先日読者の方から、東大医学部の卒業後の進路について質問されました。
・東大医学部生は、皆さん東大病院に就職されるんでしょうか?
・医者にならない東大医学部生って結構いるんでしょうか?
確かに、東大医学部生の進路は気になるところかもしれません。私はまだそれほど多くのケースを見てきた分けではないですが、同級生や周りの方の情報を元に、東大医学部生の卒業後の進路まとめてみました。
目次
1. 初期研修
最もメジャー進路は、在学中にマッチングで研修病院の内定をとり、卒業後に2年間の初期臨床研修を行うというコースです。初期研修についてよく分からないという方は、こちらの記事をまずお読みいただいた方がスムーズにご理解頂けるかと思います。
この記事で書いたとおり、全国には様々な研修病院があり、自由に選ぶことができます。この記事では、分かりやすさを重視して、
- 都内の市中病院
- 郊外の市中病院
- 東大病院などの大学病院
の3つに分類して解説しました。
一般の方の中には、「東大医学部生は卒業後にみんな東大病院で研修をするんでしょ?」と思っていられる方がいらっしゃいますが、そんなことはありません。代にもよるかとは思いますが、私の感覚では東大病院で研修する人は全体の3割以下で、2年間とも東大病院で研修する人は1割程度だと思います。
東大病院も市中病院もそれぞれメリットがありますが、初期研修期間は頻度の高いような疾患を幅広く経験したいと考える人が多いため、市中病院を選ぶ人が多いのではないかと思います。一方で、学生時代から熱心に研究をしている友人の中には、初期研修を2年間東大病院で行い、並行して研究を続けている人もいました。
私は初期研修後に大学院に入学して研究を始めましたが、今思うとその選択も悪くなかったかなと思います。
2. 大学院進学(研究者)
少数ですが、初期臨床研修を行わずに大学院に進学するというケースがあります。このパターンですと若いうちから研究者としてのトレーニングを積むことができるというメリットがあります。
何事もそうですが、なるべく若いうちからトレーニングを積んだ方が有利なので、研究者で生きていきたいという方はこの道を選ぶこともあります。私の周りにも、数人この道を選んだ人がいます(学生時代から研究に取り組んでいて、かつ非常に優秀な人が多いです)。
一方で、このコースのデメリットは臨床現場で働きながら研究をすることができないことです。というのも、医療現場で医師として働くには2年間の初期研修が必須だからです。経済面では、研究者で生きていく方が医師として生きていくよりもかなりハードルが高いので、研究者としての実力がないと難しいかもしれません。
大学の中には、MD-Ph.Dコースを設けているところもあります。これは、医学部在学中に大学院博士課程を組み込むことで、医学士(MD)と医学博士(PhD)の両方を取得した状態で医学部を卒業するというコースです。4年次修了時点などに一度医学部のカリキュラムを中断するため、卒業が遅くなるというデメリットがありますが、医師と研究者を両立したい方は検討しても良いかもしれません。
3. 海外の病院
少数派ではありますが、最近はアメリカやオーストラリアなどの海外で医師として働く方も増えてきました。アメリカで医師として働くには、USMLE(UNITED STATES MEDICAL LICENSING EXAMINATION)と呼ばれる米国の医師国家試験をクリアする必要があります。
USMLEはSTEP1、2CK(Clinical Knowledge)、2CS(Clinical Skills)、3に分かれています。最近は医学生のうちに取得している人もいます。私の友人の中にも学生中にUSMLEを取得している人が何人かいました。
周りを見ていると、日本で初期研修ないしは後期研修を行ってから渡米する人が多いようですが、中には卒業後にそのまま海外で働く人もいるようです。今後はますますこのような働き方をする人が増えてくるかもしれませんね。
4. 一般就職や起業
非常に少数ですが、卒業後に初期研修をせず一般就職するケースもあります。私の周りですと、卒業後に外資系コンサルティング会社に就職した人がいました。
その他で言うと、医学生の間で有名な穂澄先生もこのパターンだと思います。穂澄先生はマッキンゼーで働かれた後に、medu4という会社を立ち上げられて医学教育に従事されています。
また、頭脳王で有名な河野玄斗さんはyoutubeで活動されておりますが、現在はアプリ開発会社を起業されているそうです。様々な分野に挑戦されている姿を見て、純粋にすごいなと思いました。
