妊婦さんへ

正常分娩について語る

医師

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

今回は正常分娩についての記事です。

分娩ってそもそも何なの?
どこまでが正常範囲でどこからが異常なの?

そういう疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。
せっかくなのでこの機に、正常分娩というのはどういうものなのかや、医療スタッフが介入するポイントなどをまとめていければと思います。

1. 分娩の3要素

まず初めに教科書的なことを説明させて頂きますが、分娩の進行は次の3つの要素の相互関係によって成り立つと考えられています。

  1. 娩出力(陣痛+いきみによる腹圧)
  2. 産道(骨産道+軟産道)
  3. 娩出物(胎児+臍帯+胎盤+羊水など)

まず第1が娩出力
いわゆる陣痛という”子宮収縮”と、妊産婦さんの”いきみ”による腹圧の上昇が赤ちゃんの娩出を助けます。

第2が産道
骨盤を形成する骨から成る骨産道と、子宮や頸管・腟・外陰部などから成る難産道を合わせて言います。
骨産道が狭いと予想される方は、事前にレントゲンなどで評価しておく場合がありますよね。ただ、レントゲンだけでは判断できないことも数多くあり、会陰や腟がどれくらい伸びるか、子宮の出入り口がどれくらい柔らかく短くなっていくかも、分娩進行の上でとても大切な要素になってきます。

第3が娩出物
赤ちゃんだけではなく、へその緒や胎盤・羊水なども関連してきます。
お母さん側が準備バッチリでも、赤ちゃんの姿勢や向きが理想的なものではなかったり、へその緒が巻いていたりと、胎盤や羊水の位置によって分娩の進行がうまくいかないこともあるんです。

これら3つが揃って初めて、分娩は正常に進むといえましょう。加えて、母体の全身状態や精神状態が安定していることもとても大切なポイントです。

どれか1つでもバランスが崩れると、分娩遷延・分娩停止の原因になり得ます

2. 陣痛の前兆と開始の合図

陣痛って何?どうやったら始まるの?

陣痛は子宮口の開大を伴う規則的な子宮収縮であり、通常は痛みを伴うものです。10分に1回以上の、規則的なお腹の痛みがあったら開始の合図です。

日本産科婦人科学会は、
「陣痛周期が10分以内あるいは1時間に6回以上の陣痛の開始をもって分娩開始時期とする」
としています。

ただ、痛みの感じ方には個人差も多く、ご本人はお腹の痛みを感じているのに子宮口が上手く開いてくれない“前駆陣痛”との区別が難しい場合もあります。

前駆陣痛の場合、痛みの間隔が不規則で、痛みが消失することもあるのがポイント。一方、陣痛は赤ちゃんが産まれるまで規則正しく続きます。

前駆陣痛だと思ってたらすぐに陣痛が発来する方もいますし、前駆陣痛のような痛みが数日続く方もいらっしゃいます。

区別がしにくいからこそ、最終的な陣痛開始時間は、お産が終わった後に妊産婦さんと助産師さんで話し合い、分娩経過を遡って相談しながら決めることが多いです。

3. 内診って何をみているの?

産婦人科医・助産師は、分娩の進行状況を内診によって評価します。

中指と人差し指を腟内に挿入して、子宮口を探し、どのくらい開いているか、どのくらいの柔らかさか、赤ちゃんの頭がどのくらいの位置にいるかを確かめているんです。

子宮頸管の熟化を評価する指標としては、次に示すBishopスコアが有名。5項目について、それぞれ0〜3点で点数づけ(満点:13点)しています。

0点1点2点3点
頸管開大度(cm)01〜23〜45〜6
展退度(%)0〜3040〜5060〜7080〜
児頭の位置(Station)-3-2-1〜0+1〜
頸管硬度
子宮口の位置後方中央前方
[Bishopスコア]

4点以下だと子宮頸管の熟化が不十分、逆に8点以上だと子宮頸管が十分に熟化しており分娩が成功する確率が高い、と判断します。

やや主観的なものであり、人によって少しずつ判断がずれたりもするわけですが、昔から現代まで内診での評価が続いているのってなんだかすごいですよね。

モニターだけでは得られない情報が満載なので、この診察が無くなることは当分無いだろうなと思います。

4. 分娩経過の正常と異常

いよいよ陣痛が始まりました。妊婦さんにとっては緊張と試練の時間が始まります。

痛みや圧迫感と頑張って戦う多くの妊婦さんにとって心配なことの1つが、
『自分の分娩は今、順調なのか?』ということではないでしょうか。

ここでは、分娩にかかる平均的な時間についてお示ししていきます。

  1. 分娩第1期:陣痛開始から子宮口全開まで
  2. 分娩第2期:子宮口全開から胎児娩出まで
  3. 分娩第3期:胎児娩出から胎盤娩出まで

分娩の時期ごとに分けて解説しますね。

分娩第1期

初産婦:10〜12時間、経産婦:4〜6時間

分娩第1期とは、陣痛が始まってから子宮口が全部開くまでの時間のことです。

分娩第1期は、「潜伏期」「活動期」に分かれます。
潜伏期とは子宮頸管の展退が進み、子宮の出口がどんどん柔らかく短くなっていく時期です。
一方、子宮口が4〜6cmまで開いてくると活動期に入り、その後は加速度的に子宮口の開大が進んでいくと考えられています。

分娩のトータル時間の長い・短いに最も関与するのが“分娩第1期の潜伏期”

分娩の中で最も長い時間を要する時期であるため、進行が悪かったり経過が長くなると不安や恐怖を感じやすいと思いますが、そういう時は精神的な安息のためにも、ぜひ医療スタッフやご家族を頼って頂ければと思います。

