以前、帝王切開術の記事を書きました。
この記事では帝王切開の適応や大まかな流れなどを書いたのですが、もう少し細かく知りたい!という人もいらっしゃったので…。
この際、手術を控える方向けに、帝王切開の細かな流れについてまとめてみようと思います。
ここからは骨盤位で帝王切開予定の、”にんぷさん”にも協力してもらいます。
帝王切開、頑張るぞー!
目次
1. 帝王切開の麻酔
入室前に胎位をチェックしてもらったけど、やっぱり逆子ちゃんだった…。いよいよ手術室に入室です。
1. 脊髄くも膜下麻酔(±硬膜外麻酔)が基本
帝王切開の最も標準的な麻酔方法は、脊髄くも膜下麻酔(±硬膜外麻酔)です。
術後の鎮痛を主な目的とする硬膜外麻酔(上イラストの右)と、術中の鎮痛を主な目的とする脊髄くも膜下麻酔(イラストの左)になります。
麻酔科の先生が施行することが多いですが、妊婦さんは
“お臍を見るような体制で丸くなり、背中を突き出すような姿勢になる”
ことが大切!
これによって挿入部位がわかりやすくなり、処置もスムーズに進みます。
見えないので怖いですが、急に腰を引いてしまったりすると危険なので、麻酔科の先生の指示に従いながら頑張りましょう。
麻酔が効き始めると、低血圧に注意が必要。
急に血圧が下がることによって気持ち悪くなることがあるのですが、適切に対応しますのでご安心ください。
2. 超緊急で帝王切開を行うなら全身麻酔
上記の背中の麻酔を行う場合、15〜30分程度の時間がかかります。
ただ緊急帝王切開には、”まさに今、赤ちゃん(あるいはお母さん)の具合が悪い”など、そんなに待てない!という場合もあるわけです。
そういった場合や、その他特殊な症例の場合は全身麻酔で行うこともあります。お母さんが眠って、気管挿管が終わったと同時に、速やかに手術を始めます。
2. 消毒、布かけ、麻酔域のチェックなど
無事に背中の麻酔が終わった!
なんだかバタバタと手術前の準備が始まっていくぞ…。
麻酔が入ったら、こんな感じに同時進行で準備が始まっていきます。
- 産婦人科医:手術体位をとる、内診、腟内の消毒、お腹の消毒
- 麻酔科医:麻酔域の確認、バイタルサインに応じた全身管理
- 小児科医:赤ちゃんを迎えるための準備
- 助産師:胎児心拍確認、赤ちゃんを迎えるための準備
- 手術室看護師:外回り色々、手術器械の準備
この頃、妊婦さんは下半身の痛みの感覚が全く感じられない状態になっています。ただ、触られている感覚は残りますし、意識もあり声を発することもできます。
それぞれの準備が終わったら、清潔な布がかかります。
いよいよ準備が整いました。
3. 開腹操作
1. 皮膚切開の選択
帝王切開には横切開と縦切開があります。
- 横切開:
美容面で優れるが、スピードや視野の取りやすさは劣る - 縦切開:
スピード・視野展開のしやすさに優れるが、傷が目立ちやすいのがデメリット
3回以上帝王切開を予定する人は縦切開を選択する方がベター
それぞれのメリット・デメリットを鑑みながら、担当医と相談して選択しましょう。
私は骨盤位だったから横を選択しました。
2. 腹壁切開
いよいよ手術が始まります。
患者氏名は”にんぷさん”。骨盤位の適応で選択的帝王切開術を行います。予定手術時間は1時間、予定出血量は羊水込みで1000mLです。
上記のように”タイムアウト”を行ったら、開腹操作に入ります。
- 恥骨上2横指の位置で、皮膚を切開
- 皮下脂肪→筋膜を切開
- 筋膜から筋肉を剥がす
- 筋肉の間を分離して腹膜を掴む
- 腹膜を切開して腹腔内に至る
- 開創器をかける
大体ここまでで5分程度でしょうか。
お腹の中の癒着具合などによっても左右されます。
超緊急帝王切開では赤ちゃんを優先して1分程度で開腹しますが、予定帝王切開の場合は無駄な出血を出さないよう適宜止血しながら進めています。
子宮の近くにある膀胱や腸管を傷つけないよう、慎重に操作を行います。
4. 膀胱の剥離〜子宮切開
開腹できたら、妊娠に伴って大きくなっている子宮が目に入ります。
