今日は「破水」について解説していこうと思います。
赤ちゃんを包んでいる膜が破れるのが破水でしょ?
その通り。ただ、破水のタイミングにも色々あります。
陣痛の前に破水から始まる人もいるし、子宮口が全部開いて赤ちゃんがすぐそこまで来ていても膜が破れない人もいるし、早い週数で破水してしまいそれが早産や流産につながる人もいる。
破水にも種類があって、それによってちょっとずつ管理方法も変わっていきます。今回は、知っていそうで知らない破水の世界について説明できればと思います。
目次
1. 破水はどうやって起きるの?
赤ちゃんは卵膜という膜に包まれています。その中に羊水があって、ぷかぷか浮いているような感じですね。
分娩開始前に卵膜が破れることを前期破水(premature rupture of the membranes; PROM)と言いますが、前期破水の原因はこの卵膜が脆くなることによります。
どうしたら卵膜が脆くなって破れやすくなるの?
その原因は腟や子宮頸管に存在する病原菌の上行性感染だと考えられています。
炎症が起こることによって、炎症性サイトカインや消化酵素により卵膜が脆く弱くなり、やがて破綻し、羊水が出てしまうのです。
したがって、絨毛膜羊膜炎は前期破水の1つのリスク因子になります。
2. 破水の種類と診断の仕方
羊水は尿もれや水っぽいおりものなどと判断が難しいことがあります。
なんか水が流れたような気がするけど、最近尿もれも増えてきたし良く分からないのよね…。
そう思うのもごもっともだと思います。
だからこそ、少しでも破水かも?と思ったら受診して下さい。
結果、破水じゃなかったとしても全く問題ありません。
間違えることも沢山ありますし、それで文句を言う人は産婦人科医にはいません。
1. 完全破水と高位破水
破水には、膜が破れる部位によって大きく2種類に分けられます。
- 完全破水:子宮口に近い部位で膜が破れる
- 高位破水:子宮口より奥で膜が破れる
完全破水の場合は、子宮口に近い部位で膜が破れることによって、羊水が比較的多くバシャバシャと溢れる傾向にあります。
一方、高位破水の場合は、子宮口から遠い奥の方でわずかな卵膜の破綻しかなかったり、破れた膜が再び塞がってシーリングされることもあったりするので、羊水量の流出が少なく、わかりにくいこともあるのです。
内診をして、子宮口で卵膜が触れるような場合は高位破水、卵膜が破れて赤ちゃんの髪を触れるような場合は完全破水です。
2. 診断は腟鏡診+BTB試験紙などで行う
破水を疑う人に対しては、まずは内診台に乗ってもらい、器械をかけて子宮口からの羊水の流出や腟内の羊水の貯留がないかを確かめます。
これがあるような症例であれば診断は容易です。
しかし、小さな孔しか空いていないような高位破水の症例では、流出した羊水の量が少なく、肉眼的に明らかでないことも稀ではありません。
そういった場合は、小中学校の理科の実験でも使ったBTB試験紙をあてて色が変化するかを確かめたり、破水検査キットを用いたり、エコーで羊水量を評価したりなどして、総合的に判断します。
羊水はアルカリ性で腟内は酸性なので、
黄色のBTB用紙を当てて”青色“に変化したら破水したと診断します。
3. 管理方法を週数ごとに解説
破水したら何が問題になるのか。簡単にまとめると、
- 感染のリスクが上昇する
- 胎児機能不全が生じやすくなる
の2つがポイント。
だからこそ、破水の症例に対しては母体に発熱がないか、採血で炎症反応の上昇がないか、その他臨床的絨毛膜羊膜炎を疑う所見がないかを常に確認していますし、胎児心拍数陣痛図やエコーで赤ちゃんが元気なのかを評価しています。
そんな破水の管理は妊娠週数によって大きく変わってきますので、以下に週数ごとの管理方針についてまとめていこうと思います。
「早産」や「低出生体重児」として生まれることのリスクについても知ってもらえると理解が深まると思うので、次の記事も参考にしてみて下さい。
1. 妊娠24週未満の前期破水
妊娠24週未満で破水した場合にどうすれば良いのかについては、明確な正解は分かっていません。個々のケースに合わせて対応します。
赤ちゃんの合併症・後遺症の発症リスクだったり、感染が完成してしまった場合のリスクだったり、予想される予後や経過が厳しいことも多いからです。
赤ちゃんの推定体重や妊娠週数、その施設の対応力(NICUなど)を考慮して、患者家族・産婦人科医・小児科医と相談の上で治療方針を決定します。
残念ながら、人工妊娠中絶だったり、子宮内胎児死亡を待つという選択をとる方もいらっしゃいます。
2. 妊娠24週以降・34週未満の前期破水
2015年における死亡退院率は、在胎23週が約30%、在胎24週が約10%以下。妊娠24週で一気に生存率が上がることが分かっています。
そのため、妊娠24週〜34週の症例については、感染を疑う所見がなく、赤ちゃんが元気な状態であれば、次のように対応してできる限り妊娠期間の延長を図ることを原則とします。
- できる限り床上の安静を保つ(移動は車椅子など)
- 抗菌薬を投与して感染を予防
- 赤ちゃんの呼吸不全や頭蓋内出血などのリスクを減らす目的で母体にステロイドを投与する
炎症反応が上がってきたり、赤ちゃんに具合が悪いサインが認められるようになったり、陣痛がきたりしたら、適宜分娩の方針とします。
3. 妊娠34週以降・37週未満の前期破水
妊娠34週を過ぎれば、特に問題なく分娩を終えられる方の方が多くなります。そのため、妊娠34週を超えた症例については、無闇に妊娠週数を延ばす必要はないと考えて加療します。
海外の報告では、破水後に「自然に陣痛が来るのを待った群」と「分娩誘発を行った群」とで比較したところ、絨毛膜羊膜炎の頻度が待機群で有意に高かったことがわかりました。
特に腟内のB群連鎖球菌(GBS)が陽性であった場合、待機群では赤ちゃんに感染をきたしてしまう頻度が有意に高いこともわかりました。
そのためこの時期の破水の場合は、破水から24時間経過しても陣痛が発来しない場合には、分娩誘発を行うのが良いのではと考えられています。
(妊娠34〜35週の症例であれば、施設によっては炎症反応や赤ちゃんの状態を見てもう少し引き延ばすこともあるかもしれませんが、ケースバイケースです)。
4. 妊娠37週以降の前期破水
妊娠37週以降の正期産の時期であれば、赤ちゃんとしてはいつでも分娩の準備はバッチリ!という状況です。
破水から分娩までの時間が長いほど絨毛膜羊膜炎の進展が懸念されるので、こちらも破水後早期に陣痛がこなければ、分娩誘発を行って経過をみていきます。
4. 帝王切開予定の人が破水したら
帝王切開の既往があったり、骨盤位だったり、もともと帝王切開予定だった人が破水したら、緊急帝王切開術を行う必要があります。
破水によって陣痛が始まってしまったり、特に骨盤位の場合は臍帯脱出といって、赤ちゃんよりも先にへその緒が出てきてしまう超緊急事態につながるリスクがあるからです。
だからこそ、自分が帝王切開予定だったとしても関係ないとせず、破水には注意して見ていって欲しいと思います。
破水を疑った場合、「少し経過をみよう」ではなく、必ず「すぐに受診する」のが原則です。
今回は破水についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。破水については、分かっているようで分かっていないことも多かったのではないかと思います。
これからも役立つ情報を皆さまに送り届けるよう頑張ります。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。