妊婦さんへ

分娩誘発・陣痛促進が必要な分娩

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

時折、「どうしても自然に任せた分娩がしたい」とおっしゃる妊婦さんがいます。自然に任せたいから、子宮収縮薬は使いたくないとのことですね。

お気持ちは分かるのですが、それはどういった経緯からでしょうか。もしかしたら、噂やイメージが先行してしまっているのかもしれません。未知なものはそれだけで恐怖です。
出来るだけ患者さんの意向は尊重したい。しかし、そうは言ってられない場合も存在するのが出産です。

今回は陣痛を誘発・促進する方法についてのお話し。少しでも理解してもらえたら嬉しいです。

1. 陣痛を誘発・促進するってどういうこと?

簡単に言うと「子宮を収縮させる薬によって、外的に陣痛を引き起こす、あるいは促すこと」を言い、下記のように用語を使い分けています。

  • まだ陣痛が”きていない”人に使う=誘発
  • 陣痛は”きているけど弱い”から後押しする=促進

誘発・促進時は、母児の安全性の確保が最も大切になるため、なぜ必要なのか、どのように管理するかが細かく決められています。

2. どういう時に使うの?

(1)医学的に適応がある場合と、
(2)社会的に適応がある場合(非医学的適応)に区分されます。

1. 医学的適応

分娩の継続や分娩時間の長期化が、お母さんや赤ちゃんに悪影響を及ぼすことが予想される場合は、誘発・促進の適応になります。

例えば次のような場合。
お母さん側の要因として①〜④、赤ちゃん側の要因として⑤〜⑨が挙げられます。

  1. 微弱陣痛
    →陣痛が弱くて分娩の長期化が予想される
    →長時間痛い陣痛に耐えるとお母さんも子宮もへばってしまう
    →できるだけ分娩時間を短くしてあげたい
  2. 前期破水+未陣発
    →破水によって子宮内感染のリスクが増える
    →破水後、長時間お腹の中にいると赤ちゃんにも感染してしまう可能性がある
    →早めに出産にしたい
  3. 母体合併症
    →これ以上頑張るとお母さんの身体が危ない
    →早めに出産にしたい
  4. 墜落分娩=自宅での分娩」を避けたい
    →そろそろ生まれそうだけど陣痛は不十分、でも家に帰るとそのまま分娩になっちゃうかも
    →計画的に分娩にしたい
  5. 胎児機能不全
    →具合が悪い時間が長期化すると、赤ちゃんに負荷がかかる
    →早めに出産にしたい
  6. 予定日超過
    →42週以降は周産期合併症のリスクが増える
    →41週までにお産にしたい
  7. 巨大児疑い
    →赤ちゃんが大きくなりすぎると、下から分娩にできないかも
    →早めに出産にしたい
  8. 胎児発育不全
    →赤ちゃんの発育が悪いのは、子宮内の環境が悪いからかも
    →早めに出産にしたい
  9. 子宮内胎児死亡
    →赤ちゃんが亡くなっている状態が長期化すると、赤ちゃんを異物と判断してお母さんの身体に有害になる可能性がある
    →早めに出産にしたい

産婦人科医はこんなことを考えて、分娩誘発・陣痛促進を提示しています。
医学的適応だけでも、結構ありますよね。どれかに当てはまる人って、思っていた以上に多い。子宮収縮薬の出番が頻回なのも頷けます。

2. 社会的適応

一方、次のような社会的適応もあります。

  1. 妊産婦側の希望
  2. 計画分娩 など

例えば、無痛分娩希望の妊婦さんへの計画分娩や、交通事情(病院に来るまで時間がかかる人など)の考慮などがこれに当たります。
休日や夜間早朝は医療スタッフが少なくなるため、日中に分娩にしたい症例では、病院側の事情で早めに介入することもあります。

ただ、どちらの適応にせよ、経腟分娩が可能と判断した時にしか行いません。すなわち、妊娠週数や内診所見から、そろそろ分娩になりそうだなと思う時に介入するのがポイントです。
分娩の準備ができていないような身体状況では、薬剤を入れても全く効かず、空打ちのような状態になってしまうのです。無駄に長期間、誘発・促進剤を行うと、本末転倒になってしまいます。

3. 頚管拡張って何?

