指導も変わってくることが予想されます。
お腹の中で赤ちゃんを育てているだけで大変なのに、厳格な体重コントロールまで負わされて、妊婦さんって本当に大変ですよね。
疑問や不安点などがあれば、ぜひ気軽に相談してもらいたいと思っています。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。