新型コロナワクチン。
医療者に次ぎ、高齢者への接種も始まりました。
なかなか思うようなペースでは進んでいないようですが、今後どんどん接種者が広がっていくものと予想されます。
妊婦さんへの接種の機会も、ますます増えていくことでしょう。
妊婦さんへの新型コロナワクチンについては、「データがない」ことから明確な回答を避けられてきた経緯がありますが、少しずつ分かってきたこともあります。
今日はそんな最新のデータも踏まえて、妊婦さんと新型コロナワクチンについて、少し掘り下げて考えてみたいと思います。
私自身がワクチンを接種した時の状況については、次の記事にまとめました。良ければ見てみてください。
目次
1. mRNAワクチンは救世主
1. 妊娠と新型コロナウイルス
コロナという名称を頻繁に聞くようになってから、もう1年以上の月日が経過しますね。
未曾有の感染症にどのように立ち向かっていくのかを模索しながら、私の勤務する病院でも、ああじゃないこうじゃないと議論を交わしながら、なんとかやってきた感があります。
妊娠・分娩管理を行う産婦人科の場合は、「妊婦はコロナに感染すると重症化するリスクがある」ということ、「分娩室は3密空間である」ということなど、他とはまた違ったリスクとも闘ってきました。
(下記は2020/12月に記載した記事です。良ければ参考にして下さい。)
2. mRNAワクチン
そんな脅威のコロナウイルスへの対抗策として、各国が信じられないようなスピード・精度で完成させたのが新型コロナワクチン。
いくつかの有力なワクチンが生成されましたが、今回は
- ファイザー・ビオンテック社製
- モデルナ社製
の2つのmRNAワクチンに絞ってお話ししようと思います。
mRNAワクチンとは何かというと、簡単に言えばウイルスの遺伝情報を利用したワクチンのことです。
mRNAとはいわば設計図のようなものなので、それをもとに身体の中でウイルスのタンパク質の一部が生成され、それに対する免疫応答が起こることによって効果をもたらすと考えられています。
特筆すべきは、その効果。
<ファイザー・ビオンテック社製(以下、ファイザー社)>
発症予防効果:95%
<モデルナ社製>
発症予防効果:94.5%
ワクチンを接種していない人と比べて、ワクチン接種者は新型コロナウイルスを発症する確率が約95%減少することが示されたのです1)。
2. 妊婦さんへのワクチン接種は?
COVID-19ワクチンの最初の第3相臨床試験では、妊婦さんは対象外とされ、除外されていました。
そのため妊娠中の有効性と安全性に関するデータが限られていたのですが、徐々に妊婦さんへの接種が進み、そのデータが収集され、ついに次の論文が医学誌に掲載されたのです。
1. CDCの研究者らが発表した論文
2021/4/21。アメリカの超有名医学誌、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に、米疾病対策センター(CDC)の研究者らがまとめた大規模な調査結果が掲載されました。
「Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Persons」2)
これは、妊婦に対するmRNA Covid-19ワクチンの安全性を評価した論文で、2020年12月14日〜2021年2月28日の期間に収集されたデータを用いて解析が行われました。
「v-safe」という任意登録のサーベイランスシステムを用いて、副反応や健康状態を評価しています。
対象者
16〜54歳の合計35,691人のv-safe参加者に妊娠が確認されました。
ワクチン接種時にすでに妊娠がわかっていた人は
・ファイザー社のワクチン接種:85.8%
・モデルナ社のワクチン接種:87.4%
でした。
副反応の発症頻度
接種した妊婦さんおける「コロナワクチン接種翌日に報告された、局所あるいは全身性の反応の頻度」が下記の通りです。
頻度が高かったものは、
- 注射部位の痛み:Injection-site pain
- 疲労感:Fatigue
- 頭痛、筋肉痛:Headache, Myalgia
