非医療者向け記事

研究医(Physician-Scientist)とは?

研究

皆さんは、研究医(Physician-Scientist)という言葉をお聞きしたことがありますでしょうか?

場面によって多少定義が異なるかもしれませんが、一般的に研究活動を行う臨床医のことを研究医(Physician-Scientist)と呼びます。この話を聞いた方の中には、

研究医って結局お医者さんなの?研究者なの?

と思われる方もいらっしゃるかと思います。

非医療従事者の方からすると、お医者さん=「街の開業医さん」のイメージが強いのかも知れませんね。そのため、研究医のイメージがなかなか湧きにくい様です。

そこで今回は、医学における研究の重要性や研究医(Physician-Scientist)のキャリアについて解説しようと思います。

なお、一般的な若手医師のキャリアについてはこちらの記事にまとめたので、まずはこちらの記事をお読みいただけると理解しやすいと思います。

医師
医学部卒業後の進路とは?[現役医師が卒後研修について解説]医学部卒業後の進路については知らないという方も少なくないと思います。実際に私も親族に医者がいなかったので、高校生のころは正直よく分かっていませんでした。そこで今回は、現役医師の私が医学部卒業後の進路について解説します。...

1. 医学の発展のために研究は重要

研究者

まず大前提として、医学の発展に研究は大変重要です。というのも、現代の医学も過去の研究の積み重ねで進歩してきているからです。

現在は当たり前のように知られている病気や、一般的に使用されている治療薬も、これまでの研究によって確立してきたのです。

イメージしやすように例を挙げると、

  1. 臨床現場の医師が珍しい病気を発見し報告をする
  2. 似たような症例を集めて報告される
  3. 1つの疾患として確立する
  4. 研究によって病気のメカニズムが解明される
  5. 治療薬が開発される
  6. 人間で効果があるか、重大な副作用がないか検討される
  7. 実際に治療薬として使われる

といった感じです。

このように、1つの治療薬が完成する背景には、膨大な量の研究が隠れているのです。

研究いうとどうしても、細胞やマウスを使ったような、「実験室で行っている研究」をイメージされる方も多いと思いますが、医療現場で集められたリアルワールドデータの解析であったり、人間を対象にした臨床研究であったりと、様々な種類があるのです。

先日、新型コロナウイルスのワクチンがFDAで承認されたとのニュースが流れましたね。この短期間でワクチンが完成し、しかも臨床研究で有効性が示されたのは本当に驚きでした。これは世界中の研究者の知恵と努力の結晶だと思います。未熟ながら1人の研究医として、研究に関わられた方々を心から尊敬しています。

2. 大学病院で働く医師の中には研究に携わっている方も少なくない

研究

同じ医師でも、様々な働き方があります。

身近な例で言うと、町の開業医ですね。開業医の場合、比較的重症度の低い患者を定期的に診察したり、初診患者を診察して重症な病気のスクリーニングを行ったりといった役割があります。

地域の中核病院で働いている医師は、集中的な治療や手術が必要な患者さんを集めて治療するという役目があります。私たちのような若手医師は、このような地域の中核病院で研修を積むことが多いです。

一方で、医師の中には大学病院で働いている方もいます。大学病院は地域の中核病院よりもさらに専門性が高いことも多いです。

そして、大学病院で働く医師には、臨床(医師としての仕事)以外にも、医学生への教育や研究活動を行うという大切な仕事があるのです。そのため、大学病院で働く医師は研究をして学会で発表をしたり、論文として世界に発信するといった活動が求められます。

目の前の患者さんの悩みを解決するという仕事はもちろん大切ですが、医学研究を通じて現在救えない様な患者さんを助けるための基礎作りの1ピースを担うというのも、重要な仕事なのです。

3. 医師として働く上で研究マインドは大切

研究

私自身は現在、研究よりの仕事をしています。医師がどの程度研究に比重を置くかについては様々な意見ががあると思いますし、正解はないと思います。ですが私自身は、臨床をメインとして働くとしても、研究マインドを持つことは非常に大切だと思っています。

というのも、日常診療で得られた知見は医学の発展に繋がることもあり、非常に重要だからです。実際に、症例報告がきっかけで新しい病気の概念が生まれることもあります。

また、研究マインドを持つことは臨床医のスキルアップにも繋がると思います。例えば、症例報告を大切にされている先生は、日常診療も大切にされている傾向があるように思います。また、普段から論文を読んでいたり、論文を書いていると、目の前の患者さんに対してどのような検査を行って、どのような治療を行うべきかについて、論理的な選択できると思います。

私たちが現在の医療を行うことができるのは過去の先人たちが論文という形で知見を積み上げてくださったからなのです。その知見を学ばせてもらって臨床を行う以上、医学の現場で得られた知見は私たち医師が後世に残していくべきだと思っています。

