コウノドリ

産婦人科医がコウノドリ3巻を読む

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

今回は3巻を読んでいきます。全体を通した感想は、

サクラ先生と全部同じこと思ってる…!!!

です。
産婦人科を目指した年にコウノドリを読んだ私ですが、知らず知らずのうちに臨床に活かす考え方や説明の仕方を、サクラ先生から学んでいたのかもしれません。

コウノドリ、恐るべし。

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1・2巻については上の記事に率直な感想をつらつら綴りましたので、ぜひ合わせてご覧ください。

1. 喫煙妊婦と常位胎盤早期剥離

2巻の最後に出てきた喫煙妊婦のお話から始まります。
この患者さんは、病院の前のコンビニで腹痛を自覚。運よく四宮先生に見つかり、病院に救急搬送となります。

腹痛あり、腹部は板状硬(全体的に硬い)
・エコーで胎盤肥厚あり
・赤ちゃんの心拍は60bpm以下
・母体の血圧は110/64mmHg

常位胎盤早期剥離の診断で超緊急帝王切開を行うことになりました。
かなりやばい状況。1分1秒が赤ちゃん・お母さんの命に関わります。

超緊急!常位胎盤早期剥離!常位胎盤早期剥離は産科の超緊急疾患。しかし症状や検査データがはっきりせず、診断に苦慮することが多いんです。どんな妊婦さんでも発症するリスクのある本疾患は、まずは疑い受診することが大切。産婦人科医である筆者が解説します。...

全身麻酔で手術を開始し、すぐに赤ちゃんを娩出。赤ちゃんが泣いたのを確認し、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、出血量が多く母体の血圧が低下してしまいます。

常位胎盤早期剥離で母体の命を奪う1番の原因は、DIC(血液凝固のバランスが崩れて出血が止まらなくなる)に伴う産科危機的出血です。
すぐに対応しなければなりません。

"産科危機的出血"は、そこに至るまでの対応が重要お産に出血はつきもの。それが血圧・脈拍に関わる大出血につながることも少なくありません。迅速な治療介入が求められる「産科危機的出血」ですが、何より大切なのはそこに至る前に初期治療を始めておくこと。複数の治療法を例にして簡潔にまとめました。...

しかし、出血を止める方法について、鴻鳥サクラ先生と四宮先生の意見は分かれます。

・サクラ先生:子宮の圧迫縫合を行い、子宮温存を図る
・四宮先生:子宮全摘する

輸血をしながら手術を進めつつ、子宮を外から圧迫する処置で子宮温存を図ろうというサクラ先生。
母体に危険が及ぶ前に子宮を摘出してDICを治療しようという四宮先生。

基本的に、帝王切開における子宮全摘術は「最終手段」といった立ち位置です。以前、質問箱で次のような質問があった際に、私も下記のように回答しています。

帝王切開の時、出血が5000mL近くありました。
たくさん輸血もしました。
結果的に命は助かりましたが、あまりにも出血が多かったのでそこまで粘らずに子宮をとる選択肢はなかったのか疑問に思いました。子宮をとる判断はどのようになるのでしょうか?

だからこそ、子宮全摘は出来るだけ避けるべきだというのがサクラ先生の言い分なわけですが、実は四宮先生には過去に辛い症例の経験があったのです。
今回と同様、妊娠中もタバコが止められなかった妊婦さんでした。

妊娠32週の時に常位胎盤早期剥離を発症。
術中出血が止まらず、大量出血で死去。産まれた女の子は重度の脳性麻痺で植物状態から回復する見込み無し。

四宮先生の頭の中では、その症例がフラッシュバックしているのでしょう。

四宮先生:5年前のオレの患者のことを忘れたのか?
サクラ先生:お前だってあの時患者の子宮を残そうとしたんだろ。
四宮先生:…だから死んだんだ!もしもあの時子宮をとっていれば、あの患者は助かったかもしれない。
サクラ先生:それは誰にも分からないよ。この患者は5年前の患者じゃないよ。木村さんの子宮はまだ残せる。

