2021年のゴールデンウィークが始まりました。
せっかくなので、買い溜めしていたコウノドリをまとめ読みしつつ、感想記事を積み上げていこうかと思います。
前回3巻を読んだので、今回は4巻。
全く話題が尽きる気配がないのが、産婦人科領域の面白いところですね。
目次
1. 救急救命
1. 頭部外傷の妊婦
鴻鳥先生たちのもとに、こんな妊婦さんが運び込まれます。
28歳女性:今井メグミさん
妊娠36週の妊婦
交通事故にて頭部外傷
意識なし
硬膜下血腫に対し急いで開頭手術を行うものの、状態は悪く、命の危険が続いています。
そんな状況下で鴻鳥先生は「赤ちゃんが元気なうちに分娩に持ち込めませんか?」と言うわけですが、これに対し救急救命医の加瀬先生は断固反対します。
分娩誘発なんかしたらさ、患者死んじゃうよ。
脳圧が上がって脳ヘルニアになんのが目に見えてる。
赤ちゃんの命は救えても、分娩が母体の致命傷になるのであれば許可できないというのが加瀬先生。”「母体はオレに任せろ」って言えるまでもう少しだけ待ってくれないか”と訴えます。
基本的に産婦人科医は、赤ちゃんかお母さんか、どちらかの命を優先せざるを得ない状況があれば、母体の命を優先して行動します。それで赤ちゃんが犠牲になったとしても、仕方なしとして考える人が多いのではないでしょうか。
だからこそ、加瀬先生の考えや言っていることは良く分かりますし、ここで分娩誘発をするか否かについては、意見が割れるところ。
今回は母体の意識が戻る可能性が低いとの判断してのことなので、鴻鳥先生の気持ちも分からなくはないんですが、いずれにせよかなり厳しい状況ですよね。
そして鴻鳥先生は、患者の夫にこんな選択を迫ります。
奥さんか赤ちゃんどちらか容態が急変してしまった場合、どちらの命を優先させるのか決めていただきたいんです。
この出産は奥さんの命に関わると思います。
そんな酷な…と思う人も多いでしょうが、この究極の決断は、配偶者や親族にしかできません。辛い選択を迫っているのは承知の上で、決めてもらわないといざという時にこちらが動けなくなってしまうのです。
2. 母体の心肺停止
悩み続ける旦那さんでしたが、そんな”いざという時”は、意外とすぐにきてしまいました。
メグミさんが突然、心肺停止状態になってしまったのです。
そんな時に旦那さんの選択を後押ししたのが、過去の動画における、メグミさんのこんな言葉でした。
ねえヒロくん
コウノドリ4巻より
やっぱりあるんだね…
自分の命より大切なものって、やっぱりあるんだよ
この愛おしさは愛だね、愛!!
こういうのを聞くと、”母親”になる人の強さをひしひしと感じます。
産婦人科医をやっていても常々感じるのですが、やはり自分の身体の中でかけがえのない命を支える妊婦さんの強さは計り知れない。
無性の愛ってなんと素晴らしいのだと、思わず感激することも稀ではありません。
結果、旦那さんは、心肺停止となったメグミさんを見つめつつ、
“メグミさんが自分の命以上に大切だと思っていた赤ちゃんを選ぶ”
と宣言したのです。
ここからの医療者のスピードは目を見張るでしょう。
1分1秒が赤ちゃん・お母さんの合併症や予後や命に関わるので、1秒たりとも無駄にはできません。
帝王切開だ!
4分…いや3分以内に赤ん坊を取り上げろ。
時間がない。ここでカイザーする。
超緊急帝王切開術が行われ、16時31分に赤ちゃんが出生し、16時37分にメグミさんが永眠されたのでした。
3. 死戦期帝王切開
今回の帝王切開のように、母体が心肺停止状態の時に行う帝王切開術を「死戦期帝王切開」と言います。
今回の場合はちょっと状況が違いますが、妊婦の救命処置の1つの手段としても記載されている方法です。
アメリカ心臓協会(AHA)の「心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2020」には、下記のように適応を定めています。
- 妊娠子宮が血行状態を悪化させる
- 心肺蘇生を行っても効果がない
- 母体救命の可能性がある
- 胎児の生死は問わない
さらに2007年のアメリカの産科麻酔ガイドラインでは、心停止後4分間の心肺蘇生に反応しない症例には直ちに帝王切開を開始し、そこから1分以内に児を娩出することが推奨されています。
5分以内に帝王切開を施行した場合は赤ちゃんの予後も良いと報告されているからです。
今回の症例で、鴻鳥先生・四宮先生・加瀬先生が、手術室に移動する時間を惜しみ、超特急でお腹を開けて赤ちゃんを出したのは、せめて赤ちゃんを元気な状態で旦那さんに会わせてあげたいという思いからだと思います。
ドラマでは、この旦那さん役を小栗旬さんが演じられていました。かなり印象深い上に、なんとも言えない切なさで胸がいっぱいになったのを思い出します。
2. 夫のDV
1. 医療ソーシャルワーカーの存在
2つ目のセクションは夫のDV。
いわゆるモラハラの旦那さんと、「自分が悪いのがいけない」として周りに助けを求められない妊婦さんのお話しです。
ここで登場するのが、医療ソーシャルワーカー(MSW)の向井さん。
患者さんやその家族の相談に乗り、経済的・心理的・社会的な悩みなどの解決策を一緒に考え調整してくれる、産婦人科の診療では結構な頻度でお世話になる方です。
