今回は異所性妊娠について扱います。
自然妊娠であっても、不妊治療であっても、どんな人にも異所性妊娠のリスクがあります。
頻度は全妊娠の1-2%程度ですが、体外受精などの生殖補助医療下の妊娠では4%程度と、自然妊娠の2〜3倍に上昇します。
異所性妊娠は、場合によっては命にも関わる緊急疾患です。死亡率は1/3000で、妊産婦死亡の約6%を占めます。
目次
1. 異所性妊娠の診断
1. 異所性妊娠とは
異所性妊娠は、本来なら子宮内膜に着床する受精卵が、他の場所に迷い込んでしまうことによって起きる疾患です。
上のイラストを見てもらうとわかる通り、95%以上が卵管妊娠です。卵管の場所によって、卵管膨大部・卵管峡部・卵管采部・間質部に分けられます。その他、卵管妊娠以外に卵巣妊娠(1~3%程度)、子宮頚管妊娠(かなり稀)、腹膜妊娠(かなり稀)などがあります。
異所性妊娠はクラミジア感染症との関連性が強いと報告されています。
2. 診断方法
一般的に、妊娠判定は「尿検査での妊娠反応」と「経腟エコーによる胎嚢(=赤ちゃんのお部屋)の検出」によって行われます。
妊娠4週後半から出現する胎嚢は、5週にはほぼ100%検出可能です。
つまり、最終月経あるいは胚移植日から妊娠5-6週以降であることが確認されているにも関わらず、子宮内に胎嚢が見えないと「あれ?おかしいぞ?」となるわけです。
①問診
異所性妊娠が疑われた場合、詳細な問診が必須です。最終月経あるいは胚移植日が本当に合っているか、月経周期は不順じゃないか、不正出血や下腹部痛がないか、などを聞き取ります。
基礎体温を測定している患者の場合、異所性妊娠の補助診断として参考になるため、それも合わせて確認します。
②hCG採血
基本的に、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin; hCG)が陽性の場合、妊娠が成立していると考えます。いわゆる妊娠検査薬も、尿中のhCGをみている検査なんです。
ただ、尿を用いた妊娠検査薬は陽性か陰性かしか分かりません。具体的にどれくらいの値なのかを調べるためには、採血が必要です。
採血でhCGが1000IU/L未満の場合は、子宮内妊娠(妊娠週数がずれている)や流産の可能性があるため、数日後に再検します。
1000IU/L以上なのにも関わらず、子宮内に胎嚢が確認できない場合は、異所性妊娠を強く疑います。
③経腟エコー
子宮の中に胎嚢が見えないかを入念に診察します。それでも確認できない場合は、引き続き子宮外の観察を行います。
まずは卵管・卵巣。前述の通り、卵管と卵巣で異所性妊娠の98%はカバーできるからです。周囲に腫瘤状に見えるものがないかを重点的にみていき、仮に腫瘤の中に胎児心拍が認められれば即座に診断できます。
また、お腹の中に溜まっている血液がないか、エコーで押されたところに痛みを伴っていたりしないかも評価します。
非常に稀ですが、内外同時妊娠(子宮内妊娠+子宮外妊娠)というものもあります。内外同時妊娠は、自然妊娠では15000〜30000妊娠に1回であるのに対し、体外受精では100〜6000妊娠に1回と非常に頻度が高いので、注意が必要です。
2. なんで緊急疾患なの?
