今まで、悪性腫瘍シリーズとして子宮頸癌・子宮体癌の記事を書いてきました。
この次に有名な婦人科の悪性腫瘍といえば、卵巣癌だと思います。
そんなわけで、私も卵巣腫瘍についての記事を書こう書こうと思ってはいたわけですが、なかなか手につかなかったんですよね。
その理由はズバリ「卵巣腫瘍の種類が多すぎて、簡潔に説明するのが難しい」ということ。卵巣腫瘍って、それだけ種類が豊富なのです。
ただ、いつまでも避けているわけにはいかないので、複数の記事にわけながら少しずつ解説を進めていこうと思います。
今回は卵巣腫瘍の総論的な記事になります。
目次
1. 発生由来に応じて3つに分けられる
卵巣癌は年間9000人程度が罹患、4500人程度が死亡する、死亡率が非常に高い疾患の1つです。
その理由は、初期の段階では自覚症状がないため、気づかないうちに増悪してしまい、発見された時にはすでにかなり進行した状態になっている可能性が高いから。そのため、”サイレントキラー”な腫瘍とも呼ばれます。
卵巣腫瘍は卵巣のどの部位に由来するかによって、次の3つに分けられます。
- 上皮性腫瘍(卵巣の表面を覆う上皮細胞由来)
- 性索間質性腫瘍(卵胞または黄体由来)
- 胚細胞性腫瘍(卵子由来)
頻度は上皮性細胞が60%、性索間質性腫瘍が10%、胚細胞腫瘍が30%程度。色々な由来の細胞があるので、単に”卵巣癌”と言っても、その性質や治療方法・治療効果には違いが出てきます。
この3つに加えて、他臓器の悪性腫瘍からの転移(転移性腫瘍)も認められます。
2. 臨床的な分類はさらに沢山
臨床的取扱い規約では、卵巣腫瘍の各組織型は次の7項目に大別されるとしています。
- 上皮性腫瘍
- 間葉系腫瘍
- 混合型上皮性間質腫瘍
- 性索間質性腫瘍
- 胚細胞腫瘍
- 胚細胞・性索間質性腫瘍
- その他
前述した3つの大別だけではなく、2つのグループが混ざり合っていたり、その3つには当てはまらないものだったりと、更に細分化されているのが分かりますね。
そしてこの7つの項目に対し、更に「良性」「境界悪性」「悪性」の3つの悪性度があるので、単純に言えば、計21通りの分類があることになります。
ざっとまとめると下記の通り。卵巣腫瘍の多様性がわかるかと思います。
多すぎてよく分からない!という人が大半でしょう(産婦人科医でもこれを完璧に暗記している人は少ないのではと思っています)。
しかし、どの分類に位置している腫瘍かを把握しておく事は、臨床的には非常に大切です。
今回は悪性腫瘍に焦点を当ててみていきましょう。
3. 上皮性腫瘍
<代表疾患>
・漿液性癌(低異型/高異型度)
・粘液性癌
・類内膜癌
・明細胞癌 など
最も頻度の高い卵巣腫瘍です。
- 漿液性腫瘍は卵管上皮に類似
- 粘液性腫瘍は胃腸管上皮に類似
- 類内膜腫瘍は増殖期の子宮内膜腺上皮に類似
- 明細胞腫瘍は妊娠時の子宮内膜腺上皮に類似
上記のように、様々な上皮に類似した細胞が増殖し、腫瘍を形成します。
卵巣悪性腫瘍の中で最も発生頻度が高いのは、「高異型度漿液性癌(High grade serous carcinoma;HGSC)」になります。
いずれも40〜60歳代の女性に好発しますが、それぞれ次のような特徴があります。
- 漿液性癌は腹腔内播種や腹水を伴いやすく、Ⅲ期以降で発見されることが多い。
手術療法と術後化学療法が標準的な治療になる。 - 粘液性癌はゆっくり進行するためⅠ期で見つかることも多いが、抗がん剤が効きにくい。
- 明細胞癌と類内膜癌は卵巣子宮内膜症を高率に合併する。
