婦人科疾患悪性シリーズ。前回の子宮体癌に続いて第2段。
今回は「子宮頸癌」について詳しく解説していこうと思います。
目次
1. 子宮頸癌のリスク因子
子宮頸癌のリスク因子として最も重要なものに、ヒトパピローマウイルス(HPV; human papilloma virus)があります。
子宮頸部の細胞にHPVが持続感染することにより、前癌病変の子宮頸部異形成(CIN1〜CIN3)を経て、子宮頸癌が発症します。
だからこそ、HPVの感染を予防することを目的に、性交渉時のコンドームの使用や、HPVワクチン接種が推奨されているわけです。
HPVワクチンの効果を最大限にするためには、初交前の10〜14歳時に接種することが重要です。
また、その他のリスク因子としては、次のようなものが挙げられます。
- 喫煙
- 初交年齢が低い
- 性交パートナーの数が多い
- 経口避妊薬の長期使用
- クラミジア感染
特に喫煙は子宮頸癌の発症リスクを1.5倍にすると報告されています。
2. 代表的な症状・診断
1. 症状は?
子宮頸癌は初期の段階では無症状のことが多いです。
だからこそ、検診によるスクリーニングの重要性が示唆されており、20歳以上の女性には2年に1回の婦人科検診の受診を強く推奨しています。
癌が進行すると、
- 性交時の出血
- 不正出血
- 帯下異常(おりものの異常)
など性器出血が認められるようになり、更に進行すると
- 血尿
- 下血(腸からの出血)
- 排尿・排便異常
- 腰痛
- 神経症状
など、子宮の近くに位置する膀胱や直腸などの症状が出現してきます。
少しでもあれ?という症状はある場合は、早めに産婦人科を受診しましょう。
2. 診断は?
まずは内診台で肉眼的に腫瘍が見えるかを確認します。
肉眼的に腫瘍が確認できる時は、組織の一部を生検として採取し、病理学的に診断します。
また、経腟超音波検査、骨盤部MRI検査・造影CT検査・PET-CT検査などの画像検査も駆使し、腫瘍がどれくらいの大きさなのか、遠隔転移があるのかなどを調べます。
ごく初期の子宮頸癌の場合は、診断的治療として円錐切除術を行うこともあります。
腫瘍マーカーとしては、SCCという扁平上皮癌のマーカーが上昇していることが多いですが、例外もあります。
3. 進行期分類(Stage)
子宮頸癌の進行期分類は、治療法の選択や予後の推定の基本になります。
- ⅠA期:組織学的に微小浸潤癌
- ⅠB期:子宮頸部に限局
- ⅡA期:腟壁下1/3には達しない
- ⅡB期:子宮傍組織に浸潤
- ⅢA期:腟壁下1/3を侵している
- ⅢB期:骨盤壁まで浸潤、水腎症か無機能腎
- ⅣA期:膀胱直腸の粘膜に浸潤
- ⅣB期:遠隔転移
簡単に解説していきますね。
ⅠA期
ⅠA期とは、「目では見えない」子宮頸癌を指します。病理組織学的にのみ診断できる浸潤癌とされ、肉眼的に視認できたり、画像診断で描出されたりする腫瘍はⅠB期以上になります。
ⅠA期の中でも、
・間質浸潤の深さが3mm以内かつ広がりが7mmを超えない→ⅠA1期
・深さが3mmを超えるが5mm以内で、広がりが7mmを超えない→ⅠA2期
と細かく区分がなされます。
ⅠB期
臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局して存在するものをⅠB期と言います。
・深さ5mm以上かつ病巣が2cm以下→ⅠB1期
・病巣が2cmを超えて4cm以下→ⅠB2期
・病巣が4cmを超える→ⅠB3期
深さや病変の大きさによって、このように分けられています。
Ⅱ期
Ⅱ期は病変が子宮頸部を越えて広がっているが、骨盤壁または腟壁の下1/3には達していないものになります。
ⅡA期は「腟壁浸潤が認められるが、子宮傍組織浸潤は認められない」もので、ⅡB期は「子宮傍組織浸潤が認められるもの」です。
“A”は縦方向の浸潤、”B”は横方向の浸潤と考えてもらえればわかりやすいかもしれません。
