産婦・医療

妊娠〜産後の痙攣は子癇発作と思え

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

産婦人科医の血の気が引く瞬間っていうのはいくつかあるんですが、その1つが今回の子癇発作です。妊娠高血圧症候群と切っては切り離せない疾患なので、よければ下の記事も合わせて読んでみてください。

妊娠高血圧症候群(HDP)はなぜ怖いのか妊娠中に血圧が上がる病気、妊娠高血圧症候群。その定義は?分類は?治療は? わからないことがたくさんあるのではないでしょうか。毎回の妊婦健診で血圧を測定する理由が、この記事を読めば理解できるはず。産婦人科医の筆者が解説します。...

1. 子癇発作とは

子癇発作とは、妊娠中・分娩中・産褥期に起こる痙攣のことです。
定義は妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや他の原因による痙攣が否定されるもの、となっています。頻度は0.04%1)程度です。

発症時期の内訳は、妊娠中17%、分娩中40%、産褥期43%。
つまり、妊娠期間中いつでも起き得ます。死亡率は0.4%と報告されています。

リスク因子は下記の通りですが、最も重要なのが「子癇発作に先行する妊娠高血圧症候群の割合が44%程度」もあること。そのため妊娠高血圧症候群の妊婦さんは、特に子癇発作の発生に注意が必要です。

子癇発作のリスク因子
  • 妊娠高血圧症候群
  • 初産婦
  • 10代妊婦
  • 子癇既往妊婦
  • HELLP症候群
  • 多胎
  • 妊娠蛋白尿 など

子癇発作がどのようにして発症しているかの詳細はまだわかっていませんが、高血圧による一過性の脳浮腫によるものと考えられています。

2. 臨床症状と典型的な経過

典型的には、子癇発作が発症する数日〜数週間前から、妊娠高血圧腎症(PE)が存在していることが多いです。前駆症状として、頭痛、目がチカチカする、上腹部が痛い、などの症状を認める場合があります(60〜75%)。

子癇発作発症時の典型的な経過は以下の通りです。

子癇発作のながれ
  1. 誘導期
    ・突然失神し、顔面蒼白になる
    ・顔面から痙攣発作が始まる
    ・目は開いて眼球は上を向く
  2. 強直性けいれん期
    ・ピーンと身体をそらせるような全身性の痙攣
    ・呼吸は停止する
    ・15〜20秒続く
  3. 間代性けいれん期
    ・ガクガクとふるえるような全身性の痙攣
    ・口を強く食いしばる
    ・1〜2分続く
  4. 昏睡期
    ・痙攣が治まり、呼吸も回復
    ・昏睡状態になる
  5. 回復期
    ・覚醒
    ・発作の時の記憶はない
    ・昏睡状態のまま発作が重積した場合は、意識が回復しないこともある

痙攣が起きている時、呼吸は止まっています。すぐに酸素を投与し、バックマスク換気を行わなくてはいけません。

お母さん側の呼吸が止まり酸素の値が下がっているということは、赤ちゃんも同様に低酸素になり、苦しい状態だということです。そのためモニターで胎児徐脈を認める可能性が高く、早期対応が求められます。

3. 初期対応は?

妊婦さんが痙攣する理由にはいくつかあります。しかし、実際に痙攣が起きている最中は1分1秒がお母さん・赤ちゃんの命に関わるため、ゆっくり鑑別診断している暇はありません。

そのため私たち産婦人科医は、妊産婦さんの痙攣を見た場合、とりあえず子癇発作とみなして治療を開始します。具体的な初期対応は下記の通りです。

  1. スタッフの応援を呼ぶ
  2. バイタルサイン(血圧・脈拍など)と瞳孔を確認する
  3. 胎児心拍数陣痛図(モニター)を確認する
  4. 気道確保、口腔内吸引
  5. 酸素投与

子癇発作だけでなく、緊急時の医療行為全てに当てはまることですが、1人では何もできません。そのため、応援が必須です。
最悪なことに、これが院外で発生してしまった場合も同じです。必ず少しでも多くの人を集め、すぐに救急車を呼んでください。

スタッフが複数集まったら、役割分担して対応します。

瞳孔見ます。バイタルも測定します!

血圧・脈拍・酸素の値をすぐに測定し、今の全身状態を把握します。
さらに、瞳孔を確認して、瞬時に「開眼しているか否か」を評価します。子癇発作やてんかん発作の場合は開眼して眼球が上転していることが多いですが、脳出血や脳梗塞の場合は閉眼していることが多いからです。

モニターで胎児徐脈あります!

子癇発作時は胎児機能不全に陥りやすいです。原因として最も考えられるのは、赤ちゃんへの酸素供給の低下です。痙攣持続時間は赤ちゃんの心拍も急速に低下しているものとして対応します。

気道確保して酸素投与します。吸引も行います。

呼吸が止まっている場合は、医療スタッフが気道を確保して酸素投与を行わなければなりません。舌を噛むことを防ぐためのバイトブロックは、舌根沈下のリスクがあるため不要と考えられています。

4. 治療薬は?