異所性妊娠で最も怖いのが、異所性妊娠部の破裂です。
例えば上のイラストのように、左卵管に妊娠した卵があったとします。妊娠初期の胎嚢は1日に1mm程度大きくなっていきます。最初の間は胎嚢が小さいので無症状で経過しますが、徐々に大きくなり、卵管がそれに耐えきれずに破裂してしまうと、大出血をきたします。
お腹の中に出血することにより、血圧が下がり、高度の貧血を呈します。場合によっては急激な腹痛や、意識消失をきたす可能性もあります。緊急手術をして出来るだけ早く出血部位を止めなければ、命に関わってしまうのです。
3. 異所性妊娠の手術
まず、異所性妊娠と診断され、手術が必要と決まった場合についてお話しします。異所性妊娠の術式は、どこの部位の妊娠かによって異なるので、手術の説明もこんな感じになります。
異所性妊娠だね…。
でもどこの妊娠かわからないから、お腹を開けてみないと術式は決められないなあ。
大方卵管妊娠だと思うから、片側の卵管をとることになるけど、仮に卵巣妊娠だったら卵巣の一部をとるかもしれない。
もしかしたら病変が分からなくて、そのまま何もせずにお腹だけ閉じて終わるかもしれない。
患者視点とすれば、「なんだそれ、あやふや!」となりますが、医療者側は大本気です。
異所性妊娠の手術は、腹腔内を観察して病変が見えて初めて、診断が確定します。卵管も卵巣も腹膜も、解剖学的な位置が近接しているので、なかなかエコーだけでの評価が難しいのです。
1. 卵管妊娠の場合
異所性妊娠のほとんどは卵管妊娠です。
卵管妊娠が疑われた場合、腹腔鏡あるいは開腹下に片側卵管摘出術を行うことが多いです。
卵管を温存する術式もあるにはありますが、条件も厳しいですし、異所性妊娠再発のリスクもあるので、あまりお勧めしていません。
①腹腔鏡下(開腹)卵管摘出術
最も頻度の高い術式です。
腹腔鏡で行うか、開腹で行うかは病院施設や担当医、患者の状況によるところが大きいですが、ほとんどの症例で腹腔鏡下手術が可能と考えられます。
お腹に3〜4箇所の小さな孔を開け、細長い鉗子を用いて行う手術が腹腔鏡下手術です。カメラを見ながら病変を観察し、術前診断通り卵管妊娠が疑われるようなら、片側の卵管を切除します。病変を摘出した後、実際に卵管を開き、妊娠組織があるかどうかも肉眼的に確かめています。
手術は大体30分〜1時間程度。手術自体でそれほど危険な合併症は生じにくいのですが、術前に破裂していたり、腹腔内出血が多かったりして視野が悪いと非常に迅速な処置が求められます。
②卵管温存術
卵管を切開して妊娠成分のみを取り出し、卵管を温存する術式です。
卵管摘出術と異なり、温存した卵管に妊娠成分が残存してしまう可能性があるので、術後もhCGの陰性化を確認する必要があります。
また、卵管を温存するためには以下の条件を満たしていなければなりません。
<卵管温存手術が適応される条件>
- 挙児希望があること
- エコーで観察できる腫瘤が5cm未満であること
- hCG値が1万IU/L未満
- 初回の卵管妊娠
- 胎芽心拍陰性
- 卵管未破裂
(日本内視鏡外科学会:卵管妊娠に対する腹腔鏡下手術ガイドライン2007より)
対側卵管の状態が良好であれば、卵管摘出術と卵管温存術で将来の妊孕率は同等と言われています。さらに卵管温存術の場合、同じ部位にまた異所性妊娠を起こしてしまう可能性が高くなってしまうんですね。
手術は患者さんの負担になるため、出来るだけ回数は減らしたいものです。そのため、私は卵管摘出術を第一選択としてお勧めしています。
2. 卵巣妊娠の場合
お腹の中を観察して卵巣妊娠であることがわかったら、卵巣の一部と合わせて異所性妊娠の病変を摘出します。
卵巣を一部摘出してしまっても、身体の中のホルモンバランスは基本的に保たれ、大きな問題は生じません。両側卵管も温存できます。
3. 子宮内搔爬術を追加することも
病変が小さい時など、卵管や卵巣を摘出した後も診断に窮することがあります。そのため、本当に異所性妊娠だったのか、初期流産だったのかの判断が難しいと考える場合、子宮内容を掻き出す搔爬術を併せて施行することが多いです。
術前にhCG値や経腟エコーで正常妊娠でないことを繰り返し確認しておきます。また術後は子宮内容物も病理検査に提出し、異所性妊娠に特徴的な所見があるかを確認します。