・腟壁浸潤あり/子宮傍組織浸潤なし+病巣4cm以下→ⅡA1期
・腟壁浸潤あり/子宮傍組織浸潤なし+病巣4cmを超える→ⅡA2期
・子宮傍組織浸潤あり→ⅡB期
です。
Ⅲ期
Ⅲ期は癌が骨盤壁にまで浸潤していたり、腟壁の下1/3まで達しているものを言います。また水腎症や無機能腎など、尿路系への影響をもたらしている場合もⅢ期と診断します。
Ⅱ期と同様、”A”は縦方向の浸潤、”B”は横方向の浸潤の法則に則り、
・腟壁浸潤が下1/3に達するが骨盤壁には達しない→ⅢA期
・骨盤壁にまで癌が浸潤している→ⅢB期
です。
さらに新しい分類(FIGO2018)では、
・骨盤リンパ節への転移がある→ⅢC1期
・傍大動脈リンパ節への転移がある→ⅢC2期
が追加されています。
Ⅳ期
最も癌が進行しているⅣ期は、他臓器への浸潤・転移が認められます。
・膀胱や直腸粘膜への浸潤があるもの→ⅣA期
・小骨盤腔を越えて広がりがある→ⅣB期
です。
4. 子宮頸癌の治療
子宮頸癌の治療には、手術・化学療法・放射線治療があります。
ただ、手術はStageⅡ期までの症例に限られます。それ以上進行している場合は手術は不可能です。
また、化学療法と放射線治療を同時に行う「同時化学放射線療法(CCRT)」が選択されることも多いです。
各Stage毎にみていきましょう。
ⅠA期
ⅠA1期かつ脈管侵襲が陰性の場合は、単純子宮全摘術といういわゆる普通の子宮全摘術を行います。
一方でⅠA1期でも脈管侵襲が陽性の場合や、ⅠA2期の場合は、切除範囲を少し拡大する準広汎子宮全摘術と骨盤リンパ節郭清を行います。
放射線治療が選択されることもあります。
また施設は限られますが、妊孕性温存目的に、子宮の頸部だけを切除する広汎子宮頸部摘出術が試みられることもあります。
ⅠB〜ⅡB期
ⅠB期の場合は、さらに子宮の周囲を拡大して摘出する広汎子宮全摘術、同時化学放射線療法(CCRT)、放射線療法から治療が選択されます。
Ⅱ期の場合もⅠB期と同様です。
日本の手術の方が欧米より根治性が高い術式として発展してきているので、欧米では手術適応がないⅡB期に対しても、根治手術が約半数近くに行われているのです。
術前に化学療法を行い、病巣を縮小させる方策をとることもありますし、低侵襲手術として、腹腔鏡手術やロボット手術が行われることもあります。
症例毎に丁寧に検討して、治療方針を決定していきます。
Ⅲ・Ⅳ期
前述の通り、Ⅲ期以上では手術療法は行えません。
そのため、Ⅲ期・ⅣA期の場合はCCRTを選択します。
一方、ⅣB期になると根治を目的とした治療は望めないため、症状緩和を目的とした化学療法や放射線療法、BSC(ベスト・サポーティブ・ケア:積極的な治療は行わず、症状などを和らげる治療に徹すること)などが行われます。
5. 予後
各Stage毎の5年生存率は次の通りです。最も頻度が高い”扁平上皮癌”の場合について記載します。
- Ⅰ期:93.7%
- Ⅱ期:76.9%
- Ⅲ期:54.3%
- Ⅳ期:30.8%
子宮頸癌が20〜30歳代で発症することも多い癌であることを考慮すれば、この死亡率がいかに高いかがわかるかと思います。
私には、自分と同じ年齢の子宮頸癌の患者さんを、最期の時まで受け持った経験があります。その方には産まれたばかりのお子さんが居て、自分よりもずっとその子の心配をされていて。そんな姿が印象的でした。
抗癌剤や放射線治療を行いながら、母として必死に生きる後ろ姿を見て尊敬の念を抱きつつ、こんな若い人々の命を蝕む子宮頸癌とはなんと憎いものかと、悔しさで押し潰されそうになったのを思い出します。
子宮頸癌は、婦人科検診やHPVワクチンで予防が可能な癌でもあります。
悔しい思いを繰り返さないよう、ぜひ多くの人に予防の大切さを知ってもらいたいし、その普及に全力を尽くしたいと感じる日々です。
最後に、少しでも多くの方にこのブログをご覧いただけるよう、応援クリックよろしくお願いします!