産婦人科の受診は、他科と比べてもハードルが高いことと思います。
内診台での診察に抵抗感があって億劫になってしまう方もいらっしゃるでしょうし、そもそも産婦人科の受診にあたり、恥ずかしさだったり、他の人に共有しづらい悩みだったりを抱えている方も多いでしょう。
この記事では、
・産婦人科の診察はどのような流れで行うの?
・〇〇の診察が苦手なんだけど代替方法はない?
などの疑問にお答えします。
少しでも産婦人科の受診のハードルが下がったら嬉しいです。
目次
1. 初診の患者さんの受診の流れ
産婦人科には色々な悩み・相談を抱えた方が受診されます。
あくまでも一例ですが、診察の大まかな流れはこのような感じではないでしょうか。その病院での1番最初の受診(=初診)の時を想定してまとめてみます。
- 主訴・受診理由を確認
- 問診票を記載する
- 診察室で医師による問診を受ける
- 内診室で診察(腟鏡診・内診・エコー)
+必要に応じて検査を追加 - 診察室で治療方針の相談・処方など
1. 問診票である程度の情報を収集
産婦人科に限りませんが、病院では今回のエピソードに関わること以外にも色々なことを伺う必要があり、それを簡潔かつ形式立てて行うために「問診票」の記入が求められることが多いです。
問診票には今までかかった病気(既往歴)やアレルギー歴、常用薬、今回相談したい症状や持続・発症期間などを記載する欄があり、それを予め患者さんに書いてもらうことによって、ある程度の情報を把握した上で診察に臨むことができるというわけです。
産婦人科の場合は上記の他に、婦人科関連の重要な情報として、
・妊娠出産歴(回数は?流産や人工妊娠中絶は?不妊期間は?)
・月経歴(周期は?持続日数は?量は?月経痛は?)
・性交渉の経験の有無
・子宮頸癌検査を最後に行ったのはいつ?
などが加わります。
答えたくない質問があれば「答えたくない」と言ってもらっても勿論大丈夫なのですが、それぞれの患者さんに沿った診察・治療を行うためにも、ある程度ご協力いただければ幸いです。
2. 医師による問診・診察で鑑別をすすめる
医師は、問診票に目を通した後に患者さんを診察室に呼び入れます。
その際に再度、今回の受診は何を目的としたものなのか、何が1番困っているのか等を伺います。
そしてある程度の疾患を思い浮かべながら診察を行います。
産婦人科の診察の多くは、上のイラストのように、内診台という動く椅子(病院によっては動かないこともある)に乗ってもらって行います。
まずは腟鏡診。
腟の中にクスコと呼ばれる器具を挿入し、腟や子宮口を展開して肉眼的に診察します。その過程で帯下(いわゆる”おりもの”のこと)もチェックし、感染症の有無などを評価します。
次に内診。
腟の中に医師の左手の人差し指を入れ、右手はお腹に当てて行います。子宮を動かした時の痛みや圧痛の有無、子宮や卵巣の大きさ・位置を確認します。
最後にエコー。
経腟エコーといって、腟の中に細長いエコープローべを挿入して行う検査が多いです。子宮や卵巣を近くから観察し、異常がないかをみます。
画像として客観的に評価ができるため、産婦人科の診察でもかなり頻度高く行われる検査です。
ざっとまとめると、次のようなポイントに注目して診察を進めています。
<腟鏡診>
・子宮口はどう見える?腟粘膜は?
・帯下の性状は?頸管粘液は?
<内診>
・子宮の向きや動きは?癒着の有無は?
・動かした時の痛みはある?
・子宮の大きさは?子宮筋腫などを触れる?
・卵巣の腫大はある?
<エコー>
・子宮の向きや内膜の厚みは?
・子宮筋腫や子宮腺筋症の有無は?
・卵巣嚢胞の有無は?卵胞の発育は?
・腹水は?
できる限り苦痛を少なくするために、最小限の時間で丁寧に診察を行うよう心がけています。
3. 必要に応じて検査を追加
診察にあたって検査が必要だと判断した場合は、必要な検査を追加します。
内診台で行うものとして一般的なのは、これらの検査でしょうか。
- 腟培養検査
- クラミジアや淋菌の検査
- 子宮頸部細胞診(子宮頸癌の検査)
- 子宮内膜細胞診(子宮体癌の検査)
4. 診察結果を踏まえて方針を相談
診察の結果から、考えられる疾患や、それに応じた治療方針などを患者さんと相談することになります。
診察時は、時にプライバシーに踏み込むような内容も聞かせていただく場合があるかもしれません。
例えば「近日中の結婚や出産のご予定は?」「パートナーは1人?複数?」など。
気分を害してしまわないよう配慮はしていますが、いきなり聞かれるとびっくりしてしまう方も多いでしょう。
ただ、出来る限り隠さず教えてもらえると幸いです。
それによって鑑別疾患や治療方針が変わる可能性がある、とても大切な情報だからです(勿論答えたくなければそのようにお伝え下さい)。
2. 臨機応変に対応します!診察のコツ
診察の流れを読んで、なんとなくのイメージは湧いたでしょうか。
理解はしたけど、それでもやっぱり怖いものは怖い!