- 膀胱子宮窩腹膜反転部を鑷子(セッシ)で把持する
- ハサミで切開を加えて左右に延長
- 膀胱を足側に圧排する
- 子宮の体下部を十分に露出
子宮の前面を覆っている膜(膀胱子宮窩腹膜)を落として、膀胱を十分に足側に圧排し、安全な視野を確保します。
子宮を切るまでは、そこまで出血はないのでゆっくり行ってOK。
ただ、子宮の筋肉を切るこれからの操作は、出血が多くなるため素早い処置が必要です。
子宮を切る→赤ちゃんを取り出す→胎盤を取り出す→子宮を縫う
この一連の操作がどれだけ早いかによっても、手術の出血量は変わってきてしまうのです。
では、子宮を切るところを見ていきましょう。
- 子宮を押さえながら、筋層をメスで少しずつ切開
- 卵膜を視認
- 鈍的あるいはハサミで創部を延長
赤ちゃんを傷つけないよう慎重に、薄く薄く子宮の筋層を切っていきます。
赤ちゃんを包んでいる卵膜を確認したら、その層に入り、傷を延長し、赤ちゃん娩出の準備を整えていくのです。
5. 赤ちゃんと胎盤の娩出
- 手を子宮の中に入れる
- 骨盤位なら赤ちゃんの足・腰、頭位なら赤ちゃんの頭を把持
- 子宮の外に牽引して胎児を娩出
- この際、助手に子宮を押してもらうことが多い
- へその緒を鉗子で挟鉗し、赤ちゃんを新生児担当に渡す
- 子宮収縮薬を開始
- 胎盤を娩出する
良い層に入ったと思ったら、そこに手を入れて赤ちゃんを掴みます。
骨盤位の場合は赤ちゃんの足首や腰回り、頭位の場合は赤ちゃんの頭を把持して、赤ちゃんが通ってきやすいように誘導しながら娩出します。
赤ちゃんは速やかに新生児担当に渡し、子宮収縮薬などを用いて出血のコントロールを行います。
また、自然と剥離してきた胎盤も娩出します。
お腹を押されている時は苦しかったけど、それ以降は痛みはなかった。
赤ちゃんの泣き声を聞いた瞬間は安心した〜。
6. 子宮切開創の縫合
赤ちゃん・胎盤が出たら、切開した子宮を元どおりに合わせていきます。
- 創部の左右断端を吸収糸で縫合して止血
- 子宮筋層の1層目を吸収糸で縫合
- 糸を切る
- 2層目は1層目を埋没するような形で縫合(減張縫合)
- 糸を切る
- 出血が続いている部位がないか確認し、適宜止血する
基本的には、子宮の筋層は上のように2層縫合している施設が多いと思います。子宮破裂のリスクを減らすことが1番の目的です。
TOLACなどを行う際にも、子宮筋層が2層で縫合されているかは1つの基準になり得ます。
子宮を縫合し終えたら、出血もある程度落ち着いてきます。
この間に、妊婦さんと赤ちゃんの面会が行われることも多いです。
7. 閉腹操作
子宮の筋層を縫い終わったら、いよいよお腹を閉じていきます。
- 腹腔内を確認、止血チェック
- 癒着防止剤を貼る
- 腹膜を縫う
- 筋肉を縫う
- 筋膜を縫う
- 皮下組織を縫う
- 皮膚を縫う
出血がないかの最終チェックや、子宮・卵巣の状態の確認を行った後、癒着防止剤を貼って、癒着を防止します。
その後、開腹してきた逆の順番で閉創していき、お腹を閉じます。
帝王切開は大体60分程度で行われます。
8. 術後の流れ
手術が終わったら、悪露がしっかり出ているか、異常出血がないかを確認します。特に問題がなければ、術後のレントゲンをとって病室に帰ります。
無事に終わってほっとしました。
痛いけど、何より赤ちゃんが可愛い…♡
術後2〜3日目程度までは痛みがあることも多いですが、基本的には早期に離床してもらうことが重要です。
なぜなら、帝王切開の手術は血栓塞栓症を引き起こすリスクが高い手術の1つだからです。
症例に応じて、血栓を予防する皮下注射が行われることもあります。
術後3〜4日目以降で、痛みもだいぶ落ち着いてくるはずです。
施設によりますが、術後6〜7日目前後の退院が多いと思います。
今日は帝王切開についての細かな流れをまとめてみました。
当日のイメージトレーニングとして使ってもらえると嬉しいです。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。