ついに新年度が始まりますね。
新しいメンバーでの新しいスタートに、ワクワクと不安の混ざり合った気持ちでいらっしゃるかたも多いかもしれません。
今日は産婦人科をローテートする研修医の先生に向けて、記事を書いてみようかと思います。
病院では中堅どころに位置している産婦人科医がどう思っているのか、どうすればより産婦人科の研修が楽しくなるか、私なりの意見をまとめていきます。
産婦人科に興味がある人もない人も、軽く目を通してもらえると嬉しいです。
目次
1. 興味の度合いを先に伝えてしまおう
産婦人科をローテートする研修医の先生は、2年目の先生が多いかと思います。
ある程度診療ができるようになってきて、ある程度将来の志望する科が決まっていて、それぞれの目標に対してまっすぐ向かっている方が多いでしょう。
そうすると、ローテーションのはじめの方で聞かれるのではないでしょうか。
何科志望?産婦人科って興味ある?
気を遣ってくれ、「〇〇志望ですけど、産婦人科にも興味があります。」などとオブラートに包んで伝えてくれる先生もいますが、産婦人科に興味がない場合は、個人的には興味がないとはっきり伝えてもらって構わないと思っています。
産婦人科は興味のあるなしがはっきり分かれる科でしょうし、産婦人科に興味がないと言われることに対しても慣れています(こう言うと悲しく聞こえますが、本当です)。
「産婦人科に興味はないけど、志望する科に関連する症例だけ経験したい。」
そんなリクエストもありです。研修医の先生方の希望に応じて、どうとでも調整できます。
部長クラスに言うのは勇気がいると思いますので、我々のような中堅医師にぜひお気持ちを伝えてもらうと、お互い幸せになれるかもしれません。
もちろん、事前に与えられた業務はしっかりこなしてくださいね。
人手が足りない時などは特に、先生たちに助けられている場面が多々あります。
いつもありがとうございます。
2. 産婦人科は急変がつきもの
まず、産婦人科に興味がある先生へ。もし本当に興味があるのなら、一つ伝えたいことがあります。
「呼ばれるまで待っていると、逃す症例もある」
これです。
産婦人科は、いつ何が起きるかわかりません。急に赤ちゃんの心拍が起きることもありますし、急に大出血が起きることもあります。
特に産科救急は、1分1秒を争うことが多く、ピッチで電話をかける部署が多岐に渡りますので、研修医の先生を呼ぶ頃にはひと段落ついていることが多いかもしれません(悪気はありませんが、余裕がない症例ほどこうなってしまいます)。
暇そうにしている数分後に、急にバタバタし始めることもあるのが産婦人科医です。
分娩棟や産婦人科医の近くなどにスタンバイしておくと、より産婦人科の実態がわかるかもしれません。
3. 女性をみたら妊娠を疑え、これが意外と難しい
”女性を見たら妊娠を疑え”という有名な格言がありますよね。
産婦人科に興味がない先生にとっても、日常の診療の中で、妊娠の可能性を頭の隅においておくことは非常に大切です。
だいぶ前になりますが、こんな症例を経験しました。
「腹痛で受診した女性。妊娠していることに気付かず、レントゲンを撮ってしまった。赤ちゃんが大丈夫かみてほしい。それが問題なかったら帰宅させようと思う。」
夜間の救急外来を担当していた研修医の先生からこのような連絡があり、
すぐに向かうと、想像よりお腹が大きい妊婦さんがいました。
エコーを当てると、明らかに満期の大きさの赤ちゃん。
間欠的な腹痛が続いていて、血圧も高い(160/100mmHg程度)。
エコー所見は問題ないが、子宮口は5cm開大。
私「これ、陣痛です。妊娠高血圧症候群も発症しています。すぐに入院しましょう。」
慌ただしく検査をして、病棟に上がった1時間後には分娩になりました。
あとで研修医の先生と話したのですが、陣痛なんて考えもしなかったとのこと。
触診・採血・レントゲンを実施し、鎮痛薬の点滴を行って症状が和らいだので、胎児がいたこと以外は問題なしと判断したとのことでした。
