今日は良性の卵巣嚢胞についてまとめていこうと思います。
一概に”卵巣嚢胞”といっても、色々な種類があるってご存知でしたか?今回は代表的な疾患を例に挙げ、解説していきます。
患者さん側が把握しておいた方が良いことは何か、どのような管理・治療を行うのか等について知ってもらえたら嬉しいです。
目次
1. 卵巣が腫れていると言われたら?
卵巣腫瘍は、女性の全生涯で5〜7%程度に発生すると考えられています1)。
産婦人科の外来や、婦人科検診などで「卵巣が腫れている」と言われた場合、確認してもらいたいのが次の3点です。
- 大きさは?
- 内容物は何っぽい?
- 自覚症状はある?
卵巣腫瘍といっても、色々な種類があります。
良性腫瘍だけではなく、”悪性腫瘍(いわゆる癌)”や、良性と悪性の中間位置に存在する”境界悪性腫瘍”もあります。
今回の記事では良性腫瘍について記載していきますが、自分の卵巣腫瘍がどのような大きさでどのような種類なのかを把握しておくことは意外と大切。
卵巣腫瘍による様々な症状(場合によっては緊急症)があること、画像所見だけでは完璧に診断をつけることは出来ないこと、良性の卵巣腫瘍が悪性化する場合があること、等が理由です。
2. 機能性嚢胞
機能性嚢胞
経過観察によって自然に小さくなる。真の腫瘍ではない。
→1〜3ヶ月後に再評価。
卵巣が腫れていると言われた人の中には、機能性嚢胞の症例があります。
機能性嚢胞とは何かというと、経過観察によって縮小する卵巣嚢胞です。病的意義はありません。
卵胞、あるいは排卵した後の黄体と呼ばれるものが嚢胞化して、一時的に腫れているだけで、無症状のことがほとんどです。
機能性嚢胞が疑われるような症例であれば、月経周期を考慮しながら1〜3ヶ月後に外来でもう1度評価し、機能性嚢胞なのか、あるいは病的意義のある嚢胞なのかを見極めていきます。
3. 子宮内膜症性卵巣嚢胞
子宮内膜症性卵巣嚢胞(卵巣チョコレート嚢胞)
卵巣の中に血液が貯留。
→挙児希望を伺いながら薬物療法を行う。場合によっては手術。悪性化に注意。
子宮内膜症性卵巣嚢胞、別名卵巣チョコレート嚢胞。
こちらは卵巣の中に子宮内膜様の組織が発生することで、生理の度に卵巣の中で出血が起き、血液が溜まって卵巣が腫れていく疾患です。
詳細は次の記事にまとめているので、是非合わせて見てもらいたいです。
子宮内膜症性卵巣嚢胞が疑われる場合は、まず患者さん本人に月経症状についてしっかりと問診を行います。
というのも、子宮内膜症性卵巣嚢胞がある場合は月経痛や慢性骨盤痛があることが多いからです。
手術は必要としない症例であっても、患者さんの挙児希望の時期や月経症状に応じて、低用量ピルや黄体ホルモン製剤などでの薬物療法を積極的に考慮していきます。
また、最初は良性の子宮内膜症性卵巣嚢胞であったにも関わらず、月日が経過しそれが悪性化する場合があるので、定期的なフォローが重要です。
特に40歳以上、もしくは10cm以上の場合は卵巣癌の合併率が急増すると考えられており、手術が考慮されます。
4. 成熟嚢胞性奇形腫
成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫・デルモイド)
卵巣の中に脂肪・髪の毛・軟骨・頭皮・歯などが貯留。
→捻転に注意。稀だが悪性転化もある。手術の要否は捻転リスクを鑑みて判断。
成熟嚢胞性奇形腫は、20〜30歳代で最も多い卵巣腫瘍です。
体細胞組織で構成される腫瘍で、腫瘍の中に脂肪(皮脂)・毛髪・歯牙・骨などが含まれます。
無症状のことが多いですが、時に腫瘍が捻れて急性腹症を呈する場合があります(茎捻転)。捻転リスクは、今回挙げた卵巣腫瘍の中で最も高いです。
35歳以上では約1%の確率で癌化(悪性転化)する可能性があると報告されています。
5. 粘液性腺腫・漿液性腺腫
粘液性腺腫:粘液が貯留
漿液性腺腫:漿液(水成分)が貯留
卵巣の中に粘液、あるいは水成分(漿液)が溜まったもののことを、それぞれ粘液性腺腫、漿液性腺腫と言います。
粘液性腫瘍は、粘液を産生する消化管型の上皮で構成される腫瘍です。
多房性(=嚢胞の部屋がたくさんある)で大きいことが多く、30cmを超える巨大な腫瘍も珍しくありません。それに伴う圧迫症状などで見つかることもあります。
漿液性腫瘍は卵管上皮に似た形態を示す腫瘍です。粘液性腫瘍と比べて単房性あるいは小房性(=嚢胞の部屋が少ない)であることが多く、大きさも比較的小さいです。40〜60歳代に好発します。
6. 卵巣嚢胞の診断と治療
様々な良性卵巣嚢胞があることが分かってもらえたかと思います。
最後に、卵巣嚢胞が認められた場合にどのように診断を進め、どのような場合に治療介入するかについてまとめて終わりにします。
1. 診断の流れは?
卵巣嚢胞が認められたら、まずは超音波検査や腫瘍マーカーなどで良悪性の判定を行います。悪性が疑われる場合は、速やかにMRI検査を施行します。
※医学生・研修医の先生はcheck!
<指標となる腫瘍マーカー・MRI>
- 子宮内膜症性卵巣嚢胞:CA125
・T2強調像で中〜高信号
・T1強調像で高信号
・脂肪抑制T1強調像で高信号 - 成熟嚢胞性奇形腫:CA19-9, SCC, CA125
・T2強調像で中〜高信号
・T1強調像で高信号
・脂肪抑制T1強調像で低信号 - 漿液性・粘液性腺腫:CA125, CEA
・T2強調像で高信号
・T1強調像で低信号
前述の通り機能性嚢胞の可能性もあるため、良性が疑わしい場合は数ヶ月経過を見て卵巣嚢胞の大きさをフォローすることが多いです。
ただ、注意して頂きたいのは、良性・悪性を正しく診断できる確率は90%程度であるということです。
つまり検査のみで絶対に良性、絶対に悪性ということは出来ないことが多いのです。それも踏まえて治療方針を組み立てていきます。
2. 手術が必要な症例は?
良性の卵巣嚢胞が疑われる場合でも、手術をお勧めする状況は次の通りです。
- 嚢胞が大きい場合(長径6cm以上)
- 嚢胞による症状がある場合
- 嚢胞が小さくても、腫瘍と確実に診断できる場合
嚢胞が大きい場合は、捻転のリスクを考慮して手術を勧めます。6cm未満であれば捻転の可能性は低いと考えられるので、経過観察とする場合が多いかと思われます。
一方、卵巣嚢胞による症状がある場合も手術適応です。手術をすることで症状の改善が認められるからです。
術式は腹腔鏡手術の場合も、開腹手術の場合もあります。
最終的な良悪性の診断は、病理検査をもって行われます。
今回は良性の卵巣嚢胞についてざっくりとまとめていきました。
卵巣嚢胞の多様性について、少しでも知ってもらえたなら本望です。
手術とするか、薬物療法とするか、経過観察とするかについては、個々の症例に応じた判断が求められ、非常にバリエーションに富んだ治療戦略が組まれます。本当に奥深い疾患ですね。
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こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。