絨毛膜羊膜炎とは、卵膜に細菌などが感染して生じる炎症性の疾患のことです。早産の原因として最も多く、発症したら短期間で早産になります。
ただ、絨毛膜羊膜炎はなかなか診断・治療が難しく、臨床の場でも頭を悩ませることが多いです。今回はこちらについて簡潔にまとめていきたいと思います。
目次
1. 絨毛膜羊膜炎の多くは上行感染で発症
1. 卵膜の3層構造
卵膜=脱落膜(母由来)+絨毛膜(胎児由来)+羊膜(胎児由来)
絨毛膜羊膜炎についてお話しする前に、赤ちゃんと羊水を包む膜である「卵膜」について解説します。
卵膜は、お母さん由来の脱落膜と、胎児由来の絨毛膜・羊膜の3層構造になっています。外側から順に脱落膜→絨毛膜→羊膜です。
絨毛膜羊膜炎とは、このうち胎児附属物である卵膜、すなわち絨毛膜と羊膜に感染が生じて起こる疾患になります。
2. 上行性感染
感染は上行性に進行する
・細菌性腟症→腟炎→子宮頚管炎→絨毛膜羊膜炎(CAM)
・絨毛膜羊膜炎→羊水感染→胎児感染
感染は腟から子宮へと上行性に進行します。
細菌性腟症の全てが絨毛膜羊膜炎をきたすわけではなく、一部が腟へ、またその一部が頚管へ、と徐々に進行して発症していくのです。
さらに進行すると羊水や胎児に感染をきたしますが、「赤ちゃんに感染する前に分娩とする」ということが、臨床現場での1つの目標になります。
2. 上行感染以外の経路は?
細菌性腟炎以外にも、稀ではありますが
- 生ハムやチーズを摂取→リステリア菌が血行性に子宮に移動
- 歯周病に関連する菌が血行性に感染
などで絨毛膜羊膜炎を発症することもあります。
また最近、「無菌性の絨毛膜羊膜炎」の存在も注目されるようになりました。出血、胎便、羊水中のsludgeなどが原因で炎症をきたし、それが早産の誘因となる可能性が考えられているのです。
早産に至る週数が早いほど、原因が絨毛膜羊膜炎であることが多いと言われます。無菌性の絨毛膜羊膜炎についてはまだ詳細が不明な点が多いため、今後の研究が待たれます。
3. 症状は出ることも出ないこともある
- 不顕性CAM:症状が乏しい
→早期治療により進行を防ぐことが可能 - 顕性CAM(臨床的CAM):症状あり
→治療を行っても数日中に分娩に至ることが多い
絨毛膜羊膜炎(CAM)には、発熱などの症状が出る「顕性CAM」と、症状の乏しい「不顕性CAM」があります。
不顕性CAMは治療によって早産の進行を止めることができると考えられていますが、放置すると顕性CAMに進行してしまいます。
一方、顕性CAMは治療を行っても進行を止めにくく、子宮収縮抑制薬(いわゆる張り止めの薬)を用いても早産を免れないことが多いです。
CAMが進行すると羊水中や赤ちゃんに感染が及んでしまうので、子宮収縮抑制薬は使用せず、抗菌薬を使いながら分娩の方針とすることが勧められます(もちろん妊娠週数と相談ですが)。
4. 検査法と診断基準
絨毛膜羊膜炎(CAM)の最終診断は分娩後に胎盤の病理学的検査を行うことによってなされます。
しかし判断しないといけないのは分娩前。そのため、適切な検査・診断基準が重要になるのです。
1. CAMを疑った時に行う検査
絨毛膜羊膜炎(CAM)が疑われる場合には、まずはお腹を触診して圧痛や熱感がないかを評価し、母体の発熱・頻脈が無いかなどを確認します。
そして、次のような項目で精査を行い、総合的に判断していきます。
- 内診:圧痛+、膿性or悪臭を伴うおりもの
- 経腟エコー:子宮口開大、頚管長短縮、羊水sludge
- 血液検査:炎症反応を示唆する白血球(WBC)・CRP値の上昇
- 胎児心拍数陣痛図:胎児頻脈、頻回な子宮収縮
- 早産マーカー:頚管粘液中エラスターゼ、腟分泌物中癌胎児性フィブロネクチン
2. 臨床的CAM(顕性CAM)の診断基準
診断基準としては、下記のLenckiらのものを用います。
発熱、頻脈、白血球数、子宮の圧痛、おりものの悪臭がポイントです。
<臨床的CAMの診断基準>
(a) 母体発熱(≧38℃)がある場合、以下の4項目のうち”1項目以上”を認める
あるいは
(b) 母体の発熱がない場合、以下の”4項目全て”を認める
- 母体の頻脈(≧100bpm)
- 母体の白血球増多(≧15,000/μL)
- 子宮の圧痛
- 腟分泌物や羊水の悪臭
[Lencki SG, et al.: Maternal and umbilical cord serum interleukin levels in preterm labor with clinical chorioamnionitis: Am J Obstet Gynecol 170: 1345-1351, 1994]
しかし、この基準には胎児の情報は全く含まれていません。
更に、虫垂炎(盲腸)や腎盂腎炎(尿路系の感染症)など、他の感染症でも同じような症状を呈することがあります。
つまり、本当に絨毛膜羊膜炎なのか否かをスパッと決められる診断基準ではないのです。
この基準を全て満たしているような段階では、絨毛膜羊膜炎はかなり進行していると考えます。
5. 治療・管理方針
絨毛膜羊膜炎の治療の基本は感染の除去
=「妊娠の中断」(+感染を疑うなら「抗菌薬」)
・児の未熟性と感染リスクを天秤にかけて判断
・妊娠34週未満ならステロイドの投与も
絨毛膜羊膜炎とひとくくりに言っても、「発症した週数」「顕性か不顕性か」「胎児の未熟度(肺などの臓器の成熟の有無)」「感染の重症度」などによって、治療方針はかなり多彩なものとなります。
軽症で症状も少ない場合は妊娠期間の延長をはかることもありますが、重症度が上がるほど治療効果が乏しく、子宮収縮が抑制できないことが多いです。
そのため、妊娠24週以降で臨床的絨毛膜羊膜炎と判断される場合には、陣痛発来を待たずに24時間以内の分娩を目指した分娩誘発、もしくは帝王切開を行うことが勧められます。
また妊娠34週未満であれば、赤ちゃんの肺成熟や頭蓋内出血予防を目的としてステロイドを投与することが推奨されています。
感染が疑われる場合には抗菌薬を投与しますが、無菌性の切迫早産の症例に対してはルーチンの抗菌薬は推奨されていないので、母体が臨床的絨毛膜羊膜炎と診断されない限り、抗菌薬の投与は原則行いません。
今回は絨毛膜羊膜炎(CAM)についてまとめてみました。
いかがだったでしょうか。
管理方針の選択に苦慮することが多い疾患です。
「赤ちゃんに感染させる前に出したい…、でも早産期だと赤ちゃんの未熟性が問題だから少しでもお腹の中で育てたい…。」
そんな葛藤が多く頭を巡ります。
赤ちゃんのため、そして妊婦さんのためにベストな選択を取れるよう、これからも精進していきたいと思っています。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。