産婦人科医にきちんと一報をくれたので助かりましたが、このまま帰宅させていたら自宅出産になっていたかと思うと、恐ろしいなと思います。また妊娠高血圧症候群も発症していたので、非常に危険です。
未受診妊婦はただでさえハイリスクなので、対処の遅れが赤ちゃんにとってもお母さんにとっても致命的になりかねません。
「いやいや、そんな大きなお腹なら、自分は絶対気付きますよ。」
そう思う研修医の先生、危険です。
赤ちゃんがいる状態で撮られたCT画像を、これまで何枚もみてきています。
4. 分娩は一度は見学しておこう
そのためにもと言ってはなんですが、産婦人科に興味がない先生も、産婦人科のローテート中にせめて1件以上の経腟分娩を見学しておくことをお勧めします。
このように”研修”として分娩を学べる機会は本当に貴重です。
最初に体験した分娩は、本当に刺激的です。教科書で読んでもわからない衝撃が、そこにはあります。
私が初めて分娩を見たとき、なぜだか自然と涙が出ました。
その時の感情はなかなか言葉には表せられませんが、産婦人科を志望するようになった一つの決め手になったのは間違いありません。
女性にとっても、男性にとっても、自分や家族が体験する前に研修できる機会があるなんて、とても恵まれていると思います。将来分娩なんて扱わないし…と、1件も経験せずに終わってしまうのは勿体ないです。
妊婦さんのご好意で得られる機会を無駄にせず、色々と感じとってもらいたいなと思います。
5. 女性を総合的にみるということ
産婦人科は女性を総合的に診察する能力が問われます。
様々な疾患(甲状腺疾患、糖代謝異常、心血管疾患、脳血管疾患、腎疾患、てんかん、精神疾患など)を抱えた女性が「妊娠」したら、産婦人科が主体的に関わる必要があります。もちろん他科の協力と指示が必須ですが、妊娠中だと普段と異なるコントロールがなされることも多いですし、使用できる薬剤も限られます。
こういった症例を経験するのは、非常に良い経験になるはず。
もちろん分娩だけではなく、外科的な手術も多く扱います。良性腫瘍も、悪性腫瘍もあります。
外科や泌尿器科志望であったら、解剖学的な知識の整理や腹腔鏡のドライボックスの練習などは将来に活かせることでしょう。
皮膚科・耳鼻科・眼科は妊娠に伴うマイナートラブルで、整形外科やリハビリテーション科は産前産後の腰痛や恥骨痛などで、多々お世話になっています。
小児科は言うまでもなし。小児科の先生がいないと、安全な分娩は成立しません。
どんな志望科であっても、産婦人科の研修で得られるポイントは必ずあるはずです。
自分の志望科に関連した知識を、ぜひたくさん吸収してください。
6. おすすめ書籍とカルテの略語
最後になりますが、おすすめ書籍とカルテ略語について、過去にまとめた記事を紹介します。
書籍については、「産婦人科医になりたい人が最初に読んでおくとスムーズではないかな」と思う書籍10選です。産婦人科志望の方は、購入して後悔することはないかと思いますので、ぜひ参考にしてください。
逆に産婦人科を希望しない人は、(時間があれば)漫画のコウノドリだけ読んでおけばバッチリです。
また、産婦人科カルテは略語が多いと研修医の先生から苦情が入ることがあります。
分野別にまとめてみたので、なんだこれと迷った時に、ぜひ照らし合わせてみてください。
研修医の先生に、産婦人科の研修を楽しく過ごしてもらいたい。
産婦人科に興味がある人もない人も、どちらにとっても有意義な時間になってほしい。
そんな気持ちでだらだらと書き連ねてしまいました。
研修医の先生がいないと回らない業務もあるので、いつも助かっています。
ぜひ産婦人科ローテーションが実り豊かな日々になりますように。これからも頑張ってください。
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こんにちは。
産婦人科医のゆきです。