で、いずれも2回目の接種後に報告頻度が多くなっています。
また、私が実際に苦しんだ「発熱・熱っぽさ」についても、1回目の投与後に2〜5%、2回目の投与後に24〜46%の報告があります。
しかし38℃以上の発熱に限れば、両ワクチンとも1回目の投与後に1%未満、2日目の投与後に8.0%程度という結果でした。
妊娠時・非妊娠時の副反応の比較
報告頻度の高かった副反応に対して、妊娠している女性(Pregnant:濃い青)と妊娠していない女性(Nonpregnant:薄い青)で比較した図が下記の通りです。
妊娠中の人の方が、わずかに注射部位の痛みの報告が多かったものの、それ以外の項目は非妊娠中の女性でより頻繁だったことが分かります。
基本的には全体的な発症頻度は類似しており、妊婦だからといって特に有害事象が増えるわけではなかったという結果だったのです。
ワクチン接種後の周産期転帰
ワクチン接種を受けた3,958人の妊婦について、周産期転帰がフォローされました。
ワクチンを接種した時期は、
- 受胎前後:92人(2.3%)
- 妊娠第1三半期(妊娠初期):1132人(28.6%)
- 妊娠第2三半期(妊娠中期):1714人(43.3%)
- 妊娠第3三半期(妊娠後期):1019人(25.7%)
でした。
上記の対象者につき、”妊娠損失”及び”新生児の周産期予後”についての結果を示した表が次のものになります。
2021年3月30日までに妊娠を完了した827人のうち、生児を得たのは712人(86.1%)。104人(12.6%)が自然流産、1人(0.1%)が死産でした。
多胎妊娠12組を含む724人の新生児の副反応としては、
- 早産(37週未満):60/636人(9.4%)
- 妊娠期間に比して小さめの児(SGA):23/724人(3.2%)
- 先天異常:16/724人(2.2%)
が報告されましたが、新生児死亡の報告はありませんでした。
先天異常を認めた症例のうち、妊娠初期にワクチンを接種した人はおらず、ワクチンを接種していない人の発生率とほぼ同等であったことから、ワクチンとの直接的な関連は低いと考えられました。
まとめ
・アメリカで妊娠中にコロナワクチンを接種した女性を対象とした研究である。
・報告された副反応は、妊娠中の女性と非妊娠中の女性でほとんど変わらなかった。
・直接的な比較は出来ないが、妊娠及び新生児への有害な転帰の割合は、コロナが蔓延する前に調査された妊娠集団における発症率と同等であると考えられた。
2. 米CDC:コロナワクチン妊婦への接種を「推奨」
上記の研究結果をもって、米CDCは2021/4/23に新型コロナワクチンの妊婦への接種を推奨すると明らかにしました。
ワクチン接種によって、妊婦や赤ちゃんへの安全性に明らかな懸念材料がなかったためです。
コロナワクチンの接種をどうするか、その最終的な判断は個人の裁量によるわけですが、妊婦がコロナウイルスに罹患した時のリスクも鑑み、接種の有無を判断してもらえたらと思います。
3. コロナウイルスについての情報収集は「こびナビ」がお勧め
最後に、
最新のコロナの情報をどこで集めれば良いのかわからないんだよね。
という方に対してお勧めのサイト、“こびナビ”をご紹介させて頂きます。
複数の医師の監修のもと、コロナウイルス及びコロナワクチンについて非常に分かりやすくまとめられているサイトです。
妊婦さんへのmRNAワクチンについては、下記の動画がすごく分かりやすいです。妊娠中にワクチンを接種し、出産されたハーバード大学医学部 精神科 助教授の内田 舞先生の貴重なお話しが拝聴できます。
コロナウイルスやコロナワクチン についての情報をアップデートする際は、ぜひ参考にしてもらいたいです。
いかがだったでしょうか。
新型コロナワクチンについて、どんどん研究結果がまとめられています。
妊婦さんにとっては、安心できる結果だったのではないでしょうか。
ワクチン接種の有無については、本人や赤ちゃんにとって何が1番良いのかを考え、主治医と相談してもらえたらと思います。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。