みなさん、子宮頚がん(けいがん)の原因って何だか知っていますか?
ほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスに感染することによって起きることがわかっています。
そんなHPVにワクチンがあるのをご存知でしょうか?
今回は子宮頚がんやその前病変、そしてワクチンについて少しでも知ってもらいたいと思い、本気で記事を書いています。
このトピックにあまり興味のない人にこそ、読んで欲しい記事です。
目次
1. 子宮頚がんって何?
① 20〜30代の頚がん患者が激増
子宮頚がんとは、子宮の入り口のところにがんができる病気です。
年間1万人の患者がかかり、2800人程度が死亡しています1,2)。今、子宮頚がんを発症する患者数はじわじわ増えており、特に20〜30代の若年層の増加が問題になっています。
20〜30代は、仕事や育児で自分のことが疎かになりがちです。さらにまだ若いこともあるので、「まさか自分がかかるわけない」と思い込んでしまいます。
子宮頚がんにかかってしまうと、手術や放射線・抗がん剤等を組み合わせた治療が必要になります。命が助かっても、妊娠・出産が出来なくなってしまうことも少なくありません。
② 原因のほとんどはHPV感染
子宮頚がんの95%以上は、HPVというウイルス感染によって起こります。HPVは性交渉によって知らないうちに感染します。症状は出ません。
しかもHPVは珍しいウイルスではなく、一生のうちに50〜80%の人が感染する3)と言われているほどありふれたものなのです。
HPVにかかっても、すぐにがんになるわけではありません。特に何もしていないのに、検査でいつの間にか正常化していることも多いです。しかし、病変がさらに進行したり、再び陽性化したりする可能性もあります。
HPVは増えたり減ったりしながら、身体の中でうまく潜み続けます。
約10%の人ではHPV感染状態が長く続いてしまい、前駆病変の子宮頚部異形成を発症します。そしてさらに数年〜数十年の年月をかけて子宮頚がんになります。
③ 子宮頚がんを予防する方法は?
子宮頚がんを予防する方法には大きく2つ。
これらを日本の女性全員に受けてもらうことが、我々産婦人科医からの切なる願いです。
- 婦人科検診の受診
- HPVワクチン接種
次のセクションから、詳しくお伝えします。
2. 婦人科検診を受けよう
① 実際どんなことをするの?
婦人科検診の対象は20歳以上の女性全員で、2年に1回受診するよう勧められています。年齢の上限はなく、ご高齢になってもずっと受診して頂きたい検査です。
婦人科検診では内診台にのってもらい、子宮の出口をブラシのようなものでこすり、細胞を採取します。さらに内診をし、病院によっては経腟エコーも行って、腹腔内に病変がないかを調べます。
これにより、子宮筋腫や卵巣嚢胞などが見つかることも珍しくありません。
婦人科検診はがん検診+内診±経腟エコーによって、病気を早期に発見することを目的にしています。案内の手紙が届いたら、忘れずに検診を受けましょう。
② 子宮頚部異形成という結果が返ってきました
頚がん検診で異常が出る人の多くは、いきなり子宮頚がんと診断されるわけではなく、その前病変であることが多いです。
細胞診の結果には次のような分類(ベセスダ分類)があり、それぞれの結果に応じて、今後どういったフォローが必要なのかが決まっています。
アルファベットばかりでよく分からない方も多いと思います。
簡単にまとめると、
NILM(ニルム)→LSIL(エルシルorローシル)→HSIL(エイチシルorハイシル)
となるにつれ、徐々にHPV感染による細胞変化が強くなり、SCC(=がん)への移行リスクが高いことを表す
と考えればOKです。
さらに細胞診だけでは診断がつかない曖昧な所見だけれども、
LSIL相当と考えられるのがASC-US(アスカス)
HSIL相当と考えられるのがASC-H(アスクハイ)です。
自身の婦人科検診の結果と見比べて、自分がどの病変なのかをしっかり理解しておくことが大切です。
③ ハイリスクHPV
HPVは実は全部で100種類以上あるってご存知ですか?その中でも悪性化をきたしやすいハイリスクHPVというものがあり、臨床現場ではそれらが問題になります。
子宮頚がんの40〜50%はHPV16型が陽性で、20〜30%は18型が陽性です。次いで52型、58型、31型、33型の検出される頻度が高くなっており4,5)、これらを含めた約15種類がハイリスクに分類されます。
ちなみに、尖形コンジローマという良性腫瘍の原因になるHPVは、6型や11型のローリスクHPVです。
3. 子宮頚がんはワクチンで予防できます
① 3種類のワクチンの比較