医者

分娩誘発・陣痛促進の方法は、子宮収縮薬だけではありません。
子宮を収縮させても子宮の出口が開いていかなければ、赤ちゃんは出産できませんよね。

子宮の出入口のところを頚管と言いますが、頚管が硬かったり、あまり開いていないような時は、熟化を促すために頚管拡張を行う場合があります。

頚管拡張にも色々な種類があります。
簡単に言えば、(1)棒を入れるか、(2)水風船を入れるかです。

1. ラミナリアなど

子宮口が閉じていたり、熟化が不良で硬かったりする際には、次のような棒状のものを入れて子宮の頚管拡張を行います。

  • ラミナリア:海藻
  • ダイラパン:親水性ポリマー
  • ラミセル:高分子素材

ラミナリアというのは、海藻で出来た細長い棒のようなものです。水分を吸収することで徐々に広がり、子宮の出口を広げていきます。乾燥した昆布が水を吸って膨潤するのと同じ理屈です。
ラミナリアは、複数本入れる場面が多いです。処置自体で激痛を伴うことは少ないですが、入れた後、徐々に水分を吸収して太くなっていく過程で、生理痛のような腹痛を自覚することがあります。

ダイラパン、ラミセルは人工的な頚管拡張の医療資材です。ラミナリアの代替として用いられることがあります。
どれを使うかはその時の子宮頚管の所見と医療施設によりますが、ラミナリアは、子宮収縮薬を用いる前に必ず抜去する必要があります。

2. ミニメトロなど

水風船のようなもの(ミニメトロ)を子宮口に入れる場合もあります。むしろこちらの方が頻度が高いかもしれません。
前者と異なり、子宮収縮薬を投与する間も入れっぱなしで大丈夫なのが利点の1つです。

ミニメトロは、入れる時は細長い棒状の形をしていますが、先っぽに水風船のようなものがついていて、水を入れると膨らむ仕様になっています。ラミナリアなどよりも挿入が簡単で、妊婦さんの苦痛も少なく効果的と言われています。

しかし、へその緒が赤ちゃんの頭よりも下がってきてしまう臍帯脱出という危険な合併症があるので、処置前後でへその緒が下垂してきていないか、慎重に診察してから挿入しています。

子宮口が3.5〜4cm以上開いていたら、頚管拡張の処置は不要です。

2020年から、新しい頚管熟化法としてジノプロストン腟内留置用製剤(プロウペス®︎)の国内使用が開始されました。
病院施設によっては、頚管拡張処置の変わりに、このプロウペスという腟錠での処置が優先される可能性があります。

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4. 子宮収縮薬の色々

日本では、以下の3つの子宮収縮薬が用いられています。

  1. オキシトシン(点滴)
  2. プロスタグランジンF2α(点滴)
  3. プロスタグランジンE2錠(内服)

1. オキシトシン(アトニン®︎)

イメージ:子宮収縮作用が強い

陣痛の時に実際に身体から出ているホルモンを、点滴で補充しているのがこの薬剤。
子宮収縮力が強いので、早く分娩にしたい時に用いられることが多いですが、欠点として「効果の個人差が大きい」ことが挙げられます。

妊娠週数、投与前の子宮収縮の程度、頚管熟化度によっても異なりますが、少量でもすごく陣痛が強くなる人もいれば、最大量まで投与しても全くけろりとしている人もいるわけです。

2,3. プロスタグランジン(プロスタルモン®︎)

イメージ:頚管熟化作用が強い

子宮収縮作用はオキシトシンにかないませんが、子宮の出口を柔らかくする作用はプロスタグランジンに軍配が上がると言われています。
また、「効果に個人差が少ない」のも特徴的です。

