良性腫瘍(子宮筋腫・卵巣嚢腫など)

子宮筋腫〜最も頻度の高い婦人科腫瘍〜

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

今回は子宮筋腫(uterine myoma)についてお話ししていきます。
子宮筋腫は30歳以上の女性の20〜30%にみられ、婦人科領域で最も頻度が高い腫瘍といえます。

自覚症状がないこともあるので、気付かないうちにかなり大きな子宮筋腫が出来ていた、なんてことも臨床現場ではよくあります。

子宮筋腫がどの場所にあるのか、どのくらいの大きさか、今後の妊娠希望の有無がどうか、などによって治療方針が異なってくる奥深い疾患です。
この記事で少しでも子宮筋腫について知ってもらえたら嬉しいです。

1. 発症部位とそれに伴う症状

子宮筋腫とは、子宮平滑筋に発生する良性の腫瘍のことです。
30歳以上の女性であれば4人に1人の割合で子宮筋腫を持っていると言われており、臨床現場でもかなり頻度が高いものとなっています。

ひとえに「子宮筋腫」と言っても、発生部位の違いで大きく3つに分けられます。

子宮筋腫の種類
  1. 漿膜下筋腫(subserous):子宮の外側に発育
  2. 粘膜下筋腫(submucous):子宮内膜直下・腔内に発育
  3. 筋層内筋腫(intermuscular):筋層内に発育

この3つでは、出てくる症状や、何に注意してフォローするべきかも変わってきます。整理してみましょう。

1. 漿膜下筋腫

頻度:10〜20%
無症状のことが多いが、捻転・圧迫症状に注意が必要

漿膜下筋腫は3つの中では最も自覚症状が出にくい筋腫です。
気づかないうちに大きくなっていた、なんてことも良くあります。

しかし、ある程度大きな”有茎性漿膜下筋腫”の場合、茎の所が何らかの原因でグルっと捻れてしまう「子宮筋腫の茎捻転」のリスクがあり、急性腹症をきたすことがあります。

他にも、子宮筋腫が大きく発育することによって膀胱や直腸などその他の臓器への圧迫症状(頻尿・乏尿・便秘・腹部圧迫感など)がみられたり、筋腫が感染・炎症をきたすことによる腹痛をきたす可能性もあります。

2. 粘膜下筋腫

頻度:5〜10%
最も症状が強く、月経症状・不妊症などが起きやすい

子宮内膜に近い病変ほど、月経や妊娠への影響が大きいです。
そのため、子宮内膜直下に発生し、子宮内腔にむけて発育する粘膜下筋腫が“最も症状の出やすい筋腫”と言えます。

小さい筋腫であっても、過多月経や月経困難症、そして不妊症などの原因になり得ます。
有茎性粘膜下筋腫の場合は、その筋腫が子宮口の外に脱出する「筋腫分娩」に至ることもあります。

3. 筋層内筋腫

頻度:約70%
多発しやすく、大きさや場所によって月経症状も圧迫症状もきたし得る

筋層内筋腫は、3つの中で最も頻度が高い子宮筋腫です。また、多発していることも多いです。

筋層内と言っても、”子宮内膜に近いのか”、”子宮内膜をどの程度圧排しているのか”、”どの位の大きさなのか”、などによって、様々な症状が生じ得ます。症例毎に対応が異なるのはそんな理由からです。

3種類の筋腫のうち、同じ種類の筋腫が多発することもありますし、複数種が混在することもあります。適宜、何が症状の原因になっているかを見極めて対応しています。

2. 受診のきっかけは?

どういうタイミングで子宮筋腫が見つかるのでしょうか。

1つ目は婦人科検診などで偶然見つかる場合です。本人としては特に何も症状がない場合でも、内診や経腟エコーをしたら偶然子宮筋腫が発見されることがあります。
大きさや部位によって医師が精査の必要性を判断します。

中には、本人が気になっていなくても治療介入した方が良い子宮筋腫というのもあるので、定期的な婦人科検診は受けておきましょう。

2つ目は本人の自覚症状がある場合。例えば次のような症状が挙げられます。

子宮筋腫による症状
  • 過多月経
  • 月経困難症(月経時の腹痛など)
  • 不妊症
  • 不正性器出血
  • 鉄欠乏性貧血
  • 下腹部膨満感
  • 頻尿・乏尿・便秘・腰痛などの圧迫症状

特に月経異常や不妊症は子宮筋腫の患者さんでよくみられる症状です。
少しでもおかしいかも?と思った場合は、我慢せずに産婦人科を受診することをお勧めします。

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3. 診断方法

子宮筋腫は、内診 + 超音波検査 ± MRI検査の3つで診断します。
必要に応じて、子宮鏡検査や採血などが加わります。

1. 内診と超音波検査

産婦人科の診察の基本は内診と超音波検査です。子宮筋腫も例に漏れず、こちらの診察である程度分かります。

内診では、子宮の形がいびつで少し腫大しているのが分かったり、子宮筋腫自体がやや硬く触知出来たりします。
圧迫した時に痛みがあったりしないか、というのも評価ポイントの1つです。

