前回に引き続き、コウノドリ、どしどし読み進めていきます!
4巻の感想は下記の記事からどうぞ。
目次
1. 立ち会い出産
1. 正常分娩の色々
このお話は、色々な妊婦さんの”正常分娩”が多数描かれます。
「満月や新月にお産が多い」というのは迷信ですし、論文的にも有意差はないことが示されているのですが、臨床をやっている身からすると、これがなかなか当たっている気がするから面白いですよね。
実際に分娩室の近くでは、「今日満月(新月)だね〜」といった会話は世間話の1つとしてよく交わされています。個人的には、気圧も影響しているんじゃないかとか思っています。
このお話の中で出てくる妊婦さんは3人。
いずれも陣痛発来での受診なのですが、出産までの経過が全く異なるのがよくわかりますね。
分娩の進みは人それぞれで、痛みの感じ方も人それぞれ。
初産婦と経産婦では進行のスピードも全く異なるし、破水が先か陣痛がくるのが先かによっても話が変わってきます。
コウノドリはリアルな描写が上手い。
「あ〜いるいる、こういう人。」って医療者側にもクスッとさせてもくれるので、本当に名著だと思います。
私たち医療者が介入すべき所、そのまま自然に経過をみるしかない所についても、実際に分娩になってみないと分からないことが多いため、改めて出産は奇跡の連続だなと感じます。
2. コロナウイルスと立ち会い分娩
2020〜21年はコロナウイルスの驚異的な蔓延に伴い、立ち会い分娩を中止した病院も多かったのではないでしょうか。
私の病院でも、未だに立ち会い分娩は禁止になっていて、オンライン面会のみでの対応になっています。
だからこそ、コウノドリのお話しでこうやって当たり前に立ち会い分娩が出来ている事実が、とても眩しく羨ましいですよね。
特に旦那さんにとっては、分娩に立ち会えることで新たに抱く感情もあるだろうなと思います。
コウノドリで実際に(嫌々?)立ち会った1人の男性の下記の感想は、多くの男性が抱くものではないでしょうか。赤ちゃん可愛い、という綺麗事だけじゃないのがリアルです。
スゲー血管浮き出てんなぁ。
コウノドリ5巻より
でも誰かがこんなに苦しんでる顔…、今まで見たことないかもな…。
女の人って…凄いなぁ。
これが赤ちゃん…汚ねぇ…。
もっとツルンとして産まれてくるって思ってた。
正直お腹の中にいた時はままごと気分で触ったり話しかけてたけど…当たり前だけど…ちゃんと生きてたんだ。
私は産婦人科医として、分娩後にご夫婦が揃って感極まっている所で勝手にジーンとしていたりするので、当たり前の日常が早く戻ってきて欲しいなと願っています。
2. 双子
続いては双胎妊娠について。
鴻鳥先生もおっしゃっていますが、双胎妊娠は1人の赤ちゃんを妊娠する場合と比べて、色々なリスクが上昇する可能性があります。
- 切迫早産
- 胎児の発育遅延
- 妊娠高血圧症候群
- 妊娠糖尿病 など
だからこそ、妊婦健診の頻度を少し多くして、異常があったらすぐに対応できるようにフォローしていく必要があるのです。
今回のお話しには、
2人の赤ちゃんがそれぞれの胎盤とお部屋を持つ“DD双胎”の佐藤さんと、
お部屋は2つあるけど胎盤は共有している“MD双胎”の込山さん
の2組の妊婦さんが登場します。
MD双胎の場合は、先ほど述べたリスクに加えて、片方の赤ちゃんだけの発育が乏しくなったり、双胎間輸血症候群による胎児死亡などが起きやすく、DD双胎よりリスクが高いです。
DD双胎の佐藤さんは妊娠33週の切迫早産で入院
MD双胎の込山さんは妊娠30週の胎児発育不全+妊娠高血圧症候群で入院
していますが、どれも双胎妊婦さんによく起き得る周産期合併症ですね。
物語では、2人が同じ部屋になり、不安と励ましを共有しつつ、交流を深めている様子が描かれます。
双胎妊娠は一般的にかなり珍しいものと捉えられがちですが、扱える周産期施設に限りがあることもあり、双子を育てる妊婦さん同士がこうやって同じ部屋に配置されることは、しばしばあるんです。
そこで築かれるコミュニティーは、とても貴重だなと思います。
そして運命の日。
DD双胎の佐藤さん(妊娠36週6日)に陣痛が訪れます。
そして同時期、MD双胎の込山さん(妊娠33週3日)の赤ちゃんに心音低下のサインがあり、緊急帝王切開術を行う方針が決まりました。
2人とも突然の分娩になり、不安な思いを医療者にぶつけてくれるわけですが、ここで鴻鳥先生がおっしゃる次のセリフが、個人的には結構刺さりました。
赤ちゃんの両親はみんな
自分の命よりも大切な命を僕らに預けるんだよ。
大袈裟に心配して何がおかしい?