プロスタグランジンには点滴と錠剤がありますが、どちらを用いるかは病院施設毎の差が大きいように思います。併用している施設もあります。

プロスタグランジンは下記の人には投与できません。
これに当てはまる場合は、オキシトシンしか選択肢がなくなります。

  • 気管支喘息
  • 緑内障
  • 帝王切開や子宮手術既往

3. 子宮収縮薬の副作用

子宮収縮薬の主な副作用は下記の通りです。

重要な副作用
  • 過強陣痛(陣痛が強くなりすぎる)
  • 胎児機能不全(赤ちゃんの具合が悪くなる)
  • 子宮破裂(子宮が破ける)
  • 薬剤アレルギー など

子宮収縮が強くなる分、痛みが増します。
また、子宮がぎゅーっと押されてスペースが圧迫されるので、赤ちゃんが苦しいサインを出しやすくなります。
非常に稀ですが、子宮の筋層が破れてしまう”子宮破裂”に至った症例の報告もあります。
しかしいずれも適切な管理で対応可能です。

こういった副作用の情報が過剰となり、「誘発・促進剤は痛くて危険で怖い」というイメージが先行してしまっている印象を受けます。
確かに、子宮収縮薬は痛い。ただ、陣痛を有効に進める上では必要な痛みである場合が多いのです。

産婦人科医は、リスクよりもメリットの方が大きいと考えた上で推奨している場面がほとんどです。
これらの副作用について知った上で、モニターや妊婦さんの訴える痛みの程度に耳を傾けながら、慎重に管理しています。

5. 誘発・促進時の管理

そんなわけで、誘発・促進時は綿密な管理が必要になります。病院によってその日に同時にできる人数が決まっているのは、1人の患者さんにつき1人の医療スタッフがつきっきりになることが多いからです。

1. 連続モニターで管理

基本的には、子宮収縮薬を投与している間はずっと、胎児心拍数モニターを装着し、赤ちゃんの心拍数と子宮収縮を評価します。赤ちゃんの具合が悪い(赤ちゃんの心拍数が下がる)場合や、子宮収縮が頻回(10分間に6回以上)になる場合は、薬剤の量を調整したり、酸素投与や体位変換などで対応したりします。

2. 薬剤増量は慎重に

薬剤には副作用もある上、大なり小なり効果に個人差があるため、必ず最初は1番少ない量から始める決まりになっています。モニター異常がなければ、30分毎に決まった量ずつ増量していき、有効陣痛が得られるまで続けます。
何も考えずに増量するわけではなく、必ずモニターをみて、同じ量でもう少し続けてみようとか、少し減らした方が良いかなとか、そういった議論を行いながら投与していくのです。

3. 何日続くかは人それぞれ

分娩誘発・陣痛促進をしたからといって、すぐに分娩になるかというとそうではありません。翌日以降に持ち越しになる方も、少なからずいらっしゃいます。
基本的に、「待機可能な分娩誘発・陣痛促進はスタッフの多い日中のみ」としている病院が多いので、夕方に内診して、その日の分娩の見込みがないと判断されれば、いったん撤退して夜間はゆっくり休んでもらうことが多いです。そして次の朝に仕切り直し。中には、1〜2週間続けなければならない人もいます。
頑張ったけど分娩にするのは厳しそうと判断されれば、緊急帝王切開術に切り替える可能性もあります。

今日は分娩誘発・陣痛促進について書いてみました。
いつ誰が必要になるかわかりません。もしかしたら自分にも関わってくるかも?と思うと、知っていても良い内容かと思います。

そして最後に。誘発・促進が「自然な分娩をしたい」妊婦さんに嫌われることがありますが、改めて、それはどうなんだろう?と思ってしまいます。
赤ちゃんやお母さんが必死に頑張っている中、サポートとして少し後押ししてあげているだけなんです。立派な分娩だと思います。リスク管理は、私たち産婦人科医にお任せください。

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ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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