超音波検査では、正常の子宮筋層とは別に“境界明瞭の腫瘤”として描出されます。子宮内膜と子宮筋腫の位置関係や、内膜をどの程度圧排しているかも評価可能です。

2. MRI検査

画像評価としてMRI検査を行うこともあります。
MRIでは、筋腫の全体像や個数、解剖学的位置などを容易に評価できます。

境界が明瞭な腫瘤として描出されますが、子宮筋腫の中に出血・浮腫・感染などがあったりすると、多彩な像を呈します。

3. 子宮鏡検査、LDH採血

粘膜下筋腫の場合は、子宮の内腔にどの程度突出しているのかを評価する目的に子宮鏡検査が行われる場合があります。
子宮内膜ポリープとの鑑別や、手術前の評価として有用です。

また、採血でLDHの増加がみられた際には、筋腫の出血や変性、子宮肉腫(子宮の悪性腫瘍)を疑う必要があります。

4. 挙児希望がない人の治療法

妊娠希望がない場合の治療法について解説します。

  1. 「無症状+巨大ではない」場合は経過観察
  2. 「症状がある」なら子宮摘出術が第1選択
  3. 過多月経の改善のための選択肢:
    低用量ピル、レボノルゲストレル放出子宮内システム(ミレーナ®︎)、トラネキサム酸など
  4. 閉経直前ならGnRHアゴニスト療法で逃げ込みトライ

[ガイドライン婦人科外来編2020 CQ215より]

子宮筋腫は良性腫瘍なので、症状・年齢・本人の希望などを鑑みて3〜12ヶ月おきに外来で経過観察する場合が多いです。
特に無症状の場合は、積極的に何かの治療をする必要はなく、悪性所見がないかだけを確認していけば良いのです。
また、閉経すれば月経症状ともおさらば出来、子宮筋腫もそれ以上大きくならないため、閉経までなんとか逃げ込めればそれが1つのゴールになります。

しかし、下記の場合は子宮全摘術を考慮します。

  • 急速に増大している
  • 1kg以上の巨大な子宮筋腫
  • 子宮肉腫の可能性を否定できない
  • 血栓リスクが高い
  • 腎臓など他臓器への影響がある
  • 症状が強い

手術の代替療法として、子宮を栄養する子宮動脈の血流を減少させる「子宮動脈塞栓術(UAE)」が行われる場合もあります。

一方、”子宮全摘術をする程ではないけど、過多月経への対応は必要そうだな…”という時や、”今はまだ妊娠希望はないけれど、数年後には妊娠・出産を考えている”という場合は、ホルモン剤止血剤などが選択肢に挙がります。

閉経間際の場合は、GnRHアゴニスト療法(レルミナ®︎内服やリュープリン®︎注射など)を行うこともあります。

それぞれのメリット・デメリットを踏まえて担当医と相談し、治療方針を決めていきましょう。それぞれの症例にあった柔軟な対応が重要です。

5. 挙児希望がある人の治療法

妊娠・出産の希望がある場合は、対応が大きく異なってきます。

  1. 「月経症状がある or 長径5〜6cmを超える」場合は、症例毎に核出術の必要性を考慮する
  2. 「不妊症の原因になっている」なら症例毎に核出術の必要性を考慮する
  3. 「無症状+長径5〜6cm以内」なら経過観察
  4. 「無症状+長径5〜6cm以内だが”数が多い“」場合は治療介入を行うこともある

[ガイドライン婦人科外来編2020 CQ216より]

1つの治療介入基準は長径が5〜6cmを超える筋腫があることです。
しかし、子宮筋腫の数や大きさ、症状の有無によって色々な治療方針が立てられるので、一概に結論づけることは出来ません

妊孕性を温存するためには、子宮筋腫が妊娠・出産にどのような影響を与えるかを考えて対応していきます。

今すぐの挙児希望がない場合は、低用量ピルやレボノルゲストレル放出子宮内システム(ミレーナ®︎)などで子宮筋腫の縮小や症状の改善を図っていくことも多いです。

一方、「子宮筋腫核出術」とは、上のイラストのように子宮筋腫だけをくり抜くような手術になります。子宮全摘術と比べて出血量が多くなりやすく、再発のリスクもあるため、妊孕性を温存する人だけが選択する術式になります。

また、核出術後も一定期間(3〜6ヶ月程度)の避妊が必要だったり、分娩方式が帝王切開になる可能性が多かったり、患者の年齢によっては手術による卵巣機能低下のリスクを考慮して生殖補助医療を先行させた方が良かったり、と考えることは多々あります。

6. 子宮筋腫があると言われたら?

自分がいざ子宮筋腫があると言われたら、次のことを把握しておきましょう。

  • どんな種類の子宮筋腫?
  • 大きさは?
  • 何個くらいある?

これをもとに、年齢・症状・挙児希望などに合わせて治療方針を組み立てていくわけですが、担当医によっても答えが変わってくるかもしれません。

明確にこれ、という正解がないからこそ難しいのですが、子宮筋腫は全く珍しい病気ではないですし、自分の身体のことをしっかり理解しておくのも大切かなと感じます。

今日は子宮筋腫についてまとめてみました。
30歳以上の女性の4人に1人にあると言われる子宮筋腫。

今回の記事で「少しでも知識が増えた」という人がいたら嬉しいなと思います。いつ誰が発症してもおかしくない疾患だからこそ、正しい知識を持っておくことが重要です。

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ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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