更年期以降に多い疾患

ホルモン補充療法はどんな人に適しているの?

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

以前、更年期障害の記事を書きました。

多彩な症状を呈する更年期障害更年期障害は周閉経期に多彩な症状を呈する症候群です。更年期障害でどのような症状が出るのか、治療法にはどういうものがあり、どのように使い分けているのかについて、産婦人科医の筆者がまとめて解説します。...

更年期障害は『閉経前後5年の間に多彩な症状が出て、日常生活に支障が出るようになった病態のこと』でしたが、更年期障害の治療方法の1つとしてホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy;HRT)があります。

ホルモン補充療法は、閉経移行期以降の女性にエストロゲン製剤を投与する治療の総称です。

前述した更年期障害だけでなく、骨粗鬆症や脂質代謝異常、動脈硬化などにも効果があります。
今日はそんなホルモン補充療法について簡単にまとめてみようと思います。

1. HRTの効果

ホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy;HRT)とは、閉経移行期以降の女性にエストロゲン製剤を投与する治療の総称です。

ホルモン補充療法によって、次のような症状の改善が見込めます。

  • ホットフラッシュを緩和する
  • 寝汗や不眠を改善する
  • 性機能障害・腟内乾燥感を改善する
  • 記憶力低下を改善する
  • 気分の落ち込みなどの精神的症状を緩和する
  • 頻尿や関節痛などへの効果もある

ざっとまとめると更年期症状」の緩和ですね。

更年期障害はこういった症状が日常生活に支障をきたすことによる疾患ですので、ホルモン補充によって改善が見込めるのは大きな意味があります。

ただ、効果はそれだけではありません。

  • 骨粗鬆症や骨折の予防
  • コレステロールや中性脂肪など、脂質代謝の改善
  • 動脈硬化の予防
  • 糖尿病の新規発症の抑制
  • アルツハイマー病発症のリスクの低下
  • 皮膚のコラーゲン量を増加させる効果
  • 大腸癌・食道癌・胃癌・肺癌のリスクを低下させる可能性がある

なんと、動脈硬化生活習慣病認知症骨粗鬆症の予防などの効果もあるのです。こちらを簡単にまとめると「老化によって発症リスクが上昇する病気」と言えるでしょうか。

従って、例えば単純に更年期症状があるだけではなく、骨密度の減少も発覚している症例に対しては、ホルモン補充療法での治療介入がより推奨されることになります。

2. HRTによるリスク

良いことばかりなら、ホルモン補充療法をじゃんじゃんやっちゃえば良いじゃん!

そう思う人もいるでしょう。
ただ、どんな治療にも言えることですが、ホルモン補充療法による有害事象があることも知っておかねばなりません。

まず頻度が多いのが、腟からの不正性器出血乳房痛です。
子宮内膜に作用して不正出血を起こしたり、生理前後のように胸が張ったような感じを訴える方はしばしばいらっしゃいます。

また、エストロゲンを補うという治療になるので、血栓塞栓症脳卒中のリスク増加についても指摘されています(ピルと比較すると、含有されているエストロゲンの量がかなり少なくなっているのでリスクも低めではありますが)。

そして最後に、卵巣癌や乳癌リスクを上昇させたり、子宮を有する人にエストロゲン単独でホルモンを補充した場合は子宮体癌のリスクが上昇したりすることも報告されています。
基本的には、ホルモン補充療法の治療期間が長いほど、そのリスクは上昇します。

3. HRTの禁忌と慎重投与例

したがって、ホルモン補充療法を開始するにあたっては、症例をしっかり選択する必要があります。

下記に、ホルモン補充療法を行ってはいけない”禁忌症例“と、慎重な管理が求められる”慎重投与症例“を一覧にします。

<禁忌症例>

  • 重度の活動性肝疾患
  • 現在の乳癌、あるいは乳癌の既往がある
  • 現在の子宮体癌・低悪性度子宮内膜間質肉腫
  • 原因不明の不正性器出血
  • 妊娠が疑われる場合
  • 静脈血栓塞栓症とその既往
  • 心筋梗塞の既往
  • 脳卒中の既往

<慎重投与症例、ないしは条件付きで投与が可能な症例>

  • 子宮体癌の既往
  • 卵巣癌の既往
  • 肥満
  • 60歳以上あるいは閉経後10年以上経過してからの新規投与
  • 血栓症のリスクを有する場合
  • 冠攣縮及び微小血管狭心症の既往
  • 慢性肝疾患
  • 胆嚢炎及び胆石症の既往
  • 重症の高トリグリセリド血症(中性脂肪↑)
  • コントロール不良な糖尿病
  • コントロール不良な高血圧
  • 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往
  • 片頭痛
  • てんかん
  • 急性ポルフィリン症
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)

乳癌になってしまった人に対しては、現在治療中の人も過去に治療を終えている人も、すべからくホルモン補充療法は禁忌です。
一方、子宮体癌や卵巣癌については、現在治療中の方は禁忌、過去にかかって今は治療を終えているという方については慎重投与という位置付けになります。

また、血栓関連の疾患にかかったことがある人についても、ホルモン補充療法は選択できません。

4. HRT前に必要な検査

ホルモン補充療法前には、体重・身長(BMI)の測定や血圧の測定が必要です。

また、血液検査として貧血や脂質異常の有無、肝臓・腎臓の機能、血糖値などを確認していきます。

更に婦人科癌検診や乳癌検診も必須です。
子宮体癌や乳癌に罹患していないかを前もってチェックしておきます。

血栓症については、将来の血栓症発症を予測できる特異的なマーカーがないため、前もって行う検査というのはないのが実情です。

ホルモン補充療法の治療中であっても、こういった検査を適切なタイミングで再評価しながらフォローしていきます。

5. まとめ

  • ホルモン補充療法(HRT)は女性ホルモンであるエストロゲンを補充する治療の総称。
  • 更年期症状を改善するだけではなく、生活習慣病や骨密度の低下、認知症発症リスクの低下、脂質代謝の改善などの効果もある。
  • 大腸癌・食道癌・胃癌・肺癌のリスクを低下させる可能性もある。
  • 一方、乳癌や卵巣癌のリスクを上昇させる可能性がある。
  • エストロゲン単独使用では子宮体癌のリスクを上昇させる可能性がある。
  • したがって、ホルモン補充療法を開始する前には禁忌や慎重投与にあたらないか適切な検査をして評価することが必要。

いかがだったでしょうか。
少し盛りだくさんになってしまったので、実際にどのように投与するかや、他の治療との比較点などについては、また次の記事に回したいと思います。

今週火曜日更新予定ですので、お楽しみに!

  1. 日本産科婦人科学会 編集 産婦人科専門医のための必修知識2020年度版
  2. 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020
  3. 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会 ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版

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◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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