以前、質問箱でこんな質問を頂きました。
妊婦健診では妊娠36週前後から1~2週間おきに、入院患者さんであれば妊娠30週以降は毎日評価する胎児心拍数陣痛図(cardiotocogram:CTG)。しかし、その波形が何を意味しているのか、分からない方が多いのではないでしょうか。
細かく説明すると深い領域ですが、今回は分かりやすさを重視して簡潔にまとめます。妊娠・分娩管理の貴重な指標となり、赤ちゃんあるいは妊婦さんの異常をリアルタイムで評価できる強みがあります。
目次
1. 胎児心拍数陣痛図(CTG)の基本
胎児心拍数陣痛図(cardiotocogram:CTG)は、赤ちゃんの心拍と子宮の収縮を見る分娩監視装置です。長いので、ここからはCTGと略して説明します。臨床現場では単に”モニター”って言ったりもします。
CTGの上段は赤ちゃんの心拍数、下段は子宮収縮を示しており、30〜40分程度装着して評価します。太い縦線から太い縦線まで(3マス分)が1分です。
観察項目は大きく下記の5つになります。
- 胎児心拍数基線
- 基線細変動
- 一過性頻脈
- 一過性徐脈
- 子宮収縮
1. 胎児心拍数基線(baseline)
正常:110〜160bpm
頻脈:160bpm以上
徐脈:110bpm未満
10分間におけるおおよその平均心拍数を基線(baseline)と言います。
上段の胎児心拍の線に注目し、平らな時間が2分以上続いているところで判定します。上の症例の場合、大体140bpmです。
bpm(beat per minutes)とは、1分間あたりの心拍数のことです。
2. 基線細変動(variability)
正常:6〜25bpm
増加:26bpm以上
減少:5bpm以下
消失:肉眼的に認められない
CTGをよく見てみると、真っ直ぐな1本線というよりは、細かくギザギザしているのが分かるかと思います。この細かい変動のことを基線細変動(variability)といいます。
基線細変動の振幅の正常値は6〜25bpmです。赤ちゃんの元気度を予測する上で非常に大切な項目になります。
3. 一過性頻脈(acceleration)
正常:一過性頻脈がある
一過性頻脈は15秒以上・15bpm以上の心拍数増加のことです。妊娠32週未満の場合は基準が10秒以上・10bpm以上になります。CTGで上段の波形が山なりに盛り上がっているのがそれです。
一過性頻脈は胎動を反映しています。胎動は赤ちゃんにとっての運動であり、運動によって心拍数が上がっているイメージです。運動できている=赤ちゃん元気そう、と判断します。
4. 一過性徐脈(deceleration)
正常:一過性徐脈がない
一過性徐脈が山なりの波形であるのに対し、一過性徐脈は下向きの”谷”として検出されます。一過性徐脈は赤ちゃんが苦しいサインであり、非常に大切なポイントなので、後の項目で詳しく説明します。
5. 子宮収縮(uterine contraction:UC)
陣痛周期:2〜4分
陣痛持続時間:30〜40秒
陣痛間欠:1分20秒〜3分30秒
下段の子宮収縮波形は、切迫早産の患者さんのお腹の張りを客観的に評価したり、陣痛進行時に適切な子宮収縮がきているかを判断したりするために利用します。
基準値は上の通りです。10分間に6回以上の子宮収縮を認める場合は、頻回収縮・過強陣痛と判断します。
2. “胎児が元気である”と判断するには?
