不妊検査

不妊外来って何するの?〜不妊症の基礎知識〜

こんにちは、ゆきです。
産婦人科医として働いています。

今回は不妊症についてのお話です。
女性の社会進出や晩婚化の影響を受け、少子化が進んでいることはみなさんよくご存知かと思います。

それと共に不妊治療をする患者の数も増えていて、今では16人に1人が体外受精児です。また、不妊治療患者の高齢化も進んでいます。
不妊外来でどのようなことをするかを踏まえ、不妊症について簡単にお話します。

1. 不妊症ってなに?

日本では、1年間避妊せずに性生活をしても妊娠しなかった場合を「不妊」と定義しています。

不妊には様々な原因があり、女性側の要因も男性側の要因もあります。
例えば、①ホルモン異常によりうまく排卵できない、②卵管に癒着があって受精卵が通れない、③子宮に問題があってうまく着床できない、④子宮の入り口(頚管)に問題があって精子がうまく子宮の中に侵入できない、⑤精子の質や量に問題がある、等です。
勃起不全(ED)やセックスレスにより、性交渉ができない人も対象になります。

2. 不妊外来の流れ

不妊かもしれないと思ったら、産婦人科の外来に行ってみましょう。受診する前にあらかじめ、不妊症についてどこまで扱っているかを聞いておくと良いでしょう。というのも、不妊外来では特殊な検査・処置がたくさんあるからです。

ゆき

ここから先に書く不妊外来の流れは、あくまでも私のいる施設を参考にまとめたものです。方法が異なる病院もあるとは思いますが、大体の流れを把握してもらえればOKです。

私たち産婦人科医は、不妊相談の患者さんがいらっしゃった時、まず不妊の原因となるものは何なのかを調べる検査をアレンジしていきます。

不妊外来の検査で特徴的なのが、生理周期によってどの検査をどの時期にやらなければならないかが明確に決まっていることです。
つまり、1回の受診で全ての検査をすることはできず、一番早くても全ての結果が出揃うまでに1ヶ月かかるんです。

1. 初回外来の基本的な検査

①問診

まずは問診です。

  • 月経周期は規則的か
  • 月経症状は強くないか(痛みの程度や経血量は?)
  • いつから妊活をしているか
  • どのくらいタイミングを取っているか
  • 基礎体温は測っているか
  • 排卵検査薬は使ったことがあるか
  • 不妊の原因として心当たりはあるか 等

このような質問をもとに、今までの月経歴・妊活歴について調査します。
例えば数多くタイミングをとっていたとしても、全く検討外れの時期だったら妊娠する可能性は低いかもしれません。
また、タイミングをとることができない理由(単身赴任、遠距離、ED等)があるかもしれません。
単に不妊期間の長さだけではなく、患者さん毎の事情によっても治療方針が異なってきますので、産婦人科医としては、最初に把握しておきたいところです。

②基礎体温表のチェック

不妊外来を受診するまでに患者さんに出来ればやっておいてもらいたいのが、「基礎体温測定を行い、体温を記入した表(グラフ)を持ってきてもらう」ことです。今ではアプリも充実しています。
基礎体温測定によって排卵の有無やホルモン状態が大まかに予測できますので、非常に有用な情報源になります。

基礎体温は、必ず婦人科体温計を購入し、決められた通りの方法で測定してください。外来を受診する前に自己的に行えるものですし、1ヶ月単位の推移をみて判断するものなので、積み重ねが大切です。
自分も経験があるのでその面倒くささは百も承知なのですが、頑張って継続しましょう。

③内診・経腟エコー

問診・基礎体温表のチェックが終わったら、内診台での診察にうつります。
子宮と卵巣の状態を確認し、子宮筋腫や卵巣嚢胞など、不妊の原因になり得る疾患がないかを評価します。

この診察で異常が見つかり、それが不妊に関与していると考えられる時は、MRI検査や子宮鏡検査などを追加して精査することがあります。

④子宮頚がん検査・クラミジア検査

内診台での診察時に、子宮頚がん検査やクラミジア検査を採取することが多いです。どちらも綿棒のようなもので子宮の入り口付近から検体を採取します。クラミジアは血液検査で調べる方法もあります。

頚がん検査は不妊治療をする前のスクリーニング検査として行います。もし異常があった場合に介入が遅くなることを避けるためです。

クラミジア検査は卵管性不妊症の有無を評価するための1つの指標として行います。卵管が閉塞して卵が通れない”卵管性不妊症”の約半数は、クラミジア感染症が原因と言われているんです。
クラミジアが陽性であった場合、治癒するまでは不妊治療ができません。しかし抗生剤を1日内服するだけで治療が可能です。パートナーと一緒にしっかり治療してから、妊活に臨みましょう。

2. いつでも行える検査

①採血

いつでも行える採血項目として、次の3種類があります。
タイミングはご自身の予定を考慮した上で、担当医に任せましょう。ただ、「なんでこの検査をしているのか」ということを理解しておくと、結果がより理解しやすいと思います。