私たち産婦人科医は、日々の業務の合間に、患者背景を含めてゆっくりお話を聞き出すことが出来ないことも多いので、MSWの存在には日々助けられています。
向井さんは、DVについてこう言います。
DVというのは何も身体的な暴力だけじゃないのよ。
コウノドリ4巻より
あなたが傷つくような言葉を言われる心理的攻撃もそうだし、性的暴力も含まれるの。
避妊をしてほしいのにしてくれないっていうのも、それにあたるのよ。
後は経済的なことも…。
そうなんです。暴力だけがDVじゃないのです。
産婦人科独特なものとしては、「避妊をしてくれない」とか、「寝てる間に勝手に挿入される」とか。かなりえぐいものもあります。
産婦人科になった当初は、各家庭が抱える様々な事情に頭が追いつかないこともしばしばありました。信じられないような歪んだことにも、稀に直面して心が痛むこともありました。
今では徐々に慣れてしまったので、あまり感情が揺さぶられるようなことはなくなりましたが、それでもやはり苦しんでいる方を見ると心が辛いですね。
2. 母子シェルター
産婦人科の診療は少し異質なので、その家庭のプライベートゾーンに踏み込むようなことを聞いたりする場面が出てきます。場合によっては、赤ちゃんを守る目的に、行政的な介入を行う場面もあります。
今回DV被害を受けていた妊婦さんは、母子シェルターに行くことになりました。
母子シェルターは、様々な事情によって母子の保護が必要と判断された症例に対して、「匿う施設」として存在しています。
基本的に、家族にも友人にも場所を教えることは許されず、携帯電話やお財布も職員に預けなければなりません。DV加害者に居場所がわからないよう、他県になることも多く、逆に孤独感が強まる方もいらっしゃいます。
ただ、自らを守るための大切な手段になる場合がある。
私も忙しさを理由にせず、しっかりと患者さんからのヘルプを拾える医師でありたいなと思います。
3. 風疹
最後は風疹感染について。
風疹感染については、ぜひ次の記事も合わせて見てもらいたいと思います。
防げたはずの疾患だからこそ、悔しさの多い疾患でもあります。
このお話しには先天性風疹症候群の「ハルカちゃん」が登場します。
先天性白内障、心室中隔欠損症をもっている少女ですが、これは妊娠中に母体が風疹に感染したことによって生じたものです。
風疹はワクチンで防げる疾患です。
ただ、ワクチンを打ってもなかなか抗体がつかない人もいます。
だからこそ、「自分が感染しても特に問題ないし」と捉えず、社会全体で風疹を撲滅させるよう動く必要があるのです。
風疹ワクチンの歴史については、このお話しの中で、四宮先生と助産師の小松さんがこのように説明してくれています。
風疹なんて昔は子供がかかるもんだと思ってたけどさ。
今じゃあ20〜40代の患者が8割を占めているからね。
昭和54年4月2日から平成7年の4月1日までに生まれた男女は、副作用などでワクチン接種が敬遠されて、接種率がとても低い。
昭和54年の4月1日以前に生まれた男性に限っては、接種の機会すらなかった。そのツケが今の現状なんだよ。
2人が話すように、昨今は大人の風疹患者が多いのが問題になっています。
今の子供はしっかりワクチンを接種できていることが多いですが、上記期間に至ってはワクチン接種の機会がなかなか得られなかったからです。
それに伴う風疹感染の蔓延を危惧して、厚生労働省は2019年から2021年度末までの約3年間、昭和37年4月2日〜昭和54年4月1日生まれの男性を対象に、風疹の抗体が十分にない場合、原則無料でワクチン接種を行うことにしました。
今もまだ対象機関中ですので、ぜひこの期間に出生された男性の方は、ぜひ抗体検査を受けて検査していただきたいと思います。
今回の記事は、ハルカちゃんからの次のメッセージで締めたいと思います。
伊達さん、赤ちゃん生まれるの?
じゃあ、ちゃんと風疹の注射受けてね。赤ちゃんがかわいそうだから。私はね…お母さんのお腹の中で風疹にかかっちゃって、目も見えないし胸もちょっと苦しくなるから、知らない人に「あらかわいそうね〜」なんて言われるけど。
でもね。お父さんもお母さんもとっても優しいし、ピアノだってすごく楽しいから…私はちっともかわいそうなんかじゃないんだけど。
でもたまに私の病気のせいでお父さんとお母さんがケンカしたり、お母さんが私に隠れて泣いてたり、お父さんが笑わなくなったりするから、だから私はずっと笑っていようって決めたの。
だって私が悲しい顔をしていたら、お父さんとお母さんはもっと悲しくなっちゃうでしょ。
でもさ…ずっと元気にして笑っているのも、これが結構疲れちゃうんだな。だから伊達さんの赤ちゃんにそんなこと決めさせたら、かわいそうだよ。
コウノドリ4巻より
いかがだったでしょうか。
コウノドリってなんで毎回、自然に涙が出てきちゃうんでしょうね。
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これからもコツコツ上げていきたいなと思っています。
お楽しみに!
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。