先日、子宮頚部細胞診の見方と対応について説明しました。
今回は、婦人科検診で”引っかかった人”がどのように精査・治療を進めていくのかを掘り下げてまとめてみます。
目次
1. コルポスコピーと子宮頚部異形成
細胞診の結果で異常が出たら、コルポスコピーという顕微鏡で病変を拡大します。酢酸で加工することによって病変が白色などに浮き出て見えるため、怪しいなと思った部位をつまんでとってくるのです。
子宮頚部を擦っただけの細胞診と異なり、パンチ生検ではある程度の組織量が取れるため、病変の正確な評価が可能です。
コルポスコピーでの検査によって、「異常なし」「子宮頚部異形成(CIN)」「悪性腫瘍(がん)」などの診断がつきますが、今回はこの中で最も頻度が高いCINについてお話ししていこうと思います。
CINには1〜3まで3段階の評価があります。子宮頚部の1番下の層(基底層)からどこまで病変が広がっているかによって、重症度をレベル分けしているのです。
- 基底層から下1/3におさまる:子宮頚部軽度異形成(CIN1)
- 下1/3以上〜2/3未満:子宮頚部中等度異形成(CIN2)
- 下2/3以上〜全層に広がる:子宮頚部高度異形成・上皮内がん(CIN3)
CINの診断がついた人に対してどのように対応していくのか、1つずつみていきましょう。
2. HPVタイピング検査(型判定)
ヒトパピローマウイルス(HPV)には、たくさんの種類があることをご存知ですか?そしてその種類によって、将来の子宮頚がんへの移行度が大きく異なっていることをご存知ですか?
つまり、「HPVの何型が陽性なのか」を調べるHPVタイピング検査(型判定ということもあります)を行うことが、その後の子宮頚がん発症のリスク評価のために有用なのです。
この検査は婦人科検診で行う細胞診と同様に、子宮頚部を擦って検査をします。痛くないですし、すぐに終わりますが、値段は少しお高めです(17,400円の3割負担)。
あれ?この前の記事では「ASC-US」の人にHPV検査をするって言ってなかったっけ??
実はASC-USで調べているものとは別物です。それよりもさらに詳しい検査になります。
先日の記事では、ASC-USという結果だった人に「ハイリスクHPV検査(グルーピング)」を行い、コルポスコピーの必要性の有無を評価していると説明しました。
この検査はあくまでも、ハイリスクな種類のHPVが”いるか・いないか”を調べているだけのものです。したがって結果は「陽性」か「陰性」かの2つになります。
しかし今回説明する「HPVタイピング検査(型判定)」では、何型が陽性なのかが分かります。
HPVの中で子宮頚がんに発展する可能性が高いと言われているハイリスクのタイプは次の8つであり、これが陽性なのか否かが重要なポイントになります。
- 16型
- 18型
- 31型
- 33型
- 35型
- 45型
- 52型
- 58型
これら8つは子宮頚がんからの検出頻度が高く、自然消失しにくく、CIN3に進展しやすいことが分かっています1)。
この8つの中でもさらにリスクが高いのはHPV16型>18型>33型です。
3. 子宮頚部軽度異形成(CIN1)
- CIN1がCIN3以上に進展するリスクは12〜16%
- CIN1の大部分は自然消失する
- 30歳未満は進展することが少なく、約90%が消退する
CIN1は軽度異形成です。
上記の特徴があるため、CIN1は原則として治療対象ではなく、フォローアップで良いと考えられています。
- HPVタイピング検査:ハイリスク型8つのうちいずれかが陽性
→4〜6ヶ月ごとの細胞診による経過観察。2回連続NILMなら通常検診に戻す。 - HPVタイピング検査:上記以外or陰性
→12ヶ月ごとの細胞診による経過観察。 - HPVタイピング検査:未施行
→6ヶ月ごとの細胞診による経過観察。
CIN1のフォロー中に細胞診の異常が持続する場合や、HSILなど進展が疑われた場合にはコルポスコピーを併用する。
治療方針は上記の通りです。HPVタイピング検査によってフォロー間隔が変化しているのが分かるかと思います。
4. 子宮頚部中等度異形成(CIN2)
- CIN2がCIN3に進展するリスクは22〜25%
- 相当数は消退し、特に30歳未満の若年女性や妊婦では消退することが多い
CIN2は中等度異形成です。
CIN2であっても、原則として外来下でフォローすることが多いです。
しかしCIN2の場合は妊娠女性を除き、以下のような場合に治療することが出来ます。
- 1〜2年のフォローアップでも自然消失しない
- ハイリスク型8つのうちいずれかが陽性
- 患者本人の強い希望がある
- 継続的な受診が困難
治療にもそれなりのリスクはあるので、安易な治療介入は勧めていません。CIN1と同様、下記のようにフォロー間隔が定められています。
- HPVタイピング検査:ハイリスク型8つのうちいずれかが陽性