…お気持ち、よくわかります。
特に内診台での診察は、自分の見えないところで色々なことが行われているため、「何が何だか分からなくて怖い」という方も多いですよね。また、時に痛みを伴う検査になり得るため、「その時の痛みがフラッシュバックして辛い」という方もいらっしゃいます。
色々な患者さんがいるからには、医療者側も色々な対応を心がける必要があります。
希望があれば、診察前に医療者に伝えておくことをお勧めします。
1. 内診が怖い
内診が怖いです。何をしているか分からないのが嫌。
適宜、お声掛けをしながら進めていきます。
カーテンを開けたり、隣に看護師などをつけた方がよければそのように対応します。
「内診が苦手」という方は、診察前に予め医療者に伝えておきましょう。
全然恥ずかしいことではないですし、こちらも心の準備ができてありがたいです。まずは伝えてくれてありがとうという気持ちです。
何が行われれているか分からなくて不安、という方に対しては、普段よりも細かく「今、何をしているのか」をお声掛けするようにしています。
また、仕切りとして設けてあるカーテンをオープンにして、顔が見える状態にしたり、場合によっては看護師さんに横に居てもらって対応したりすることもあります。
「痛みが怖い」という方に対しては、診察の前に痛み止め(坐薬など)を投与して準備する場合もあります。
2. 性交渉をしたことがない
性交渉をしたことがないんだけど、腟鏡診とか経腟エコーとかも行うの?
腟鏡診はサイズの小さいクスコを用いて行います。
エコーは肛門から挿入する経直腸エコーにすることが多いです。
性交渉をしたことがない人は、腟の入り口が狭いことが多いです。
そのため、クスコは通常(S〜Mサイズ)よりも小さいサイズ(SS〜SSSサイズなど)を用いることで対応しています。
また、経腟エコーを入れると痛みを伴う可能性が高いため、腟ではなく、肛門に挿入(経直腸エコー)して子宮や卵巣を観察します。
上のイラストで分かる通り、肛門からつながる直腸は子宮のすぐ後ろに位置しているため、解剖学的に近い位置で子宮や卵巣を評価でき、お腹から見るよりもわかりやすいのです。
エコーのプローべは便よりも細いので、そこまで苦痛なく検査できるかと思います。
3. 内診台に乗ることができない
内診台に乗れない場合はどうするの?
お腹からのエコーや骨盤部MRI検査で対応することもあります。
そもそも内診台に乗ることができない方もいらっしゃるでしょう。
1つは、小学生〜中学・高校生など若年の女性の診察の場合です。
性交渉を経験したことがない患者さんや、それについての知識が少ない患者さんの場合は、内診台で足を広げるような姿勢そのものに恐怖を覚えてしまうことも多いです。
婦人科の診察がトラウマにならないよう、患者さんと相談して判断します。
また、他にも何らかの理由で内診台に乗る体制をとるのが厳しい方や、恐怖心が強くパニックになってしまう方などに対しても、無理に内診台に乗ってもらうことはしません。
内診台での診察が出来ない場合は、経腟エコーや経直腸エコーを選択出来ないため、お腹からのエコー(経腹エコー)をメインに診察します。
経腹エコーは腟や肛門からの診察とは異なり、子宮の前に位置する腸管や膀胱が観察の邪魔になることが多いため、十分な評価が出来ないこともあります。そういった場合は、骨盤部のMRI検査を追加してみていきます。
3. 結語
精神的にも身体的にも、産婦人科の受診が億劫になってしまう気持ちはとてもよく分かります。
ただ、月経は1ヶ月に1回訪れ、50歳過ぎまで付き合っていかないといけないもので、女性のライフスタイルに大きく関わる問題です。そこに悩みを抱えたままでいるのは、日常生活に大きなデメリットを講じる可能性があります。
また、骨盤部の疾患にはなかなか自覚症状が出ないものも多いです。症状が出てからでは遅い、という症例を、悲しいことに何度も経験してきました。
だからこそ産婦人科医として、産婦人科の受診がもっと身近なものであればと思うのです。
もし患者さん側で引っかかるポイントがあるのなら、ぜひ率直にお伝え頂ければと思います。こちらが対応できることであれば、できる限り希望に沿った臨機応変な対応を心がけます。
いかがだったでしょうか。
痛くない愛護的な診察を、私たち産婦人科医は常に課題にしています。
最終的にどう対応するかはこちら側の判断になってしまいますが、患者さん側からの意見や要望は、どんどん言って良いと思っています。
産婦人科の診察は怖い…という漠然としたイメージが、ちょっとでも払拭できれば良いのですが。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。