シルガード9というHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンが、2月24日から日本で販売が開始されます。
その影響か、ここ最近、質問箱にもHPVワクチンに関する質問が多数寄せられました。産婦人科医として嬉しい限りです。
以前、婦人科検診とHPVワクチンについての記事を書いたのですが、今回はシルガード9にスポットを当て、改めてまとめて直してみようと思います。
目次
1. 若年女性の子宮頸癌が増えている
日本では毎年約1万人もの女性が子宮頸癌と診断され、約2800人が子宮頸癌によって亡くなっています。
20〜30代の若年女性にあたっては、子宮頸癌の罹患率が最も多く、さらに発症年齢と妊娠・出産年齢のピークが重なることも問題になります。
子宮頸癌の原因のほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染。しかし、HPVそのものは非常にありふれたウイルスなので、生涯に80%以上の方が感染すると言われています。
「子宮頸癌に罹患した人は性に奔放だ」、というのは全くの事実無根。HPVは誰に感染していてもおかしくないウイルスです。
通常は自分の免疫で自然にウイルスが排除されますが、ある一定の人は長期間感染が持続し、細胞の形が少しずつ変化してがん化してしまうのです。
2. HPVには高リスク型・低リスク型がある
HPVには、なんと200種類以上のタイプがあります1)。
その中には、イボなどの良性疾患の原因になる低リスク型と、子宮頚がんの原因になる可能性がある高リスク型があることが知られています。
1. 低リスク型
HPV 6・11 型
低リスク型として知られるのは6型・11型の2つ。低リスク型なので子宮頸癌になるリスクはほとんど考えなくて良いでしょう。
じゃあ気にしなくて良いのね?
…残念ながら違うんです。なぜなら、性器や肛門の周りに良性のイボができてしまう疾患である「尖圭コンジローマ」の原因になるからです。
鶏冠状のイボが外陰部に沢山できてしまう病気で、治療しても再発を繰り返すことが多く、まれに癌化するリスクもあります。
20歳代の若年層の男女に多い性感染症の1つです。
2. 高リスク型
- 最も高リスク:HPV 16・18 型
- 次に高リスク:HPV 31・33・35・45・52・58 型
- その次に高リスク:HPV 39・51・56・59・66・68 型
高リスク型は子宮頸癌の原因になる可能性があるHPVのタイプです。
特に最も高リスクなのが16型・18型。この2つで子宮頸癌の原因の約65%を占めていると考えられています2)。
その他にも、上に示すようなHPV型が原因になることが報告されており、リスクに応じて外来でのフォロー間隔も異なってきます。
3. 子宮頸癌はワクチンで予防出来る
2020/10/1に【HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer】3)という論文が報告されました。
今までHPVワクチンは、子宮頸癌の前病変である子宮頚部異形成を予防することは分かっていたのですが、子宮頸癌について効果があるかについての論文は出ていませんでした。
しかしついにこの論文で、4価のHPVワクチン(ガーダシル®︎)をうつことで、子宮頸癌を63%減少させることができたという結果が出たのです。
更に、17歳未満で接種すると88%も減少することもわかりました。
次のグラフを見てみてください。
縦軸が子宮頸癌の累積罹患率。
オレンジ色がワクチンを接種していない群、青色が17-30歳で接種した群、緑色が17歳未満で接種した群を示しています。
ワクチン接種によって、子宮頸癌の累積罹患率が有意に下がっていることが分かりますね。
4. シルガード9とは?
今、定期接種として接種されているのが「サーバリックス®︎(2価ワクチン)」と「ガーダシル®︎(4価ワクチン)」です。
どちらも、子宮頸癌の原因になる最もハイリスクなタイプであるHPV16・18型をカバーしています。ガーダシルにはその他に尖圭コンジローマの原因になるHPV6・11型が含まれている形です。
一方シルガード9®︎(9価ワクチン)は、更に「31・33・45・52・58型」の5つのHPV型が加わったもので、より幅広いHPV型に対する疾患の予防が期待できます。
特にHPV52・58型は欧米人と比較してアジア人の感染率が高い4)と言われており、これら2つが加わったメリットは大きいと考えられます。
- HPV16・18型は子宮頚がんの65%を占める
=サーバリックス・ガーダシル - HPV16・18型+5つのHPV型(アジア人の感染率が高い52・58型を含む)で、子宮頚がんの88%をカバーできる
=シルガード9
シルガード9は、9歳以上の女性に合計3回筋肉注射します。
スケジュールとしては、
- 1回目=0ヶ月
- 2回目=初回接種から2ヶ月後
- 3回目=初回接種から6ヶ月後
です。多少のずれは許容されますが、1年以内に3回の接種を終了することが望ましいと考えられています。
5. HPVワクチンの接種対象は?
産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020では、HPVワクチンの接種の対象について、次のようにまとめています。
HPVワクチン接種の対象は?
- 10〜14歳には強く推奨(最も推奨)
- 15〜26歳にも強く推奨
- ワクチン接種を希望する27〜45歳には推奨
- 子宮頸部細胞診で軽度の異常がある女性(既往を含む)には接種可
- 原則的に接種の可否を決めるためのHPV検査は行わない
- 妊婦には接種しない
45歳以下の女性であれば、メリット・デメリットを考慮しながら、HPVワクチンの接種が推奨されます。
子宮頸部異形成の診断がついている人でも、自分がかかっているHPV型以外のタイプには有効と考えられています。
ただ、HPVワクチンは子宮頚がんを100%予防できるものではありません。例え接種したとしても、20歳を過ぎたら2年に1度の子宮頸癌検査を受け、早期発見・早期治療に努める必要があります。
6. 安全性は大丈夫?
HPVワクチンは、ワクチン接種をきっかけとした「多様な症状」を呈する人があらわれたことから、いったん積極的接種推奨を差し控えられた歴史があります。
ニュースでもよく取り上げられて、一時期話題になりましたよね。非常にショッキングな映像で、覚えている人も多いと思います。
しかしHPVワクチンと副反応との関係について、複数の研究が行われた結果、「多様な症状」とHPVワクチン接種との間に有意な関連はなかったことが分かりました。
WHOもHPVワクチンの積極的接種を推奨しています。
7. 男性への接種も推奨される
HPVワクチンは女性だけでなく、男性にも有効と言えます。なぜなら、HPVは子宮頸癌だけでなく、次のような悪性疾患の原因にもなるからです。
- 中咽頭がん
- 肛門がん
- 直腸がん
- 陰茎がん
- 外陰部がん
- 腟がん
また、尖圭コンジローマも男女共に発症し得る疾患なので、こちらの予防にもつながりますね。
HPVが性感染症である以上、男女共に接種の輪が広がり、HPV関連の癌がいつしか”過去の病気”になったら良いな、と思う次第です。
今日はHPVワクチンについてまとめてみました。
少しでもHPVワクチンヘの抵抗が減れば良いなと思いながら書きました。
気になることがあったら、ぜひ気軽に産婦人科医に尋ねてみてください。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。