子宮腺筋症という疾患を知っていますか?
子宮筋腫や内膜症などと共に月経困難症や不妊症などの原因になり得る良性疾患ですが、その名前を知らない方も多いかもしれません。
近年、エコーやMRI技術が発展したことにより、30〜40代の女性が子宮腺筋症と診断される機会が増えており、特に不妊症などで悩んでいる方の場合など、対応に悩むケースも多くあります。
今日はそんな子宮腺筋症について、皆様に少しでも知ってもらえるようまとめていきます。
子宮筋腫・卵巣チョコレート嚢胞については、次の記事もぜひ参考にしてみてくださいね。
目次
1. 子宮腺筋症って何?
子宮内膜症性嚢胞(卵巣チョコレート嚢胞)について解説した時に、「月経時に剥がれる子宮内膜様の組織が卵巣内に発生する疾患」だとお話ししました。
生理のたびに卵巣の中でも出血が起きてしまうため、卵巣内に血液が貯留し、チョコレート嚢胞として形成されるのです。
一方、子宮腺筋症がどういった疾患かというと、「子宮内膜類似の組織が子宮の筋肉の中に発生する疾患」です。
子宮筋層内に発生した子宮内膜様組織が、生理のたびに増殖を繰り返し、様々な症状をきたします。
子宮腺筋症は、子宮内膜類似の組織が”子宮筋層内”に発生する疾患。
日本における子宮腺筋症の罹患率は、平均20〜30%と意外と多い。
しかも、子宮腺筋症患者の
- 6〜20%に子宮内膜症が合併する
- 64%に子宮筋腫を合併する
ことが分かっています。
したがって正確に診断をつけ、両者に対する適切な治療介入を行うことが求められるわけです。
子宮腺筋症は子宮筋腫や子宮内膜症を合併しやすい。
2. 子宮腺筋症のリスク因子は?
子宮腺筋症は、病巣が子宮全体に存在する場合も、一部だけ局所的に存在する場合もあり、その発生部位の違いから病因ついての様々な説が立てられておりますが、いまだにはっきりしたことは分かっていません。
ただ、子宮内操作に伴うものだったり、分娩由来だったり、内膜症由来だったり、色々な因子が関与して発生している可能性が指摘されています。
具体的なリスク因子としては、例えば次のようなものが挙げられます。
- 経産婦
- 流産手術や人工妊娠中絶術
- 不妊治療を含む子宮内操作
- 子宮内膜症 など
3. よくある症状
1. 月経困難症と過多月経
子宮腺筋症の自覚症状は様々ですが、最も多いのは月経にまつわる症状(月経痛・過多月経)です。
月経関連の痛みや出血・貧血に悩まされ、進行すれば慢性骨盤痛、性交痛、排便痛などの症状を呈することもあります。
分娩などを契機に”月経痛が酷くなった”と感じる人に対しては、しっかりと子宮腺筋症の有無を評価することが大切です。
2. 不妊症
子宮腺筋症は不妊の原因にもなるため、不妊のスクリーニング検査を行った過程で見つかるケースもあります。
子宮腺筋症の人が妊娠・出産が出来ないわけでは決してありませんが、子宮腺筋症の存在によって、着床率や妊娠率が低下することは既に示されています。
3. 周産期の合併症
また、めでたく妊娠が成立しても、妊娠に関わる様々な異常を合併しやすいことも分かっています。
- 流産・早産
- 妊娠高血圧症候群
- 弛緩出血
これらはいずれも頻度が増加します。
だからこそ、子宮腺筋症合併妊娠はハイリスク妊婦として扱います。
子宮腺筋症は様々な症状を呈するが、代表的なのは次の3つ。
①月経痛・過多月経
②不妊症
③周産期合併症の増加
4. 診断はどうする?
1. 内診・経腟エコー
まずは産婦人科の診療の基本、内診+超音波検査です。
内診では子宮全体が硬く腫大して触知され、場合によっては軽度の圧痛を伴うこともあります。
経腟エコーでは
・子宮筋層が非対称的に腫大
・境界が不明瞭な不均一なエコー像
・腫瘤の中に小さな点状の低エコー像(小嚢胞)
などを認めます。
子宮筋腫や内膜症病変が併存していないかも確かめます。
2. 骨盤部MRI
画像評価としては、骨盤部MRI検査もよく行われます。
MRIではT2強調像において、筋層内の境界不明瞭な低信号域として認められ、内部に数mm大の点状の高信号が多発している像が典型的です。
子宮筋腫が”境界明瞭”のクリッとした低信号腫瘤なのに対し、子宮腺筋症は”境界が不明瞭“であるのがポイント。
まれに子宮内膜症性嚢胞に似た、嚢胞性病変を筋層内に形成することもあります(嚢胞性腺筋症)。
3. CA125
子宮内膜症の時も出てきた腫瘍マーカーですが、CA125は子宮腺筋症でも上昇することが知られています。
感度や特異度が高いわけではありませんが、病巣の活動度や治療効果判定の1つの指標になるため、適宜評価していきます。
5. 治療は症状に応じて選択を
子宮腺筋症の治療は、症状に応じて行うことが勧められます。
また、挙児希望の有無によっても大きく治療方針が変わり得るため、はじめに患者さんに尋ねておくことも重要です。
基本的には内膜症と同様の対症療法やホルモン療法を行うことが多いです。
1. 挙児希望がない場合
まずは薬物療法:対症療法 ± ホルモン療法
症状が軽い場合は、月経痛に対する鎮痛薬(ロキソニン®︎等)や、過多月経に対する止血剤(トランサミン®︎等)・鉄剤などを用います。
それらで対応が困難な場合であれば、下記のようなホルモン療法が選択肢となります。
- GnRHアゴニスト
- 黄体ホルモン放出型子宮内システム(LNG-IUS;ミレーナ®︎)
- ジエノゲスト
- 低用量ピル(LEP)
- ダナゾール など
患者さんの希望や症状・年齢や患者背景に合わせて選択します。
根治療法(手術)も検討
一方、症状が強い場合や、薬物療法でコントロール困難な症例に対しては、手術療法が選択肢になります。
基本的には子宮と両側卵管を全て摘出する子宮全摘術が選択されることが多いです。
術式としては、開腹手術・腟式手術・腹腔鏡手術などがありますが、病変の大きさや癒着の有無などによって症例毎に選択されます。
2. 挙児希望がある場合
基本は薬物療法→必要に応じて不妊治療
挙児希望がある場合は、基本的には上記の薬物療法を行います。
しかし、妊娠を希望された場合にはこれらの治療は中断しなければなりません。
また、子宮腺筋症の患者は不妊症を合併していることも多いため、積極的な不妊治療を必要とするケースも稀ではありません。
不妊治療を行っても妊娠しない場合には
体外受精を行ってもなかなか妊娠せず、着床障害が疑われる場合には、胚移植の前にGnRHアゴニストというホルモン製剤を用いて病変をいくらか縮小させた後に胚移植を行う方法も試みられています。
また、薬物療法に抵抗性を示す症例に対しては、子宮腺筋症の病変だけを摘出する”子宮腺筋症病巣除去術“も考慮されます。
高度医療であるため、高次医療施設での管理が推奨されます。
いかがだったでしょうか。
子宮腺筋症ってなんだ?という方が、少しでもこの疾患についての理解を深めてもらえれば嬉しいです。
診察しないと分からないことも多いため、月経痛に悩んでいる方は、ぜひ気軽に産婦人科を受診下さいね。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。