こんにちは、そらです。東大医学部を卒業し、現在は医師・医学研究者として働いています。
皆さんは、一定数の医師が大学院に進学することをご存知でしょうか?
一時期メディアで取り上げられていた「無給医」絡みで、大学院生の存在をなんとなく知っているという方もいらっしゃるかもしれませんね。
ですが、実際の大学院生の生活を知っているという方は多くないのではないでしょうか?
そこで今回は、大学院に進学する医師の生活について解説しようと思います。医局や研究室によってかなり違いはあると思いますが、一つの例として参考にして頂ければ幸いです。
目次
1. 医師が進学する大学院(博士課程)とは?
医学生の大部分は、6年制の医学部を卒業した後に医師免許を取得して医師になります。
最初の2年間は卒後臨床研修を行います。数ヶ月単位で様々な診療科をローテートし、医師としての必要な基本知識や技能を取得します。
初期研修修了後は、それぞれの診療科に進み、後期研修医として研鑽を積みます。
一定数の医師は、後期研修中、ないしは後期研修後に大学院(博士課程)に進学し、医学博士を取得を目指します。
進学する年次は診療科や医局によってまちまちです。医学博士を取得するには、通常のケースだと4年間大学院に通う必要があります。
大学院では研究活動を行います。細胞やマウスを使って実験を行うような基礎研究をする人もいれば、臨床データを用いて解析を行う人もおり、様々です。
大学院のカリキュラムには、基礎講座の先生方の講義や実習、研究する上で必要な各指針に関する講義やデータセキュリティー、医学統計や論文執筆に関する授業などもあり、卒業までに必要な単位数を取得します。ですが、学部時代に比べると、講義や実習に割く時間は非常に少なく、大部分は研究活動に費やされます。
卒業条件は大学によって様々です。英語論文を○本以上出さなくてはいけないという大学もあれば、数人の教授の前で研究成果をプレゼンテーションし、質疑応答をこなし、卒業に値すると認められればOKという大学もあるようです。
ここから先は、具体的な大学院生の生活についてお話しします。
2. 平日の過ごし方
1. 研究日
平日の多くは、研究室で研究を行います。どれくらい研究日を取れるかについては、医局によってまちまちです。私の場合は平日のうち約4日間は基礎研究室に通って研究を行っていましたが、周りには2日や3日という人もいました。
私の研究室ではコアタイムが9:00-17:00と決まっているので、その間は研究室で研究を行います。17時以降は自由ですが、残って研究している人が多いです。毎日23~24時くらいまでは誰かしら研究室にいることが多いです。
研究室の全体イベントとしては、週1回の全体ミーティングと研究報告会、そして輪読会がありました。研究報告会は毎週数名が割り当てられ、研究成果を発表して議論します。輪読会も同様に毎週数名が割り当てられ、最新の論文の内容を分かりやすく説明し、知識の共有を行います。
大学院生は大学に授業料(私の場合は年間50万円程度)を収める一方で、研究活動に対してはほとんど対価は支払われません。そのため、学振などの奨学金を獲得しない限りは、ほぼ無報酬で働くことになります。
(ただし、学振には副業規定があり、医師としての仕事が制限させるため、学振を取らずに臨床業務で生計を立てる先生も少なくないです)
大学院生の生活を他業界の友人に話すと驚かれることもあるのですが、医者の世界ではよく聞く話です。
2. 臨床業務
研究日以外の日は、臨床業務を行うケースが多いです。私の場合は医局から派遣されて、関連病院で働いていました。
総合病院で働くケースもあれば、医局のOBの先生のクリニックで外来をしたり、介護老人保健施設で診察を行ったり、検診の問診や診察を行ったりなど、本当に様々です。
医局の指示で、大学病院内で外来や当直を行うケースもあります。昔の慣習からか、大学院生に無休ないしは薄給で労働を求める大学病院もあるようです。
一時期「無給医」として多くのメディアで取り上げられていたので、聞いたことがある方もいらっしゃるかも知れません。
たまに非医療従事者の方から、「無給医」って本当にいるの?と聞かれることがありますが、実際に私の周りにもいました。
大学病院での無給労働以外に外勤での収入があればまだ生活ができますが、新型コロナウイルスの関係で外勤が制限されてしまうと、生活がかなり厳しくなってしまいます。
3. 土日の過ごし方
1. 研究
土日は基本的にフリーですが、研究室に行くことも多いです。周りの大学院生のスタンスは人によってまちまちですが、私の所属する研究室では半数くらいの方は来ていました。教授を含むスタッフの先生方も、土日のどちらかは研究室にいらっしゃっていることが多かったです。
2. 臨床業務
土日に仕事をしている先生もいらっしゃいます。医局に所属している先生の中には、大学病院で働いたり、医局の関連病院に交代で勤務している方もいらっしゃいました。
人によっては、土曜日の夕方から月曜日の朝まで連続で勤務させているケースもあります。比較的仕事の少ない病院であれば良いですが、忙しい病院ですと体力的にかなりしんどいと思います。
3. オフ
研究の場合は比較的自由に予定を立てられるので、まとまった時間をとって家族サービスをしている先生もいらっしゃいました。私の場合も土日に講義や研修を受けたり、好きな本を読んだり、遠出したりなど、比較的自由に時間を使っていました。
4. 後期研修医の生活との比較
1. 時間をコントロールしやすい
研究生活も臨床業務もどちらも大変ではありますが、研究の方が比較的自分で時間をコントロールすることができます。そのため、私の場合は一人で考え事をしたり、家族と過ごしたりする時間が増えました。
自分の人生を見つめ直したり、まとまった時間を作って新しいことを勉強したりすることもできました。
私は予定がキツキツになると周りが見えなくなったり、目の前のことしか考えられなくなるので、早めのタイミングでまとまった時間を作ることができたのは良かったと思っています。
2. 収入は人それぞれ
周りを見ていると、大学院時代の収入は人それぞれのように思います。非常勤勤務や当直業務などをうまく組み込んでいる先生を見ていると、週数日間の勤務で常勤医と同じくらいの給料をもらっているケースもあるようです。一方で、大学での無給ないしは薄給労働を行っている先生の中には、貯金を切り崩しているというケースもあるようです。
収入が全てとは思いませんが、安定した生活が担保できないと精神衛生上良くないので、大学院への進学を検討している先生は、医局の先輩に情報を聞いてみると良いと思います。
3. まとまった時間を新しい分野の学習や研究活動、論文執筆に費やせる
臨床業務をしていた頃は日々の業務の後に文献検索や論文執筆をしていました。その時期に比べると、大学院時代はまとまった時間を研究活動にさくことができると思います。
特に研究成果を学会で発表したり、研究成果を元に奨学金や研究費の申請を行ったり、様々な活動ができます。研究室にもよると思いますが、プレゼンテーションの仕方や論文精読の仕方、科学的な思考方法について学ぶことができるかも知れません。
研究活動への興味は人それぞれなので、必ずしも全員が大学院に進む必要はないと思いますが、まとまった時間を研究のトレーニングに使うこともできるので、ぜひ検討してみてください。
本日は、私の大学院生の頃の生活を書いてみました。いかがでしたでしょうか。
医局や研究室によってかなり違いがあるかとは思いますので、進学を検討している方は色々な先生にお話を聞いてみるのが良いと思います。
少しでも、医学生や研修医の方の参考になれば幸いです。
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