4. 術後管理
必ずhCGの値を評価します。hCGの半減期は12〜36時間と言われているので、1〜2日でhCGの値が半減していれば経過良好です。
術後経過が問題なければ、大体手術の3〜5日後に退院となります。
4. 待機療法
今までの記載でなんとなくわかったかもしれませんが、異所性妊娠の診断は、実はスパッと決まらないことの方が多いのです。hCG値が高かったり、胎児心拍が見えるような場合はすぐに緊急手術と決まってむしろスッキリ終わるのですが、そういかないことのほうが多かったりします。
例えば、異所性妊娠はしているけど、すでに流産しかかっているような状態。赤ちゃんの成長が止まっているので、破裂のリスクは少なく、状態が良ければ手術を回避できます。
不要な手術は患者さんのためにも出来るだけ避けたい。そんな時は待機を選択し、頻回な外来フォローで経過観察する症例もあります。
<待機療法の適応と考えられる条件>
- 全身状態が良好
- 病変が破裂していない
- hCG値が1000IU/L未満
- エコーで観察できる腫瘤が3〜4cm未満
- 胎芽は認めない
5. 薬物療法
全身状態が安定している場合、薬物療法で治療する方法もあります。基本は手術が優先されますが、例えば手術がしにくい部位(卵管間質部妊娠・子宮頚管妊娠など)だったり、手術をしたけれどもhCGの値が理想通り下がってこなかったりする際は、薬物療法が選択されます。
<薬物療法の適応と考えられる条件>
- 全身状態が良好
- 病変が破裂していない
- hCG値が3000〜5000IU/L未満(特にhCG<3000IU/Lで成績が良い)
- エコーで観察できる腫瘤が3〜4cm未満
- 胎芽はあっても良い
異所性妊娠の薬物療法では、メトトレキサート(MTX)という薬剤を用いることがほとんどです。
1. メトトレキサート(MTX)大量投与方法
MTXを1回筋肉注射し、治療する方法です。
投与後、day4、day7にhCGを測定。day4とday7を比較して15%以上hCGが低下していたら、1週間毎にhCGを測定して外来フォロー。上昇もしくは15%未満の低下であればMTXを再投与して治療を継続します。
2. MTX反復投与方法
MTXをday1,3,5,7で筋肉注射します。葉酸によるレスキューをday2,4,6,8に行います。48時間ごとにhCG値を測定し、前者の15%以上低下していればその時点で投与終了。また、4回まで投与したら一旦終了です。
単回投与法に比較して口内炎などの副作用が多いことが問題となります。
3. 局所投与法
胎嚢に直接MTXを投与する方法です。場合によっては50%グルコース糖液を使用することもあります。
エコーガイド下、腹腔鏡下、開腹下のいずれかによって行います。
hCG高値あるいは胎児心拍がある症例などで行われることが多いです。
待機療法や薬物療法は、手術療法と比べてhCG値が非妊時レベルに低下するまでには時間がかかります。頻回な外来フォローが必要となり、週に2〜3回以上来てもらうこともあります。
また、外来で経過を見ている間に腹腔内出血による緊急手術の可能性があることも、患者さんに十分説明しています。
異所性妊娠について、一通り説明しました。なんとなく分かりましたでしょうか?
最後に1つお話ししておきたいのが、「片側の卵管を摘出してしまったとしても、妊娠率が50%になるわけではない」ということ。
100%とはいきませんが、対側の卵管が1.5倍以上の働きを見せ、右卵巣からの排卵も左卵巣からの排卵も1つの卵管でキャッチすると言われています。人間の身体の神秘ですね。
異所性妊娠は身体への侵襲も高いですし、せっかくの妊娠を中断しないといけないため、精神的な負担も大きいです。
しかし月経が再開すれば、再度妊活は可能。「受精卵が道を間違えてしまっただけ。今回の赤ちゃんは、自分が妊娠できるということを教えにきてくれた。」と考え、次につなげていければと思います。我々産婦人科医は、そのサポートを全力で行います。
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こんにちは、ゆきです。
産婦人科医として働いています。