(1) 甲状腺機能検査
甲状腺機能障害は排卵障害の原因になると言われています。甲状腺を刺激するホルモン(TSH)や、甲状腺から分泌されているホルモン(FT3, FT4)などを調べ、必要時は内服治療を行います。

(2) 空腹時血糖測定
糖尿病も排卵障害の原因の1つです。自覚症状がないことも多いので、空腹時の採血を行い、糖尿病の有無やインスリン抵抗性の有無を調べます。

(3) AMH(抗ミュラー管ホルモン)
卵巣の予備能を反映するものとして、AMHという採血項目を追加する場合があります。これは保険が利かず、自費診療になります(大体5000円くらい)ので、施行していない病院もあるでしょう。今自分の卵巣の中にどれくらい卵胞が残っているかの大まかな目安になりますが、AMH=妊娠率というわけではないので、注意が必要です。

②精液検査

検査当日に精液を採取してもらい、精子の形や数・量・動きを顕微鏡下に確かめる検査です。その当日のコンディションによっても左右される検査ではあるので、旦那さんの予定を聞いて日程を調整します。禁欲期間や採取時間にも決まりがあります。

2. 月経3〜5日目に行う検査

月経3〜5日目にホルモン検査(採血)を行います。
この検査では、卵胞を成熟させるFSH、排卵を促すLH、排卵を抑えるプロラクチンなどの値を調べます。
私たち産婦人科医は、この採血のことを「基礎値(basal採血)」などと呼んでおり、不妊の治療方法を選択する上でも1つの重要な要素になります。

月経3〜5日目の検査はこれだけです。
わざわざこの採血だけをしに病院に来るのも大変だと思うので、不妊外来の初診日を月経3〜5日目に合わせると検査が一気にできて理想的かもしれません。

3. 月経7〜10日目に行う検査

①子宮卵管造影

子宮の中に造影剤を注入し、子宮の奇形がないか、両側卵管の通過が問題ないかを確認します。また検査後しばらくしてからお腹のレントゲンを撮像し、骨盤内に癒着がないかも確かめます。

卵管に癒着があったりすると、痛みを伴います。全く痛みがない人もいますが、激痛を訴えられる人もいる検査になります。
しかし、造影剤を通すことで卵管の癒着が解除できる可能性があるので、治療的意味も含んだ検査として、痛がる人こそ頑張って行ってもらっています。

そんなわけで、子宮卵管造影検査の後は妊娠しやすいとされます。この検査を施行した排卵周期では、積極的にタイミングをとっても良いのかなと思います。

②子宮鏡検査

全員ではありませんが、初診時のエコーで子宮の中にポリープや筋腫などの病変が疑われた場合、子宮鏡検査を行って精査します。
着床障害の原因となる慢性子宮内膜炎がないかを調べることもあります。

4. 排卵直前にやる検査

①ヒューナーテスト

子宮の入り口が精子を受け入れる状態になっているのかを調べるために、排卵直前にタイミングをとってもらい、子宮頚管粘液の状態と精子の通過性を確かめます。
この検査の結果は、自然妊娠が望めるのか、人工授精以上の介入が必要なのかを判断するために重要になります。結果が思わしくなかった場合、2-3回受けてもらう可能性がありますが、一度でも良好な結果が出れば心配はありません。

②超音波卵胞計測

超音波で卵胞の大きさを確認します。
大体20mm前後で排卵になることがわかっているため、超音波での卵胞の大きさから、タイミングをとってもらう日時を見極め、指示しています。

5. 排卵後にやる検査

受精卵が着床しやすい状態を作り、妊娠の準備をするホルモンの分泌量などを採血で評価します。低値であった場合、そのホルモンを補うような治療を行う可能性があります。

これで一通りの検査が終わりました。
丸1ヶ月かけて調べるんです。適切なタイミングでの外来受診が困難な場合は、次周期に持ち越しになるので、スクリーニング検査を一通りこなすだけでも結構大変です。

3. 一般的な治療の流れ

不妊治療には様々なステップがあります。
適切な時期に適切な検査を行い、適切な介入を行うのが重要です。

年齢にもよりますが、まずはタイミング療法からスタートし、必要に応じて排卵誘発剤を併用します。タイミング療法を複数回行っても妊娠が成立しなかったら、人工授精にステップアップし、それでもダメなら体外受精に移行するというのが一般的です。

治療を行っている間の基礎体温や卵胞発育の様子、併存疾患の有無などを見て、それぞれにあった治療を選択しています。
明確な正解があるわけではないので、病院によっても多少治療方法に差が出るのも面白いところです。

今回は不妊外来の流れについてお話ししました。
それぞれの検査についての詳しいところは、また改めて別の記事にしたいと思っていますので、待っていてもらえると嬉しいです。

不妊治療を行う人が増えている昨今、外来をやりながら自分も人ごとじゃないな…と考える日々です。年齢が若くても受診されている方も多いですし、もちろん高齢の方も多数いらっしゃいます。
不妊外来の流れを理解し、「まずは基礎体温でも付けてみようかな」と思ってくれる人が1人でもいれば本望です。

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ABOUT ME
ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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