- 明細胞癌は抗がん剤が効きにくいが、類内膜腺癌の抗がん剤への反応は良い。
卵巣では毎月のように排卵が起こるため、それによって卵巣上皮が損傷・修復を繰り返し、様々な組織を模倣することで、悪性化に繋がります。
さらに、明細胞癌や類内膜癌は卵巣子宮内膜症と関連することも分かっています。
すなわち、
・排卵回数を減少させる
・子宮内膜症の予防や進行抑制ができる
といった効果がある低用量ピルは卵巣癌のリスクを低下させることが分かっているんですよね。
必要な人に必要な治療介入を行うことが、将来の悪性腫瘍の発症予防につながると考えられます。
4. 性索間質性腫瘍
<代表疾患>
・成人型顆粒膜細胞腫
・セルトリ・ライディッヒ細胞腫 など
性索間質性腫瘍とは、性索細胞もしくは間質細胞に類似する腫瘍のことです。それぞれ単独成分のみで腫瘍を形成することも、混合して存在することもあります。
ホルモン産生能を持つ場合があり、その場合にはホルモン過剰症状が診断の有力な手がかりになることがあります。
- 顆粒膜細胞腫は45〜55歳の閉経前後の女性に多い。エストロゲン(女性ホルモン)を産生する。
- セルトリ・ライディッヒ細胞腫は20〜30歳代の女性に好発する。アンドロゲン(男性ホルモン)を産生する。
- 5〜10年以上経過した後に晩期再発する症例も少なくないため、長期経過観察が必要である。
ホルモン産生腫瘍の場合、それに伴う特徴的な症状の出現により、早期に病変がわかることも多く、多くはⅠ期で発見されます。
5. 胚細胞腫瘍
<代表疾患>
・未分化胚細胞腫(ディスジャーミノーマ)
・卵黄嚢腫瘍
・絨毛癌
・未熟奇形腫 など
胚細胞腫瘍とは、生殖細胞が胎芽に至るまでの各段階に由来する腫瘍が含まれています。
原始生殖細胞に類似した腫瘍細胞からなるのが”未分化胚細胞腫”、胎児外成分である卵黄嚢や絨毛を模倣するのが”卵嚢嚢腫瘍”や”絨毛癌”、胎児様の未熟組織を含むのが”未熟奇形腫”です。
悪性胚細胞腫瘍の特徴は、若年者に好発すること。
多くは片側性で、化学療法の有効性が高いため、妊孕性温存手術(卵巣腫瘍がある側の卵巣だけ摘出する)が標準術式として行われます。
- ディスジャーミノーマはLDHが異常高値を示す。10%は両側性に発生する。化学療法や放射線がよく効く。
- 卵黄嚢腫瘍はAFPが上昇する。化学療法はよく効くが、悪性度が高い腫瘍。
- 絨毛癌はhCGが上昇する。多剤併用化学療法が基本治療となる。
上記のように特徴的な腫瘍マーカーの上昇が診断のポイントになります。
6. その他の腫瘍
<代表疾患>
・小細胞癌
・ウィルムス腫瘍
・悪性リンパ腫 など
それ以外にも卵巣には、悪性リンパ腫や小細胞癌など、様々な腫瘍が発生する可能性があります。
また、他の癌の転移性腫瘍もあります。消化管由来(多くは胃)の転移性卵巣腫瘍のことを、Krukenberg腫瘍と呼ばれることもあります。
だからこそ、卵巣に腫瘍を認めた場合は、それが卵巣原発のものなのか、他臓器からの転移なのか、しっかりと評価することが大切です。
いかがだったでしょうか。種類が多すぎて混乱しましたよね。
難しく煩雑な内容になる事は承知の上でしたが、今後、卵巣腫瘍を語る上でこれらについては触れざるを得ませんでした。
少しコアな内容になりますが、こういうこともあるのだと知識として知ってもらえれば、今後の卵巣腫瘍の解説がより身に入りやすいと思います。
次以降はもう少し臨床に踏み込んでお話ししていく予定なので、楽しみにしていて下さい!
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。