2020年7月、子宮頚がんを予防するワクチンとして新たに9価ワクチンが承認されました。今、日本で承認されているワクチンは次の3つですが、9価ワクチンは今までのものよりも更に効果が高く、約90%の子宮頚がんを予防できると言われています。
これらのワクチンはHPVの感染を予防するもので、すでにかかってしまっている人に対する治療効果はありません。初めての性交渉の前に接種するのが最も効果的です。
② 小6〜高1女子には助成金が出ます
小学校6年生〜高校1年生までの女性には、公費で助成がおりる6)ため、無料で接種できます。上記の表のように結構なお値段がしますので、中高生でワクチンをうってあげるのが、経済的にも治療効果的にも最適です。
2013年に疼痛・運動障害など多様な症状が副反応として報告され、接種の積極的勧奨の一時差し控えが発表されたため、ワクチンをうつことに抵抗がある人もいるかもしれません。しかし、その副作用とHPVワクチンの因果関係はかなり不十分で、WHOもHPVワクチンは極めて安全なワクチンであると発表しています7)。
将来の子どもたちのためにも、親世代が知識をもち、接種の機会を与えてあげる必要があると考えます。
③ ワクチンで子どもたちを救おう
日本のワクチン接種率は、他の先進国と比べて極端に低いです。欧州の多くの国で80%、アメリカで40%程の接種率があるのに対し、日本は0.6%にしかありません8)。最近、HPVワクチンで子宮頚がんリスクが大幅に低下したという、画期的な論文も出ました。将来子宮頚がんを過去の病気とするためにも、できるだけたくさんの人に情報が周知され、HPVワクチンの接種が当たり前の世の中になればと願っています。
今回は子宮頚がんとワクチンについて、少しでも多くの人に気軽に知ってもらいたいと思い記事にしました。中高生へのワクチン投与については、その親の知識・行動力が鍵となってくると思っています。
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【参考文献】
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」
http://www.jsog.or.jp/uploads/files/jsogpolicy/HPV_Part1_3.1.pdf (Accessed July 22, 2020) - 国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」人口動態統計によるがん死亡データ(1958〜2017年) https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html (Accessed June 1, 2020)
- https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html (Accessed June 1, 2020)
- Azuma Y, et al.: Human papillomavirus genotype distribution in cervical intraepithelial neoplasia grade 2/3 and invasive cervical cancer in Japanese women. Jpn J Clin Oncol. 44: 910-7, 2014
- Onuki M, et al.: Human papillomavirus infections among Japanese women: age-related prevalence and type-specific risk for cervical cancer., Cancer Sci. 100: 1312-6, 2009.
- 厚生労働省「小学校6年〜高校1年相当の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ」
https://www.koizumi-shigeta.or.jp/pdf/HPV202007_what2nd.pdf - http://www.who.int/vaccine_safety/committee/topics/hpv/June_2017/en/
- Garland SM, et al: Impact and Effectiveness of the Quadrivalent Human Papillomavirus Vaccine: A Systematic Review of 10 Years of Real-world Experience. Clin Infect Dis. 63: 519-27, 2016.
こんにちは、ゆきです。
地方国公立医学部を卒業し、産婦人科医として働いています。