以前、総論記事として、卵巣腫瘍には多種多様な種類があることをご説明しました。
今日は、卵巣腫瘍の診断から治療まで、一通りさらうようにまとめていきたいと思います。
上記の記事で説明した通り、組織型によって治療法や発症頻度も様々なので、まずはどの種類の卵巣腫瘍なのかを把握しておくことが大切です。
目次
1. 最も頻度の高い”上皮性腫瘍”
1. 上皮性腫瘍って?
まずは上皮性腫瘍にどのような組織型があるか、から復習していきましょう。
- 漿液性癌
・高異型度漿液性癌(HGSC)
・低異型度漿液性癌(LGSC) - 粘液性癌
- 類内膜癌
- 明細胞癌(CCC)
頻度が最も高いのは高異型度漿液性癌(HGSC)。
日本では、欧米と比較して明細胞癌(CCC)の頻度が高いのも特徴的です。
高異型度漿液性癌(HGSC)については、「卵巣が原発ではなく、卵管の端っこ(卵管采)に発生した癌が卵巣に直接播種する」という知見も知られているので、卵管を摘出するような手術を行う際は、卵管采を取り残さないように注意を払っています。
子宮を摘出するほとんどの症例で卵管を一緒に取っておくのも、取り残した卵管から卵巣癌が発生してしまうのを防ぐのが目的です。
一方、類内膜癌や明細胞癌は、子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)との関連が知られています。チョコレート嚢胞もちの患者さんの場合、しっかりとした外来フォローが必要なのですが、それは悪性化を疑う所見がないかを評価するのが1つの理由となります。
2. 進行期分類(Stage分類)
卵巣癌の場合の進行期の決定は、手術で摘出した検体による病理診断に基づいて術後に決定されます。
<Ⅰ期>
- ⅠA期:片側の卵巣に限局
- ⅠB期:両側の卵巣に限局
- ⅠC期:腫瘍は卵巣に限局するが、以下のいずれかが認められる
▶︎ⅠC1期:手術操作で破綻
▶︎ⅠC2期:自然破綻あるいは被膜表面への浸潤
▶︎ⅠC3期:腹水または腹腔洗浄細胞診に悪性細胞+
<Ⅱ期>
- ⅡA期:子宮あるいは卵管に浸潤
- ⅡB期:他の骨盤内臓器に進展する
<Ⅲ期>
- ⅢA1期:後腹膜リンパ節転移陽性
- ⅢA2期:骨盤外に顕微鏡的播種あり
- ⅢB期:骨盤外に最大径2cm以下の播種あり
- ⅢC期:骨盤外に最大径2cmを超える播種あり
<Ⅳ期>
- ⅣA期:胸水中に悪性細胞を認める
- ⅣB期:肝臓実質や腹腔外の臓器に転移を認める
卵巣癌はサイレントキラーな腫瘤とも言われており、半数はStageⅢ・Ⅳ期の進行癌で発見されます。
卵巣悪性腫瘍の発生頻度は、全女性生殖器悪性腫瘍の約15%。
日本での罹患数・死亡数はどちらも増加傾向で、婦人科由来の悪性腫瘍の中では最も死亡者数が多くなっています。
3. リスク因子は?
リスクを上昇させる因子としては、下記のようなものが挙げられます。
- 出産したことがない
- 肥満
- エストロゲン単独のホルモン補充療法
それ以外にも、「遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)」や「リンチ症候群」という遺伝的な因子の関連も知られます。
そのため、卵巣癌・乳癌・大腸癌などの発症頻度が高い家系の場合は、遺伝カウンセリング後に遺伝子検査を検討する場合があります。
逆に、リスクを低下させる因子としてはピルの使用が挙げられます。
4. 診断はどうするの?
卵巣癌は自覚症状の乏しい悪性腫瘍です。強いて言えば、お腹が膨らんできたり、それに伴う腫瘤感を感じるようになったり、他の臓器への圧迫症状を認めたり、不正出血がみられたり…といった所です。
子宮頸癌とは異なり、確立された検診の方法がないため、なかなか見つけることが難しい疾患になっています。
診断方法は
・超音波検査
・内診
・造影MRI検査
・造影CT検査
・腫瘍マーカー
の組み合わせが一般的です。
卵巣腫瘍の大きさ、性状、壁の厚さや充実部などを把握すると共に、腹水がどれだけ溜まっているのか、他の臓器への浸潤はあるのかなどを評価していきます。
腫瘍が腸管に浸潤している可能性がある場合や、他の臓器からの転移性腫瘍の可能性がある場合などは、胃カメラ・大腸カメラも併用します。
また、悪性卵巣腫瘍は他の癌腫と比べて血栓塞栓症の発症リスクが高い(特に明細胞癌に多い)ため、血栓を疑う所見があればそちらの評価も必要となります。
5. 治療法は?