先ほどの5つの観察項目の1〜4を用います。
基線が正常(110〜160bpm)で、
基線細変動が正常(6〜25bpm)で、
一過性頻脈(山)があって、
一過性徐脈(谷)がない
これら全てに当てはまった時、私たち産婦人科医は「赤ちゃん元気ですね」と言っているのです。意外と簡単ですよね。パッと見で判断できます。
どれかが欠けている場合は、赤ちゃんの具合が悪い可能性があります。モニターを再検したり、場合によっては分娩の方針にします。
3. 一過性徐脈の4つの波形
一過性徐脈には色々な種類があります。どれに分類されるかによって意味合いが大きく異なってきてしまうので、どのタイプの一過性徐脈なのかを判断するのが非常に重要です。
- 早発一過性徐脈
- 遅発一過性徐脈
- 変動一過性徐脈
- 遷延一過性徐脈
子宮が収縮し、赤ちゃんの心拍が下がった時のタイミングや、波形のなだらかさ・急峻さが判読のポイントです。
1. 早発一過性徐脈(early deceleration:ED)
早発一過性徐脈(ED)
・児頭圧迫に伴う生理的な反応で、異常ではない
・緩やかに減少して緩やかに回復する
・一過性徐脈の最下点が子宮収縮の最強点と同時
「早発一過性徐脈」は、一過性徐脈の中で唯一の”問題ない波形”です。
子宮収縮によって赤ちゃんの頭が圧迫されて、頭蓋内圧が亢進することで迷走神経反射が起き、心拍数が減少するという生理的反応(反射)なのです。
ポイントは、赤ちゃんの徐脈の一番低い点が、子宮収縮の山のてっぺんと同時であること。早発一過性徐脈の場合は、赤ちゃんも胎盤も元気であると判断できるので、特別な介入は不要です。
2. 遅発一過性徐脈(late deceleration:LD)
遅発一過性徐脈(LD)
・胎盤の機能不全による赤ちゃんの低酸素を示唆する
・緩やかに減少して緩やかに回復する
・一過性徐脈の最下点が子宮収縮の最強点より遅れている
高度LD:心拍数低下が15bpm以上
軽度LD:心拍数低下が15bpm未満
子宮収縮の山のてっぺんよりも、赤ちゃんの徐脈の最下点が遅れていることが分かります。これが「遅発一過性徐脈」です。
子宮収縮によって子宮の栄養血管が圧迫され、胎盤の血行循環が悪くなり、赤ちゃんに十分な酸素が供給できなくなった時に出現します。赤ちゃんが苦しい危険なサインで、早発一過性徐脈とはまるで意味合いが違うのです。
3. 変動一過性徐脈(variable deceleration:VD)
変動一過性徐脈(VD)
・臍帯圧迫を示唆する
・急速に下降し、速やかに改善する
高度VD:「最下点が80bpm未満かつ持続時間が60秒以上」または「最下点が70bpm未満かつ持続時間が30秒以上」
軽度VD:それ以外
今回の波形は急速に胎児心拍が下降していることが分かります。
このように30秒未満の間に15bpm以上の心拍低下を認めるものを「変動一過性徐脈」と言います。子宮収縮によってへその緒(臍帯)が圧迫されることによって生じます。
基本的には臍帯圧迫が解除されれば速やかに改善するため、赤ちゃんそのものは良好な状態と捉えます。臍帯が圧迫されやすい羊水過少・破水後・臍帯異常時によく見られます。
4. 遷延一過性徐脈(prolonged deceleration:PD)
遷延一過性徐脈(PD)
・持続時間が長い(2分以上10分未満)
高度PD:最下点が80bpm以下
軽度PD:最下点が80bpm以上
2〜10分持続する徐脈を認めたら「遷延一過性徐脈」です。10分以上続く場合は、一過性という名前が外れて単なる「徐脈」になります。
遷延一過性徐脈の原因は、過強陣痛・臍帯圧迫・低血圧など多岐にわたりますが、多くは胎盤の循環不全により生じます。胎児の状態がよく回復が期待できるものから、いますぐに急速遂娩(器械分娩や緊急帝王切開術)が必要なものまで様々あるので、慎重な判断が求められます。
産婦人科医は一過性徐脈を下記のように略して話したりしています。
・早発=アーリー、ED
・遅発=レイト、LD
・変動=バリアブル、VD
・遷延=プロロングド、PD
重症度のイメージは「PD≧LD>VD>ED」です。
4. 一過性徐脈鑑別のフローチャート
たくさん説明して少しゴチャゴチャしてきたと思うので、一度整理しましょう。一過性徐脈は次のような順番でパターン化して判読できます。
<一過性徐脈判読フローチャート>
①徐脈が2分以上続いている?
Yes:遷延一過性徐脈(PD)
No:それ以外
↓Noの場合
②心拍数の減少が急速?
Yes:変動一過性徐脈(VD)
No:早発or遅発一過性徐脈
↓Noの場合
③徐脈の最下点が子宮収縮の最強点と同時?
Yes:早発一過性徐脈(ED)
No:遅発一過性徐脈(LD)
しかし、どれに分類するか悩む波形があるのも事実で、スタッフによって波形の評価が異なることも日常茶飯事です。そのため、一過性徐脈の形だけではなく、基線細変動や一過性頻脈の有無、母体の状態などを総合して判断する必要があります。
5. レベル分類
CTGの各要素の組み合わせから、赤ちゃんの低酸素血症などへのリスクを推量するため、レベル分類が用いられます。レベル3〜5を、赤ちゃんが具合悪い胎児機能不全と判断します。レベル3以上であれば産婦人科医が立ち会い、エコーなどの評価を行います。レベル4以上であれば急速遂娩を考慮し、必要に応じて実行します。レベル5以上では直ちに急速遂娩・新生児蘇生が必要です。
レベル分類でCTGを5つに分類することによって、スタッフ間でのCTGの評価のズレを補正できます。臨床現場では共通言語として多く活用されています。
今回はCTGの読み方についてまとめてみました。分娩中、赤ちゃんが産道を旅してくる間の貴重な情報を与えてくれるCTG。
私たち産婦人科医がどのように判断しているのか、何が危ない波形で何が経過観察できる波形なのか、少しでも理解してもらえたなら本望です。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。