前回・前々回と婦人科検診と子宮”頚部”細胞診についてお話ししました。
今回は子宮”内膜”細胞診・組織診について解説すると共に、子宮体がんや子宮内膜増殖症についても少し触れていけたらと考えています。
目次
1. 子宮頚部・子宮内膜
子宮は、大きく「頚部」と「体部」の2つに分けられます。
ざっと説明すると、子宮の出入り口である頚部に出来る癌が子宮頚がん、子宮の中にある内膜にできる癌が子宮体がんです。子宮体がんは別名「子宮内膜がん」とも言います。
婦人科検診で全員に施行しているのは子宮頚部細胞診のみ。子宮内膜細胞診はルーチンでは行いません。
子宮内膜細胞診による子宮体がんのスクリーニングは、子宮体がんの高危険群に限られているのです。
<子宮体がん高危険群の一例>
①直近6ヶ月以内に下記症状を認める女性
- 不正性器出血(閉経後出血など)
- 月経不順(過多月経・不規則月経)
- 褐色のおりもの
②子宮体がんの高リスク因子を有する女性
- 未婚
- 不妊
- 閉経後
- 初婚・初妊年齢が高い
- 妊娠・出産数が少ない
- 30歳以降の月経不規則
- エストロゲン服用歴
- 糖尿病の既往
- 高血圧の既往
- 肥満 など
すなわち、従来の検診とは趣が異なり、年齢を考慮せずに無症状の女性全員に検査をすることは有効ではなく、費用対効果の点から容認されないとしています。
検査をするかしないかは医師の裁量のもとで判断されるのです。
2. 子宮内膜細胞診・組織診って?
1. 子宮内膜細胞診とは
子宮内膜細胞診は、子宮の内腔まで細長い管を挿入し、擦ったり吸引したりして採取する検査です。
子宮頚部細胞診と比べ、少しの痛みが生じ、終わった後も生理痛のような腹痛が続くことがあります(必ず自然軽快します)。
がんに対する感度はほぼ90%、特異度は84〜100%程度。
エコーや患者背景・臨床症状を合わせて評価することで、正診率をあげることができます。
2. 子宮内膜細胞診の結果の読み方
いざ子宮内膜細胞診を行った場合、次のような結果が返ってきます。
- ClassⅠ:正常子宮内膜
- ClassⅡ:炎症・退行性病変・妊娠性病変など
- ClassⅢa:主として子宮内膜増殖症
- ClassⅢb:主として子宮内膜異型増殖症
- ClassⅣ:悪性細胞を想定する
- ClassⅤ:悪性細胞を強く想定する
[※北里大学 蔵本博行らによる分類に基づく分類]
簡単にまとめれば大きく3つ。「陰性」「疑陽性」「陽性」です。
- 陰性(ClassⅠ・Ⅱ)=悪性ではない
- 疑陽性①(ClassⅢa・Ⅲb)=内膜に異型細胞はあるが、癌ではない
- 疑陽性②(ClassⅣ)=子宮内膜がん疑い
- 陽性(ClassⅤ)=子宮内膜がん
陰性であれば異常なしなので問題ありませんが、疑陽性以上であれば内膜組織診を施行して診断を確定する必要があります。
3. 子宮内膜組織診
子宮内膜組織診は子宮内膜細胞診陽性あるいは疑陽性症例に行われ、確定診断を得ることを目的とします。
また子宮内膜細胞診が陰性であっても、不正性器出血が持続する症例や、子宮内膜が厚くなっている症例など、子宮体がんが否定できない場合も行われます。
一般的に、閉経後で子宮内膜の厚さが5mm以上の症例は対象です。
子宮内膜組織診は、上のイラストのように子宮の奥に細長いキュレットを挿入して行います。陰圧をかけて吸引したり搔爬したりして、前・後ろ・左右の4方向から組織を採取するのです。
これにより、内膜細胞診よりも多い検体量をとることができます。
当たり前ですが妊娠症例では絶対にやってはいけない検査なので、検査前に必ず妊娠の有無の確認がなされます。
3. 子宮体がんの前駆病変
子宮頚がんの前駆病変で子宮頚部異形成(CIN)というものがありました。
子宮体がんにも、次の2つの前駆病変があります。
- 子宮内膜増殖症:Endometrial hyperplasia without atypic (EMH)
- 子宮内膜”異型”増殖症:Atypical endometrial hyperplasia (AEMH)
子宮体がんは1型と2型の2つのタイプに分けられます。
1型はこの前駆病変を経て子宮体がんが発症するタイプですが、2型では前駆病変が特定されておらず、発がん遺伝子が関わっていると考えられています。