いやあ、本当にそうなんだよな〜としみじみしちゃいますね。
おっしゃる通り。だからこそ私も、全力でその思いに答えなくてはと奮い立たされます。
3. 卵子提供
1. 卵子提供の実情
卵子提供って聞いたことありますか?
聞いたことはあっても、よく分からないし馴染みがないという方も多いのではないでしょうか。
それはおそらく、日本において卵子提供が認められることがほとんどないからでしょう。
審査が厳格なので、(日本における卵子提供の)数は少ないです。卵子の老化に対する卵子提供は認められていません。
鴻鳥先生がおっしゃる通り、臨床現場でも、日本で卵子提供を受けた妊婦さんを見ることはかなり少ないです。
多くはアメリカだったり、台湾だったり、海外で提供を受けている場合がほとんどです。
こんな現状に、産婦人科研修医の下屋先生はこのような意見を発しています。
日本では60年以上前から、精子提供は行われています。
なのに卵子提供はダメっていうのはどうかと思うんです。
確かに、とは思います。
精子提供と卵子提供では、提供する側の身体的負担がかなり違うことは1つの要因になっていそうですが、時代も変わってきていますし、日本でも卵子提供という治療が広がる未来もあるかもしれませんね。
2. 卵子提供を受けた妊婦のリスク
ただ、産婦人科医としては、手放しでは卵子提供をお勧めできない理由があります。
お産にまつわる合併症がグンと上がってしまうのです。
卵子が他人のものであるが故に、拒絶反応に伴う合併症も追加されてしまうからです。
例えば、
- 妊娠高血圧症候群
- 胎盤の位置異常
- 産科危機的出血
など。
だからこそ、卵子提供を受けた妊婦はハイリスク妊婦として対応しているのです。臨床をやっていても、身をもって高リスクであると感じらています。
今回の物語に登場する、卵子提供を受けた妊婦さんは、早産期に妊娠高血圧症候群の診断になり、緊急帝王切開術で赤ちゃんを取り出すことになりました。
無事に赤ちゃんが産まれ、面会も済み、良かったと思ったのが束の間。
弛緩出血(子宮がうまく収縮できずに出血が多くなる)に至り、非常に危険な状態になってしまうのです。
産婦人科医・麻酔科医が力を合わせつつ、
・緊急輸血
・子宮内を圧迫するバルーン
・子宮を外から縫合して圧迫する処置
などを行いましたが、出血はなかなか止まりません。そのうちに血圧や意識レベルにも変化が出てきてしまいます。
そのため最終手段として、緊急で子宮全摘術に切り替えて救命を図ることになったのです。
私も短い産婦人科人生の中で、自分の目の前でこうやって子宮を摘出せざるを得なかったことが6回ほどあります。
悔しさや戸惑いももちろんあるのですが、ここまで頑張ってきた妊婦さんに、元気に赤ちゃんに会ってもらうために、まずは救命するんだと、毎回祈る気持ちで手術をしていました。
この時の鴻鳥先生・四宮先生も同じ気持ちだったことでしょう。
お産は無事に終わるのが当たり前だと捉えている人って、いまだに意外と多いです。しかしこういったリスクがいつも隣り合わせにあるんだということは、知っておいてもらいたいなと感じます。
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最後は、無事に退院の日を迎えられた今回のご夫婦の笑顔をみて思う鴻鳥先生の心理描写のシーンになります。
もしもこの顔を親バカと言うのなら
コウノドリ5巻より
産科医(ボクら)は両親のその笑顔がとても嬉しい
本当にそうですね。
自分が担当した妊婦さんが、無事に出産を終えられること、そしてそれを心から喜んでいること。
それが産婦人科医としての、何よりの喜びだったりします。
これからも産婦人科医として、お仕事に邁進していこうと意気込む、私なのでした。
正常分娩も異常分娩も、それぞれに深くて濃いエピソードがあるから面白い。
コウノドリを読んでいると、産婦人科医の仕事がどれだけやりがいがあるものかを再認識できて楽しいです。
また機会をみながら更新していきたいと思います!
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。