クラミジア(chlamydia trachomatis)感染症は、男女ともに最も頻度の高い性感染症です。
誰しも1度は名前を聞いたことがあるかと思いますが、実際どのような症状をきたし、どのようなことが危険なのか、よく知らない人も多いのではないでしょうか。
今日はクラミジア感染症の診断から治療まで、簡単にまとめてみようと思います。
目次
1. クラミジアって何?
クラミジア:Chlamydia trachomatis
偏性細胞内寄生微生物
クラミジアは別の宿主細胞に寄生して生息する微生物です。
宿主細胞に侵入→細胞質に封入体を形成して増殖→宿主細胞を破壊して細胞外に放出
クラミジア単体では生息できないため、このようにして感染・増殖していくことが知られています。
医学生・研修医が知っておいて欲しいポイント!
→クラミジアにはペプチドグリカンがないので、βラクタム系の抗菌薬は無効です。
2. クラミジアは上行性に感染する
上行性感染:
子宮頚管炎→子宮内膜炎→卵管炎→子宮付属器炎→骨盤内炎症性疾患
性器クラミジア感染症は最も頻度の高い性感染症です。
女性の場合、性交渉によって子宮頚管にクラミジアが感染し、子宮頚管炎を引き起こすことから始まります。
ただ、子宮頚管炎を発症しても、ほとんどの人は自覚症状はありません。だからこそ、気づかれないまま感染が進行してしまいます。
クラミジア感染症が進行すると、感染は上行性に拡大します。
子宮頚管の次は、子宮の中に入り込んで子宮内膜炎をきたし、そのまま卵管を通って卵管炎・卵管閉塞をきたし、それが卵巣などの付属器に波及すると子宮付属器炎をきたし、さらにそれが骨盤内に広がると骨盤内炎症性疾患に至るのです。
また、肝臓周囲に感染病変が広がることもあり、その病態を肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)と呼ぶこともあります。
3. クラミジア感染症は不妊の原因になる
感染が長期化すると、不妊症や異所性妊娠をきたすリスクが上がります。
クラミジア感染が卵管炎や付属器炎をきたすことにより、炎症に伴う癒着ができたり、それによって卵管が閉塞したりするからです。
卵管が閉塞・狭窄すると、排卵された卵子が卵管を通れず、精子と受精できなくなります。
だからこそ不妊外来では、多くの症例でクラミジア検査・子宮卵管造影検査を行い、卵管の通過性の評価を行っているわけです。
一方、卵管閉塞までは至っていなくても、ある程度の癒着がある場合は、卵管に輸送障害が生じます。
そうすると、受精卵が子宮の中に上手く運び込むことができず、卵管妊娠になるリスクも上がってしまいます。
4. 腹痛・発熱を発症すると治療は難航
クラミジア感染症が骨盤内にまで感染を広げると、”発熱・腹痛”などの症状が出てきます。また肝周囲にまで広がると、”呼吸で増悪する右上腹部痛”として認められるようになります。
腹痛の程度も激しいものが多く、産婦人科ではなく内科や救急外来に駆け込む人も多いです。
診断のポイントは、内診によって子宮の圧痛があるかどうか。
クラミジア感染か否かは、子宮頚管分泌物のPCR検査か、採血での抗体(IgG/IgA)の有無で評価しています。
症状の程度がひどい場合は、入院下での点滴加療を要することもありますが、治療が長期化することも多々。
最近はオーラルセックスによるクラミジア咽頭炎や、肛門性交による直腸炎も問題になっているようです。
5. 妊娠中のクラミジア感染症
妊娠中にクラミジア子宮頚管炎をきたすと、それが絨毛膜羊膜炎やそれに伴う切迫流産・切迫早産の原因になることがあります。
また、分娩時にクラミジア感染をしていると、赤ちゃんに感染し新生児結膜炎や新生児肺炎をきたす可能性があります。
だからこそ、妊婦健診では必ず、全妊婦を対象としてクラミジアのスクリーニング検査が行われているのです。
6. 治療は必ずパートナーと一緒に
クラミジア感染症は性感染症です。つまり、パートナーにもクラミジアが感染しているものとして対応する必要があります。
自分だけ治療しても、性交渉によって再度クラミジアをうつし合ってしまうからです(ピンポン感染といったりします)。
クラミジアの治療を簡単にまとめると、下記のようになります。
子宮頚管炎なら
・アジスロマイシン(ジスロマック®︎) 250mg×4錠 1回
・レボフロキサシン(クラビット®︎) 500mg×1錠 7日間 など
(妊婦に対してはアジスロマイシンを使用する)
骨盤内炎症性疾患なら
・アジスロマイシン点滴
・レボフロキサシン点滴
・ミノサイクリン点滴 など
治療開始から3週間以上経過したタイミングで再度クラミジアの検査を行い、陰性化を確認する。
無症状のクラミジア感染症であれば、基本的には内服での治療が可能です。
アジスロマイシン(ジスロマック®︎)は4錠まとめて1回だけ内服すれば良いので臨床の場でよく用いられます。もらったらすぐに内服してそれで治療終了。簡単です。妊婦さんにも使用できます。
レボフロキサシン(クラビット®︎)にも治療効果がありますが、きっちり7日間忘れずに飲み続ける必要があります。
前述の通り、骨盤内炎症性疾患をきたすまでに感染が進行していると、多くは内服での治療は困難であり、入院下での点滴加療を要します。
中途半端な治療では再発リスクが高いため、治療期間も2週間程度と長くかかることの方が多いです。
クラミジアの治療が終わった際には、治療開始から3週間以上たった日程で再度クラミジアの検査を行い、陰性化を確認することが推奨されています。
性器クラミジア感染症についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。
女性はもちろんですが、男性にも症状が出にくいため、気づかないうちに感染が広がっていってしまうことが多い疾患です。
パートナーとしっかり話し合い、2人で治療を行うことが何より大切。再検査でクラミジアの陰性化が確認できるまでは、性交渉は避ける必要があります。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。