思春期に多い疾患

緊急避妊は避妊の最終手段[性暴力被害も含めて解説]

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

2020年10月、緊急避妊薬が薬局で買えるようになるかもしれないというニュースが流れました。医師の処方箋がなくても購入できるようにし、アクセスを容易にすることで、性暴力を含めた望まない妊娠を防ぐ狙いです。

緊急避妊薬は、欧米やアジアの国の多くでは医師の診察なしで購入することができます。しかし日本では非常にハードルの高い薬剤になっており、そもそも「緊急避妊薬って何?」という人が多いのも現状です。

今回の記事では、性暴力被害についても踏まえた上、緊急避妊についてお話しします。

1. 緊急避妊について

緊急避妊とは、避妊していたけど失敗した、あるいは避妊していなかった性交渉の後に緊急的に用いる避妊法のことです。
後述する経口避妊薬(oral contraceptives:OC)とは異なり、計画的に妊娠を回避するものではありません

世間ではモーニングアフターピルとも言われたりしますが、産婦人科学会が提唱する正式名称は緊急避妊(emergency contraceptive:EC)。そしてその際に用いられる薬剤が、「緊急避妊薬(emergency contraceptive pills:ECP)」です。

1. 緊急避妊薬(ECP)

日本には、緊急避妊薬として次の2種類があります。

2種類のECP
  1. レボノルゲストレル(LNG)単剤法
  2. ヤッペ(Yuzpe)法

WHOは副作用や効果の観点から、①のレボノルゲストレル(levonorgestrel:LNG)単剤法を第1選択として推奨しています。

①レボノルゲストレル(LNG)単剤法

レボノルゲストレル(LNG;ノルレボ®︎)という黄体ホルモン剤を、性交渉後72時間以内に1.5mg×1錠×1回内服する方法です。内服タイミングが早ければ早いほど効果が高いため、処方後できるだけ早く内服してもらいます。LNGは排卵を抑制し、子宮内膜の増殖を抑制することで、避妊効果をもたらします。

日本で行われた調査では、LNG内服による妊娠率が0.7%、妊娠阻止率が90.8%という結果が報告されました(あすか製薬:緊急避妊剤ノルレボ®︎錠使用成績調査結果, 2016年8月)。
効果は上記には及びませんが、仮に72時間を超えても120時間以内の内服であれば妊娠率を低下させることができたという研究結果もあります1)

副作用としては、悪心が3%程度。嘔吐はほとんどありません。その他頭痛や倦怠感、不正出血などのマイナートラブルが1〜2%で指摘されていますが、あまり目立ったものはありません。
また、約50%の症例で月経がずれますが、95%は月経予定日の7日後以内に性器出血を認めます。即ちそれ以上月経が来ない場合、妊娠検査薬をするよう勧めています。

値段は1〜2万円程度。高いです。自費診療なので、病院によっても値段設定が異なっています。

②ヤッペ(Yuzpe)法

LNG単剤法が承認されたのは2011年のことです。それよりも前には、ヤッペ(Yuzpe)法が用いられていました。

Yuzpe法とは、黄体ホルモン剤だけではなく、エストロゲン製剤が配合された中用量ピル(プラノバール®︎)の内服による避妊法です。
性交渉後72時間以内その12時間後の2回内服する必要があります。

値段は5000〜1万円程度とLNG法に比べて安価なのですが、妊娠阻止効果は低く(阻止率:50%程度)、副作用も強いと言われています。中でも悪心は50%、嘔吐は15%程度と頻度が高いです。他にも頭痛・めまいなどの症状が出ます。
また2回内服する必要がある分、飲み忘れのリスクなどもあります。

以上より、有効性・安全性から、LNG法を第1選択にすることが推奨されています。Yuzpe法は他の避妊法が使用できない時のみに選択されます。

SNSで、緊急ピルの副作用がひどいと記載された情報を目にしたりしますが、「Yuzpe法のことを言っているんだろうな」と思う内容が多いです。
LNG単剤法は、それほど大きな副作用なく内服することが可能です。もちろん個人差はありますが。

2. 銅付加子宮内避妊具(Cu-IUD)

銅付加子宮内避妊具(Cu-intrauterine contraceptive devices:Cu-IUD)を緊急避妊として用いる方法もあります。この場合、性交渉後120時間まで有効です。

Cu-IUDは受精前に精子の運動能力を減らす効果があり、挿入後すぐに効果を発揮します。また既に受精が起きている場合であっても、子宮内膜への着床障害作用があることが認められています2)。子宮の頚管粘液の性状を変化させることによって、精子の侵入が阻害されている可能性も示されています。

今後しばらく妊娠を望まず、Cu-IUD装着の希望があるのならば、外来で処置し子宮内に器具を挿入します。
Cu-IUD装着の希望がない場合は、前述した緊急避妊薬の服用を勧めます。

2. 緊急避妊外来の実際

私は産婦人科医として緊急避妊薬を出したこともありますし、患者として1度内服したこともあります。
そんな経験を踏まえ、実際の外来受診の流れについて説明します。

(1)避妊失敗

(2)出来るだけ早く病院を受診

(3)問診:最終月経、性交渉の日時など

(4)緊急避妊薬 or Cu-IUDの選択・限界性について説明

(5)今後のために低用量ピル等の確実な避妊方法について説明

(6)処方後は速やかに内服

(7)月経が来るか確認
予定より1週間以上経過しても来なければ妊娠検査

まず(1)〜(2)の過程です。
緊急避妊は早ければ早いほど効果が高いのですが、なかなかすぐに受診することが厳しいというのが経験談。夜間に処方している病院自体が少ないですし、仕事や学校がある場合、休んでまで病院に行きづらいです。
「緊急避妊薬をもらいに行くので、ちょっと午前中は仕事に行けません」と言ったら、びっくりされますよね。言えません。
仕事が終わったら…とか、休日に…とか言っていたりすると、3日なんてあっという間。入手するのにかなりハードルが高いのが現状です。