→3〜4ヶ月ごとの細胞診+コルポスコピーによる経過観察。妊娠していなければ、直ちに治療介入も容認。 - HPVタイピング検査:上記以外or陰性
→6ヶ月ごとの細胞診による経過観察。2回連続NILMなら通常検診へ。 - HPVタイピング検査:未施行
→3〜6ヶ月ごとの細胞診+コルポスコピーによる経過観察。
5. 子宮頚部高度異形成〜上皮内がん(CIN3)
CIN3は高度異形成〜上皮内がんを意味します。
ここまで病変が進行すると、基本的に自然消失は期待しにくく、子宮頚がんに移行するリスクも上がるので、治療介入が必要になります。
治療方針としては、次の選択肢が挙げられます。
- 子宮頚部円錐切除術
- LEEP
- レーザー蒸散
6. 子宮頚部円錐切除術
子宮頚部円錐切除術は、イラストのように、子宮の出入り口である“子宮頚部”を円錐状に切り取る手術のことです。
メスや電気メスを用いて行う、およそ10分〜30分程度の手術です。
麻酔方法は病院によって違うでしょうが、脊椎麻酔という区域麻酔か、全身麻酔で行うことが多いかと思います。入院期間は1泊2日前後です。
メリットとしては
- 正確な病理学的評価が出来る
- 病変をしっかり取り切ることが出来る可能性が高い(取り残しのリスクはある)
- 子宮頚部全体に病変が広く及んでいていも対応出来る
- 中に入り込んでいる病変にも対応出来る
ことが挙げられます。
円錐切除術は治療はもちろんですが、診断的意味合いもあるのです。
一方、子宮頚部を切除することによって子宮の頚管長が短くなってしまうため、将来妊娠を希望する患者さんに対しては、必要最低限の切除が望まれます。妊娠中の流産・早産リスクを上げないための配慮が重要です。
病変は確実に取り切りたいけど、取りすぎると流・早産のリスクが上がってしまう…。そのため、将来の挙児希望がある方の円錐切除術は、そうでない人と比べて難易度が上がります。
7. LEEP・レーザー蒸散
LEEPやレーザー蒸散は、子宮頚部円錐切除術の低侵襲代用法としての立ち位置にあたる治療です。
1. LEEP
LEEP(loop electrosurgical excision procedure)は、上のイラストのようにループ型の高周波電気メスを用いて行う切除手技を言います。
局所麻酔下に簡単に病変を切除でき、手技の時間も5〜10分程度です。
円錐切除術よりも病変は薄く小さくなります。
そのため、広範囲の病変を切除するとなると複数切片が必要になり、病理学的な診断としては不適になる可能性があります。
また頚管内深くに病変がある場合、そこまでループ状の電極が届かず、病変が残ってしまうリスクがあります。
したがって、診断・治療としてのLEEPは
- 組織診がCIN3か、適用条件を満たしたCIN2
- 病変の全てがコルポスコピーで確認できる
- 病変が頚管内深くに及んでいない
場合で行う、ということがガイドラインで定められています。
2. レーザー蒸散
レーザー蒸散とは、CO2レーザーあるいはYAGレーザーで病変を焼くようなイメージの治療です。
外来で無麻酔で行えるのがメリットの1つ。
子宮頚部を切除することもないので妊娠・分娩への影響もありません。レーザー蒸散による早産率の増加も報告されていません。
しかし円錐切除術やLEEPとは異なり、組織標本が得られないことがデメリットとして挙げられます。組織をとらないために病理診断が出来ないのです。
またLEEPと同様、病変が広すぎたり、中に入り込んでいたりすると治療が不十分になってしまうため不適です。
対象も若年女性に限られます。場合によっては複数回のレーザー蒸散が必要になる症例もあります。
LEEPもレーザー蒸散も、治療後は長期間に渡って再発の有無を慎重にフォローする必要があります。
8. HPVワクチン
CINも子宮頚がんも、ここ最近20〜30歳代の発症数が増加傾向です。
もちろん婦人科検診は大切ですが、これはあくまでも早期発見ができるというだけ。
ただ、子宮頚がんにはワクチンがあるのです。
2020年7月には9価のHPVワクチンが国内で承認されており、これによって約90%の子宮頚がんを予防できることが分かっています。
特に中高生のお子さんがいるご両親の方には、HPVワクチンの正しい情報にアクセスし、自分の子供への接種について考えてもらいたいです。
良ければぜひ上の記事にも目を通してみてください。産婦人科カテゴリーでの記念すべき最初の記事です。
子宮頚がんはワクチンで予防できる疾患であるということを、なるべく早く伝えたいという思いで、何よりも先に書きました。今回の記事と合わせて読むと、より理解が深まるのではないかと思います。
今回は子宮頚部異形成について書きました。
婦人科検診を怖がらずに定期的に受けること。そして結果に応じて適切なフォローを行うこと。
これがいち産婦人科医からのお願いです。ゆきぞらブログを読んでくださっている皆さんへ、正しい知識が届きますように。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。