先日、コウノドリ全巻をまとめ買いしました。
何回も読んでいたのですが、2020/10/23に最終巻が出たこともありますし、改めて読み直してみようかなと思い立った次第です。
研修医にお勧めして読んでもらっている程、とても好きな漫画の1つ。
産婦人科医から見ても、現場のリアルが描かれているなと思っています。
今回のブログは雑記として、産婦人科医が抱く感想や裏話をお話しできればと思います。あくまでもフランクな感想なので、軽く読んでもらえると嬉しいです。
ネタバレを含みますので、まだ読んでいない方はブラウザバックをお願いします。
目次
1. コウノドリって何?
2012年からモーニングで連載されていた、鈴ノ木ユウ先生の漫画です。
実在する産婦人科医(荻田和秀先生)・小児科医(今西洋介先生@doctor_nw)がモデルとなっています。
“産婦人科医兼ピアニスト”の鴻鳥サクラ先生を中心に、産婦人科医・助産師・新生児科医・救急救命医・麻酔科医などが関わり、周産期の現場のリアルが描かれます。
この漫画は私が研修医の時に読み始めたのですが、産婦人科医として働くようになってびっくりしたのが、臨床現場で頻繁に
これ、コウノドリで見たやつじゃん!!
となること。
更には、患者さんへの説明の方法などで、コウノドリで読んだ知識を活かすこともあったりします(嘘のようなホントのお話)。
登場する鴻鳥先生は、今でも私の目標であり憧れです。
2. 未受診妊婦
コウノドリの1話は未受診妊婦から始まります。
未受診妊婦とは、「妊婦健診を受けていない妊婦」さんのことです。そして未受診妊婦が陣痛・破水し、分娩が進行している状態で病院に来ることを飛び込み分娩(飛び込み出産)と言います。
下のTweetにも書いた通り、未受診妊婦は年に数回いらっしゃるんですよね。
未受診の理由は様々。
- 太っただけだと思っていた
- 便秘だと思ってた
- 胎動は腸の動きだと思っていた
- 気付いていたけど認めたくなかった
- パートナーとの関係が上手くいっていなくて逃げていた
- 金銭的に受診が難しかった など
患者が未受診妊婦だと分かったら、医療現場には一瞬で緊迫感が走ります。
妊娠何週かも分からない、赤ちゃんに適切なエコーのスクリーニングができない、どんな感染症を持っているかわからない。
更には胎盤の位置・胎位・母体合併症の有無、など確認しないといけないことが溢れるようにあります。
出来る範囲で評価するわけですが、妊娠週数が遅ければ確認できないことも多く、そのまま分娩に望まないといけないリスクは非常に怖いものです。
妊婦さん側にも色々な事情があるとは思いますが、何より無駄なリスクを背負わされる赤ちゃんが可哀想。
未受診ということは医学的にも状況的にも、確実に赤ちゃんの命は危険にさらされるんです。
あなたのしたことはお腹の赤ちゃんを虐待していたことと同じなんです。
(鴻鳥サクラ)
キツい言葉ではありますが、医療者の本音です。
気付かなかった、という人もいらっしゃいますが、必ず身体からのサインはあったはず。無月経・不正出血など、身体の変化に少し耳を傾けてあげることが、こういう点でも良いのではないでしょうか。
気軽に産婦人科を受診して頼ってくださいね。
行政のサポート等についても、提示したり繋げたり出来ますよ。
結局このお話しの赤ちゃんは乳児院に入ることになります。
赤ちゃんにとって何が1番幸せなのか、私たち医療従事者も模索する日々です。
産まれてくる赤ちゃんが全て望まれた命だとは限らない。
コウノドリTRACK1より
ただこの場所で働いている人達は皆、産まれてきた全ての赤ちゃんに「おめでとう」と言ってあげたい。
3. 切迫流産
第2話は、妊娠21週1日(推定体重420g)で高位破水した妊婦のお話しです。
高位破水とは卵膜の上の部分で破水したものを言います。
羊水の流出が少量にとどまるため、”羊水量がある程度保たれる破水”になります。
この週数で破水した時の方針は非常に難しい。
妊娠を継続した方が良いのか、妊娠を中断する選択をとる方が良いのか、私たちにも正解はわかりません。
22週未満の場合は流産です。22週となったら死産です。
…それと24週で出産した場合、例え赤ちゃんの命が助かったとしても赤ちゃんには多くの合併症があって、脳性麻痺や視力障害や慢性呼吸不全などが起こる可能性が高いです。
そのことも十分覚悟してもらわなければなりません。
(鴻鳥サクラ)
