前回・前々回と、妊娠初期・妊娠中後期に気になる質問集をまとめていきました。
今回はその最終章。”分娩”について気になることについて解説します。
それに伴い、分娩する病院をどのようなポイントで選んでいくべきか、私なりの見解をお伝え出来ればと思います。
目次
1. 会陰切開はどういう時にするの?
会陰切開ってどういう時にするんですか?会陰マッサージは有効ですか?
会陰切開は必要な時に行います。会陰マッサージはある程度有効だと思います。
会陰切開をいれるタイミングは、ざっと分けると下記の2つになります。
- 早く分娩にしたい
- 会陰切開を入れなくても大きな傷が出来そう
赤ちゃんに具合悪いサインが出ていたり、お母さん側の合併症が悪化していたりと、分娩時間を出来るだけ短くすることが1つの役割です。会陰切開を入れる分、数回のいきみを省略できるからです。
また、初産婦さんや会陰の浮腫みが強い人など、何もしないと会陰が大きく切れてしまいそうな場合は、あらかじめ切開を入れておいた方が結果的に傷が小さく綺麗になるので良い、と判断して処置をする場合もあります。
会陰マッサージをすれば確実に会陰切開が予防出来るわけではありませんが、ある程度有効です。行うことをお勧めします。
2. 誘発剤・促進剤を使うことが不安
誘発剤を使うと自閉症のリスクが増えるって聞いたんですが…?
現時点で因果関係は証明されていません。子宮収縮薬は必要な時に使います。
基本的には気にしなくて大丈夫です。
その研究結果では、子宮収縮薬が自閉症の原因であるという直接的な結果が出ているわけではありません。
関連するその他の因子、例えば高齢出産や早産などのリスクが自閉症に関与している可能性があるかも、と推察しており、今後の追研究が待たれます。
子宮収縮薬は、分娩が進行しない時や出来るだけ早めに分娩にしたい時など、分娩誘発・陣痛促進が必要な場面で使用します。臨床現場でも使用頻度は高いです。
3. 鉗子・吸引遂娩ってどういう手技?
鉗子分娩と吸引分娩って何?どう使い分けるのですか?
鉗子分娩と吸引分娩は牽引の方法が異なります。
赤ちゃんの頭の位置・向き・産瘤の有無などでどちらにするか決めています。術者の慣れている方を選ぶ場合も多いです。
鉗子分娩は赤ちゃんのこめかみのあたりを金属の器械で挟んで引っ張って分娩とするもの、吸引分娩は赤ちゃんの頭にカップを当てて、陰圧をかけて引っ張って分娩とするものです。
鉗子分娩の方が牽引力は強い上、赤ちゃんの負担も少ない傾向にありますが、お母さん側の傷が大きくなってしまいやすいデメリットがあります。
術者によっては鉗子分娩をやった経験が少ない人もいるので、その場合は吸引分娩を選択します。
4. 帝王切開での皮膚切開は縦?横?
帝王切開の皮膚切開って縦・横どちらが良いのですか?
速さ・視野の広さ・反復帝王切開時のやりやすさは縦切開に軍配が上がります。横切開のメリットは美容面です。
両者のメリットを下記に挙げます。
①縦切開:速い、視野がとりやすい、次の分娩時に帝王切開がしやすい、別の疾患で手術をする時に同じ傷を使える
②横切開:傷が目立ちにくい、傷が治りやすい
簡単に言えば、美容面を除けば縦切開の方が良いです。速いですし、視野も広いし、次の手術時もやりやすいですし。
「速さ」というメリットをもって、緊急帝王切開時は縦切開にする症例も多いと思います。また「視野の取りやすさ」をもって、出血が多くなりそうな症例では縦切開を選ぶでしょう。
ただ、妊婦さんという若い女性のお腹に傷をつける以上、綺麗に治って欲しいという心情もあります。横切開であれば皮膚のシワに沿って傷を入れるので治りやすく、更に下着などでも隠しやすいので、美容面でのメリットは大きいです。
皮膚切開を縦にするか横にするかは、その症例のリスクや患者さんの希望に応じて選択しています。
5. 新生児仮死の時の対応は?
生まれた直後に赤ちゃんがなかなか泣かず、蘇生をしてもらっていました。あの時って何をしていたんでしょう?
赤ちゃんの蘇生のポイントは「呼吸」です。
アプガースコアという客観的指標があり、7点以上であれば正常、それ以下であれば「新生児仮死」という診断になります。
赤ちゃんの蘇生が必要な場面では、赤ちゃんの呼吸に主軸を置いて治療をしています。成人の蘇生と異なり、呼吸さえサポートしてあげれば状態が立ち上がってくることが多いのです。
6. 分娩時にどのくらい出血したら異常?
