前回、ホルモン補充療法(HRT)の総論として下記の記事を書きました。
更年期症状だけでなく、様々な症状の改善や疾患の予防効果が期待できるホルモン補充療法。
これが実際の臨床現場でどのように行われているのか、具体的にまとめてみます。
目次
1. EとPのお話し
子宮内膜に作用するホルモンとして代表的なものに、「エストロゲン(E)」と「プロゲステロン(P)」があります。
ホルモン補充の恩恵を得るには、エストロゲンを補充すれば良いのですが、子宮を有する女性にエストロゲン製剤を単独で投与すると、子宮体癌やその前癌病変のリスクが増加することから、プロゲステロン製剤の併用が必須になります。
逆に、子宮を摘出している女性に対しては、プロゲステロン製剤の併用は不要です。
これがホルモン補充療法の基本になるのでおさえておいて下さい。
2. ホルモン製剤の形態いろいろ
①ホルモン製剤の種類と投与経路
ホルモン製剤には、ざっくり分けて
- エストロゲン製剤
- プロゲステロン製剤
- エストロゲン・プロゲステロン配合剤
の3つがあります。
更にそれぞれに対して、
- 経口(内服薬)
- 経皮(貼り薬や塗り薬)
- 経腟(腟錠)
- 筋肉注射
などの様々な投与経路があります。
経口薬と経皮薬については、下記のように少しずつ作用が異なってくるため、患者さん毎にどちらが適しているかを評価して選択します。
経口投与 | 経皮投与 | |
---|---|---|
中性脂肪 | 増加 | 減少 |
悪玉コレステロール | 減少 | 不変 |
善玉コレステロール | 増加 | 不変 |
CRP | 増加 | 不変 |
血栓リスク | 上昇 | 不変 |
骨量 | 増加 | 増加 |
乳房痛 | 出やすい | 出やすい |
例えば、”中性脂肪が多い”症例や”血栓リスクが高い”症例では、経皮投与が望ましいと考えられますね。
②具体的な処方薬の一例
- プレマリン®︎0.625mg/day:内服薬
- ジュリナ®︎0.5〜1.0mg/day:内服薬
- エストラーナ®︎0.72mg/隔日:貼り薬
- ディビゲル®︎1.0mg/day:塗り薬
- ル・エストロジェル®︎0.54〜1.08mg/day:塗り薬
- プロベラ®︎:内服薬
- デュファストン®︎:内服薬
- ウェールナラ®︎:内服薬
- メノエイドコンビパッチ®︎:貼り薬
具体的な処方例としては、このような薬が挙げられます。
たくさんの種類があるんだということだけ把握してもらえればOKです。
子宮を有する患者さんに対しては、
(1)+(2)あるいは(3)単独
を、子宮摘出後の患者さんに対しては
(1)単独
を処方します。
③投与方法(周期投与vs持続投与)
ホルモン補充療法は投与方法にもバリエーションがあります。
具体的には下記の3パターンです。
- 持続的併用投与法:連日E+Pを投与
- 周期的持続投与法:Eは連続+Pは1ヶ月のうち2週間だけ投与
- 間欠的投与法:5〜7日間の休薬期間を挟む
ホルモン補充療法を行う時に閉経しているか否かや、不正出血をどれだけ重視するかなどにより、どのように投与するかを選択できるのです。
3. HRTのアルゴリズム
エストロゲン欠落症状があり、特にホットフラッシュや発汗・不眠・抑うつ症状などの訴えが強いような人に対しては、ホルモン補充療法は良い適応になります。
ホルモン補充療法を考慮できる症例に対しては、メリット・デメリットをしっかりと説明した上、患者さんの意向を確認します。
結果、ホルモン補充療法を希望された方に対しては、次のようなアルゴリズムで管理していくことがガイドラインで提唱されています。
①管理方法のアルゴリズム
HRTを考慮できる症例
↓
身長・体重・血圧を確認
血液検査(血算・生化学検査・血糖)
婦人科癌検診
乳癌検診
↓
(1)子宮あり=E+P補充
(2)子宮なし=Eのみ補充
↓
薬剤の種類及び投与経路・投与方法を選択
↓
副作用チェック
効果判定など管理
↓
5年以上投与する場合は乳癌のリスクが高まることを再度説明
②HRT前・中・後の管理方法
HRT前
まず、ホルモン補充療法の目的を確認します。治療的に行うのか、それとも予防目的に行うのか。
それによって、今後ホルモン補充療法をどの程度継続する見込みになるのかを予測していくのです。
また、禁忌や慎重投与症例にあたらないかについても、しっかりと確認しておきます。慎重投与症例については、リスクとメリットを天秤にかけ、治療を行うか否かを評価します。
そして前述のアルゴリズムにも記載した投薬前検査を行います。
血圧やBMIのチェックはもちろん、採血、子宮頸癌や子宮体癌の検査、乳癌検診なども必須です。
HRT中
ホルモン補充療法中は定期的に外来でフォローし、症状の変化やマイナートラブルを含めた症状の聴取を行います。
また、年に1〜2回の頻度で
・血圧、身長、体重
・血液検査(血算・生化学検査・血糖値)
・必要に応じて女性ホルモン(E2)
を、
更に1年毎に
・内診や経腟超音波検査
・子宮頸癌検診、子宮体癌検診
・乳癌検診
を施行していきます。
HRT後
ホルモン補充療法が終了した後も、終了から5年経過するまでは1〜2年毎の婦人科癌検診や乳房検査を推奨します。
ホルモン補充療法中止後も、女性の生涯の生活の質の維持を目的として、健康管理をサポートする体制が望まれます。
4. まとめ
- ホルモン補充療法はEとPを補充する方法
- 子宮を有する症例にはE+P
- 子宮摘出後の症例にはE単独
- 経口薬だけではなく、テープ剤やゲル剤、腟錠、注射薬なども存在する
- 投与方法にも複数の選択肢がある(周期投与か連続投与か等)
- 患者毎の他の因子に合わせた選択が可能
- 管理にあたっては、1年毎の婦人科癌検診や乳癌検診が必須
- 外来で定期的にフォローし、効果や副作用について評価する
今回はホルモン補充療法の実際についてまとめてみました。
なんとなくイメージが掴めるようになったでしょうか。
デメリットもありますが、それをしっかり把握した上で管理していけば、とても良い治療法になり得ます。
私も適応に当たるかも…?という人は、ぜひお気軽に産婦人科医に相談頂ければ幸いです。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。