妊娠・出産

赤ちゃんの回旋と進入〜狭い産道を通るための工夫〜

お久しぶりです、ゆきです。
とある周産期施設で産婦人科医として働いています。

半年ぶりになりますが、また”ゆきぞらブログ”の定期更新を再開していきます。これからもよろしくお願いします!

以前、正常分娩についての次のような記事を書きました。

医師
正常分娩について語る こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。 今回は正常分娩についての記事です。 分娩ってそもそも何なの?ど...

今回はこれも踏まえて、分娩時の赤ちゃんの「回旋」と「進入」について解説していきます。
赤ちゃんは様々な工夫を凝らしつつ、長い旅をしてきます。
平均3000gほどの赤ちゃんが、狭い産道をどのようにして通ってきているのか。その神秘さが共有できれば嬉しいです。

1. 回旋の4種類

回旋とは
分娩時に胎児が産道を通過する間に起こる、胎児の姿勢の変化や体軸を中心とした動きのこと。

赤ちゃんは骨盤の中を通過するときに3回、頭が出た後に1回”回旋”します。
それは、赤ちゃんの頭と骨盤の形が違うから。
簡単にまとめると、

  • 赤ちゃんの頭は「縦長」、体幹部は「横長
  • 産道は入口部が「横長」、出口部が「縦長

なんです。
回旋は、児頭を効率的に通過させるために必要な動きといえます。

①第1回旋

第1回旋とは、赤ちゃんが顎を胸に近づけるような動きのことです。
この動きによって児頭の通過面を最小にすることが出来ます。

第1回旋の異常が起きると、頭を後ろに反らした状態(=反屈位)になり、児頭の通過面が大きくなってしまいます。

②第2回旋

第2回旋は、赤ちゃんの後頭部が母体の恥骨側(お腹側)に近づくように回る動きのことです。赤ちゃんがうつ伏せの体制になるイメージです。

赤ちゃんの頭は、骨盤の入口では横向きに進入していますが、出口部に近づくにつれて縦長になる産道の形に合わせ、徐々に縦向きに回っていきます。

第2回旋の異常としては、次のようなものが挙げられます。

  • 後方後頭位:赤ちゃんが仰向けの体制で骨盤に進入している状態
  • 低在横定位:縦回旋せず、児頭が横向きのまま進入している状態

出産を経験された方の中には、赤ちゃんが上を向いちゃっている…とか、向きがまだ悪くて…などと言われたことがある人もいらっしゃるかと思います。

その多くは、この第2回旋の異常です。
第2回旋は最も重要な回旋とも言え、これがうまくいかないと分娩が停滞したり、陣痛の痛みがより強くなったりするのです。

③第3回旋

第3回旋は、恥骨を乗り越えるために必要な、児頭が反屈・伸展する動き(=第1回旋の逆方向)のことです。赤ちゃんが骨盤出口から娩出される時にみられます。

これが完了すると、赤ちゃんの頭が娩出されます。

④第4回旋

最後の第4回旋は、頭が出た後、赤ちゃんの肩を出すときに必要な縦軸方向の動き(=第2回旋の逆方向)のことをいいます。

第4回旋が終了すると、最終的に赤ちゃんの向きが元に戻ります。
色々とうまく出来ていますよね。

2. 回旋異常の要因は?

回旋異常の原因は分からないことも多いのですが、リスク因子としては下記のようなものが挙げられます。

まずは母体因子。

回旋異常の原因〜母体因子
  1. 骨盤の問題(骨盤腔が狭い、形が扁平)
  2. 子宮の問題(子宮奇形や子宮筋腫がある)
  3. 胎盤の問題(胎盤位置が低い)
  4. 陣痛の問題(微弱陣痛、無痛分娩)

続いて胎児因子。

回旋異常の原因〜胎児因子
  1. 児発育の問題(赤ちゃんが小さい or 大きい)
  2. 胎児奇形
  3. 羊水量の問題(羊水が少ない or 多い)
  4. 臍帯の問題(臍帯長の異常、臍帯巻絡)

様々な要因がありますが、分娩進行時は介入出来ないことがほとんどで、どうしようもないことも多いです。

3. 回旋異常があるとどうなるの?

回旋異常があると、分娩が遷延・停止する可能性が高くなります。
逆に言うと、分娩が思うように進んでいない時や、異常なほどの痛みの訴えがある場合は、回旋異常がないかを評価することが不可欠です。

回旋異常を認めた場合に、まず行うのが母体の体位変換横向きや四つん這いの姿勢をとってもらい、こちらで自然に赤ちゃんの回旋が改善することを期待します。

場合によっては用手的に赤ちゃんの頭を回したり、器械分娩を施行することも。一方、経腟分娩が難しいと判断され、帝王切開が必要となることもあります。

4. まとめ

  1. 回旋とは、赤ちゃんが合理的に産道を通ってくるために大切な要素。
  2. 第1〜第4までの回旋があり、児頭の屈曲・反屈や、縦軸方向の変換が行われる。
  3. 回旋異常のリスク因子は様々あるが、原因不明が最多。
  4. 回旋異常があると、分娩が停滞・停止してしまうことも多い。
  5. まずは体位変換で改善を図るが、器械分娩や帝王切開が必要となることもある。

今日は児頭の回旋について解説しました。いかがだったでしょうか。

分娩進行の評価にとって大切な要素となる回旋。
赤ちゃんが狭い道のりを一生懸命に通ってきてくれる、神秘的な仕組みとも言えます。

これからも、できる限り分かりやすい記事を書くことを心がけますので、お楽しみに。

  1. 日本産科婦人科学会 編集・監修 産婦人科専門医のための必修知識2020年度版
  2. 進 純郎, 分娩介助学 第2版, 医学書院, 2014年

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ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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