質問箱で、ピルに関する質問をたくさん頂きました。ピルは含有しているホルモンの種類や量によって、様々な薬が発売されています。
未だにピルに対する誤解も多かったりするので、この機に徹底的に解説してみようと思います。”いやいや、そんな詳しい解説は要らないよ!”って人は、目次から「5. ピルのメリット・デメリット」までスキップして読んでみて下さい。
目次
1. エストロゲンとプロゲステロン
以前、月経の基本について次の記事を書きました。
この中で、月経に関わる2つのホルモンとして「エストロゲン」と「プロゲステロン」を紹介しています。エストロゲンで子宮の内膜を徐々に厚くし、プロゲステロンで受精卵が着床するのに適した環境を作っているのでした。
ピルはこの2つのホルモンを配合した「エストロゲン・プロゲスチン配合薬」で、ホルモンの量や種類によって色々な商品があります。少し踏み入った内容になりますが、まずはこのホルモンの種類について掘り下げてみようと思います。
1. エストロゲン
エストロゲン(卵胞ホルモン)にはE1〜E3の3種類があります。
- E1:エストロン
- E2:エストラジオール
- E3:エストリオール
最もエストロゲンの活性が強いのがE2です。生物学的活性比はE1:E2:E3=10:100:1とされます。
ピルに含まれているのはE2の”エチニルエストラジオール”です。
2. プロゲスチン
一方のプロゲスチンも、開発された順序にしたがって4つの世代に分けられます。それぞれの世代で性質が少しずつ異なるのが特徴的です。
- 第1世代:1960年代初期〜臨床で使用
ノルエチステロン(NET)など - 第2世代:プロゲステロン作用が強まったが、同時にアンドロゲン作用も増強
レボノルゲストレル(LNG)など - 第3世代:プロゲステロン作用が増強、アンドロゲン作用が軽減
デソゲストレル(DSG)など - 第4世代:アンドロゲン作用がなくなり、子宮内膜に対する抗アンドロゲン作用が追加
ドロスピレノン(DSPR), ジエノゲスト(DNG)など
ちなみに、アンドロゲンは男性ホルモンのことです。プロゲスチンはそれぞれの世代によってプロゲステロンの作用が異なるとともに、アンドロゲンの含有量も異なっているのです。
2. OCとLEP
・OC(oral contraceptive):低用量ピル
・LEP(low dose estrogen progestin):低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬
OCは避妊を、LEPは月経困難症や子宮内膜症など疾患の治療を目的として用いることで区別されています。OCは自費ですが、LEPは保険がききます。
また、含まれているエストロゲン(EE)の量が50μgのものを中用量、30〜50μgのものを低用量、30μg以下の場合を超低用量と呼びます。
詳しい内容は後述しますが、ピルの副作用として最も問題になるのが「血栓症」です。エストロゲンはこの血栓リスクを上昇させてしまうため、出来る限り量を減らすよう改良されてきた歴史があります。
相対リスク | EE20μg | EE30〜40μg |
---|---|---|
肺塞栓症 | 0.75 | 1 |
脳梗塞 | 0.82 | 1 |
心筋梗塞 | 0.56 | 1 |
また血栓症に限らず、乳癌や骨粗鬆症の発症リスクについても、エストロゲン含有量が少ない方が良いということが分かっています。
3. OCにはどんな種類があるの?
・NET:ノルエチステロン=第1世代プロゲスチン
・DSG:デソゲストレル=第3世代プロゲスチン
・LNG:レボノルゲストレル=第2世代プロゲスチン
・EE:エチニルエストラジオール=エストロゲン(E2)
日本で発売されているOCは上記に示すようにたくさんの種類がありますが、避妊効果に特別な差はありません。そのため、患者さんの希望に合わせて薬を選択しても問題がないとされます。
選択のポイントの1つは「含まれているプロゲスチンの種類」、もう1つは「1相性か3相性か」です。ホルモンの量を段階的に変化させる3相性の薬剤は、より身体のホルモン状態に沿った生理的なものと説明されてきましたが、1相性と比較しても避妊効果やマイナートラブルに差はありません。
また、21日間飲んで7日間休薬するパターンと、28日間連続して内服する(最後の7日間はホルモンの含まれていないプラセボ薬)パターンがあるので、これも患者の好みによって使い分けます。