分娩第2期

初産婦:1〜2時間、経産婦:0.5〜1時間

子宮口が全開になった時。経産婦さんでは比較的すぐに分娩になることが多いですが、初産婦さんの場合は1〜2時間程度の時間を要するのが平均的です。

この時期は、赤ちゃんの頭が順調に下降してきてくれるかがポイントになります。

分娩第2期が遷延する場合には、原因として赤ちゃんの回旋異常や児頭骨盤不均衡、微弱陣痛、軟産道強靭などが考えられますので、そういった異常が無いかは医療スタッフで適宜評価しています。

赤ちゃんの心音の異常が出やすくなる時期でもあるので、胎児心拍数陣痛図(モニター)をつけながら注意してみていきます。

介入が必要な場合には、器械分娩(鉗子分娩・吸引分娩)や会陰切開などを行い、児娩出とします。

分娩第3期

初産婦:15〜30分、経産婦:10〜20分

赤ちゃんが産まれた後も、胎盤が娩出されるまで分娩は続きます。
胎盤娩出までの時間は初産婦さんも経産婦さんも大きくは変わらず、上記のようになります。

この時期は、分娩時の異常出血に注意しながら処置を行います。
30分以上胎盤が出ない場合や、胎盤が娩出される前に異常な出血が出る場合では、胎盤を用手的に剥離する処置を行うこともあります。

まとめ

分娩所要時間をまとめると、下記のようになります。

第1期第2期第3期合計
初産婦10〜12時間1〜2時間15〜30分11〜15時間
経産婦4〜6時間0.5〜1時間10〜20分6〜8時間
[分娩経過と分娩遷延の基準]

経産婦さんの場合は、初産婦さんのおよそ半分の時間で分娩が進むということが分かりますね。

分娩所要時間が初産婦で30時間、経産婦で15時間以上かかる場合には、遷延分娩と定義されます。

5. 陣痛周期の正常と異常

子宮口がどれくらい開いている時に、どれくらいの頻度で痛みが来るのかを示したものが、下記の表になります。

子宮口4〜6cm7〜8cm9〜10cm分娩第2期
平均3分2分30秒2分2分
過強1分30秒以内1分以内1分以内1分以内
微弱6分30秒以上6分以上4分以上初産:4分以上
経産:3分30秒以上
[陣痛周期による陣痛の評価]

胎児心拍数陣痛図や自覚症状などをもとに評価します。

陣痛は弱すぎても強すぎてもダメなのです。

子宮の収縮の間隔が広すぎる場合、分娩所要時間ばかりが延びてお産が十分に進まず、母体疲労だけが溜まってしまう可能性があります。
一方、頻収縮だったり陣痛が強すぎたりすれば、子宮破裂や赤ちゃんの心音異常の原因になるリスクがあります。

分娩誘発・陣痛促進が必要な分娩分娩誘発って?陣痛促進って?痛いイメージがあるけど、他にどんなリスクがあるの?どういう症例に使われるの?そんな疑問に産婦人科医が答えます。誘発・促進はどんな妊婦さんにも関わりうる処置です。...

必要であれば、分娩誘発・陣痛促進剤などを使用したり増減したりして、分娩を上手くコントロールすることが重要だと考えています。

6. 正常分娩について、いち産婦人科医が考えること

以前、こんなご指摘を頂いたことがありました。

出産した瞬間に、医療者から見放されたような寂しい思いをしたことがありました。医療者側のお産の捉え方と、産婦として医療者の皆さんに望むことのギャップがある気がします。

思わずハッとさせられたので、私が考える正常分娩と産婦さんへの思いを紹介させて頂ければと思います。

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まず前提としてですが、分娩が安産であればあるほど、私たち産婦人科医の出る幕は無くなります。何も無い方であれば、赤ちゃんが出る直前に登場し、会陰の処置をしてすぐに終わりです。

陣痛が続く、長くて痛くて終わりの見えない時間を一緒に頑張るのは、産婦人科医ではなく助産師さんであることが多いです。

産後も順調であれば、医師は特に介入はしません。採血などを確認したり、退院前に診察などをして終わり。授乳や沐浴指導などを行うのは、助産師さんがメインです。

そういった意味では、正常分娩の人に対する意識が少し薄れがちになってしまう、というのは否定出来ないなと感じます。

そのことで「医療者から見放された気がした」という思いをされたのに対しては申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ただ、私の視点で言えば、「その人における役目は終わったかな」という認識なのです。

出産は危険と隣り合わせのことも多く、いつも気を張っています。どんなにリスクの低い症例でも、いつ何が起こるか分からないので、1症例1症例、無事に終わるたびに安堵している自分がいます。

そしてそんな分娩が1日に何件も続きます。複数並列になっていることも珍しくありません。だからこそ、1つが終わったら頭を切り替えて次に集中、という感じになってしまうのです。

ただ、だからといって出産後の妊婦さんに関心がなくなったわけではありません。役目は終わったかなと思ってはいても、見放すつもりは毛頭ありません。何か困ったことがあればいつでも助けになりたいと思いますし、頼って欲しいです。

「産婦として医療者に望むこと」ってなんなんだろうと思いを馳せながら、妊産婦さんに喜んでもらえるような、そして十分な安心・安全を担保できるような医療を提供するよう励み続けたいと感じます。

今日は正常分娩についての記事でした。いかがだったでしょうか。

出産は奇跡の連続。そして危険と隣り合わせ。
無事に出産を終えられるたび、ホッと胸を撫で下ろす私なのでした。

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ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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