質問箱でHELLP症候群についてのリクエストを頂いたので、まとめてみようと思います。それと合わせて、HELLP症候群と鑑別になり得る臨床的急性妊娠脂肪肝(AFLP)についても記載します。
HELLP症候群は妊娠高血圧症候群(HDP)との関連が非常に高い疾患です。
妊娠高血圧症候群って何?という人は、次の記事を参考にしてみて下さい。
目次
1. HELLP症候群を知ろう
1. “HELLP”の3徴と疫学
- Hemolysis:溶血
- Elevated Liver enzymes:肝酵素上昇
- Low Platelet:血小板減少
HELLP症候群は、「Hemolysis:溶血」「Elevated Liver enzymes:肝酵素上昇」「Low Platelet:血小板減少」の3徴の頭文字をとって命名された疾患です。
HELLP症候群の発症頻度は全分娩の0.2〜0.6%とされており、多くは妊娠末期や産褥期に発症します。
約9割に妊娠高血圧症候群(HDP)の合併を認めますが、特に重症の妊娠高血圧症候群の場合は10〜20%と高率。
妊娠中の血圧コントロールが悪くなった時に血液検査を行うのは、HELLP症候群かどうかを判断するため、というのが1つの理由です。
HELLP症候群の3徴のうち、1〜2つを満たす場合を”partial HELLP症候群”といったりします。
こちらもHELLP症候群に準じて対応します。
2. 臨床症状
食欲低下、吐き気、嘔吐、上腹部痛・上腹部の違和感、全身倦怠感などが出現することが多いです。
ただ、これ!といった特徴的な症状はありません。少しでも怪しいなと思ったらすぐに採血で評価する必要があるのです。
3. 診断は採血データに基づいて行う
臨床現場では、HELLP症候群の診断にあたってSibaiの基準(テネシー分類)1,2)が用いられます。
- 溶血:異常赤血球形態、ビリルビン値≧1.2 mg/dL、LDH値>600 IU/L
- 肝酵素上昇:AST値≧70 IU/L
- 血小板低下:Plt数<10万 /μL
また、早期に発症を予測し、重症化する前に介入する目的で作られたのがミシシッピ分類3)です。AST値や血小板(Plt)数に関しては、その絶対値だけでなく変化率も重要である、という考えのもとで定められました。
Class1
・血小板(Plt)数≦5万
・ASTないしALT≧70
・LDH≧600
・破砕赤血球像
・間接ビリルビンの上昇(≧1.2)
Class2
・5万≦Plt<10万
・ASTないしALT≧70
・LDH≧600
・破砕赤血球像
・間接ビリルビンの上昇(≧1.2)
Class3
・10万≦Plt<15万
・ASTないしALT≧40
・LDH≧600
Class1はClass2・3と比較して有意に高い合併症を生じることが明らかになっており、特に注意を要します。
4. 頻度の高い合併症は?
HELLP症候群を発症した場合、以下の合併症を生じる可能性があります。
- 血液の凝固バランスが崩れるDIC(頻度:5〜56%)
- 子癇発作(4〜9%)
- 常位胎盤早期剥離(9〜20%)
- 肺水腫(3〜10%)
- 肝被膜下血腫(約2%) など
また、脳出血のハイリスク因子とも言われています。
様々な合併症により、最悪の場合、母体死亡の転帰に至ることもあります。
2. 急性妊娠脂肪肝(AFLP)を知ろう
HELLP症候群と似た症状を呈し、鑑別を要するのが急性妊娠脂肪肝(AFLP:Acute fatty liver of pregnancy)。
AFLPはHELLP症候群よりも更にまれな疾患で、15000〜20000妊娠に1例程度です。
HELLP症候群が血液検査で診断する疾患であるのに対し、AFLPは病理組織検査によって診断が行われます。確定診断には肝臓の生検が必要なのです。
しかし肝臓に針を刺すとなると、身体への侵襲度が高く、産科DICによって止血が出来なくなる可能性もあります。
そのため臨床現場では診断基準として下記を用い、臨床的AFLPとして治療を行うことが多いです。
こちらは少しマニアックなので、医療関係者以外は読み飛ばしちゃって下さい。
HELLP症候群に該当しない場合で、
- 嘔吐
- 腹痛
- 多飲・多尿
- 脳症
- 高ビリルビン血症(>0.8 mg/dl)
- 低血糖(<72 mg/dL)
- 尿酸値上昇(>5.7 mg/dL)
- 白血球増多(>11000 mg/μL)
- 肝酵素上昇(ASTかつALT>42 IU/L)
- 高アンモニア血症(>27.5 mg/μL)
- 腎機能障害(Cre>1.7 mg/dL)
- 凝固異常(PT>14秒またはAPTT>34秒)
- 超音波による腹水または高輝度肝臓像
- 肝生検での微小空胞変性(脂肪肝)
この14項目のうち6項目以上を満たした場合に臨床的AFLPと診断する。
3. HELLP症候群とAFLPの”鑑別”は?
HELLP症候群とAFLPはオーバーラップしていることも多く、両者を厳密に分類する確率した定義はありません。
強いて言えば、HELLP症候群は血小板数の減少(Plt<12万)が顕著に起きやすく、AFLPではAT活性値の低下(AT<65%)が顕著に起きやすいと考えられています。
ただ、病態が進行するとどちらの疾患にもみられる変化なので、重症症例では鑑別は非常に困難です。
4. 対応は?産後に注意することは?
HELLP症候群もAFLPも、重症化すると生命の危機があります。
基本的に、唯一の治療法は妊娠の終了です。
したがって、十分な妊娠週数が確保できていれば、速やかに分娩の方針とします。集中治療が必要になることも多いため、適切な母体管理が行える高次医療施設へ搬送することも重要です。
ただ妊娠34週未満であれば、DICや常位胎盤早期剥離などがないことを確認の上、赤ちゃんの肺成熟を促すためのステロイドの注射を行い、48時間以降の分娩を目指すこともあります。
対症療法を行う際は、子癇発作予防目的の「硫酸マグネシウム」、脳出血や肝破裂を予防するための「降圧療法」、抗ショック療法としての「ステロイド投与」を同時併用して管理します。
とはいえ、HELLP症候群は時間単位で増悪する可能性がありますので、定期的に採血を行いながら、介入するタイミングを逃さないことも重要です。
HELLP症候群では出血傾向になっており、約20%でDICをきたすと言われています。更に産後も悪化する可能性があるため、採血やバイタルサインをチェックしながら慎重に管理します。
今日はHELLP症候群とAFLPについてまとめてみました。
妊娠高血圧症候群の患者さんの採血で、肝酵素や血小板の値に着目する理由がご理解頂けたのではないでしょうか。
自分の知識の整理のために、少し細かすぎる内容も入れてしまいました。難しすぎる、などのご意見もいただければ対応しますので、気軽にフィードバックがもらえると嬉しいです。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。