頚管縫縮術は、頚管無力症の治療として用いられる術式です。
ただ、頚管無力症自体に明確な診断基準が設けられていないため、メリット・デメリットを鑑みて治療の必要性を判断していくことになります。
産科分野は結果論で語られることが多く、治療を行っている時はそれが本当に正しいのか否か、産婦人科医としても頭を悩ませることが多かったりします。
今日はそんな奥深さを少しでも垣間見てもらえたら嬉しいです。
目次
1. 頚管無力症って何?
頚管無力症
妊娠16週以後にみられる習慣流早産の原因のひとつ。外出血や子宮収縮などの切迫流早産徴候を自覚しないにもかかわらず子宮口が開大し、胎胞が形成されてくる状態。
頚管無力症は、お腹の張りが明らかでないにも関わらず、子宮の出入口が開き、子宮の頚管長が短縮する疾患です。
正常の子宮頚管の場合は、赤ちゃんが子宮の中で発育して子宮の内圧が上がっても、それを支えるだけの強度があります。
しかし頚管無力症の場合は、十分な強度がないため子宮の内圧上昇に耐えられず、子宮の出口が自然に開いてしまうのです。
頚管の開大がそのまま抑えられないと、それが前期破水や流産、早産などにつながります。
頚管無力症による流早産はしばしば反復するので、習慣流産の原因の1つに頚管無力症が挙げられます。
2. 頚管無力症は過去の妊娠歴から診断する
頚管無力症は、症状がないのに自然と子宮の出入り口が開いてくる疾患でした。つまり、診断する頃にはすでに頚管が開き、場合によっては赤ちゃんを包んでいる胎胞が視認できる状態になっています。
妊娠週数にもよりますが、すでに子宮頚管が開いてしまった場合の治療は難航する可能性が高いです。
抑えきれずに流産・早産となってしまう場合も多々あります。
また、前回の妊娠で頚管無力症なら今回の妊娠でも発症しやすいという特徴があります。
だからこそ、前回の妊娠で疑われるエピソードがあるような妊婦さんや、頚管無力症のリスクが高いと考えられる妊婦さんに対しては、妊娠早期から適切にフォローし、適切なタイミングで介入することが重要なのです。
3. 予防的&治療的〜2種類の頚管縫縮術〜
そんな訳で、子宮頚管無力症の治療法である「頚管縫縮術」には2つのパターンあります。
- 予防的頚管縫縮術:前回の妊娠で頚管無力症を疑う
→”妊娠12〜14週頃”に予定手術を行う - 治療的頚管縫縮術:今回の妊娠で頚管無力症を疑う
→”発症時”に緊急手術を行う
1. 予防的頚管縫縮術
予防的頚管縫縮術の主な適応は、前回妊娠時に頚管無力症と診断された症例です。また、自然早産の既往(特に妊娠34週未満)を有し、妊娠24週未満で頚管長が25mm未満になった症例でも対象となり得ます。
また、予防的頚管縫縮術の確実な有用性は報告されていないものの、円錐切除後妊娠で子宮頚部を大きく切り取っている症例や、品胎(三つ子)以上の多胎妊娠などでも考慮されます。
手術時期として適当とされる時期は”妊娠12週以降のなるべく早期“です。
妊娠初期では流産のリスクが高いこと、さらに16週以降では治療前に頚管無力症が発症してしまう症例があることを考慮した期間になっています。
- 腟や子宮頚管に感染を起こしている症例
- すでに破水している症例
- 明らかな子宮収縮が存在する症例
一方、上記のような症例では予防的頚管縫縮術は施行してはいけません。
そのため、術前に採血をして炎症反応が上がっていないかを調べたり、発熱がないか、子宮収縮がないかなどを確認しておくのです。
術後の合併症としては、絨毛膜羊膜炎や前期破水が挙げられます。
術後にお腹が張ることも多いので、子宮収縮抑制薬(=張り止め)を用いたり、感染予防のために抗菌薬の投与を行ったりします。
2. 治療的頚管縫縮術
治療的頚管縫縮術は、いわゆる緊急で行う頚管縫縮術です。
一般的に妊娠24週未満で明らかな子宮収縮を認めないにもかかわらず、子宮口開大もしくは胎胞が露見されるような症例が対象です。
胎胞が見えるような症例に対して、手術を行うか否かの判断はかなり難しいものとなるので、妊娠週数・赤ちゃんの推定体重・破水や感染の有無などを考慮して患者さんと十分に相談して決めます。
治療方針としては、
- 保存的に経過をみる
- 保存的に数日間経過をみた後、頚管縫縮術を行う
- 直ちに頚管縫縮術を行う
の3つが考えられますが、注意するべきは術後の合併症(前期破水、流早産、絨毛膜羊膜炎など)の頻度が、予防的頚管縫縮術よりも明らかに高くなってしまうということです。
手術による合併症のリスクと、このまま経過観察することによって流早産が進行してしまうリスクを天秤にかけて判断する必要があります。
4. Shirodkar法 vs McDonald法
頚管縫縮術は、シロッカー(Shirodkar)法とマクドナルド(McDonald)法の2種類に大別されます。
どちらも経腟的な操作で子宮頚部をしばる手術ですが、縫合部の位置が異なります。
上のイラストの通り、Shirodkar法の方がMcDonald法よりも子宮の頭側でしばる術式になっています。
理論上、縫縮部位が頭側である方が有効と考えられますが、手術としてはShirodkar法の方がやや難易度が高く、特に胎胞が出ている症例などでは手技的に困難なこともあります。
Shirodkar法とMcDonald法を比較した研究でも、その有効性に有意差が認められていないことから、
可能な限りShirodkar法→難しいようならMcDonald法
としている施設が多いのではないかと思います。
また経腟操作ではなく、開腹下あるいは腹腔鏡下に、更に頭側で縫合する手術が行われる場合もありますが、経腟的な手術よりも身体への侵襲は高いです。
5. 頚管縫縮術 vs 慎重な経過観察
前述の通り、頚管縫縮術にはリスクや合併症があります。
「早産高リスク群に対する頚管縫縮術に関して、頚管縫縮術は早産を減少させるが、周産期死亡率や新生児死亡率までは改善せず、帝王切開率を上昇させる」という報告もあります。
積極的に手術をした方が良いのか、慎重に経過を見た方が良いのか、その結論がわかるのは分娩時になります。絶対的な正解がないからこそ、個々の症例に応じて何が1番ベストな選択なのかを判断し、患者さんと情報共有しながら決断を下すべきであると考えられます。
6. 分娩前に抜管が必要
頚管縫縮術を施行した症例では、妊娠経過が良好であれば、しばっていた糸を次の時期に抜管します。
縫縮糸の抜管時期
・経腟分娩予定:妊娠36週頃
・帝王切開予定:手術直前
陣痛・破水後は子宮の出口が柔らかく短くなり、抜管が難しくなってしまうため、必ずその前に処置をします。
また、抜管によってお腹が張ったり破水したりすることもあるので、陣痛・破水が起きても対応できる時期に行っています。
妊娠期間中、必死に赤ちゃんを支えてくれた糸にお別れをして、分娩の時を待つのです。
頚管無力症と頚管縫縮術についてまとめてみました。
いかがだったでしょうか。
治療方針の正解が分からないからこそ、非常に治療方針に悩みます。
何が妊婦さんと赤ちゃんにとってのベストなのかを模索する日々です。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。