そして(3)〜(7)の過程。
実際に病院に行くと、月経日・性交渉日などについての問診がなされます。もちろん、排卵日近くの妊娠率が高いのは事実ですが、じゃあ排卵日から1週間ずれてるから妊娠しないか?と言ったらそうとは限りません。
妊娠のリスクがないと言える時期はほとんど無いんです。

72時間以内であれば、結果として緊急避妊薬を処方されることが多いですが、その場合であっても100%の避妊効果は見込めません。次の生理が来るまで不安で、なんならその不安による精神的ストレスで月経がずれたりして、さらに不安になる期間が長期化したりします。
内服してからの約2週間は、地獄のように長いのです。

忘れて欲しく無いのは「緊急避妊薬は最終手段である」ということ。
緊急避妊薬を飲んだけど妊娠したという人も、今まで何人か見ています。単に副作用という観点だけではなく、その期間の精神的負荷だったり、実際に妊娠するリスクを考えて欲しい、というのが一産婦人科医としての意見です。

3. 低用量ピルについて

緊急避妊薬は性交渉の失敗や性暴力などによる妊娠を防ぐ大切な手段ですが、確実に避妊できる薬剤でないことは今まで示してきた通りです。
一方、計画的に妊娠を回避するものとして、経口避妊薬(oral contraceptives:OC)、いわゆる低用量ピルというものがあります。

低用量ピルの内服は、ほぼ100%の避妊効果が得られます
「低用量ピルを内服している=性行動が活発」といった誤ったイメージが先行していたり、血栓症などの副作用が心配だったり、あまり良くないイメージをもたれている方も多いかもしれません。
副作用がない薬剤ではないですが、確実な避妊効果に加えて月経トラブルの改善にも役立つ側面があり、使い方に応じて非常に有用な薬剤と言えます。

低用量ピル(OC, LEP)については下記の記事に詳しくまとめてあるので、よければ見てみて下さい。

低用量ピル(OC・LEP)を身近に感じようピル(OC・LEP)に配合されている2種類のホルモンの知識を皮切りに、ピルのメリット・デメリット、副作用、禁忌についてを、産婦人科医の筆者が徹底解説。商品毎の特徴も触れながら、基礎から応用まで詳しく説明します。...
もっと知りたい!低用量ピル"Q&A"低用量ピルについて、細かいところまでQ&A形式で解説。妊娠や月経との関連、実際に内服する時の注意点、子宮内膜症への治療効果などを、産婦人科医の筆者が説明します。...

4. 性暴力被害から自分を守るために

1. 性暴力被害の実情

警視庁のHPによると、性暴力被害の件数は年間9000件に及ぶとされています。しかしこれは警察に届けられた数であって、実際はもっと多くの被害があるだろうと考えられます。

特に性暴力被害は、思春期の男女の被害が多いのが特徴的です。性への知識がままならない思春期にこのような被害に遭ってしまうと、後の人生への影響も甚大なものとなります。

産婦人科医として、こういった被害に遭う人を複数診てきました。望まない妊娠や性感染症への罹患などにつながってしまう人も、残念ながらいらっしゃいました。
SNSなどのネットソースにアクセスしやすい現代では、被害の背景も多様化してきているように感じています。

2. 警察や自治体の被害者支援室に連絡を

性暴力被害に遭った際、できればまずは警察あるいはワンストップセンターなどの被害者支援室に連絡してください。
そして産婦人科に受診し、必ず「性感染症のチェック」「緊急避妊薬の処方」などを受けてもらいです(警察への通報に抵抗がある場合は、産婦人科医に言っていただければ病院から連絡することもできます)。

警察や自治体への連絡により、性暴力被害者を精神的にサポートしたり、病院や弁護士に繋ぐ架け橋となるだけでなく、公的な経済的支援も得られるんです。
そういったことも知らず、1人で抱え込んでしまう方がかなり多い。辛くて、誰にも相談できない問題だからこそ、公的なサポートで第三者を頼って欲しいと切に願います。

今回は緊急避妊及び性暴力被害について書きました。
人知れず被害にあったり、被害にはあっていなくても性交渉の失敗などで不安な日々を過ごしている若い女性は、思っているより多いのではないでしょうか。

時折、緊急避妊薬が安易に手に入ることによって、性的活動が活発になるという発言を目にしますが、なかなか理解しがたいです。避妊や緊急避妊薬に対する正しい情報や知識が広がり、少しでも多くの人が安心できるような社会の仕組みが整うことを願います。

産婦人科の受診は思っている以上にハードルが高い。さらに緊急避妊薬には72時間以内なんていう時間制限もあります。不安に思う女性にとっての1つの手助けとして、いつか薬局で気軽に手に入る時代が来て欲しい。願わくば、価格も下げて欲しい…。

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  1. von Hertzen H, et al. Low dose mifepristone and two regimens of levonorgestrel for emergency contraception: a WHO multicentre randomised trial. Lancet 2002 ; 360 : 1803-1810
  2. Stanford JB, et al. Mechanisms of action of intrauterine devices: update and estimation of post fertilization effects. Am J Obstet Gynecol 2002 ; 187 : 1699-1708
  3. 日本産婦人科学会(編):緊急避妊法の適正使用に関する指針 平成28年度改訂版. 2016
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ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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