コウノドリ3巻 TRACK8より

産婦人科医の多くは、少なからずトラウマ症例というものを持っているのではないでしょうか(私もいくつかあります)。
そして、そんなトラウマ症例が頭によぎるような症例に当たると、どうしても過剰に反応・対応しがちになります。

だからこそ、四宮先生の気持ちは痛いほどわかります。
そしてそんな時に冷静に諭してくれる同僚、サクラ先生の存在のありがたみも。

結局今回の症例は、子宮を温存したまま大量輸血を行い、患者は無事に手術を終えました。
四宮先生はこう言います。
『運が良かったな…。あの患者も、オレ達も。』

それに返答するサクラ先生のこの言葉は、全ての産婦人科医が常々考えていることでしょう。

どんなハイリスクな出産でも、なんの問題もない出産でも、出産が無事に終われば僕は毎回運が良かったって思ってるよ。
お前の言う「運がよかった」も一緒だろ。
出産は病気じゃないから、皆安全だと思い込んでいるけど、ボクらは毎日奇跡のすぐそばにいるから。
(鴻鳥サクラ)

私も本当にそう思います。出産は皆さんが考えている以上に奇跡なのです。

2. 海外出産とマタ旅

次のお話には、ニューヨークから来日しているシンガーの「アリサ」と、妊娠中にハワイに海外旅行にいきたい「根岸さん」が登場します。

根岸さんのように、安定期に旅行に行きたいと希望する妊婦さんはそこそこいらっしゃいます。

『もう安定期に入ったし、赤ちゃんが産まれたら旅行もゆっくり行けなくなるし、カワイイベビー服もほしいし、おしゃれなベビー用品も欲しいし。』

気持ちは分からなくはないのですが、下の記事にも書いたように、産婦人科医で遠方に旅行することを喜んで許可する人はいないでしょう。

産婦人科医がマタ旅に反対する理由妊娠中の旅行。通称マタ旅。産婦人科医の視点からみると、たくさんのリスクがあります。1日のリフレッシュが、一生の後遺症を残す結果になるかもしれません。マタ旅を考えている妊婦さん全てに読んでもらいたい記事です。...

安定期というのは胎盤が完成してつわりも落ち着いてくる時期という意味で、流産や早産などのトラブルが起きない時期ということではありません。
旅行に行かれることで心配なのは飛行機に乗ることではなくて、僕らの手の届かないところに行かれるということなんです。
(鴻鳥サクラ)

妊娠中には安定期なんてありません。

海外旅行となれば保険の問題もありますし、言葉の壁も問題になります。
自分の症状や状態を上手く医師に伝えられないことで、赤ちゃんがデメリットを被る可能性もあるのです。

産科医は旅行に行きたいと言う妊婦さんを無理にひきとめることはできませんが、「楽しんで行ってらっしゃい」と言う産科医はいないということです。
(鴻鳥サクラ)

この言葉の通り。
旅先で何かあったとしても、担当医は何もできないのです。

一方、ニュヨークから来日していた「アリサ」ですが、日本にいる間に妊娠29週5日で破水・陣発してしまいます。

赤ちゃんは無事に産まれ、母体も特に問題なかったのですが、日本という異国の土地で、赤ちゃんは2ヶ月以上NICUでの集中治療を要することになってしまいました。

出産費用も赤ちゃん・母体どちらも全額自己負担になるため、それなりの額(1000万円弱)の請求がいくのではないかと触れられています。

出産には予測できないことが多いんです。
ただ、日本に来ていたことが赤ちゃんにとって不利だったということです。カルテや情報のない中で運ばれてくるのは、僕らにとっても不安なことです。あなたにとっても異国の地で救急車に乗って病院に運ばれてくるということは、精神的に不安だったと思います。
(鴻鳥サクラ)

