産婦人科の緊急疾患

頸管裂傷〜なぜ子宮口が全部開く前にいきんではいけないのか〜

こんにちは、ゆきです。産婦人科医として働いています。

今日は頸管裂傷についてお話していこうと思います。
馴染みのない疾患かもしれませんが、どんな妊婦さんにも起きうる緊急疾患の1つです。

そのため私は、経腟分娩の症例は全例で頸管裂傷の有無を確認し、必ず分娩記録に記載するようにしています。

ぜひみなさんに知っておいてもらいたい疾患です。
出来るだけ簡単にまとめてみましたので、さらっと読んでみて下さい。

1. 頸管裂傷ってなに?

頸管裂傷=外子宮口から子宮頸部に及ぶ裂傷のこと

頸管裂傷とは、赤ちゃんが生まれる出口のところ(外子宮口と言います)から、頭側に及ぶ裂傷のことです。

多くは縦走する傷ですが、まれに横に裂けてしまい子宮頸部が輪状に切断されてしまう症例もあります。
好発部位は3時と9時の側壁です。

裂ける距離が長ければ長いほど重症で、場合によっては子宮体部や腹部に裂傷が及び、腹腔内に出血をきたすこともあります。

頸管裂傷は産後の大出血の原因の1つであることを忘れてはいけません。

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2. 頸管裂傷の原因は?

頸管裂傷の原因は様々考えられています。
どれか1つだけのこともありますが、複数の因子が組み合わさって発症することも多いです。

頸管裂傷の原因の一例

  1. 過強陣痛によって急激に分娩が進行する
  2. 子宮口が全開する前にいきんでしまう
  3. 子宮口が全開する前の吸引・鉗子分娩
  4. 頸管拡張などの器械的操作
  5. 頸管自体の異常
  6. 頸管縫縮術後や、陳旧性頸管裂傷の瘢痕などによる頸管の脆弱性 など

まずは陣痛が強すぎる過強陣痛。促進剤などを使用することで子宮収縮が強くなりすぎてしまうと、子宮頸管に過度な力がかかってしまい、頸管裂傷の発症リスクになります。

特に子宮口が全部開いていない状態での過度な収縮やいきみには注意が必要です。
お腹が痛いと、妊婦さんも本能的に”いきみたい”状態になってしまうわけですが、まだ子宮の出口が開ききっていない状態で力が働くと、組織が脆いところからざっくりと切れてしまうことがあり得るのです。

出産経験のある妊婦さんの中には、助産師さんに

まだいきんじゃダメです。辛いのはわかりますが、頑張っていきみを逃しましょう。

と言われた時間帯があったのではないでしょうか。

これは助産師さんが頸管裂傷等の有害事象を防ごうと、うまくお産を誘導してくれているが故の声かけです。

妊婦さんの中にはこの「いきみを逃す過程」が一番辛かったと言われる方も多いですが、とても重要な時間なので、助産師さんの指示に従いながら頑張ってもらえると助かります。お産は早く進めば良いというものでもないのです。

同じ理論で、子宮口が全部開ききる前に吸引分娩や鉗子分娩などの急速遂娩を行った場合にも頸管裂傷のリスクがあります。
そのため、これらの処置を行う際には我々産婦人科医は必ず内診をして、「子宮口が全部開いているか」「頸管などの母体組織を巻き込んでいないか」などを確認しています。

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その他の要素として、子宮頸管の組織が脆いことも挙げられます。

例えば、以前にも頸管裂傷をきたして処置をした既往がある人や、頸管無力症に対して頸管縫縮術を行った人などでしょうか。

頸管縫縮術を施行した人は、分娩になる前に縫縮していた糸を”抜糸”する手技が必要になりますが、抜糸前の陣発や破水は、頸管裂傷のリスクを更に高めることになるため、より注意が必要です。

頸管縫縮術には縫縮位置や縫縮方法の違いで、
“Shirodkar手術”と”McDonald手術”
という大きく2つのパターンがあります。下記の記事もぜひご参照下さい。

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3. 頸管裂傷は早期診断が重要

頸管裂傷をきたした場合、赤ちゃんが産まれた直後から赤色のサラサラした持続性出血が見られます。

産科的な大出血のリスクとして最も多い「弛緩出血」と異なり、子宮収縮は良好なことも多いです。
子宮がしっかり硬く収縮しているのに、真っ赤な出血が続くような場合は、必ず頸管裂傷を念頭に置いて速やかに診察します。

診断のためには、必ず腟鏡をかけ、子宮頸部を肉眼的に観察していきます。

しかし、分娩直後の子宮頸部は大きく腫れぼったくなっており、腟鏡をかけた一視野だけでは全体像がはっきりしないこともしばしば。
そのためガーゼなどで展開し、12時方向、3時方向、6時方向、9時方向…と分けながら、全方向について隈なく見ていく必要があります。

頸管裂傷をきたした場合、活動性の高い出血になっていることが多く、視野確保に難渋することもあるのですが、焦らず確実に、そしてできるだけ早期に出血部位を特定することが、結果として母体救命に繋がります。

4. 治療で確実な止血を

出血量は裂傷の程度や部位によって異なります。

子宮や腟には血流が豊富な部位があるので、例え距離が短くても栄養血管が多い所が切れてしまうと、予想以上の出血になってしまうことがあるのです。

頸管裂傷が1cm以内でほとんど出血がなければ、縫合の必要はなく自然に治癒します。
しかしそれ以外の場合には、大量出血や頸管無力症の発症予防のために縫合を行う必要があります

頸管裂傷の縫合術を行う際には、Simon腟鏡や専用の頸リス鉗子を用いて裂傷部をしっかりと把持・牽引し、吸収糸を用いて効果的に縫合を進めていきます。

ただ、裂傷部位が大きく、お腹の中への出血などが疑われる場合には、超音波やCT検査なども併用して出血部位の確認を行い、適宜開腹手術や子宮動脈塞栓術などを検討する必要があります。

5. まとめ

  • 頸管裂傷は外子宮から頭側にかけて子宮頸部が裂けてしまう疾患
  • 産後の大出血の原因になり得る
  • リスク因子は過強陣痛や子宮口全開大前のいきみや急速遂娩、子宮頸部の脆弱性など
  • 頸管裂傷が生じた際には速やかに診断して裂傷部位の縫合術を行う必要がある
  • 裂傷部位が広範囲に及ぶなど、経腟的な処置が難しい場合には開腹手術や動脈塞栓術などが必要になることもある

今回は頸管裂傷の記事でした。いかがだったでしょうか。

子宮口がゆっくり開き、赤ちゃんがゆっくり下に降りてきて…という経過が、いかに大切なものなのか、ご理解頂けたのではないかと思います。

頸管裂傷をきたすと、子宮頸部の組織が瘢痕化し、次の妊娠時の頸管無力症のリスクが上昇するのもポイントですね。
どうしようもない時もありますが、出来るだけ発症を防ぎたい疾患の1つです。

  1. 日本産科婦人科学会 編集・監修 産婦人科専門医のための必修知識2020年度版

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ゆき
◆ 医師(産婦人科) ◆ 県立女子高校→地方国公立医学部 産婦人科医の視点から、正確でわかりやすい情報をお届けします。 twitter:@yukizorablog_Y Instagram:yukizora_yuki
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