痙攣時の初期対応として用いる薬は大きく2種類です。

  1. ジアゼパム(セルシン®︎)
  2. 硫酸マグネシウム(マグセント®︎)

ジアゼパムは「痙攣を止める」ための薬です。即効性があり、痙攣が止まるまで複数回の使用が可能です。しかし、この薬剤による呼吸抑制作用があるため、換気や酸素投与を併用しながらの使用になります。

硫酸マグネシウムは、「痙攣の再発予防」目的に使用する薬です。痙攣が止まった後に、もう一度再発しないよう持続投与します。子癇発作の治療薬として必須のものになります。

いずれにせよ、痙攣時間をいかに短くするかが重要です。
血圧が高い場合はニカルジピンなどの降圧薬も併用して加療します。

5. 鑑別となる疾患

治療と並行して、今回の痙攣がどんな原因によるものなのか、鑑別を行います。妊娠高血圧症候群が背景にある場合は特に子癇発作の原因が高いと考えられますが、脳梗塞や脳出血などの可能性もあります。
疑わしい疾患に応じた適切な検査が必須です。

<鑑別診断と必要な問診・検査>

  • てんかん:病歴を確認
  • 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血:頭部CT
  • 羊水塞栓症:SpO2値(酸素飽和度)、呼吸苦の有無
  • HELLP症候群:採血
  • 低血糖発作:血糖測定 など

6. まだお腹の中に赤ちゃんが居る時は?

全身状態が落ち着いていて、赤ちゃんのモニターも異常がなければ、頭部CTを撮像して頭の中を評価します。
頭部CTで出血性病変がなく、意識レベルも改善していて、数時間での経腟分娩が可能な状態であれば、一応経腟分娩も選択可能です。しかし、血圧コントロールが不良になると痙攣が再発するリスクもあるため、無痛分娩を行うことが推奨されます。

一方、全身状態が落ち着いていない場合は、頭部CTを撮像せずにすぐに超緊急帝王切開術を行うこともあります。子癇発作の根本治療は妊娠の終了(=分娩)になるので、出来るだけ早く赤ちゃんを娩出します。帝王切開によって、血圧コントロールもつきやすくなります。

手術
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7. 分娩後の管理

子癇発作など、母体の中枢神経が障害されるようなことが起きた場合、分娩後も綿密な血圧コントロールが重要です。
具体的には、140/90mmHg以上になったら降圧薬を開始し、120〜140/80〜90mmHgを降圧目標とします。

また、子癇の典型例では頭部MRIで後頭葉に一過性の脳浮腫が認められます。これをposterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)と呼び、視覚障害を含めた症状を呈しますが、基本的には可逆性で1週間以内に自然に軽快することが多いです。1週間程度で再度MRIを撮像して評価します。

8. 症例提示

最後に、子癇発作で私が経験した症例を1例ご紹介します。個人情報保護のため、一部にフェイクを入れていますのでご了承ください。
子癇発作のヤバさがわかるのではないでしょうか。

症例:42歳、初産婦、体外受精で妊娠
・40週で妊娠高血圧腎症(PE)発症
・オキシトシンで分娩誘発の方針

40週5日 オキシトシンで誘発して3日目。
所見は緩徐に進行し、子宮口が全部開いた。ただ、赤ちゃんの向きが悪くて(回旋異常)なかなか分娩にならない。
陣痛も弱く、お母さんの疲労も強いため、吸引分娩をすることにした。

吸引分娩を行ったが、牽引しても分娩にできない。吸引分娩は困難と判断して、帝王切開の方針に切り替えた。
この時の血圧は150/100mmHg程度。重症域には至っていなかった。

同意書に沿って説明していた時、患者より「なんとなくふわっとした目眩がする。お腹も少し痛いかも。」と発言あり。
その後、突然全身性の痙攣を発症。同時に赤ちゃんの心音も低下した。

すぐにスタッフを呼ぶ。患者は意識がない。開眼していて、眼球は上を向いている。口も固く閉じられ開かないので、エアウェイを挿入し、気道を確保して酸素を投与。

救急カートからジアゼパムを探し、点滴ルートから投与。同時に硫酸マグネシウムを用意し、持続投与を開始した。
幸い薬剤に反応し、痙攣は6分で止まったが、赤ちゃんの心音は不安定。そのまま超緊急帝王切開術を宣言し、全身麻酔下で手術を行った。

手術開始1分で赤ちゃんを娩出。赤ちゃんのアプガースコアは7/8点で、元気に生まれてくれた。一方、お母さんの出血量はかなり多くなり、輸血を要した。術後はICUという集中治療室に入室し、慎重に血圧コントロールを行った。

今回の症例は医師の目の前での痙攣発症であり、すぐにスタッフが集まる時間でもあったため、お母さんも赤ちゃんも無事に助かり、特に後遺症なく退院できました。
しかし、痙攣に気づかなかったら?早朝深夜の発症でスタッフがいなかったら?院外の発症だったら?と考えると、恐怖しかありません。
お産は本当に何があるか分からないなと、改めて思う日々です。

今回は子癇発作についてまとめてみました。妊娠高血圧症候群が先行することが多い疾患です。私たち産婦人科医が、なぜそんなに妊娠高血圧症候群を怖がるか、少しご理解頂けたのではないでしょうか?

今後も少しずつ、産科の怖い疾患についてブログの記事にしていこうと思います。皆さんに少しでも知ってもらえれば、前駆症状や前兆で気付けることもあるかなと思うからです。

リクエストもいつでもお待ちしていますので、何かあればコメントでもTwitterでも質問箱でもどうぞ。お待ちしています。

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  1. Ohno Y, et al. Management of eclampsia and stroke during pregnancy. Neurol Med Chir(Tokyo). 2013; 53: 513-519
  2. 日本母体救命システム普及協議会 京都産婦人科救急診療研究会 編:産婦人科必修 母体急変時の初期対応 第2版 ー J-CIMELS 公認講習会ベーシックコーステキスト
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ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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◆ 国公立医学部→産婦人科医

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