今回は妊婦健診時のエコー検査についてのお話しです。
・エコー写真もらったけど、アルファベットや数字の意味がよくわからない!
・そもそも何をみてるの?
・推定体重ってどうやって求めているの?
こんな疑問を抱いている妊婦さんは多いのではないでしょうか?
妊婦健診ではほとんど毎回超音波検査を行いますよね。私たち産婦人科医が何をみて、どうやって判断しているのか、それが分かったらちょっと楽しいかもしれません。
目次
1. 妊娠初期
1. 妊娠5〜6週:GS
妊娠初期は経腟エコーで胎嚢(gestational sac:GS)を見るところから始めます。胎嚢とは、赤ちゃんを包み込んでいるお部屋のようなものです。以下からはGSと記載します。
妊娠4週後半ごろから経腟エコーでGSを観察することができます。子宮内にGSが確認できたら子宮内妊娠。
もし仮に確認できなかったら、異所性妊娠や流産を疑って精査します。
異所性妊娠・流産については下の記事に詳しく書いているので、良ければ見てみてください。
また、GSは1つとは限りません。
GSが何個見えるのかによって、双子や三つ子の可能性について評価します。多胎の場合、その後の周産期管理に大きく関わってくるので、妊娠初期のエコーもとても大切なんです。
2. 妊娠7〜12週:CRL
妊娠7週頃から、赤ちゃん(胎芽)が見えるようになります。また、赤ちゃんのそばにリング状の袋(卵黄嚢)も見えてきます。
小さい赤ちゃんをズームで拡大し、胎児心拍が見えるかをチェックするのですが、このくらいになってくると、赤ちゃんの頭・体幹・手足もしっかり区別出来、立派な人型に見えます。
また、妊娠8週頃から頭殿長(crown-rump length:CRL)を測定します。CRLとは、赤ちゃんの頭からお尻までの直線距離のことを言い、分娩予定日の確定にとっても大切です。
分娩予定日は、まず暫定的に最終月経から決めます。しかし月経が不順だったりする人は、その週数が本当にあっているのかがわかりません。
妊娠初期における最も正確な週数の判断はCRLと言われているため、妊娠8〜10週くらいでCRLを測定し、暫定予定日からズレがないかを評価するのです。
最終月経から求めた週数と、CRLから求めた週数を比べ、5日以上の差があればCRLによる週数で修正するのが望ましいと考えられています。
CRLは10mm〜50mmの間が最も正確です。もしそれ以上に大きかったりする場合、後述するBPDで週数を求めることもありますが、あまりお勧めはされません。
ちなみに、経腟エコーの時は排尿後が見やすいんです。診察前にトイレを済ませておいてもらえると、より良く観察できます。
2. 妊娠中期〜後期
1. 妊娠13〜16週:BPD
妊娠13週頃になるとCRLが50mmを超えてくるので、経腟エコーで赤ちゃんの全体像を把握するのが難しくなります。
担当の産婦人科医の判断にもよりますが、このあたりから経腹エコーで計測することが多いです。
児頭大横径(BPD)
妊娠13〜16週の頃は児頭大横径(biparietal diameter:BPD)を測定します。BPDとは、簡単に言えば赤ちゃんの頭の横幅のことです。
楕円形に見える赤ちゃんの頭の幅を測定し、週数相応に大きくなっているかを確かめます。
ちなみに、上の写真のエコーで丸く見えているのが赤ちゃんの頭です。短径の直線距離を測ります。
2. 妊娠17週以降:BPD+AC+FL
妊娠17週以降は、赤ちゃんもある程度大きくなってくるため、推定体重(estimated fetal body weight:EFW)を求めることが可能です。
推定体重は次の3つの箇所の測定により求められます。
<推定体重を求める3要素>
- 赤ちゃんの頭の横幅=児頭大横径(BPD)
- 赤ちゃんのお腹周り=胎児腹囲(abdominal circumference:AC)
- 赤ちゃんの太腿の骨の長さ=胎児大腿骨長(femur length:FL)
BPDについては先ほど述べた通りです。
赤ちゃんの推定体重(EFW)は、次の式で計算されています。
胎児腹囲(AC)
AC(abdominal circumference)とは、赤ちゃんのお腹周りの測定です。赤ちゃんのお腹に直行するような形でエコーをあて、適切な断面を出します。
ACはBPDやFLと異なり、エコーを押しつけすぎると断面が大きく描出されてしまったり、赤ちゃんの向きによって適切な断面が描出できなかったり、ある程度柔軟性のある構造を計測することになります。
しかも、推定体重の式にも大きく関与してくるので、この測定によって推定体重が1割程度ずれることもザラにあります。
たまに、前の妊婦健診の時と赤ちゃんの体重がそんなに増えていなかった…なんてことがあるかもしれません。ご本人としては不安だと思いますが、産婦人科医がそれほど気にしていなかったら、「ACによる測定誤差なのかな〜」と考えていてもらって大丈夫です。
また、病院によってはACの代わりにAPTD×TTDという計測方法で測定している場合があります。測定方法が違うだけで、測っているものは同じです。
大腿骨長(FL)
FL(femur length)とは、大腿骨の端から端までの計測です。赤ちゃんの大腿骨の全体像を描出し、直線距離を測っています。
FLが短いと染色体異常の可能性があったり、骨の形に違和感があると骨系統疾患の可能性があったりと、推定体重を求める以外の観察ポイントもあったりします。
3. エコー写真の見方
実際に妊婦健診で上のようなエコー写真をもらったことがあるのではないでしょうか?
今までお話ししてきた内容を踏まえると、なんとなく解読できますよね。
例えば、BPD, AC, FLは、推定体重(EFW)を求める3つのパラメーターでした。あとは残る「GA」「SD」が分かれば完璧です。
1. GAとSD
GA
GA(gestational age)とは、妊娠週数のことです。
左上に書いてあるのは、妊婦健診時の実際の週数。
右下に書いてあるのは、BPD, AC, FLが何週相当の大きさなのかを示しています。
●w●dの「w」と「d」はそれぞれ、「week」と「day」を示しており、妊娠何週何日なのかを意味します。
SD
SD(standard deviation)は標準偏差といい、統計で用いられる言葉です。簡単に言えば、その値が平均値とどのくらい離れているのかを示しています。すなわち、週数から推定される大きさに対して、赤ちゃんが実際はどのくらい大きい(あるいは小さい)のかを客観的に判断できます。
SDが±1.5以内であれば正常範囲。その範囲を超えて大きかったり、小さかったりする場合は、週数によっては何らかの医療介入が必要になる可能性があります。
2. エコー写真を解読しよう
今までの説明で、上のエコー写真が全て理解できるようになりました。
実際に見ていきましょう。
- 妊婦健診時の週数は妊娠21週5日
- 頭の横幅の長さが51.4mm→妊娠21週4日相当(-0.1SD)=正常範囲
- お腹周りが16.99cm→妊娠22週3日相当(+0.5SD)=正常範囲
- 太腿の骨の長さが34mm→妊娠21週1日相当(-0.2SD)=正常範囲
- 推定体重が440g→妊娠21週5日(-0.1SD)=正常範囲
まとめると、「ほとんど週数ぴったりくらいで順調に発育してます」という感じです。
いかがだったでしょうか?
なんとなく、エコー写真に親近感が持てるようになったのではないでしょうか。妊娠中は2つの命を抱え、大変なことも多いと思います。そんな時、妊婦健診を1つの息抜きとして楽しんでもらえると、産婦人科医としてとても嬉しいです。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。