4. LEPにはどんな種類があるの?
“フリウェル”はルナベルのジェネリック医薬品です。
・NET:ノルエチステロン=第1世代プロゲスチン
・LNG:レボノルゲストレル=第2世代プロゲスチン
・DRSP:ドロスピレノン=第4世代プロゲスチン
・EE:エチニルエストラジオール=エストロゲン(E2)
LEPには大きく3つの種類があります。
内服方法としては毎月生理を起こす「周期投与」と、最長3ヶ月内服を継続できる「連続投与」がありますが、昨今の研究では連続投与の方がメリットが多いと考えられています。更に連続投与では、月経時以外の骨盤痛を軽減することも証明されています。
それぞれのLEPの違いを踏まえ、簡単にご説明します。
1. ルナベル®︎(フリウェル®︎)
連続投与:不可
値段:ルナベル約3000円/月、フリウェル約1500円/月
第1世代のプロゲステロンが含有されているルナベルは、低用量のルナベル”LD”と超低用量のルナベル”ULD”があります。月経困難症の治療薬で、月経時の痛みが強い人に有効です。
ルナベルLDはエストロゲンの含有量が他のLEPと比較すると多いので、不正出血が起きにくいメリットがあります。ルナベルULDは他のピルに比べてホルモン量が少ないため、吐き気などの副作用が少ないと考えられています。
また、同じ成分でフリウェルというジェネリック医薬品も出ているため、値段を半分程度に抑えることが出来ます。ピルは毎月内服する薬なので、少しでも負担が減るのはメリットの1つです。
2. ジェミーナ®︎
連続投与:可(77日間連続内服)
値段:約3200円/月
第2世代のプロゲステロンが含有されているジェミーナは、この3つの中で最も新しい薬です。子宮内膜が安定するため、服用中の不正出血の頻度が低く、休薬期間中の月経もきちんと起こることが多いという特徴があります。(臨床ではしばしばジェミーナによる不正出血に悩む人もいるので、一概には言えませんが。)
ルナベルと比較して血栓症のリスクが上がると言われていますが、連続投与が可能で77日間内服+7日間休薬の84日周期でまわすことが出来ます。
3. ヤーズ®︎
連続投与:可(120日間連続内服)
値段:約2800円/月
第4世代のプロゲステロンが含有されているヤーズの特徴は、浮腫(むくみ)や月経前症候群(PMS)に対しても効果が期待できることです。体重増加がしにくいピルで、吐き気や頭痛も起こりにくいと考えられています。男性ホルモン低下作用も強いです。
第1・2世代のピルと比較するとやはり血栓リスクは高いですが、ジェミーナ同様連続投与が可能で、最長120日間の継続内服が出来ます。
5. ピルのメリット・デメリット
- 月経困難症・過多月経の改善
- 月経不順の改善
- 月経前症候群(PMS)の改善
- 避妊効果がある
- 容易に月経移動ができる
- 子宮内膜症による痛みを抑えられる
- 子宮内膜症の病巣を縮小させる
- 子宮内膜症の術後の再発予防になる
- 子宮筋腫の発症予防になる
- ニキビを改善する
- 卵巣癌のリスクが低下する
- 子宮体癌のリスクが低下する
- 大腸癌のリスクが低下する
ピルの何よりのメリットは、生理で辛い症状を改善させることができること。子宮内膜症や子宮筋腫がある場合は、その病変を縮小させる効果もあります。生理痛は我慢しても良いことはありません。しっかりと適切な治療介入を行った方が、今後の卵巣機能のためにも良いのです。
また、ピルには避妊効果があります。
以前、緊急避妊薬について扱ったことがありますが、緊急避妊薬は確実に避妊できる薬剤ではありません。計画的に妊娠を回避するものとして、低用量ピルの内服を推奨する場合があります。