つまり子宮頚がんと異なり、子宮体がんには前駆病変を介さない発症もあるわけで、前駆病変さえフォローしておけば安心、と一概に言えるものではありませんが、やはり慎重な観察が重要になります。
次項目では、組織診で子宮内膜増殖症・異型増殖症の診断になった場合の治療法について解説していきます。
1. 子宮内膜増殖症(EMH)
異型がない子宮内膜増殖症(EMH)は、自然退縮する場合が多く、子宮体がんへの進展率も低いと考えられています。
そのため、保存的管理が原則です。
治療方法としては、
- 不正出血・過多月経などに対して周期的プロゲスチン投与(MPA10-20mg/day×14日間 3〜6ヶ月実施)
- 過多月経があれば:レボノルゲストレル放出子宮内システム(ミレーナ®︎)
- エストロゲン・プロゲスチン配合薬
などがあります。定期的に子宮内膜細胞診を行い、異型増殖症への進展がないかを評価していきます。
2. 子宮内膜異型増殖症(AEMH)
異型のある増殖症(AEMH)については、1型子宮体がんの発症リスクが高いことを考慮した管理が必要です。
AEMHと診断された症例の40%程度に癌の併存が確認されたと報告した研究(GOG167研究)もあるため、治療の基本は手術です。
現在は腹腔鏡やロボット支援下手術も盛んで、これらも選択肢に挙がりますね。
ただ、今後の妊娠・出産の希望がある場合は子宮を温存する治療が検討されます。その場合は、まず「子宮内膜全面搔爬」を行って癌が隠れていないかをしっかり確かめた上で、「高用量プロゲスチン投与(MPA 600mg/day)」を行うのです。
高用量MPA療法による治療効果は、完全奏功率:82%・再発率37%になります。
4. 子宮体がん
子宮体がんという診断になった場合にどうするか。
詳細は別の記事で改めてまとめようと思っていますが、ここでは細胞診・組織診に関わる部分についてさらっと解説します。
1. 異型度(grade)
子宮体がんの80%程度は「類内膜がん」です。悪性度に応じて異型度(grade)分類がなされます。
- Grade1;G1(高分化型)=充実成分が5%以下
- Grade2;G2(中分化型)=充実成分が5〜50%または5%以下でも核異型が強い場合
- Grade3;G3(低分化型)=充実成分が50%以上または5〜50%でも核異型が強い場合
充実成分や核異型はそれぞれ、悪性度の指標になる所見です。
そのため、Grade1<Grade2<Grade3の順に悪性度が高いということができます。
2. 子宮体がんの治療
子宮体がんも基本はまず手術です。
子宮と両側の卵巣・卵管を摘出し、症例に応じてリンパ節摘出や大網切除術なども追加します。
ステージ(進行期)によっては、化学療法や放射線療法を行う場合もあります。
一方、今後の妊娠・出産の希望がある場合は子宮を温存する治療(高用量MPA療法)が検討されますが、子宮内膜異型増殖症(AEMH)と異なり症例は限られてしまいます。
子宮体がんで高用量MPA療法が考慮されるのは
- Grade1(高分化型)
- 類内膜がん
- 子宮の筋層や子宮体部外への進展がない
- 転移がない
これらを全て満たす症例
なぜなら、完全奏功率:55%・再発率:57%と、AEMHと比較して成績が悪かったからです。
若年であり子宮摘出を躊躇する症例であっても、本当に高用量MPA療法を行って良いのか、しっかりと精査・検討する必要があるのです。
今回は子宮内膜細胞診について簡単にまとめてみました。
子宮頚部細胞診(頚がん検診)と比べて、やや馴染みは薄い検査かもしれません。
しかし不正出血があったり、性交渉時に異常な出血があったり、いつもとは違って生理が長引いたり…など、少しでも変だなと思ったら婦人科を受診することが大切です。
リスクや患者背景に応じて、産婦人科医が子宮内膜細胞診の必要性を評価しますよ。
ご自身でも、この記事で示した「子宮体がんの高リスク因子」については理解しておくと良いかもしれません。リスクが高い人は”私も気をつけなきゃ”と、早期受診につなげてもらえるのではないかと考えます。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。