卵巣癌の治療法は手術が基本となりますが、化学療法が併用されることも多いです。
進行期や組織型や、年齢や合併症・今後の挙児希望などに合わせて治療法を決めていきます。
初回治療
手術を先行する場合と、化学療法を先行する場合があります。
1. 手術療法
手術ができる状況であれば、原則はまず手術を行います。
その目的は、
- 組織型を確定する
- 進行期を確定する
- 初回治療として最大限の腫瘍減量を行う
- 予後に関わる情報を得る
です。卵巣は摘出してみないとその組織型が分からないことも多く、しかもその組織型によって治療の感受性に違いが出るため、有用な情報を得られることになるからです。
基本的な術式としては
『子宮全摘術+両側付属器摘出術+大網切除術』
と、それに加えた
『腹腔細胞診+骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節郭清(生検)+腹腔内各所の生検』
が勧められています。
腫瘍の浸潤が強く全てを取りきれない場合であっても、できる限り摘出して残っている腫瘍の量を少なくすることが大切です。そのためには腹膜や腸管などの合併切除も考慮されます。
残存した腫瘍を1cm未満に出来た場合は、1cm以上の場合になってしまった場合と比べて予後が改善すると言われています。
2. 化学療法
初回の手術で腫瘍の摘出が困難だろうと判断されるような場合や、合併症や年齢の影響で全身状態が不良で手術に耐えきれないと判断されるような場合は、化学療法を先行することもあります。
化学療法で腫瘍のサイズを小さくしてから手術にする、ということもよくあります。
さらに、StageⅠC以上の場合は、手術の後の後療法として化学療法を行うことも一般的です。
レジメンとしては、
・パクリタキセル
・カルボプラチン
という、2種類の抗癌剤を併用したTC療法が代表となります。
再発治療
卵巣癌は再発リスクも高い腫瘍となっていて、多くは2年以内に再発します。
再発してしまった場合は、根治はなかなか難しい。
だからこそ、初回の治療法とは異なり、主には化学療法をメインとして治療戦略が立てられます。
化学療法を終了してから再発するまでの期間に応じて、抗癌剤の選択を行います。分子標的薬治療薬が選択される場合もあります。
2. 胚細胞性腫瘍は化学療法が効きやすい
悪性卵巣胚細胞腫瘍に移ります。組織型の代表例は下記のようなものでした。
- 未分化胚細胞腫瘍
- 卵黄嚢腫瘍
- 胎芽性癌
- 絨毛癌
- 未熟奇形腫 など
今まで説明していた上皮性悪性腫瘍とは異なり、10〜20歳代の若年女性での発症が多いことが特徴的です。
だからこそ、妊孕性を温存した治療を選択されることも多く、今後の挙児希望がある場合には、
『患側付属器摘出術+大網切除術』
にとどめて、片方の卵巣は温存する術式にすることが一般的です。
また、化学療法の感受性も高いことが多く、化学療法による根治も見込めます。
レジメンとしては、
・ブレオマイシン
・エトポシド
・シスプラチン
の3種類の抗癌剤を組み合わせるBEP療法を行います。
3. 性索間質性腫瘍も手術が基本
最後は性索間質性腫瘍。ホルモンを産生する腫瘍が多いのが特徴でした。
代表的な組織型は下記の通りです。
- 顆粒膜細胞腫(境界悪性腫瘍)
- セルトリ・間質細胞腫瘍
- ライディッヒ細胞腫 など
性索間質性腫瘍の場合は、上皮性卵巣癌に応じた手術療法が一般的です。
基本的には病巣の完全摘出を目指して、最大限の腫瘍減量術を行います。
一般的な化学療法のレジメンは存在しませんが、胚細胞性腫瘍と同様、BEP療法をはじめとしたプラチナ製剤を含む化学療法が行われることが多くなっています。
ただ、化学療法についての統一した見解はなく、ステージの進んでしまった症例や再発リスクの高い症例の限って考慮されます。
いかがだったでしょうか。
少しボリュームが多かったかもしれませんが、卵巣癌がそれだけ難しい疾患であることを理解してもらえたら何より嬉しいです。
卵巣癌は気付くのが遅れやすい疾患の1つ。
だからこそ、まずは卵巣癌について知ってもらい、少しでも怪しい症状があれば病院を受診してもらいたいと、強く思います。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。