以前、トキソプラズマ感染症についての記事を書きました。
今回は同じくTORCH症候群の1つであり、臨床現場でも注意してみているサイトメガロウイルスについてまとめてみようと思います。
目次
1. サイトメガロウイルスとは?
サイトメガロウイルス(CMV)は、ヘルペスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルスです。胎内感染をきたすと赤ちゃんに重篤な合併症を生じ得るTORCH症候群の1つに当たります。
- Toxoplasmosis:トキソプラズマ
- Other agents:梅毒、水痘、コクサッキー、B型肝炎などその他の病原体
- Rubella:風疹
- Cytomegalovirus:サイトメガロウイルス
- Herpes simplex:単純ヘルペス
サイトメガロウイルスは、初感染後、病気が治って抗体が出来た後も潜伏感染し、免疫機能が低下した時に再活性化が起きることがあります。
TORCH症候群の中でも最も高頻度に胎内感染を起こし、かつ乳幼児に神経学的な障害をきたすと報告されておりますが、胎内感染は初感染及び再活性化いずれによっても生じ得ます。
2. CMV感染症の頻度・感染経路
1. 疫学
日本におけるサイトメガロウイルス感染症の先天感染の発症頻度は0.3%程度。そのうち、症状が明らかに顕在化している症候性感染は0.1%程度と報告されています。日本では年間約50〜100例です。
近年はトキソプラズマ同様、抗体保有率が低下傾向であり、サイトメガロウイルスの抗体保有率はおよそ70%程度とされます。衛生環境や社会環境が良くなったことで、今後もさらに低下する可能性があります。
抗体陰性の妊婦さんのうち、1%程度にサイトメガロウイルスの初感染をきたし、さらにそのうちの10〜30%程度に胎内感染をきたし、さらにその10%程度が症候性で出生します。
初感染でも再活性化でも赤ちゃんに感染をきたすリスクがありますが、初感染の方が胎児感染のリスクが高く、赤ちゃんへの影響も重篤になりやすいと考えられています。
2. 感染経路
主な感染経路は患者の唾液・涙・頚管腟分泌液・精液などです。
接触感染や性行為での感染がメインになります。
妊婦さんが最も気にしてもらいたいのは、上のお子さん(乳幼児)の唾液からの感染です。例えば上のお子さんが残した食べ物を食べたり、スプーンを共有したり。そういったことが感染の原因になり得るのです。
特に幼稚園や保育園に通っている子は、同年代の子との接触頻度が高いため、知らないうちに感染している場合があります。
サイトメガロウイルスに感染しても症状が出ないことが多く、あっても感冒症状程度のことが多いことが、さらに感染を広げてしまいます。
3. 妊娠中の検査
妊娠中にサイトメガロウイルスの検査をする病院も、しない病院もあります。日本産科婦人科学会のガイドラインでも、妊婦さんに対する全例のスクリーニング検査は推奨していません。
感染していないのに初感染を疑う結果が出てしまうことがあること、赤ちゃんへの感染が確認されても胎児に対して確立された治療法がないこと、などが理由です。
サイトメガロウイルスは再活性化することもありますし、抗体があるから大丈夫、という訳でもありません。
そのため、何より妊娠中の感染予防が大切と言えます。
3. 感染予防のための啓発
妊婦健診では、サイトメガロウイルスを含んでいる可能性のある小児の唾液や尿との接触を妊娠中はなるべく避けるように説明しています。
具体的には下記のような妊娠教育・啓発が行われます。
- 以下の行為の後には、頻回に石鹸と水で15〜20秒間は手洗いをする
①おむつ交換
②子どもへの給仕
③子どもの鼻やよだれを拭く、おもちゃを触る - 子どもと食べ物、飲み物、食器を共有しない
- おしゃぶりを口にしない
- 歯ブラシを共有しない
- 子どもとキスをする時は、唾液接触を避ける
- 玩具、カウンターや唾液・尿と触れそうな場所を清潔に保つ
妊娠中は色々と気をつけることがありますが、これらにも意識を向けてもらえればと思います。
4. 胎児に感染した時の症状は?
胎児サイトメガロウイルス感染症は、主に感染した妊婦さんから経胎盤的にウイルスが赤ちゃんに移ることで発症します。
90%程度は無症候性ですが、10%程度は出生時に発症し、次のような症状を呈します。まとめて巨細胞封入体症(CID)の症状と言われます。
サイトメガロウイルスが赤ちゃんの色々な臓器に感染してしまうことで、それぞれの臓器の細胞に封入体を持つ巨大細胞が検出されることが分かっています。
- 脳・神経系:小頭症、脳内石灰化、精神運動発達遅延
- 眼:網脈絡膜炎
- 耳:感音性難聴
- 皮膚:貧血、横断、出血斑(血小板減少)
- 体重:低出生体重児
- 肝臓・脾臓:肝脾腫(肝機能障害)
発症すると予後不良のことが多いです。
また、90%の無症候性感染の赤ちゃんであっても、乳児期(通常生後2年以内)になってから発達障害や感音性難聴、網脈絡膜炎を10%程度の症例で生じることもわかっています。出生後も長期にフォローする必要があります。
5. 診断とその後の管理
妊娠中、エコーで巨細胞封入体症を疑う異常所見がみられた場合、鑑別の1つとしてサイトメガロウイルス感染を考慮します。
赤ちゃんの発育が不良だったり、頭が小さかったり、腹水があったり、肝臓・脾臓の腫大を認めたりした場合には、採血での抗体測定や、場合によって羊水検査での評価などを行います。
しかし、仮にサイトメガロウイルス感染が疑われても、妊娠中に行える確立した治療はありません。
妊娠22週未満であれば人工妊娠中絶を含めた選択が関わってくるので、しっかりとしたカウンセリングが重要です。
一方、確定診断は生後3週間以内に新生児尿のPCR検査を行うことによってなされます。
先天性サイトメガロウイルス感染児と診断された場合は、抗ウイルス薬(ガンシクロビル、バルガンシンクロビル)を用いた治療を行うことで、聴覚などの神経学的予後が改善できると示されています。
いかがだったでしょうか。
今日はサイトメガロウイルスについてまとめてみました。赤ちゃんに感染すると重篤な合併症をもたらす疾患であるにも関わらず、よく知らないという人が多いのではないかと思います。
この期にぜひ知ってもらえると嬉しいです。
最後に、少しでも多くの方にこのブログをご覧いただけるよう、応援クリックよろしくお願いします!
こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。