サクラ先生がおしゃっているような厳しい病状説明を、現場でも行っています。
そして酷なことに、人工妊娠中絶を選択する場合は妊娠22週未満で行わなければならないため、考える時間にも限りがあります。
この夫婦も「あと2日」というタイムリミットで、赤ちゃんを助けるのか助けないのかの究極の選択をしないといけなくなりました。
非常に辛い選択ですよね。
正解がないので、私たち医療スタッフからは説明こそすれ、”〇〇にしましょう”とは言えません。最終的にはご夫婦の判断・選択をもとに医療介入が行われることになるため、”自分のせいで〜”と自身を責めることにもなりかねません。
結局2人は妊娠を継続することを希望され、24時間の子宮収縮抑制薬・抗生剤・ステロイド投与・ベッド上での絶対安静などでの治療を継続。
結果、妊娠23週3日に陣発し、緊急帝王切開術で453gの赤ちゃんを出生されました。
妊娠23週の場合は、普通の帝王切開と比べて子宮が相対的に小さいため、赤ちゃんを出すために子宮を縦に切る「古典的帝王切開術」を施行することが多いです。
今後の子宮破裂のリスクなども高くなり、母体への負担も増します。
また、赤ちゃんにもなんらかの合併症を生じる可能性も高い。どの程度の重症度なのかは、産まれてみないとわかりません。
ただ、赤ちゃんの生命力は未知数です。
新生児科の先生のもと、世界トップレベルの新生児管理も待っています。
お産は結果論で、誰にも正解はわからないことが多い。
ただその結論を出すに当たって、私たち医療スタッフが丁寧に寄り添えたらなと思います。
2人の決断が正しかったのかそうでなかったのかは誰もわからない。
コウノドリTRACK2より
その場に立たされた両親の決断に模範解答などないのだから。
4. 淋病
うってかわって、3話は淋病のお話し。
淋病は”淋菌”を原因とした感染症のことで、クラミジア感染症と同様、頻度が高い性感染症の1つです。
淋病・クラミジア感染症の両者を併発していることも稀ではありません。
今回のお話しでもそうですが、色々と厄介なのが妊娠中の感染。
流産・早産の原因になることもあるし、産道感染で赤ちゃんに移れば結膜炎・関節炎・肺炎・敗血症などをきたす可能性があります。
さらに、重篤化すれば失明や命の危機に晒すこともあります。
基本的には抗菌薬で良くなりますので、適切に加療すれば心配しすぎる必要はありません。パートナーと一緒に治療を完遂しましょう。
ただ、こういった性感染症の場合、「どこから感染したのか問題」は勃発しますよね。
外来でご夫婦が盛り上がることもありますが、こちらについては私たち医療スタッフの介入するとことでは無いので、家族会議案件になります。
作中の看護師さんが「妻が妊娠中に浮気して性感染症をもらってくるなんてクズ」と言った発言をしていますが…私も同じ女性として同感です。
5. オンコール
1巻の最後はオンコールについてです。
お産は24時間365日フル稼働なので、それに対応する産婦人科医が必ずいます。病院に寝泊まりして、分娩や救急対応などを行う”当直医”の他、帝王切開など「複数の医師」が必要な時に呼び出しを受けるのが”オンコール”になります。
個人的にはオンコールが1番ストレスかもしれません。
自宅で寝ている時も、外食している時も、お風呂に入っている時も、いつでも携帯を肌身離さず持ち歩いて、緊急時の連絡に備えます。
1分1秒を争うような時は病院までタクシーを飛ばしたり、場合によっては猛ダッシュすることもあります。
出産は病気ではない。
コウノドリBONUS TRACKより
だから患者もその家族も安全だと思い込んでいる。
小さな命が助かる時もあれば、助けられない時もある。
100%安全なんてあり得ない。それが出産。
確かに正常な出産に産科医って必要ないんですよね。
分娩の時も、基本的にはずっと助産師さんが付き添って、私たち産婦人科医は赤ちゃんが産まれる直前にヒョコっと登場して終わりです。
ただ、出産は赤ちゃんが産声をあげるまで何が起きるか分かりません。
出産で頻出する”イレギュラー”に、早急に対応するために私たちは存在するのです。
今日はコウノドリ1巻を読んでみました。
何度読んでも良い本ですね。1巻なのでなかなか派手でキャッチーな症例が多かった印象ですが、みなさまが嫌でなければ、2巻以降もマイペースに記事にしていければなと思います。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。