一方、ピルのデメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
- 血栓症
- 不正出血
- 吐き気
- 頭痛
- 気分が落ち込む
- 乳癌のリスクが増加する可能性がある
- 子宮頚癌のリスクが増加する可能性がある
ピルを内服した直後は、不正出血や嘔気・頭痛などのマイナートラブルが頻発します。しかしこれらの多くは1〜2ヶ月で自然に軽快することが多いため、基本的には何もせずに経過をみれることが多いです。
1番重篤な副作用が血栓症です。深部静脈血栓症の発症頻度は3〜9人/1万婦人・年間で、高齢・肥満・喫煙者が高リスクになります。
血栓症で重要なことは”なるべく早期に発見すること”。下記のACHESの症状を認めた場合は、すぐに病院に相談するように指示しています。
- Abdominal Pain 腹痛
- Chest Pain 胸痛
- Headaches 頭痛
- Eye Problems 視覚障害
- Severe Leg Pain ふくらはぎの痛み
6. 慎重投与と服用禁忌
血栓症のリスクが高い人などはピルを服用することができません。
<慎重投与:処方は出来るが慎重なフォローが必要>
- 40歳以上
- BMI 30以上
- 喫煙者
- 軽症の高血圧症(妊娠高血圧症候群の既往も含む)
- 糖尿病
- 前兆を伴わない片頭痛
- 乳癌の既往
- 血栓症の家族歴
- 子宮頚部異形成、子宮頚癌
- てんかん・脂質代謝異常・腎疾患 など
<禁忌:ピルを服薬できない>
- 初経発来前
- 50歳以上または閉経後
- 35歳以上で1日15本以上の喫煙
- 妊婦
- 産後4週間以内
- 手術前4週間以内、手術後2週間以内
- 重症の高血圧症
- 血管病変を伴う糖尿病
- 前兆を伴う片頭痛
- 乳癌
- 血栓素因がある
- 診断が確定していない異常性器出血がある
- 重篤な肝障害・心臓弁膜症 など
ピルを処方する場合は必ず問診票を書いてもらい、このような項目に引っかかっていないことを確認する必要があります。
7. 実際のピル処方の流れ
最後に、ピルを処方する際の外来の流れについて説明します。
- 問診→OC・LEPの必要性を評価
- 問診票を記入してもらう
- 禁忌がないか確認
- 血圧・体重測定→高血圧・肥満がないかチェック
- 血栓症のリスクが高い人は採血施行
- ピル処方
- 下記の検査を必ず定期的に受けてもらうよう説明する
・子宮頚がん検診
・乳癌検診
ピルは次の月経1〜5日目に内服を開始してもらうよう説明します。
服用開始から3ヶ月までは1ヶ月毎に問診・血圧測定などを行い、半年〜1年毎に採血や子宮頚がん検査・超音波検査を行うことが多いです。
時に内服開始時は不正出血などのトラブルが多く出るため、しっかりと症状を問診していくことが大切です。少しでも血栓症を疑う症状があれば、採血や下肢静脈エコーなどで血栓の評価を行う必要があります。
今日はピルについての基本を詳しく説明してみました。私も学生の頃はピルに対して漠然とした不安を抱いていたものですが、今では月経症状が強い人にとってはメリットがはるかに多いと考えます。周りの産婦人科医でも、ピルを内服している人がたくさん居ます。
少し内容が多くなってしまったので、ピルに対する細かい疑問や質問などに対しては、次回の記事にまわしたいと思います。次の記事も併せて見てもらえると嬉しいです。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。