ここから先は、若手医師がどの様に研究に携わっていくか、具体的に解説します。研究医のキャリアをなんとなくイメージしていただければ幸いです。

4. 若手研究医のキャリア

1. 卒業後or初期臨床研修後に大学院へ

友人

卒業後に初期臨床研修を行わずに大学院に入って研究する、ないしは初期臨床研修後に後期研修を行わず大学院に入るというルートです。

早期から研究を軸に置きたいと考える方はこのルートを歩む傾向があります。最大のメリットとしては、早期から研究者としてのトレーニングを受けることができるという点だと思います。研究者として生きていきたいなら、少しでも早く研究を始めるべきだと私自身は思っています。

2. 後期研修中or後期研修後に大学院へ

医師の中で最も一般的なのは、初期研修を終えて自分の専門科を決めた後に大学院に入るというパターンだと思います。後期研修中に大学院に入る方、後期研修後に大学院に入る方など、様々なケースがあります。

このパターンですと、ある程度臨床経験を積んでから研究をすることで、より臨床に則したテーマを扱うことができるというメリットがあります。また、臨床の仕事をしながら研究することができるので経済的にも安定した生活を送ることができます。

5. 大学院卒業後のキャリア

1. 医師として働きながら研究を続ける

よくあるケースが、医師として働きながらも研究を行うというパターンです。大学病院や中核病院で働く場合、少なからず研究活動が求められることが多いです。

細胞やマウスを使って研究をするというケースもあれば、臨床をする中で出てきた疑問点や発見を元に臨床的な研究を行うというケースもあります。どの程度研究に比重を置くかは、人によってまちまちです。

研究
医師として働きながら研究するメリットについて医師として働きながら研究するのは時間的な制約があったり、研究者としてのトレーニング開始のタイミングが遅れるといったデメリットもありますが、メリットもたくさんあります。今回は医師として働きながら研究するメリットについて考察しました。...

2. 研究者の道に進む

稀ですが、大学院で研究に興味を持ち、そのまま研究者の道を目指すという方もいらっしゃいます。大学院卒業後に研究者として国内外に留学するというケースもあります。

研究に専念できる反面、経済的に不安定になりやすい、論文発表をし続ける必要がある、自分で研究費を取らなくてはいけないなどハードルがやや高いです。

留学中に成果を出して、国内の大学に教授として栄転するという成功パターンを歩まれたとしても、収入面では開業医と比べると低いのが現状です。そのため、教授として多忙な生活を送りながら、医師としての非常勤勤務を行う先生もいらっしゃいます。

3. 研究から離れる

大学院を卒業後は、臨床中心の生活を送り研究とは一旦距離をおくという先生も少なくありません。

日本は海外と比べて分業制が確立しておらず、医師の臨床業務が非常に多い上に、研究活動に対する対価が非常に少ないです。そのため、研究を続けるのはなかなかハードルが高いのが現状です。

もちろん臨床業務は大多数の医師の中心であるべきですし、最も大切な仕事だとは思いますが、今後の医療の発展を考えると、もう少し研究者の待遇が改善されるのを期待したいです。

6. 大学院に進まない医師も増えている

サラリーマン

最近ですと、大学院に進まない医師も増えています。これまで書いてきたように、研究者の待遇が恵まれていないのが1つの理由だと思います。

一方で、医師経験や知識を生かして他の分野の仕事をする先生も増えてきたことも1つの要因だと思います。実際に東大医学部の先輩方を見ていると、様々な分野で活躍されている方がいらっしゃいます。

卒業
東大医学部生の就職先は?[卒業後の進路を解説]東大医学部生は卒業後にどんな進路を辿るのでしょうか?もちろん医者の道を歩む人が大多数ですが、医者以外の道に進む人も少数ながらいます。今回は卒業生の私が、同級生や周りの方の情報を元に、東大医学部生の卒業後の進路まとめてみました。...

この流れは今後どんどん加速すると思いますし、それ自体は良いことだと思います。

これからは医学に関する専門知識を持った人材が様々な分野で活躍する時代が来ると思いますし、それによって医療もどんどん進歩すると思います。

私自身、自分の専門性を持った上でいろんなことに挑戦していきたいと思っています。

今回は、医者のキャリアにおける研究について解説しました。いかがでしたでしょうか。

医学の発展のために医学研究は必要不可欠です。目の前の患者さんの悩みを解決するという仕事はもちろん大切ですが、医学の発展には医学研究を通じて現在救えない様な患者さんを助けるための基礎作りの1ピースを担うというのも、重要な仕事だと思います。

研究にどれほど比重を置くかは人それぞれですが、少なくとも研究マインドを持って臨床を行っていくことは大切だと私自身は思っています。

最後に、少しでも多くの方にこのブログをご覧いただけるよう、応援クリックよろしくお願いします!

ABOUT ME
そら
医師・研究者 | 妻(@yukizorablog_Y)と医師夫婦ブログを書いてます | 医療や教育に関する記事を残していこうと思っています。
いつも応援頂きありがとうございます!

【ブログ村ランキング参加中】
少しでも多くの方にこのブログ
をご覧いただけるよう、1日1回応援クリックよろしくお願いします!

 

twitter, instagramでも情報発信しています。ご気軽にフォローください(^^)

【そら】

【ゆき】

Instagram