初経は女性にとっての一大イベントですよね。
“生理”って何故かナイーブで繊細な話題というイメージがあり、親に言うのさえ恥ずかしかったりしませんでしたか?
私も小学校4年生の頃、先生に生理とは何かを尋ねた時に「あなたはどこでそんな言葉を聞いたの?」と返され、「あ、これはあまり触れてはいけない話題なんだ。」と認識した記憶があります。
だからこそ生理についての問題は、子供でも1人で抱え込みがちだったりします。友達との比較も難しいので、親の立場としても、ぜひ自分の子供の月経事情は把握しておいて欲しいなと思う所です。
今回は思春期の月経異常についてまとめてみます。
目次
1. 「思春期」と「第2次性徴」
思春期とは、第2次性徴出現から初経を経て、月経周期がほぼ順調になるまでの期間と定義されています。
日本では大体8〜9歳頃から17〜18歳頃までを指し、この時期を終えることにより生殖能力を獲得すると言われています。
一方第2次性徴は下記に示す通りであり、順番に少しずつ身体の変化をもたらします。
発現してくる時期に個人差はありますが、順番は決まっており、
「乳房発育開始」→「恥毛発生」→「最大身長発育」→「初経」
です。
女児では平均9.5〜10.0歳、男児では平均10.8〜11.5歳頃に第2次性徴が始まります。
女子の場合、初経が遅い人ほど身長が伸びる時期が長いため、結果的に高身長になりやすいです。
2. 月経の正常と異常
月経は、”25〜38日周期“かつ”その変動が6日以内“の場合に正常周期であると定義されます。39日以上で発来したら「希発月経」、24日以内で発来したら「頻発月経」です。
一方、月経が来ないことを無月経と言い、次の2種類に分けられます。
- 原発性無月経:満18歳を迎えても初経がこない
- 続発性無月経:これまであった月経が3か月以上停止
今回は”思春期”にスポットライトを当てるため、原発性無月経のみ扱って行きます。
3. 16歳まで初経が来なかったら異常と思え
初経年齢の平均は12〜13歳とされ、日本と海外で大きな差はありません。13.8歳で90%、満15歳で98%の女児が初経を迎えることが報告されています。
つまり、16歳までにはほとんどの女児が生理を経験しているのです。
近年、世界的に初経年齢は年々若くなっている傾向もあります。
だからこそ、それ以上の年齢になっても月経が見られない女児には「何か異常があるかも?」と思って対応することが重要です。
初経を迎えていない女子にどの段階で介入するかは、次のポイントに注目ししています。
- 満13歳になるまでに乳房発育が見られない場合
- 乳房発育が満10歳未満で見られた場合、その時点から5年以内に初経が発来しない場合
- 第2次性徴が正常に見られるのに、満15歳になるまでに初経が発来しない場合
つまり、中学生の間である満13歳→満15歳(16歳)まで継続的に観察し、第2次性徴や月経の状況が異常ではないかを把握しておく必要があるのです。
子供だけでは分からないことも多いでしょう。だからこそ、ある程度は親の介入も必要であろうと思います。乳房発育がどうか、生理がきたかだけでもチェックしておきましょう。
4. 原発性無月経の診断と対応
1. 外来での診断の流れ
原発性無月経を主訴とした患者さんが受診した際、まずは身体所見をとって第2次性徴が順調に来ているのかを把握し、エコーを用いて腟・子宮・卵巣などの生殖臓器が欠如していないかを調べます。
次に出生時の状況や既往歴などを問診し、染色体・遺伝子的な問題がないかを含めて考察します。
最後にエストロゲン・プロゲステロン・FSHなどのホルモン採血を行い、ホルモン値に異常がないか、あったとしたらどの部分の異常によって無月経がもたらされているのかを評価します。
これらである程度の分別が可能です。また、必ず妊娠を除外した上で精査を進めていきます。
2. 対応は個々人の目標に合わせる
原発性無月経の治療方針をどうするかは、個々人によって異なります。
今後の妊娠の可能性、性交渉の可能性、第2次性徴の進行補助など、どこに目標を設定するかで対応が変わる場合があるのです。
これは疾患レベルの話ではなく、患者本人の意思が尊重されるべき所だと思います。
5. 具体的な疾患から解説
原発性無月経の原因には、様々な疾患が隠されています。
フローチャート形式でざっと例を挙げると、下記の通りです。
外性器の所見・腟や子宮の有無・ホルモン値・染色体などが診断のキーポイントとなっているのが分かりますね。
いくつかの疾患を取り上げてみましょう。
1. ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)
下部ミュラー管の発生異常
→腟上部:欠損 / 子宮:欠損~痕跡的 / 卵管:存在
ロキタンスキー症候群は、腟上部〜子宮が欠損している疾患です。
頻度は女児5,000人に1人。
泌尿器系の奇形や多指症、直腸肛門奇形を合併することが多いと言われているため、逆にこれらの異常があった場合に生殖器系の評価をすることも大切です。
思春期まで気付かれないことも多く、原発性無月経が診断する1つのきっかけになります。
腟が下半分しかない状態なので、このままでは性交渉ができません。手術や器械を用いて造腟術を行う必要があります。
また、子宮がないので妊娠することができません。妊娠を希望される場合は、子宮移植や代理母出産が必要になりますが、現時点で日本では認められていないため、海外渡航しなければならないハードルの高さがあります。
2. アンドロゲン不応症候群
アンドロゲン受容体の異常
遺伝子的には男性だが、身体の表現型は女性
→精巣があり、卵巣がない
アンドロゲンとは男性ホルモンのことです。
染色体が46,XYであり精巣を持っている(=遺伝子的には「男性」)けれど、アンドロゲン受容体に異常があって男性ホルモンに反応できない状態のため、外見として現れる形態や生理的な性質は「女性」である疾患です。
頻度が100,000新生児に1~5人。
卵巣がないため自身の卵子は生産できません。精巣も、このまま身体の中に残ってしまうと、癌化のリスクがあるため摘出する必要があります。
何より、今まで女子として生活してきたのに、遺伝子上は男子であると診断されるのです。自分が男子なのか女子なのか分からなくなるわけで、思春期の女子にとっては精神的にも非常に辛いものと思われます。
3. ターナー症候群
X染色体の完全または部分欠失→様々な合併症
2本のX染色体の片方が完全または部分的に欠失した状態で生まれてくる性染色体異常です。
ターナー症候群の女児の特徴としては、
- 低身長(正常より約20cm低い)
- 首の後ろに皮膚のたるみがある(翼状頚)
- 外反肘
- 知的障害
などが挙げられます。
第2次性徴が認められる例は45,Xで14%、モザイクで32%。
思春期の過程を完了する例は約10%。自然妊娠する可能性は2%程度です。
ターナー症候群に対しては、低身長の是正のための「成長ホルモン療法」や、卵巣機能不全に対しての「エストロゲン(女性ホルモン)補充療法」などが行われます。
身長や卵巣機能にあたっては、治療介入の時期がその後に関わってくるので、早めに違和感に気付くことが大切です。
いかがだったでしょうか。
月経が来ないから楽でラッキーと、一筋縄ではいかないのが婦人科疾患のにくい所だと思います。
治療の介入が遅れることによって、その後の身長や生殖機能に異常をきたす場合もあります。
こんな疾患があるんだということを頭の片隅にでも入れておいてもらい、いつかふと思い出してもらえたら幸いです。
最後に、少しでも多くの方にこのブログをご覧いただけるよう、応援クリックよろしくお願いします!
こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。