その旅行、本当に今必要なのでしょうか。
私は怖い思いをたくさんしているので、妊娠中に遠方に旅行に行くのは危ない橋を渡っているようにしか思えません。

マタ旅について書いてある複数のブログには、楽しいことや良かったことがたくさん書いているかもしれません。
ただそれは、結果がよかった人のお話。
結果が悪かった場合、「運が悪かった」だけでは済まされない色々なことが降りかかってくることは、覚悟しておいて下さい。

3. 自然派志向

最後のメインテーマは、絶対に助産院で出産したいという「森さん」のお話。

助産院は病院とは違い、医師が常駐していない分娩施設です。
医師がいないため、”医療行為”は行うことができず、助産師がお産の補助をしたり、妊産婦や新生児に保健の指導をすることを目的としています。

助産院の場合、助産師が妊婦1人に携わる時間も長く、きめ細かいケアができるため、それぞれの妊婦さんの希望に沿った分娩が可能、というメリットがあります。

この妊婦さんも、過去に自分の母親の助産院での出産を見たことをきっかけに、自身も助産院で分娩したいと強く希望しています。

森さん

陣痛促進剤とか使いたくないし、帝王切開は絶対嫌なんですけど。私は絶対、自分の力で産みます。

このようにおっしゃる方は、稀にいらっしゃいます。
こだわりがあるということはある意味いいことですが、「絶対」はお約束出来ません。

陣痛促進剤も帝王切開も、そもそも私たちは必要な時にしか行いません。
必要である時に必要な介入を行わないことは、赤ちゃんにとってもお母さんにとってもデメリットが多いのです。

手術
ここ20年で2倍に増加!帝王切開についてのお話どんな妊婦さんであっても、帝王切開になる可能性があります。突然宣告された時、戸惑わないために、一度どういったものか予習してみませんか?1人の産婦人科医が帝王切開についてお話しします。...

四宮先生は、助産院での分娩についてこのように話しています。

母体と児が無事に出産を終えることが最良のケアでしょ。
今どき産科医のいない助産師だけの助産院で、出産ができること自体おかしいと思いますけどね。

10人に1人は帝王切開が必要な出産なんですよ。
母体死亡率を下げて児の救命率を上げてきたのは、現在の周産期医療ですよ。
(四宮ハルキ)

少しキツい言い方かもしれませんが、私もサクラ先生も同じ意見です。

上手く進まない分娩や、怖い思いをした症例が多ければ多いほど、モニターをつけず、医療介入を行わず、分娩を見守ることの怖さが身にしみるわけです。

ただこの助産院を守る助産師さんも、そんなことはよく分かっていらっしゃるので、何かあったらすぐに医療機関に相談するということを大切にしています。
『絶対に安全だとは言えない分娩のお手伝いをする以上、1度の失敗も許されない』として、1症例1症例、丁寧に対応しているのでした。

さて森さんも結局、分娩停止の適応で帝王切開になってしまいます。
『赤ちゃんをちゃんと産みたかった…』と悲しむ森さんに対して、サクラ先生は次のように言葉がけを行っています。

帝王切開を受ける妊婦さんは、自分の病気やケガを治すためでもなく、赤ちゃんの命を守るためだけに命をかけて自分から手術台の上に上るんです。
僕らはそれをお産ではないと言えません。帝王切開は立派なお産です。

赤ちゃんが無事に産まれて、赤ちゃんに会えた時のお母さんの表情はみんな先ほどの森さんの表情と一緒なんです。
ちゃんと産むというのはそういうことです。

(鴻鳥サクラ)

いい言葉ですね。
私も今度こういう言葉をかけてあげたいな〜としみじみ思ってしまいました。

帝王切開も自然経腟分娩も、立派なお産です。分娩に優劣はありません。
出産はそれだけで奇跡なわけですから、世のお母さんたちはもっと胸を張って良いんですよ。

私は産婦人科医として、いつも本当に尊敬しています。

いかがだったでしょうか。
3巻は産科医の共通の思いが詰まった巻だったような気がします。

コウノドリシリーズ、今後も細々と続けていければ良いな。

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ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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