経腟分娩で1200mL出血しました。私の出血量って多かったんでしょうか?
経腟分娩の平均は500mL程度なので、結構多い方です。
経腟分娩の出血量の目安は500mL、帝王切開の場合は1000mL程度です。
その2倍でたら多いなという印象。
その3倍でたら身体の中の血液凝固バランスが崩れるDICに至る可能性がある、という緊急事態をイメージしていると良いかと思います。
分娩時は出血量が多くなりやすく、時に異常な「産科危機的出血」に至ることもあります。
そのため、お時間のある時に献血へのご協力もお願いします。あなたの献血が、妊産婦さんを救う輸血の一助になるかもしれません。
7. 無痛分娩についてどう思う?
無痛分娩について迷っています。どう思いますか?
無痛分娩のメリットは多いですが、リスクもあります。それを理解した上で選択するのであれば良いと思います。
分娩は間違いなく激痛ですから、その痛みを緩和出来る無痛分娩はとても偉大だと思います。しかし欧米で広く普及している一方で、日本ではまだ数%程度の普及率です。
無痛分娩は母体にとってのメリットは大きいと思います。しかし、産科管理におけるデメリットもあります。何も問題なく出産できれば両者ともハッピーで終わりますが、何らかの合併症が生じた場合は、後悔してもしきれない可能性があります。
リスクがあることだけは、妊婦さん側も把握しておいてもらいたいなというのが1つの意見です。詳細は下記の記事を見てみて下さい。
無痛分娩についてより詳しく知りたいという方は、日本産科麻酔学会のHPを参考にしてみてください。
8. TOLACや双胎/骨盤位の経腟分娩についてどう思う?
TOLACについてどう思いますか?やはり経腟分娩への憧れがあります。
TOLACは環境・条件が整っているのなら選択肢としてアリだと思います。
TOLACとは、前回帝王切開だった人が次の分娩で経腟分娩を選択することです。前回の術式や病院施設の環境など、TOLACを試みることができる状況であれば試すのもアリかと思います。
また双子の経腟分娩や、経産婦さんの骨盤位分娩なども同様です。それに対応できる産婦人科医と、施設環境さえあれば選択肢には挙がると思います。
赤ちゃんの安全面を取れば選択的帝王切開で良いと思いますが、血栓リスクや母体の合併症など、帝王切開を避けるメリットもあります。症例毎に検討していますので、気軽に相談して良いんですよ。
9. 分娩直後に起きうる緊急疾患
分娩直後に起きる緊急事態ってどういうのがあるのですか?
色々ありますが、冷や汗が出るのは「肩甲難産」「産科危機的出血」「子癇発作」「羊水塞栓症」などです。
出産時は色々なことが起き得ます。また、お産直後に発症する可能性のある疾患もあるため、気が抜けません。
だからこそ、出産って本当に奇跡だなあと思うのです。
それぞれの疾患の詳細は、下記の記事を参考にしてみて下さい。
10. 病院選びのポイント
出産する病院を決めるにあたり、まずは次のポイントについて考えてみましょう。
- 無痛分娩を希望する?
- 里帰り出産を希望する?
- 母体の既往で何かリスクはある?
- 産科的なリスクはある(胎盤位置・多胎など)?
- 初産?経産?
- 35歳以上の高齢出産?
- 分娩費用の予算は?
- 食事は重視する?
- 家から病院までの距離は?
- 夜間・早朝などの救急対応は?
個人的に⑨⑩は必須です。
上記を踏まえて、例えば「高齢初産」「産科リスクあり」など、リスクが高めの人に対しては、NICUを完備した周産期施設をお勧めします。
そういった病院であれば、夜間などの救急対応もスムーズでしょうし、分娩時に大量出血するようなことがあっても、輸血のストックも多く安心だからです。
一方、何もリスクがなく、出来るだけ優雅にお産を楽しみたいという人に対しては、食事や分娩費用を鑑みた分娩病院を選ぶのも選択肢です。
最終的には、個人が「何を重視するのか」が重要です。
自分だったら?と言われたら、少なくとも初めての出産時は、安全面を重視して高次病院を選ぶかなと思います。
今回で妊娠初期〜分娩までのQ&Aをまとめていきました。いかがだったでしょうか。
これからも質問箱を活発に活用し、妊産婦さんたちの悩みを少しでも解消できればと思います。
「これも確かに大切だな」と思った質問は、適宜更新して付け加えていく予定です。
これからもゆきぞらブログを宜しくお願いします。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。