5. 医者として働いた後に転職
医者として数年ないしは十数年働いたのちに、他業界に転職される方もいらっしゃいます。こちらに関してはかなり幅広いので、私が把握しているのはごく一部だとは思います。いろんな方の意見をお聞きしながら、記事をアップデートして行けたらと思います。
1. 製薬
製薬会社へ転職される方も周りにいらっしゃいます。循環器内科医の新田大介先生はその1人です。
心臓外科医の北原大翔先生らが運営されているyoutubeチャンネル「留学・心臓外科医のチームWADAチャンネル」で紹介されていました。
製薬会社での医師の働き方は様々ですが、臨床開発部門で治験等に関わられている方や、MA(メディカルアフェアーズ)部門でMSL(Medical Science Liaison)として働かれている方もいらっしゃいます。日本は海外と比べて製薬会社で働く医師は少ないそうですが、今後医師の働き方が多様化していく中で増えていくかもしれませんね。
2. コンサルティング
すでに書きましたが、外資系コンサルティング会社に就職する人もいらっしゃいます。私の周りですと、何年間か医師として働いた後に転職されるというケースの方が多い気がします。
コンサルティング会社で勤務した後に起業される方もいらっしゃいますね。最近ですと、豊田剛一郎さんが有名かと思います。
豊田さんは留学後にマッキンゼーで働かれ、その後に医療系スタートアップのMEDLEYを立ち上げられました。コロナによる追い風の影響もあり、オンライン診療サービスは今後ますます広まっていくかもしれませんね。
3. エンジニア
最近ですと、エンジニアやデータサイエンティストを目指されている方も増えてきているようです。血液内科専門医でありながらGoogleに転職されたLillian先生は非常に有名ですね。
Twitterで拝見する限り、非常に優秀で努力家の方なんだろうなと思います。医者の世界はどうしても閉鎖的ですし、アナログな面が多いです。どうしても非効率的な箇所が目立つような気がします。エンジニアやデータサイエンティストの方々と協力することで、医療者と患者さん双方の負担を減られられるような仕組みを作っていければと願っています。
1-4. AI×医療
ここ数年、医療界でもAIを用いた研究が非常に増えてきました。学会に行くと、AI×医療のセッションもよく見かけます。
現時点では、放射線画像や病理画像を用いた研究がメインかと思いますが、今後ますます広がっていくと思います。医者自身がコーディングや設計を行うというよりかは、AI分野の専門家の方々と協力して研究を進めるケースが多いと思います。
筑駒卒業生の西川徹さんらが率いるPreferred Networks(PFN)社は国立がんセンターと共同で「血清中マイクロRNAプロファイルの深層学習モデルを中心とした悪性腫瘍診断技術の開発」に取り組んでいらっしゃいます。
1-5. 起業
医師として働いた後に起業される方もいらっしゃいます。最近ですと、医療CGプロデューサーの瀬尾拡史さんが有名です。
瀬尾先生は東大在学中から医療CGを学ばれており、裁判員裁判第1号事件の証拠資料となる3DCGを作成して東京大学総長賞・総長大賞を受賞されています。研修中に株式会社サイアメントを設立され、その後代表取締役に就任されています。在学中も医療CGの勉強をされながら、医学の勉強にも真剣に取り組まれていたようで、人間的にも非常に素晴らしい方です。
ちなみに瀬尾先生には私が高校生の時に、担任の先生の図らいで個人的に進路の御相談をさせて頂きました(瀬尾先生は覚えてらっしゃらないとは思いますが)。
親身になって相談に乗って頂き、今でも感謝しています(私が東大医学部に入った後も、陰ながら応援させて頂いていました)。私もまだまだ未熟ですが、自分の夢を追いつつ、少しでも後輩たちの役に立てればなと思っています。
今回は東大医学部卒業後の進路についてまとめました。いかがだったでしょうか。
医者の働き方はどんどん多様化してきています。様々な分野の方々と協力することで、医学自体の発展や、社会全体にとって良いサービスの整備につながれば良いですね。
また、今回の記事を書いていて、改めて先輩方の偉大さを実感しました。私はまだまだ未熟ですが、これからも努力を続けて、人生を通じて自分オリジナルのものを残していければと思っています。そして、その道筋の一部を後輩の方々にお伝えしていければと思っています。
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